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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


夢を乗せて −三下さんの受難4−
●序章
 夢はまわる ぐるぐるまわる 小さな 大きな 夢はまわる

「編集長、知ってます? あそこの遊園地閉鎖されたんですって」
「そういえばそうだったわね。昨日だったかしら。あそこはもう古かったものね」
 お昼休み。電話番で残った編集員と他愛のない話をしていると、どたばたと激しい足音が聞こえた。
「あの足音は三下くんね……あれほど走るな、って言っておいたのに」
 しょうがないわね、全く、とため息をついたところに人影が飛び込んできた。
「大変です、編集長!!」
 その人影は三下ではなかった。
「どうしたの?」
「三下さんが、三下さんが!」
「三下くんが?」
「暴れ馬に掴まって、街の中を全力疾走してます!」
「えぇ!?」
 話によれば昼食を終えて社に戻る途中、一頭の馬が三下に近寄ってきたらしい。その馬は三下の襟首をくわえ、背中に放り乗せるとそのままゆっくりと走り出し、そのうちすごい勢いで走り始めてしまった、という事だ。
「なんかその馬、普通とちょっと違ってたんです」
「どんな風に?」
「真っ白で、やけに飾りが豪華で……目なんかいっちゃってる感じでした!」
「……」
 ちょうどその時、昼食を終えた他のバイトの人たちが戻ってきた。
「ああ、ちょうど良かったわ。三下くんが馬に攫われたらしいの、誰かとめて連れ戻して来て」
「は?」
 馬に攫われた三下。誰が救うのか!?

●本文
「えぇっ!? 三下さんが馬に攫われた〜!?」
「へ? 三下が馬攫って暴走〜!?」
 お昼から戻ってきた鬼頭郡司と湖影龍之助は、碇麗香の声に同時に叫び声をあげた。
「んだよッ俺サマの得物なのにッ! 三下許さねぇぞ〜! 肉、肉、肉〜ッ!」
「馬も三下さんの魅力に…じゃなくって! 今すぐに助けに行くっス! 待っててください、三下さ〜ん!!」
 どたばたと、やはり二人同時に部屋を出て行った。
「?」
 二人が出て行ったと同じくらいに編集部を訪れた九尾桐伯は、二人の様子に首を傾げつつ、困った顔で入り口の方を見ていた麗香と目があい、視線で何があったのかを訊ねる。
 それに麗香は簡潔に説明すると、桐伯は苦虫を噛みつぶしたような顔で二人が走っていった廊下を見返した。
「お願いできるかしら? うちの莫迦編集員をひっくるめて暴走高校生達も」
「おおせのままに」
 優雅にお辞儀をすると、桐伯は踵を返して編集部を出て行った。

「この辺で暴れ馬をみなかったっスか?」
「暴れ馬……ああ、なんかすごい勢いで走り抜けていった馬ね。それならパトカーに追いかけられて向こうの方へ行ったよ」
「パトカー!? それは一大事っス! 三下さん、待っててくださいね〜〜〜!!」
 暴走していった馬に匹敵する位の勢いで龍之助も走っていった。

「馬、馬馬〜〜〜〜!! 肉肉肉〜〜〜〜〜!!」
 目的は三下を助ける事なのか、はたまた馬肉なのかわからない郡司。
 鼻をひくひくさせて、野生動物さながら馬の後をおいかけていた。

 一方桐伯は駐車していたオープンカーにのり、騒ぎの大きい方へと向かっていた。
「三下さんが関わった事ですからね……多分霊的要因なんだと思いますが…」
 呟いた桐伯は顔をしかめた。
 郡司に龍之助。そして自分。郡司には何か秘められた力があるようなのだが、いかんせん性格がああで。龍之助は三下一直線なのだが、霊能力関係はさっぱりきている。
「馬……どこかの馬が逃げたした、っていうのだけじゃ霊的要因は関係ないですしね……」
 華麗なハンドリングで駐車場を出ながら、桐伯は思考する。
「豪華な飾りの白馬……ああ……」
 思い当たる事があったのか、桐伯は納得したように笑みを浮かべた。

