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『ジャック・ザ・リッパ―』
【オープニング】
私は今から、【私は彼女を殺しに行く】、という物語を書く。
…これを読んでくれている君は誰だろう？
君は霊感がある者だろうか？ そしてその見える物に対してある程度の手段を持つ者だろうか？
ならば、この書き込みにレスを付けてくれないだろうか？ ただ、君の名前を書いてくれるだけでいい。【○○はその作家の後始末をつける事にした】と。それで君は彼女と出会う。
そう、この書き込みが＊月＊日を過ぎても消去されていなかったら、それは私が彼女に殺されたという事だから…。
彼女というのはかつて愚か者だった私が生み出した物語のキャラクターだ。
君は知らないだろうか？ 8年前から今日まで日本各地で夫に隠れて売春をしていた主婦が通り魔にナイフで刺されて殺されている連続通り魔事件を。
……告白しよう。それは私が作り出したジャック・ザ・リッパ−なのだー母は父に隠れて売春をし、挙句の果てに客の男と一緒に蒸発してしまったと祖母に教え込まれていた９歳の私が母への怨念を込めて生み出した…。
そう、すべてが家庭内暴力の果てに妻を殺した我が息子である父を擁護するために祖母が作ったでたらめだと知らなかった…世界で自分が一番みじめで不幸だと信じて疑わなかった私が生み出した…。
その事実を知った私は愕然とした。そして今更ながらに彼女を作り出し、放置してきた罪悪感に苦しみだした。……笑ってやってくれ。
私は彼女は最強だと書いた。不老不死の殺人鬼と。しかし、それは絶対ではない。９歳の頃の私が持っていた物語を現実にする力を超える力ならば彼女を殺せるはずだ。
私にはもはや９歳の頃に書いた物語を書き換えられる力は無い。だけど君を彼女に会わせる物語を書くことはできる。その物語はこの書き込みにレスで君の名前を書く事で始まる。もしも、君が力ある者ならば、すまん。身勝手な話だが、９歳の私の憎悪を抹消してくれ。頼む。これから失われるかもしれぬ命と流される必要の無い涙のために。
actT 美少女アイドル
「なるほどね。物語を現実にする力か。8年前のその想いが今も彼女を動かしているのね」
水色のくるくるふわふわの髪にヘアバンドがトレードマークの大きな瞳の美少女は舞台の真ん中、眩しすぎるスポットライトを浴びながらにこりと笑って頷いた。
そんな彼女がいる場所は東京某所のイベント会場だ。今日そこでは歌もドラマもこなす実力派で、その人気は大人から子どもまでと幅広く現在活躍中の好感度人気ｂP美少女アイドルのイヴ・ソマリアのコンサートが開かれている。
そう、つまりはその少女がイヴ・ソマリアなわけで。だけどそのコンサートはどこか変であった。ただ延々と彼女の新曲の音楽が流れているだけで、イヴは歌ってはいない。彼女は舞台の上でテレパシーによってインターネットカフェゴーストネットＯＦＦの裏にいる朝比奈舞と会話をしているだけだ。だが、そんな彼女を咎める者は誰もいなかった。それはなぜか？ なぜならそのコンサート場にいる彼女以外の者は皆、ぐったりとしているから。
「ＯＫ。いいわ。じゃあここからは選手交代。その件はわたしぃが調べるわ」
そう彼女が言った瞬間に、そこから遠く離れたインターネットカフェゴーストネットＯＦＦの裏道で驚く事が起きた。なんとそこにいた朝比奈舞がイヴが選手交代と言った瞬間に消えたのだ。
そしてそれとほぼ同時にイヴの隣にもう一人のイヴがいる。
イヴはイヴににこりと笑った。
「じゃあ、そういう事だから、後はよろしくね」
「ええ。わかったわ」
イヴはイヴにそう言うと、舞台裏へと消えていき、そして数秒後にコンサートは何も無かったかのように残ったイヴが歌い始めるのと同時に再開されるのであった。そこにいる人たちに不自然さは無かった…。
actU 異世界調査員
イヴは誰もいない闇の中に立っていた。
そこには一切の光は無く、
そして音も無い。
