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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


It's kidnaped by the infant

■オープニング■


 電話の相手の声を聞いて、一瞬、麗香の眉が動いた。
「誘拐した? 誰を? もう1度言ってもらえないかしら」
 だが、いつもと全く変わらない冷静な声で、麗香はその電話の相手に逆に問い掛ける。
 電話を受けている当人よりむしろ、編集部の中に居た人間が「誘拐」という言葉を聞き、電話に視線と耳を集中させてた。だが、電話の向こうの声は受話器から漏れてはいたがとても電話に出ている麗香以外の人に届くほどの大きさではない。
『お前のところの人間を預かった。警察には知らせるな。返して欲しければ次の指令を待て』
 それだけ言って、電話はぶつりと切られた。
「編集長!?」
「切れたわ。性質の悪い悪戯かしら……」
 麗香はおもむろに編集部員の人数を数えて、
「だって全員居るでしょ?」
と、頷いた。
「あのぉ、編集長――――」
 1人が全員の意見を代表しておずおずと麗香に進言した。
「……三下クンがいないと思うんですが」
 沈黙が更に広がる。
「――――でも、電話の相手、子供の声だったんだけど」
と、麗香が言うと、あたりは異様な雰囲気に包まれた。
「まぁ、三下ならありえるわよね……子供に誘拐されるって可能性も」
 彼女の台詞に異を唱える様子はない。
「返して欲しければ次の指令を待てってことは、別に返してもらわなくても良い場合はこっちから動いちゃって良いのかしら」
 とても麗香らしい答えに沈黙は続くばかりだった。