「誰か助けて下さいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」
 情けない格好で馬にしがみつき、三下忠雄は悲鳴をあげる。
 しかし周りの人は撮影か何かか? という目かちらっと視線をよこすも無視。
「ああ、世間の風って冷たい……」
 眼鏡の端から涙がこぼれて後方へ流れる。
「このままどこへ行くんでしょうね……」
 半分諦めモードで三下はため息をついた。
 瞬間、何を思ったのか馬は更にスピードを上げ始めた。
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっ」
 三下の精神は遠く彼方へ飛んでいった。

「そういえば……」
 三下を目指して走っていた龍之助の足がぴたりととまった。
「真っ白で飾りが豪華で目がいっちゃってる感じ…」
 浮かんだのはメリーゴーランドの木馬。そして最近閉園になった遊園地があったのを思い出した。
 龍之助は携帯電話を取り出すと、ネットで遊園地の連絡先を調べる。
「もしもし、月刊アトラスの湖影、と申しますが……」
 言って訊ねると、確かに今朝から木馬が一体行方不明で、誰かが盗んだのか騒ぎになっていた、という事だった。
「ありがとうございますっス!」
 礼を言ってきると、再び龍之助は走りはじめた。
「人を乗せたいなら俺が乗ってやるっス! だから三下さんを俺に返すっス!!」
 ……なにか違う。

「おお、あれだな!」
 前方から凄い勢いで迫ってくる馬を見て、郡司はにやりと笑った。
「活きの良い馬だなありゃ…美味そうだ♪」
 ペロッと舌なめずりをして凝視すると、三下の姿が目に入る。
「おぉ、三下のヤツ、必死にしがみ付いてんじゃん。俺サマと狩り対決しようたぁいい根性してやがんぜ。お? 何だぁ? こっちに向かって来やがる〜!」
 ちょ、ちょっと待て、心の準備が……がうめいている間にも馬は一心不乱に直進してくる。
 郡司は危機一髪の所でひらりと跳躍し、馬の背に飛び乗った。
「うっし♪ おい、三下、俺の得物……って、おい!!」
 ぎらりと三下を見ると、三下はすでに白目をむいて泡をふいている。
 なんとか前屈みの姿勢で手綱に手を絡ませていた為、落ちる事はなかったが、あのまま走り続けていたら確実に落ちていた。
「おい! 落ちるぞ! 死ぬぞ!! ちっ! しっかりしやがれ、勝負になんねぇじゃねぇか。この馬は俺んだかんな! 三下きいてんのか? こら!」
 叫ぶがすでに気を失っている三下からの返答はない。
「郡司ー! 俺の三下さんに何してるっスか!?」
 馬の上に二人で乗り、しかも前に乗っている三下が落ちないように後ろから支えている為、前屈みに気味になっている郡司の姿に、龍之助は誤解する。
 龍之助ヴィジョンからすると、郡司の胸に三下が寄り添っているようなのである。
「三下さん! 俺が今助けるっス! だからそんなヤツから離れるっス!」
 離れたくても離れられない。
「ん? 三下が欲しいのか? ……あのにーちゃんなら大丈夫だな」
 ふむ、と郡司は頷いて、前に座っている三下を文字通りつまみ上げると、龍之助にむかって放りなげた。
「わわわ、なんて事するっスか!?」
 慌てた龍之助は三下を抱えるようにジャンプ。しかしそのまま車道に躍り出てしまい、あたふたと空中でもがく。
「こっちです、龍之助くん!」
「桐伯さん!」
 天の助け、とばかりに龍之助は桐伯が運転するオープンカーに転げ落ちた。
「このまま馬を追います」
「はい」
 後部座席に三下を抱えて座り直しつつ、龍之助は返事をする。
 一方三下をおろした郡司は馬に語りかける。
「なぁ、お前喰ってもいい? ……うおわっ」
 郡司の言葉に馬は反論するようにスピードをあげた。
「わ、わかった。喰わない。喰わないから……なぁお前、何がしたいんだ?」
 冷静になろうぜ、と言うと馬は少し速度を緩めた。
【もうイチド。もうイチド、コドモタチをノせて、ハシりたい……】
 断片的な思いが言葉となって郡司の耳に届く。
「そっか……」
 ポンポン、と首筋を叩くと、馬は段々と速度をさげ、ゆっくりと歩き、そのうちとまる。
「大丈夫ですか、 郡司くん?」
 横に輛をとめた桐伯が問うと、郡司は頷きながら先ほどの馬の言葉を言う。
「そういう事、ですか……」
 それなら打つ手はありますね。と桐伯が言い、携帯電話を手にした。
「もしもし、ケイオスシーカーの九尾ですが……」
 数件かけていると、色よい返事が貰えたらしく、九尾の声のトーンがあがる。
「OKですか。ありがとうございます。あ、この間年代物のいいのが手に入ったんです。是非のみに来てください。おごります」
 状況を見守っていた龍之助が、未だ三下を抱えたまま訊ねる。
「どうしたんスか?」
「今、遊園地の持ち主とデパートのオーナーと交渉して、メリーゴーランドの使えそうな部品を使い回して屋上に簡易の遊園地を作ろう、という話になったんです」
 そうこともなげに語るが、そこまで話を動かせるのはすごい事である。
「おまえすげぇな」
 心底感心したように郡司が言う。
「すごくないですよ。すごいのは馬をお話ができた郡司くんですし、それを活かしてくる場所を与えてくれたデパートのオーナーさんに、許可をくれた遊園地のオーナーさんですよ」
 にっこりと言う桐伯だが、それだけの話をつけられる相手と知り合いなのがすごい事なのに、桐伯はさらりとしたものだった。
 そのまま桐伯は麗香の元へ『三下確保』の連絡をいれた。