だけどその静寂を打ち壊す靴音がその闇から突然する。
そしてその靴音の主はイヴの前に立った。
彼はイヴの顔を見て、少し驚いたような顔をした。
「へー、これは驚いた。イヴ・ソマリアだ」
「あら、わたしぃを知ってくれているの？」
彼女のその言葉に彼はふんと鼻を鳴らした。
「わざとらしいな、その言い方。自分の人気を少しも疑っていないくせに」
彼のその意地の悪い声で紡がれた言葉にイヴはくすりと笑いながら肩をすくめた。
「だけど人気美少女アイドルがなぜこんな所に？ ここは成仏のできない魂がさ迷う闇だぜ。まさか、あんたも死んだ？ それでここに？」
人気ｂPでありながらまだこれからの少女が死んでしまえばその魂は成仏できずにこの闇を自分と同じようにさ迷うのは納得できる。彼は少し憐れそうな目で彼女を見たが、その彼女のふてぶてしい表情に眉間に皺を寄せた。
「・・・？」
「いいえ、わたしぃは死んでなどいないわ。生きながらにしてこの闇にいるの」
怪訝そうな彼にイヴはとても甘い声で囁く。しかしその声はそれでいてどこか周りの闇よりも暗く冷たい。
死人である彼の魂はその声にぞっと震えた。
「あんたは……一体？」
「わたしぃ？ わたしぃはね、イヴ・ソマリア。あなたが言った通りに今をときめく美少女アイドル。しかしそれは仮の姿。果たしてその正体は…」
イヴはつい先日までヒロインをしていた探偵ドラマの決めセリフを口にする。そして彼女は蛍光のような闇の中で仄かに輝く緑の瞳を細めて、そっと囁く。内緒話をするように。
「姉である女王に代わり滅びかけた自分達の世界の為移住先を探しこちらの世界にやってきた異世界である魔界の女王の妹。そう、わたしぃはね、この世界でわたしぃ達が住めるかどうかこちらの環境や魔物・妖怪の類を調査中なのよ。朝比奈舞と身分を偽ってね」
イヴが言った事を彼は疑わない。
「なるほどね。事実は小説よりも奇なり、か」
この言葉にイヴは小馬鹿にするように笑った。
「貴方が言うとより真実味があるわね」
彼はふむと頷く。
「で、あんたがここにいるのは？」
「わたしぃは異世界召還を利用したテレポート能力があるの。それを使って貴方がいるここに来た。貴方の話が聞きたくって。そう、物語を現実にするという力のね」
彼は肩をすくめた。
「毒をもって毒を制す、か。いいだろう。あんたが彼女を倒してくれるなら話すよ。何でも」
その言葉にイヴは微笑みながら頷く。
「なら、貴方の９歳の頃と貴方のお祖母様の特徴を教えて頂戴。そうね、できれば写真を。きっと彼女は貴方のお祖母様に似てるに違いないわ」
actV 満月
夜空には満月。
青白い茫洋な光を放つそれはどこか物哀しげに眼下の世界を見下ろす。
そんな夏のある蒸し暑い生温かい風が吹く夜の世界に小柄な少女が立っている。青い髪を掻きあげながら彼女は蛍光のような光を放つ緑の瞳を細める。
「こんばんわ、ジャック・ザ・リッパ―さん」
茫洋な月明かりを反射させる凶刃。その刃を目にしてもイヴはその肌の白い美貌に恐怖の表情を浮かべない。ふてぶてしい仔猫を連想させるような顔のまま。
そしてそんな彼女にジャック・ザ・リッパ―が肉薄する。
閃く刃。
ぶしゅぅ…闇に流れた鋭い刃が肉を貫くグロテスクな音。
ただ生温かい風が吹く夜の闇が沈黙に包まれる。
ぽたり、ぽたり、ぽたり…そしてその沈黙だった闇に流れた血が滴り落ちる音。
「しゅぅわー」
ジャック・ザ・リッパ―はなんとも言えない快感そうな声を出した。
「・・・」
そんな彼女の顔を間近で眺めながらしかしイヴは自分の懐にいるジャック・ザ・リッパ―の肩に両手をまわす。その薄く形のいい唇からどす黒い血塊を迸らせながら。
ジャック・ザ・リッパ―はその彼女の突然の奇行に怪訝な表情だ。彼女はイヴの腹部に刺したままのナイフをぶちゅぐちゅという耳を覆いたくなるようなグロテスクな音をさせながら掻きまわす。
そして大量に込み上げてくる血泡と一緒にイヴがその血に濡れた唇から零した言葉は…
「僕も殺すの？」
９歳の男の子の声だった。
