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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


『ジャック・ザ・リッパ―』
【オープニング】
 私は今から、【私は彼女を殺しに行く】、という物語を書く。
…これを読んでくれている君は誰だろう?
 君は霊感がある者だろうか? そしてその見える物に対してある程度の手段を持つ者だろうか?
 ならば、この書き込みにレスを付けてくれないだろうか? ただ、君の名前を書いてくれるだけでいい。【○○はその作家の後始末をつける事にした】と。それで君は彼女と出会う。
 そう、この書き込みが*月*日を過ぎても消去されていなかったら、それは私が彼女に殺されたという事だから…。
 彼女というのはかつて愚か者だった私が生み出した物語のキャラクターだ。
 君は知らないだろうか? 8年前から今日まで日本各地で夫に隠れて売春をしていた主婦が通り魔にナイフで刺されて殺されている連続通り魔事件を。
 ……告白しよう。それは私が作り出したジャック・ザ・リッパ−なのだー母は父に隠れて売春をし、挙句の果てに客の男と一緒に蒸発してしまったと祖母に教え込まれていた9歳の私が母への怨念を込めて生み出した…。
 そう、すべてが家庭内暴力の果てに妻を殺した我が息子である父を擁護するために祖母が作ったでたらめだと知らなかった…世界で自分が一番みじめで不幸だと信じて疑わなかった私が生み出した…。
 その事実を知った私は愕然とした。そして今更ながらに彼女を作り出し、放置してきた罪悪感に苦しみだした。……笑ってやってくれ。
 私は彼女は最強だと書いた。不老不死の殺人鬼と。しかし、それは絶対ではない。9歳の頃の私が持っていた物語を現実にする力を超える力ならば彼女を殺せるはずだ。
 私にはもはや9歳の頃に書いた物語を書き換えられる力は無い。だけど君を彼女に会わせる物語を書くことはできる。その物語はこの書き込みにレスで君の名前を書く事で始まる。もしも、君が力ある者ならば、すまん。身勝手な話だが、9歳の私の憎悪を抹消してくれ。頼む。これから失われるかもしれぬ命と流される必要の無い涙のために。

actT 見えた物
 12月24日クリスマスイヴ。
 東京某所にある高級ホテル。
 その最上階にあるスィートルームはそのホテルのオーナーであるリンスター財閥総帥の私室となっている。
 そう、つまり今、部屋の中央で財閥の行く末を占っている彼こそがそのリンスター財閥総帥の地位にあるセレスティ・カーニンガムその人だ。
 その長い銀髪に縁取られた美麗な顔にはしかし憂鬱げな表情が浮かんでいた。
「これは…いけませんね。何度占ってみてもリンスター財閥に近々大きな人材の損失が出ると出ます。人材の損失ほど痛いものはありませんからね。しかし一体…」
 彼は形のいい顎に手をやりながら囁くように独り言を呟くと、車椅子のブレーキを外し、その部屋の隣にある客間に向かった。そこにはデスクトップパソコンが置かれている。
 そして彼は部屋の明かりも点けずにパソコンを起動させると、鮮やかな手つきでキーボードを操作し始める。実は彼はとある理由により視力が極めて弱く光を感じる程度でしかないのだ。では、なぜパソコンを彼が必要とするのだろうか? 点字タイプのスキャナー? いや、違うのだ。
「なるほど、これが占いに出ていた掲示板ですか…」
 インターネットカフェゴーストネットOFFの掲示板が映し出されているデスクトップに触れながら彼は頷いた。
 そう、これが彼の能力。
 占いによって財閥の未来を開くリンスター財閥の総帥セレスティ・カーニンガムは実は人ではない。本性は725年生きる人魚なのだ。その彼の様々な能力のうちの一つに書籍や情報保有物の無機物に触れる事でその情報を読み取る事ができる能力があるのだ。
「なるほど。どうやら誰かがこの掲示板に名前を書き込み…そして彼女に殺されるというわけですね…。やれやれ。困ったものですね」
 セレスティは大きくため息を吐いた。
 すると丁度部屋の電話が鳴った。セレスティは受話器を取る。
「もしもし…」それは彼の秘書であった。パーティー会場の準備が整ったというので、今からお迎えに参ります、と伝えてきたのだ。その秘書にセレスティは「すみませんが私用で出かけないといけなくなりました。後の事は宜しくお願いいたします」
 と、セレスティは電話を切ると、その部屋を後にした。
 残されたパソコンのデスクトップに映し出された掲示板にはセレスティの名前が書き込まれていた。