■シュライン・エマ■

「こんにちは、麗香さん。何かあったの?」
 何かライターの仕事か草間興信所への依頼でもないかと注文伺いに寄ったシュライン・エマ(しゅらいん・えま)はいつになく妙に静かな編集部の雰囲気に疑問を感じ麗香にそう尋ねた。
「また三下がね」
 『また』の部分を強調して麗香がシュラインに教えたのは本日のホットニュース、『三下忠雄(23歳・独身・男)子供に誘拐された事件』だった。
「あらあら」
 もう、三下の災難ぶりには草間興信所で数々の依頼に関わっているシュラインも苦笑を禁じえない。
「武彦さんの怪奇事件を引き寄せるアレも一種の特殊能力に近いけど、三下くんのそれも相変わらずね」
 すっかり三下の引き起こす珍騒動は『それ』あつかいしてしまうほど日常茶飯事となっている。
 だからこそ、シュラインの後に現れた顔なじみの面々は、同様にその話を聞いても、
「いいんじゃない、居なくても誰も困んないでしょ少なくとも私困んないしー……って言うか誘拐されるかフツー子供に!」
と村上涼(むらかみ・りょう)。
「子供に誘拐されるなんて、なんて“三下”らしい芸風っ!」
と言ったのは海原みあお(うなばら・みあお)、
「三下がユウカイ?……またあいつかよ? まぁさ、とにかく腹減ったし茶と茶菓子! ―――ところで、“ユウカイ”って何だ? 食えるものなのか?」
と言ったのは鬼頭郡司(きとう・ぐんじ)。
一方、シュライン・エマ(しゅらいん・えま)は苦笑を浮かべ、ケーナズ・ルクセンブルク(けーなず・るくせんぶるく)は何かを企んでるような笑みを浮かべている。
 つまり、そこに居た『三下忠雄(23歳・男・独身)子供に誘拐された事件』―――長いので以降『三下(中略)誘拐された事件』―――を聞いた常日頃アトラス編集部に出入りしている面々は似たり寄ったりな感想を口々に述べていたので、涼個人の性格や三下に対する評価云々よりもむしろ、このアトラス編集部内において……ひいては世間一般における三下忠雄に対する一般的な評価がそうなっていると言っても過言ではないという証明であるだろう。
 だが、
「俺はココに来てから日が浅いから良く判らないけど仲間が誘拐されたなら助けに行くべきじゃないのか?」
と、至極まともな発言をした者が居た。
 発言者、天音神孝(あまねがみ・こう)は、草間興信所には来ていたがどうも、この編集部にバイトを探しに来たのは初めてらしい。
「甘い。甘いわよ。三下さんじゃ身代金取れないわよ、絶対麗香さんお金払うくらいなら見殺しにするし」
 涼の発言に、麗香は失礼ね、と言いながらも
「まぁ、皆の発言に関しては貴方も追々判ると思うわよ」
と、特定の意図を含ませてそう孝に説明した。
 編集長の麗香がそう言うのでは孝にはそれ以上言う謂れはなかった。なにせ仕事を探しに来ている以上立場的に「麗香>孝」であるのは明らかだからだ。
 決着がついたところでシュラインは気になっていた犯人からの接触を確認する。
「ところで、その“次の指令”とやらの電話はあったの?」
 シュラインの問いかけに麗香はゆっくりと首を振って否定した。
「次に電話があったら聞いてもいいかしら?」
 電話を聞きさえすればシュラインのその聴力をもってすればある程度犯人の居場所の特定に役立つかもしれないと思ったからだ。
 しかし、シュラインのその提案に、
「えー、みあおも聞きたいっー!」
「俺も俺も俺も―――」
「私にも変わって変わって! 表彰は無理かもだけどやっぱ褒め称えてはやりたいじゃないの。そしたらきっと電話口で三下さん泣くしそれはそれで面白いし!」
 お子様達と女子大生の皮を被った悪魔が激しく主張をはじめる。
 噂をすれば影―――タイミング良く再度麗香の机上の電話が鳴った。
 その音に、編集部は先程までのざわめきが嘘であったかのように、一瞬にして静まり返る。
 麗香はゆっくりと受話器を持ち上げて、そしてスピーカーに切り替えた。
「もしもし?――――」
『警察には知らせていないだろうな?』
 確かに、スピーカーを通して聞こえる声は、よくて10歳……もしかすると6、7歳程度の子供のような声だった。
 そのわりに台詞はいっぱしの誘拐犯のような台詞である。
 驚いている周囲をよそに、麗香は冷静に返事を返す。
「えぇ。それで要求は?」
『編集部宛にメールを送ってある。メールにあるネットオークションの商品を30万で落札しろ』
 予想外の指示に微かに周囲がざわめいた。
 編集部員が慌てて投稿用に公表しているアドレスのメールのチェックに走る。
「30万ですって!? ダメダメ、三下にそんなに払う気ないわよ。んー、そーねぇ……思いきって3万でどう?」
 麗香の言う思いきってとは、当然“300円と言いたいところを3万でどうよ?”という意図である。
『さ、3万!? ダメだダメだ! じゃ、20万だ』
「20万ですって!? だから、言ってるでしょう三下にそんなに出せないって。まだまだ高いわよ」
『っ―――判った、10万だ! それ以上は安くしないからな。10万で落札しろよ、オバサン!』
 ぷつっ――――とほぼ音もなく電話は切断された。
 値切りに値切られた三下忠雄23歳。
 命の値段は10万円也。
「な、なぁ、今アノ人―――」
 麗香を指差し、孝は以前に顔を合わせたことのあるシュラインと、ケーナズ、郡司に小さな声で、
「――――自分の部下の値段を値切ってたよな?」
と振り返って確認する。
「値切ってたわね」
「値切ってましたね」
 その口調には、暗に麗香さんだし三下君だからねという言葉が見え隠れしているのは気のせいではないだろう。
「値切ったって。金? へ? 金で三下買うのか? 誰が?」
 きょろきょろと周囲を見まわす郡司は放置され、
「始めの価格が30万でそれを値切って10万でしょ。要求額の安さが三下くん“らしい”わ……」
とシュラインが苦笑いを浮かべていた。
「三下君のことだから迷子の相手してると思ってて、誘拐されてる自覚がないんじゃないかと思ってたけど……一応自覚もあるようだし」
 シュラインの耳にはスピーカーから微かに三下の声が聞こえてきていたのだ。
「た――す―――け―――――てくださぁぁぁぁいぃぃ――――」
というドラップラー効果まがいの声が。
「三下くんの声の他には……微かにだけど電車の音が聞こえてたわね。あとは、学校のチャイム―――」
「で、どうするんですか麗香さん。とりあえず10万で三下君の安全を確保しますか?」
 成り行きを見守っていたケーナズが麗香に確認する。
「その10万はどうせ三下の給料から天引きされるんだし、さっさと三下の足取り追おうよー」
 みあおはそう言って背負っていたカバンの中からカメラを取り出して首から下げる。どうも、編集部でじっとしているのにも飽きたらしい。
 しかし、今現在最大の問題はそこではなかった。
 “オバサン”呼ばわりされた麗香の背後から青白い炎が見える。
「……生け捕って来てちょうだい。この際、三下はどうでもいいわ」
 この際と言うか、最初からどうでも良かったんじゃないんですか? とは、恐ろしくて誰も口には出せなかったのは言うまでもない。
 こうして、『犯人生け捕り(のついでに三下捜索)大作戦』の火蓋は切って落とされた。