 それから数日後。
 都内のあるデパートに遊園地が出来た。
 しかも桐伯が話をつけたような屋上ではなく、デパートの横に、である。
 そのデパート自体都会の真ん中にある、といったものではなく。
 すこし都心から離れた場所にあるが、住宅街には近かった。土地はあった為、駐車場にしていたのだが、そこの一郭を潰して託児所兼遊園地へとかわった。
 2時間3000円を支払えばそこで子供をみていて貰う事が出来、なおかつ遊園地の乗り物は乗り放題。買い物レシートが1万円以上なら500円返金される。
 勿論普通にも利用する事ができるので繁盛した。
「ママー、大きなおにーちゃんがお馬さんのってるよー」
 子供が指さした先で、郡司がメリーゴーランドに乗っていた。
「よぉ、元気か?」
 その問いに笑ったような風が返ってくる。
「そか。そりゃ良かった」
 郡司も笑って馬から飛び降りると、買い物袋を抱えた三下の姿を見つけて大きく手を振る。
「三下ー! 沢山肉買って来たかー!?」
「は、はい」
 叫ばれて三下は買い物袋を落とさないように抱え直す。
「三下さん、俺が持つっスから!」
 ひょいっと龍之助に軽々荷物を持たれて、三下は情けない顔になる。
「今日のお肉に合わせて飲みやすいワインを持ってきましたよ」
 歩道の脇に横付けして桐伯が微笑む。
 今日は三下のおごりで焼き肉パーティー。
 どこかに食べにいっても良かったのだが、何故か編集部の仮眠室でやる事になった。
 桐伯の車に乗り込んだ面々がふと振り返る。
 そこにはゆっくりと子供達を乗せてかけるメリーゴーランドの姿。

 くるくる回る 夢を乗せて 小さな 大きな 夢を乗せて

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0218/湖影・龍之助/男/17/高校生・アトラスアルバイター】
【0332/九尾・桐伯/男/27/バーテンダー】
【1838/鬼頭・郡司/男/15/高校生】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、夜来聖です☆
 今回はほのぼの風味(?)でお送りしました。
 ……郡司くん、馬食べないでくださいね(涙)
 みなさん微妙に個人情報が変更されてるんですね。確認していて「おお」と思いました。
 それでは次の機会にまたお目にかかれると嬉しいです。