actU 物語
 ホテルのすぐ近くを流れる川沿いの道。
 モダンなデザインの街灯が建ち並び対岸にある建物のネオンが美しく煌くそこは若者に人気のデートスポットなのだが、誰もいない。
「なるほど。これからの事はあくまで私と彼女の物語だという事なのですね」
 セレスティは静かに言うと、車椅子を操り、彼から少し離れた場所に立った影に対峙した。
 その影こそがジャック・ザ・リッパ―だ。
 セレスティはその影が一歩近づく度に後ろに下がる。それが彼とジャック・ザ・リッパ―との距離だからだ。セレスティは元は人魚。故に足が弱く、ステッキを使って歩く事は可能だが長距離は無理…運動能力は低い。だからこれがセレスティの絶対の距離なのだ。
 セレスティはその絶対の距離を守りながらジャック・ザ・リッパ―を観察する。
「やはりただ憎悪に任せて殺人を犯しているわけでもないのですね」
 セレスティにはジャック・ザ・リッパ―がただ8年間もの間殺戮のみを行ってきたとは思えない。
「キミは人の姿をしているね。それは依頼者の母の姿かい?」
 ジャック・ザ・リッパ―は母と言う言葉を出された瞬間、ひどく顔を歪めた。触れられたくない物に触れられた時のように。
 それをセレスティは敏感に感じ取っている。彼はこくりと頷くと、
「私がキミと出会った訳を知っていますか? 憎悪より生み出されたキミと何故私が出会ったのかを? 私はね、キミを作り出した作者の力によってキミの物語と交わったのだよ」
 セレスティは想う。8年前の憎悪が形になったものならば、殺戮者としての面だけではなく、依頼者の母本来の姿も反映されているのではないかと。
「彼はキミを生み出した時、知らなかったのだそうです。お母様が…お父上に……殺されているのを。そしてそれを知らぬままに母親に置いていかれたという悲しみのあまりにキミを生み出した。それを知った彼は愕然としたそうです。後悔と失意、より深くなった哀しみ。そう、私とキミが出会ったこの物語はそんな哀しい物語なのですよ。どうでしょうか? こんな哀しいばかりの物語はもうやめませんか?」
 ジャック・ザ・リッパ―は切れ長な瞳をすっーと細める。
「……何を言っているの?」
 セレスティは彼女に手を差し伸べる。
「キミもこの8年、ただ殺戮ばかりをしてきた訳ではないのでしょう? この8年、物語のキャラクターとはいえキミにも何か感情が芽生え、人の生活に馴染み、色々な事を経験して成長したのでは? ならば人として生きていくのも可能なのではないのですか? そのための手助けは私がしましょう」
 セレスティは真摯な声で訴える。そう、それはセレスティの本音であった。殺す事のみが解決に繋がるとは思えない。彼女の中にある憎悪さえ無くなれば、生きていく事も可能なのではと。
「そう、この悲しみの物語が紡がれていく度にキミも哀しんでいるのではないのですか? 後悔しているのでは? まだ間に合います」
 そう真摯に訴えるセレスティだが、ジャック・ザ・リッパ―は…
「うるぅっさぁいぃぃぃぃッ」
 彼女は両手に凶刃を閃かせて、車椅子のセレスティに向かい走り出した。
「はぁー」
 どうやらジャック・ザ・リッパ―の憎悪を消す事はできなかったようだ。ならば……
「戦う意志を見せられれば戦うしかありませんね」
 セレスティの青の瞳に鋭い光が宿る。彼は敵には容赦しない。

