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<東京怪談ノベル(シングル)>


それがはじまり〜女の意地よ(?)

 最近、悩みがあるのです。
 妖艶さだけでは…他の巫女を出し抜けないのでは、と思えるようになりました。
 ほんの少しですが、『機会』が減っているように思えるのです。
 そして。
 時折、他の巫女たちから聞き慣れない言葉を耳にしたりもしました。
 曰く――『萌』とか。
 ここ深海では聞き慣れない言葉なので、“陸”に行った時に妹たちに聞いてみたりもしました。
 と、何やら返答が。
 …曰く、それは“陸”にある文化のひとつだと。
 えーと、文化、と言う程大したものじゃない気もしますけど、と苦笑しながらすぐ下の妹。
 手っ取り早くわかりたきゃ神田とか秋葉原に行ってみれば一発だよ☆ と一番下の妹。
 深海に戻った時に、それらを踏まえて再び考えてみます。

 ………………わたくしもその『萌』とやらを実践してみましょうか。
 他の巫女たちに負ける訳には――参りませんから。

 そして。
 わたくしは夜伽用に使う為、『萌』な衣装の買い出しに、再度“陸”に上がって参りました。

■■■

 がやがやがやがやがや

 …人が多いです。
 一番下の妹に教えてもらった、神田やら秋葉原と言った土地は…この辺りだったと思うのですが。
 みそのはそれとなく辺りを伺いながら、ゆっくりと歩いています。電柱、そこに付いている地名表示――合ってますわね。
 ここには…何やら似た雰囲気の殿方がたくさんいらっしゃるようです。
 一様に大きな鞄をお持ちになって、特定のお店にずらりと。
 ああ、そのお店のようですわね? わたくしの目的が果たせそうな場所は。
 思いながら、みそのはそちらに近付いて行きました。
 と。
 何やら心地良い視線が突き刺さります。
 …?
 何でしょう?
 不思議に思い、みそのは視線の主を追います。
 …たくさん居ます。
 先程の、似た雰囲気の殿方らのようです。
 本日は地味な衣装で来た筈なのですが…“陸”では違った意識で見られる物なのでしょうか?
 みそのは自らが身に付けている、普段通りの黒色の巫女装束を触れ、見直して考えます。
 と。
「あ、あの」
 たどたどしくも声が掛けられます。
 何でしょう? と思い、問い返すと、写真を取らせて下さい、との話。
 …それは写真は嫌いではありませんが…御方と家族以外に撮られたくはないのです。
 その旨伝え、丁重にお断り致しました。
 後ろ姿は本当に残念そうにしょげていましたが…申し訳ありませんがこれだけは譲れませんので。
 みそのは再び歩き出そうとします。
 が。

 かしゃり

 シャッターを切る音が。
 …今の『音』が流れてきた源は――あちらですわね。
 みそのはゆっくりとそちらを見ます。
 と、そこには。
 カメラを構えた殿方が。
 先程の殿方とは別ですが、断っていたわたくしの声は…聞こえている場所に思えるのですが。
 じ、とその無断撮影をなさった殿方を見ます。
 何故か動きません。
 その手許、カメラを見ました。
 カメラを取り巻く空気の流れを、ほんの少し操り、手からカメラを落とさせます。下は硬いアスファルト。これは一応精密機器です。高い位置から急に落とされれば――。
 みそのを無断で撮影したその殿方は落ちたカメラを、あっ、と声を上げ慌てて拾ったようですが、かちゃかちゃいじくる姿を見ていると、どうやら壊れた様子です。
 …壊すのにあまり手間が掛からなくてよかったですわ。
 にっこりと微笑み、みそのはお店に向かいます。
 ――『びる』と言うお店…いえ、この『びる』にお店があると言った方が良いんでしょうか?
 とにかくそこに入ります。
 中には。
 可愛らしく『でふぉるめ』された美少女がたくさん。
 様々な雑誌や、『ぐっず』、『どうじんし』なるものに使われ、載っています。
 みそのはその中でも、特に可愛い、と思えたもの、心の琴線に掛かった物を片っ端から手に取ります。
 …これも参考になりそうですわね?
 …まぁ、これは『めいど』さんですか? 御主人様に使える娘御の『こすちゅーむ』、ですか。御方に仕えるわたくし、とも通じるかもしれませんわね…? 猫の耳に尻尾ですか? “陸”では半獣の種族は減っていると伺っていたのですが…。『萌』の世界では普通に生息している、と言う事なのでしょうか。それとも…半獣の種族への『憧れ』であって、これらの耳や尻尾は贋物なのでしょうか。
 どちらにしても、可愛らしいですけどね。
 と、みそのは気になるものを次々取って行きます。
 …凄い量になりました。
 それでも大事な御方との夜伽の為です。
 手に取った分は、纏めて全て買いました。

 次にみそのは洋服のお店へ向かいます。
 無造作に下げられている大量の洋服に、みそのはまず感嘆します。
 …こんなに『萌』なお洋服が。
 さすがに“陸”の文化と言うだけはありますわ。
 と、みそのはめぼしいところを物色し始めます。

 この白い物は…兎の…耳でしょうか?
 丸い尻尾が愛らしいですわ。
 布の少ないぴったりとした洋服があるのですね?
 …まぁ、これは巫女の衣装なのですか? 上には白で下には赤の…これが“陸”での巫女のイメージなのですか…。神社…ああ、日本神道の社に仕える巫女の扮装ですね。
 みそのは元来あった知識にも繋がるものを見つけ、ふむ、と納得します。
 で、これには…狐の耳にふさふさの尻尾…を付けるのですか。
 こちらの服は…すぐ下の妹が着ているものに近いですわね? 『せーらーふく』、ですか?
 …これも『萌』に含まれる物なのですか。
 思いながらみそのは、取り敢えず、と言う事で数十点だけを選びます。

 ――どうやら“陸”の動物と特定の衣装を組み合わせた格好が流行っているようですわね。

 色々と見た結果、みそのはそう結論付けました。
 …他ならぬ御方との夜伽の為です。
 その服装を試してみましょうか。
 ――早速、試作品を作って頂きましょう。
 
 と、あっさり。
 そして深淵の巫女は、侵されてはいけない――蟻地獄のようなめくるめく世界へと。

 ………………それが彼女と――『萌』の世界との出会いでありました…まる

【了】