■SIDE:A■

「まー、まず三下さんの足取り追って見ましょうか。無駄っぽいけど。ダメならダメで別に困らないし」
 興味半分―――いや、興味のみの涼はやる気があるのかないのか判断しかねる台詞を平然と述べる。
「ねねね、でも“三下の足取りを追わないと”とか言うとなんか、刑事ドラマみたいでかっこいいかも! 誰が殉職するんだろう。やっぱり三下?」
 みあおにとってどうもこの『三下(中略)誘拐された事件』は刑事ドラマごっこのような感覚しかないらしい。
「三下さん、朝から1度も編集部に顔出してないのよね? ……ということは、通勤途中で攫われた可能性が高いわね。しかも、犯人のガキンチョたちは最初の電話から三下さんがここの人間だと判っていた―――つまり計画的に編集部の近辺で三下さんを攫ったってことでしょう。しかも電話で三下さんの悲鳴が聞こえたってことは口はふさがれていない。そして、多少声をあげても外に聞こえないような、人気の少ない場所に監禁されてると」
 どうも最近忘れられがちだが、涼はそう得意の推理を披露した。
「じゃあ、とりあえず外に聞き込みに行きましょう。本当にこの近辺で攫われたとしたら平日スーツ姿の男性1人が子供を連れて歩いてる姿は印象深いから誰かが覚えている事もあるでしょう」
「生け捕りってことは狩りだよな、狩り♪ って、ことは俺の出番だよな〜」
 郡司はそう言うと、その前に腹いっぱいにしとかないと―――などといいながら、テーブルの上にあった茶菓子を次々に食べて言ったかと思うと、最後の方にはもうまとめて口に放り込んだ。
「ひゃぁひこうへ(じゃあ、行こうぜ)」
「口のもの飲み込んでからにすればぁ」
 見るからに、年下のみあおに呆れ顔をされ、
「ほーらら(そうだな)」
と言うが早いか、ごくりとよく噛みもせずに飲み込む。
「おし、じゃあ行こうぜ! 狩〜り狩り〜〜♪」
 妙な節をつけて歌う郡司は右にシュラインの左に涼の腕をとって先頭を切って外へ出た。