actV 水霊使い
 ジャック・ザ・リッパ―の動きは速い。
「む。さすがに最強のキャラと言うのは伊達じゃありませんね。しかし」
 セレスティも車椅子を素早く動かしている。なんとか彼女の攻撃をかわしながら、絶対の距離をまた取る。
「動きが速い。さすがにキツイですね。ですがァ」
 車椅子のセレスティは素早くそれを操りながら、立ち向かってくる彼女に対峙すると、凶刃を振り上げる彼女に向かい手をさし伸ばし、そして銀の前髪の奥で青い瞳を鋭く細める。
 転瞬、ジャック・ザ・リッパ―が苦鳴を零しながら立ち止まる。そして乱れた長い黒髪の間から覗く血走った目でセレスティを睨む。
 車椅子から立ち上がったセレスティは銀の髪を風になびかせながら薄い笑みをその美貌に浮かべる。
「私は水霊使い。水に関する事全てを自由に扱う事ができるのです。そう、人の体内に流れる血液でさえね」
 ジャック・ザ・リッパ―は悔しげに下唇を噛み締める。その噛み貫いた下唇から血が滴り落ちるが、セレスティがつい、と指を動かせばその滴り落ちた血がまるで生きているかのように蠢いて…
 それは綺麗な球体を作ると、弾丸となってぎこちない動きでセレスティに向かおうとしていた彼女の右足を撃ち貫いた。
「うぐぅ」ジャック・ザ・リッパ―の口から喉の奥で押し殺したかのような苦鳴が漏れる。
 しかし風に揺れる銀の長髪に縁取られるセレスティの美貌は変わらない。敵には一切容赦しない冷徹無慈悲な表情が浮かんでいる。
 そんな彼の顔を鷲掴みにしようとするかのようにジャック・ザ・リッパ―が重しでも付けているかのような動きで震える手を彼の顔にさし伸ばす。
「ふむ。まだそんなにも動けますか? ならば…」
「うぎゃー」
 ジャック・ザ・リッパ―が口から声にならない声をあげる。
 セレスティの美貌は変わらない。ただ静かにその場に崩れ落ちていく彼女を眺めている。
「苦しくはないはずだ。苦しめずにキミを殺そうというのだから」
 さらりとそう言う。
 だけど・・・
「なに?」
 セレスティの美貌に初めて驚きの表情が浮かんだ。
 なんと彼女の体から赤い霧が立ち上っているのだ。
「血液が蒸発している…。私の支配力を彼女の想いが超えるというのですか? いや、違う。彼女の想いだけではない。これは物語の力」

『おまえは最強の不老不死のキャラクター。ジャック・ザ・リッパ―だ』

 体から赤い血の霧を立ち昇らせる彼女は立ち上がる。美しかった容貌はぶくぶくと膨れ上がって、もはや見るもおぞましかった。
 先ほどのセレスティの血の弾丸による銃創も皮膚と皮膚とが触手のような物を伸ばし、互いに結び合って肉芽を形成していく。そして再生したその場でそれは内側から膨れ上がって、破裂して、どろどろの腐った肉塊を飛ばす。
「酷いものですね。最強の不老不死。その物語のルールによりキミは苦痛を味わっている。物語のルールともはや与えられた肉体とのバランスが取れていない」
 そう、物語のルール上は彼女は最強の不老不死のキャラクター。ジャック・ザ・リッパ―。だが、その物語を現実にする力よりもセレスティの力の方が上なのだ。
 物語のルールとセレスティの血を操る能力との間で彼女は戦う。そして…

『おまえは最強の不老不死のキャラクター。ジャック・ザ・リッパ―だ』

「あたしは最強の不老不死のキャラクター。ジャック・ザ・リッパ―だぁー」
 ジャック・ザ・リッパ―はセレスティの能力の呪縛に打ち克つ。左右の手に凶刃を閃かせて、彼女は杖を片手にその場に立ち尽くす彼に肉薄し、今までそうしてきたように彼をそのナイフで斬り裂いた…。