そしてその声を聞いたジャック・ザ・リッパ―になぜか動揺が走る。彼女はイヴの腹部に刺さったままのナイフから両手を怯えたように放し、そして後ろによたよたと後ずさりながらその血塗れの両手で顔を覆って…
「うわぁぁぁぁぁ―――――ァッ」獣のような咆哮をあげた。
対してイヴの腹部には深々とナイフが刺さっていて、
そして彼女はそれでも顔を両手で覆いながら嗚咽のようなうめき声をあげながら後ずさるジャック・ザ・リッパ―に囁き続ける。９歳の男の子の声で。
「ねえ、僕を殺すの？」
「うぎゃぁぁぁ―――――ぁ」
ジャック・ザ・リッパ―はその場に崩折れるように座り込むと、四つん這いでイヴに背を見せて逃げ始めた。そう最強の不老不死のキャラクターであるジャック・ザ・リッパ―が。
そしてそれを青い前髪の奥で蛍光のように輝く緑の瞳で眺めながらイヴは血に濡れた唇をぺろりと舌で舐めて、
「最強の不老不死であるキャラクター。ジャック・ザ・リッパ―にも弱点はあった。さあ、貴女の物語もここで終わりよ」
そして彼女は前髪の奥で酷薄に緑の瞳を細めると、ジャック・ザ・リッパ―の生気を奪い去り、滅ぼした…。
ラスト
ジャック・ザ・リッパ―が滅びた瞬間、二つの物語が終わった。
そして物語から解放されたそこには涼しい夏の夜風が吹き始めた。どこからか夏の夜の虫達が奏でる音色も聴こえて来る。
「なぜ、ジャック・ザ・リッパ―はあんたに負けたんだ」
「心の産物ゆえに。その元となった心を揺さぶってやったからよ」
イヴはいつの間にか自分の前に立っている彼に微笑みながら言った。そして彼女は腹部に刺さったままのナイフをあっさりと抜く。
「大丈夫なのか？ 物語とはいえ…その傷は現実……？」
彼の目が驚きに見開かれた。服の裂け目から覗いていた傷口が見る見る回復していき、そして数秒でそこには傷一つ無い白く美しい肌があった。
イヴは肩をすくめる。
「不老不死は何も貴方のジャック・ザ・リッパ―だけの専売特許じゃないわ。吸血鬼とセイレーンのハーフであるわたしぃもまた不老不死なのよ。異界の吸血鬼ゆえにこちらの吸血鬼の弱点も関係無いしね。ほんと、事実は小説よりも奇なりとはよく言ったものよ」
と、彼女は彼にウインクした。
彼は頷く。
「なあ、しかし心を揺さぶるとはどういう事なんだ？ あんたはただ幼い子どもの演技をしただけじゃないか」
彼女はくすりと悪戯っぽく笑った。
「あら、まだわからないの？ いい。わたしぃが演じたのはあの闇で教えてもらった９歳の貴方よ」
「９歳の僕？」
「そう。そしてあのジャック・ザ・リッパ―は貴方のお祖母様だったのよ」
「あれが祖母…だけどどうしてぇ？」
イヴは青い髪を掻きあげながら教師のような口調で説明する。
「この話を聞いた時にわたしぃはジャック・ザ・リッパ―は貴方のお祖母様に似ているのだろうと思った。そしてそれはあの闇で貴方に具現化してもらった写真で証明できた」
彼はただ黙って聞いている。
「家庭内暴力なら幼かった貴方でも薄々悪いのはお父様だと気づいていた筈。そう、９歳の頃の貴方にとってお祖母様のイメージはどんな物だった？ お母様を迫害しお父様を可愛がり庇うお祖母様は貴方にとって仇だったのではないの？」
「そうだ」と彼は頷いた。だけどそこで彼女はくすりと笑う。それはだけどどこか優しげな印象を持っていた。
「けれど貴方を可愛がってた時もあったわね。身内なんてそんなもの。そういう思い出があるからこそ貴方はお祖母様を恨みきれなかったのよ。そしてそんな想いもジャック・ザ・リッパ―を構成する想いの一つだったから…」
「・・・」
「だからわたしぃは９歳の貴方の演技をしたのよ。『僕も殺すの？』って。これは多くの女性達を殺してきたジャック・ザ・リッパ―にではなく、それを構成する貴方のお祖母様への想い…イメージに訴えたもの。そこで躊躇ってもらうのが幼かった貴方の本当の望みだった…。そう、貴方は色んな愛情に飢えていて、そしてその中にはお祖母様への愛情の欲求もあって、そして貴方の中にあった本当のお祖母様はちゃんとそれに応えてくれた。それでもうすべて良いんじゃなくて？」