 まず最初に4人が向かったのは編集部の最寄の駅のキヨスクだった。
 キヨスクにいるおばさんに郡司が声をかける。
「なーなー、おばちゃんおばちゃん」
 その郡司の頭を涼が後ろ頭をがつんと一発入れてた。いってぇ……という郡司の声を綺麗に無視して涼は、
「すみません、お姉さんちょっとお話聞いていいですか?」
 郡司がおばちゃんと呼んだ時は振り向きもしなかった妙齢の御婦人は、
「なんだい?」
と喜色満面の表情で快く話しに乗ってきた。
「申し訳ありません、ちょっと私たち人を探してるんですけど。この人見かけませんでしたか?」
 シュラインが三下の写真を差し出す。
「んー、どれどれ」
 目を薄め少し離して写真を見る。
「あぁあぁ、あれだろいつもあそこの正面のビルに走っていく兄ちゃんだろう、コレ。確か今日も慌てて走っていってたけど―――」
「それホントかよ、おばちゃ―――」
 再び涼が一発入れる。
「何か今日変わった様子はなかったですか、お姉さん」
「あたしもその時間は忙しいからねぇ―――あぁ、そうそうよ、今日も慌てて走って行ったんだけどほら、そこの駅を出たところでランドセル背負った子供に声かけられてたわよ」
「それで!?」
「それで、その子供の手をひいて右の方に歩いていったわよ。たぶん、あっちの交番に連れて行ったんじゃないかしら」
 どうもねぇ、あの兄ちゃんの要領が悪そうなとこがウチの旦那の若い時によく似ててねぇ―――などと長話体制に入ったおばちゃんに、そうそうにお礼を言うと今度は三下が向かった方向を辿って行く。すると、しばらく進んだ所に交番があった。
「ここはみあおの出番だね」
 そう言って、みあおはすみませぇんと交番の中に入っていった。
 待つこと5分。
 交番から出てきたみあおは、
「やっぱり、来たらしいよ子供と一緒に―――で、道を聞いてその子供と歩いて行ったって」
 どうしてそこで警察官に子供をお願いして会社に行こうと思わなかったのか、そこら辺の抜け具合が三下に違いない。
「で、ここから10分くらいのところにあるW小学校の場所を聞いてたんだけど―――」
「おーし、獲物はそこか!」
と郡司は急にくんくんときょろきょろしながら鼻を動かす。そして、1度軽く首を捻り、
「う〜ん、やっぱりこの格好じゃ調子出ねぇなぁ」
「……ま、まさか」
 その台詞に、涼たちの頭にイヤな予感がよぎる。
 イヤな予感と言うのは得てして的中するもので……郡司は前置きもなく学ランを上下共にぱあっと脱ぎ捨てた。
 学ランの上下が中に舞う。そして現れたのは、虎皮の褌一丁の姿だった。
「おし! やっぱコレの方が快調だな。こっちだ! 行っくぜ――――!!」
 そう言うが早いか、郡司は素早くみあおを自分の肩に乗せ再びシュラインと涼の腕を取ってその小学校へ向かって走り出した。
 褌一丁の少年が女の子を肩車し、両手に女性2人の手を取って街中を走り抜ける――――奇異な光景にすれ違う人々が4人を振り返る。
「ちょ、ちょっと引っ張らないで!」
「痛いって言ってるでしょ!」
 両腕の先から聞こえる悲鳴も、
「まだ続きがあるんだってば―――」
という頭上から聞こえる苦情もなんのその。
「こっちだこっち、だって三下の匂いがするからな♪」
 息も切らさず走りながら郡司はそう言う。
「じゃあ、最初から匂いで探せば良いでしょうが――――!!」
 とうとう涼の一激必殺技、バットでホームラン並みの素振りが郡司に炸裂したのは、まぁ、この際いた仕方ない。
 シュラインとみあおはとりあえず敢えて見ない振りをした。

■■■■■

 W小学校に辿り着いた4人はそこでケーナズたち2人とはち合わせた。
「あれ、天音神さんは? 居ないの? で、その子は?」
 てっきり天音神と一緒だと思っていたケーナズが金色の瞳をしたそれは可愛らしい美少女と一緒に居る事に気付き、涼が周囲を見まわす。だが、やはり、孝の姿はなかった。
 その問いかけに、美少女の顔が何故か引きつり、ケーナズとシュラインが訳知り顔で含み笑いを浮かべている。
「彼女が天音神くんだよ」
「へぇ〜……――――――って、えぇ!? ホントに!?」
 驚く涼にその少女―――孝がしぶしぶと言った感じで頷いた。
 孝は彼が望む望まないにかまわず、彼の能力は、彼の意思とは無関係に半強制的に自動発動する。そして、自動発動する際は勝手に女性体に変身してしまうのだ。
 説明を受けて、
「見たい見たい見たい! ちょっと1回男に戻って、も1回変身して見せてよ」
ワクワクと気体に満ちた目で涼は孝を見たが、断固としてそれは拒否されてしまった。
「それより彼は……どうしたんだ?」
 ケーナズの目を引いたのは女性陣に引きずられている郡司の姿だった。
「どうしたって何が?」
 けろっとした顔でみあおが首を傾げる。
「あぁ、大丈夫大丈夫、“ちょっと”気絶してるだけだから」
 涼は空いている手をひらひらと振って見せる。
 ちょっと気絶して尚且つ涼とシュラインに両腕を掴まれて捕まった宇宙人のような状態で現れれば「どうした」と聞きたくなるのも無理はないだろう。
「まぁ、見てて。みあおちゃん、カバンに何かお菓子持ってる?」
「おっけー」
 シュラインに言われてみあおはカバンに入っていたクッキーを取り出し、郡司の鼻先に、
「ほ〜らほら」
と近づける。
 次の瞬間、
「―――食いもんだ〜!!」
と、みあおの手まで食べかねない勢いで起きたのが先か食べたのか先か……とりあえず、意識を戻した事だけは確かだった。