actW 嗚咽
 セレスティの血に濡れた刃は鈍い光を発している。
 その光を眺めながら彼女はその場に崩れこむと、声を押し殺して嗚咽を零し始めた。
 ただただその静寂に包まれた世界に彼女の悲しい声で奏でられた嗚咽が流れる。
「やはりこの8年は憎悪だけの物語に変化をもたらしていたようですね。しかしそれは何も時の流れのせいばかりではない。やはりキミは同時に彼の母であったのでしょう」
 柵の向こうの川に幻想的な水柱が上がったかと想うと、その水柱の中にはセレスティがいた。
 血と涙、汗、埃でぐしゃぐしゃになっていた髪の奥で彼女の涙に濡れた目が驚きに見開かれる。
「どうして…」
 見れば血の湖に沈んでいた肉隗は無くなっていた。いや、それどころか血は水となっていた。そう言えば彼は言っていた。自分は水霊使いだと。いつの間にか水で作った人形と入れ替わっていたのか。
 その事に思いついた彼女は悔しがるどころか微笑んだ。
「ずっと憎悪を取り払う事が出来ず衝動に負けて、殺戮を繰り返してきた…でももう後悔することもない……」
 彼女はどこか安堵するような表情でそう呟くと、瞼を閉じた。
 そしてセレスティは右手をあげて、それを振り下ろす。転瞬、彼の足下の水柱から水の弾丸が撃ち出され、彼女の再生と崩壊を繰り返す体はその弾丸の雨によって、もはや再生する事も出来ないぐらいに破壊された…。
 
ラスト
 セレスティは屋敷の書斎で今日も読書をしていた。
 銀の髪に縁取られる彼の顔は美しい。
 と、その美しい顔にふと何かを思いついたような表情が浮かんだ。
 彼は読みかけの本をテーブルに置くと、車椅子を移動させて、パソコンの前に行く。そして彼が起動させたパソコンを繋げた先は例の掲示板だった。そこにはジャック・ザ・リッパ―の事について色んな推測が書かれている。あれは嘘だったのか、それとも本当で、誰かが倒したのか、だったら最強の不老不死のキャラクターであるジャック・ザ・リッパ―を倒した奴に会ってみたいものだ、と。
 その書き込みを読んだセレスティはふと口元に悪戯好きそうな笑みを浮かべると、キーボードを叩き、そしてまた読書へと戻った。

『何か……そう、不可思議な事象等の調査にはお会いする事もあるでしょう』


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

1883 /セレスティ・カーニンガム/男/725/財閥総帥・占い師・水霊使い

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■         ライター通信          ■
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こんにちは、お客様。はじめまして。
このたび担当させていただいたライターの草摩一護です。
このたびは本当にありがとうございました。

お客様のプレイングを読んで、それに書かれていたセレスティの優しさとクールさ、
そしてジャック・ザ・リッパ―の設定に、それらを最大限に生かせる切ない物語を書こうと想いました。
ジャック・ザ・リッパ―の哀しみ、苦悩、そしてそれを見越しているセレスティ。
この二人の出会いはセレスティの占いと彼女を作った作者の哀しみがあってこそ。
それだけでも神秘的で魅力的で、そして切ないのに、お客様のプレイングにあったジャック・ザ・リッパ―のさらに物語の切なさを感じさせる彼女の設定。
僕的にはジャック・ザ・リッパ―の最後の言葉を呟くシーンがものすごく力と心を込めて描写したシーンでした。
どうでしょうか、お客様。今回の小説、お気に召してもらえたでしょうか?
もしもお気に召していただけたのなら、作者冥利に尽きます。^^

僕のラストの書き方というのは実はそのキャラクターのキャッチフレーズで終わらせるというものなのです。
今回のセレスティの物静かで、それでいて神秘的な占い師としての姿を連想させるような予言めいた言葉を上手く形にできてよかったと想いました。^^
この終わり方は僕的にはすごくツボです。

セレスティの神秘的な姿を書けて本当に嬉しかったです。
まだまだ、理想と現実の技術力の差とに悩むこの頃ですが、
それでもまたお客様のセレスティを書かせていただけたのなら、
本当に嬉しく想います。
その時は誠心誠意書かせていただきます。^^

クリエーターズショップで、ドリームコーディネートという部屋を開いています。
もしもよければ、色々と予定などを載せていくつもりなので、見てやってください。
それでは本当にありがとうございました。

失礼します。