イヴがそう言った時には、彼の体は金色に輝いていた。
「ああ、ありがとう。僕もこれで母や祖母のところに行けそうだよ」
そして彼は夜空に輝く満月へと吸い込まれるように空へと消えていった。
それを見送ったイヴは小さな笑みを口元に浮べて肩をすくめる。
と、そこにコンサートを任せた分身からのテレパシーの声が届く。
『異界調査員のお仕事ご苦労サマー』
「はいはーい。そっちもアイドルのお仕事ご苦労さまー」
と、言って彼女は苦笑いを浮べて呟く。「アイドルって死語…（汗）」
『そうそう。明日はアイドルのお仕事お休みだからたーんと皆で調査しないとね』
イヴは苦笑いを深くして肩をすくめる。
「最近アイドルのお仕事減らし気味。その分裏の仕事が増えたり？」
そしてイヴはひとり夜空の月を見上げた。いつか、姉や仲間達と見上げる日が来るのであろう異界の美しい満月を。
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■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
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【整理番号 ／ ＰＣ名 ／ 性別 ／ 年齢 ／ 職業】
１５４８／イヴ・ソマリア／女／５０２／アイドル兼異世界調査員
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■ ライター通信 ■
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こんにちは、お客様。はじめまして。
このたび担当させていただいたライターの草摩一護です。
今回は小説のご依頼、ありがとうございました。
イヴ・ソマリアさん。色々と異世界での調査とアイドルのお仕事、大変そうですね。＾＾
最初、設定を見た時、本当に面白いキャラクターだなーと想いました。
特に吸血鬼とセイレーンのハーフで、異界の吸血鬼ゆえにこちらの世界の吸血鬼の弱点は通じないというのが面白いなーと。
本当はもっとここら辺を書けたら…特にセイレーンの血を引くがゆえの声の美しさとかを描写したかったです…よかったのですが。＾＾；
でも、彼女の不老不死というところや、お客様のプレイングにあった9歳の貴方の演技をするところを書けたのでよかったです。
そう、本当にイヴさんが天才的な演技で9歳の僕を演じて、ジャック・ザ・リッパ―を揺さぶるというのは、プレイングを読んで、うわぁ、面白いと想いました。＾＾
イヴさんならではのシーンですよね。
そして9歳の僕の悲しみと切なさを秘めたジャック・ザ・リッパ―も。
あと、ラストのイヴが彼と会話をして、彼に自分の心と向き合わせるのも。＾＾→ここはお客様のプレイング内容に切なさとそして優しさを感じたので、こういう風にラストにしてみました。
異界の女王の妹であるクールな彼女が見せる優しさを上手く現せていたらいいのですが。
どうでしょうか、お客様。今回の小説、お気に召していただけたでしょうか？
もしもお気に召していただけたのなら、作者冥利に尽きます。＾＾
イヴさん、本当に魅力的なキャラクターです。
もっと彼女の特殊能力や歌声、そして朝比奈舞としての異世界調査のシーンが書けたらと想います。
もしもよろしければまたイヴ・ソマリアさん、書かせてくださいね。
その時は誠心誠意書かせていただきます。
クリエーターズショップの方でドリームコーディネートという部屋を開いています。
そこに情報とかも載せていけたらと想うので、よろしければチェックしてやってくださいね。
それでは本当にありがとうございました。
失礼します。
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