 郡司も意識を取り戻し、揃いようやく話しが進み出した。
「あの後、再度犯人から編集部に電話があったよ。まぁ、その時にお金は振り込んだと伝えたから、三下さんの安全は確保されてる」
 美少女の外見でも中身は孝そのままの口調だ。
 孝は涼がすぐそばで酷くがっかりしている事に気付いていたが、それには無視を決め込んだ。
「まぁ、その後で私がテレパスで三下君と接触したところによると、犯人の子供は、女の子が4人と言う事らしいですよ」
 ケーナズはテレパシーで三下と接触した経過と情報を簡単に説明する。
 いくら4人とはいえ、小学生の女の子に誘拐されてしまう当たり――――確かに三下以外に標的になりえそうな『大人』は居ないだろう。
 学校を見渡してから、みあおがケーナズを見た。
「で、三下は学校のどこに監禁されてるわけ?」
「それが、目隠しをされているらしく学校の中という以外は三下君には判らないようでした」
「三下くんの携帯は? 三下くんなら携帯でも居場所がわかりそうなモノ持たされてるようなイメージがあるんだけど」
「そんな立派な携帯持つだけのお金が三下にあるわけないよ」
 そのみあおの意見はとてつもなく説得力に満ちていた。
「それじゃあ―――」
 みあおとケーナズがそれぞれの特異能力で三下の居所を探ろうとしたその時だった。
「よし、さっさと探そうぜ!」
 郡司は三下の匂いを辿る為に、再度服を脱ぎ捨て褌姿になった。
「ちょっとー、その格好で小学校入って大丈夫なわけ?」
「確かにちょっと問題かもね」
「俺もその格好はどうかと……」
 涼、シュライン、孝、それぞれ口々に郡司のその姿に非難が寄せられる。
「なんだよ、なんでお前ら人の格好に文句言うんだよ! こりゃ正装だぞ、正装!」
 むくれる郡司の肩にケーナズが手を置いた。
「まぁまぁ、いいじゃないか誰に迷惑をかけるわけでもないし」
「みあおはぁ、面白ければおっけーだと思うな♪」
 みあおとケーナズの賛意は『面白いから』という意味では同じであったが、ケーナズには多少違った意図があるようなないような―――――――
「あ〜、もう、とにかく! さっさと三下見つけ出そうぜ。見つけ出して肉を腹一杯奢ってもらうんだからよ!」
 郡司の頭の中ではすでに、「三下=肉」の図式が仕上っていた。
 そして、涼の推理力でもシュラインの聴覚でもなく、ケーナズのPKでもみあおの感覚能力でもそしてせっかく変身した孝の魔法の能力を生かすわけでもなく、肉に目が眩んでハリキリ状態の郡司の動物的嗅覚で三下の居所を辿る。
 そして、辿り着いたのは学校の裏。
 今は使用されていないような体育倉庫だった。
「ヨウちゃん、どうどう?」
「ダメよ、名前呼んじゃあ。ちょっとまって……おっけ、入ってるわ10万円」
「きゃー♪ これでWIZEのチケット当たるよねっ!」
 中から女の子達のきゃーきゃー言う声が聞こえた。
 その声を割るように、バン――――と大きな音をたてて倉庫の入り口を開け放った。
「見つけたぜ、肉……じゃなかった三下〜〜〜!!」
 少女達には意味不明の叫び声。
 そして郡司の放った威嚇の為の雷撃は少女達の横をすり抜けて―――よりによって見事簀巻きにされた挙句に目隠しされて古ぼけたマットに転がされていた三下に命中した。
 はらり……と、雷撃で、三下を目隠しし去れていた布が外れた。
「あ……間違った。三下、悪ぃ悪ぃ―――つか、そう言うカッコ似合うなお前〜♪」
 ははは、と笑う郡司の隣でみあおが首から下げたカメラのシャッターを切っている。もちろん、
簀巻き姿の三下に向かってだ。
 犯人であろう幼女寸前の少女たちは、雷撃にかなり驚いたのかそれともいきなり現れた褌姿の郡司に驚いたのかは定かではないが、3人が3人とも呆然とした顔でその場にへたり込んでいた。
 ケーナズは手早く三下のロープを解いて抱き起こしてやる。
 そして、突然三下を力をこめて抱きしめる。
「ケケケ、ケーナズさん―――!?」
「私のペットに2度と手を出すな」
と、呆然としている少女たちにそう言った。
「さて、ちょっとお話聞かせて貰いましょうか?」
 にっこりと笑ってシュラインがそう言うなり、我に返ったのか突然少女たちが入り口に向かって駆け出そうとするがその首根っこを孝と涼の2人が捕まえた。
「ほらほら、何も取って食おうって訳じゃないんだから大人しくお姉さんたちにお話聞かせなさいって」

■エピローグ■
 
 アトラス編集部へと連行された3人はとりあえず麗香の前に並んで座らされた。
「で、なんでこんな事したの?」
 麗香の顔色にビクビクとしている3人に、怒らないから言って御覧なさい、と言うシュラインの言葉に少女のウチの1人がおずおずと話し始めた。
「WIZE(ワイズ)って知ってる?」
 WIZEというのは今、小中校生を中心に人気の某有名プロダクション所属の3人組のアイドルグループだ。
「今、WIZEのシングルCDを買うとその中にカードが入ってて、あたりのカードが入っていた人は限定コンサートに行けるの……どうしてもアタシたちそれに行きたかったの―――」
 そのCDを買うためのお金が欲しかったと、少女たちは口をそろえてそう言って泣き出した。
 浅はかである。
 子供特有の浅はかさに飽きれるより他なかった。
「今回は良かったようなものの警察に連絡されてたらどうするつもりだったの」
「だっ…て、だってぇ―――」
ごめんなさぁいと、泣き続けるだけでとりあえず話しにならない。
「へ、編集長……あ、あの、もうそれくらいで」
 そう言ってお小言を止めたのは今回の被害者である三下だった。
「とりあえず皆さんのおかげで、こうして無事に助けていただけましたしお金さえちゃんと返してもらえれば。彼女たちも反省しているみたいですし」
「そうねぇ、もとはといえば、三下さんが間抜けにもこぉんな子供たちに捕まらなければこんな騒ぎ起きなかったわけだし」
 涼はそう言って茶々を入れて笑っている。
「それもそうね」
 案外あっさりと3人を解放した麗香は、一転して三下を見て、 
「―――三下」
「は、はい―――」
「罰として3ヶ月減給」
と告げた。
 これ以上減らされるほどの給料があるのかどうか―――先の3ヶ月を想像して、三下は悲鳴をあげる。
「そ、そんなぁぁぁ、編集長ぉ―――――」
 アトラス名物、三下の悲鳴がいつものように編集部の中に鳴り響いた。

Fin

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0381 / 村上・涼 / 女 / 22 / 学生】

【1481 / ケーナズ・ルクセンブルク / 男 / 25 / 製薬会社研究員(諜報員)】

【1415 / 海原・みあお / 女 / 13 / 小学生】

【1838 / 鬼頭・郡司 / 男 / 15 / 高校生】

【1990 / 天音神・孝 / 男 / 367 / フリーの運び屋・フリーター・異世界調査員】

【0086 / シュライン・エマ / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、遠野藍子です。
 この度は「It's kidnaped by the infant」に参加いただきありがとうございました。
 当初のタイトルは「幼児“が”誘拐」だったのですがあまりにも直球ストレートなタイトルだったのでとりあえず英語にしてみました。ほら、タイトルだけ見るとなんとなくカッコ良さそうに見えます……多分。
 今回プレイングが楽しいのなんのって、個性的な皆様に揃っていただけたので書く方もとても楽しく書かせていただきました。
 読んで頂いて少しでも笑いが取れれば本望です。

 また、機会がありましたらよろしくお願いします。