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求めてはならないもの
*オープニング*
「あらっ、帰って来たのね? ご苦労様、三下君ッ」
おつかいから戻った三下を迎えたのは、未だ曾て聞いた事のないような、麗香の甘い猫撫で声だった。普段から優しさには縁の無い三下であるし、その相手が鬼の編集長からだと思うと、その優しい声にも背中が総毛立つような感じがした。
「…な、何か御用ですか、編集長」
「イヤねぇ、そんなビビらなくったっていいじゃない」
にっこり微笑む麗香に、アンタの所為だろ、と言えれば三下は今頃こんなに苦労してない。
「ちょっとこれを読んでみて」
そう言って手渡されたのは、白い封筒に入った手紙のようだ。どうやら、編集部に届いた、読者からの感想の手紙らしい。訝しげに麗香の方を見るも、その鋭い視線に急き立てられ、三下は封筒から手紙を引っ張り出した。中の手紙は、小学校低学年ぐらいの子供が書いたもののような、たどたどしい文字で書かれている。
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アトラス編集部の皆さンへ
こんにちは、いつも楽シくアトラスを読んでいます。
特に僕は、心霊かンけいの話がスキです。
それできょうは、皆さンにゴ相談したいことがアリます。きっと、アトラスの皆さンなら、僕の悩みをかいけつシてくれると信じていマス。
僕にはお母さンがいませン。随分昔に亡くなったそうデス。そうゴシュジンサマが教えてくれました。僕の小さい頃だったので、僕はお母さンの顔も覚えていまセン。
なので、僕はお母さンに一目あいたくて、ゴシュジンサマのこれくしょんの中から、ひとつ勝手に使ってしまいました。
『はんごんこう』って言うものデス。このおコウをたくと、亡くなった人を呼び出せるンだと、以前ゴシュジンサマが教えてくれたのデス。それで僕は、ゴシュジンサマがしゅっちょーに行っている間にそれを使ったンです。
…お母さンは呼び出せませんでシタ。その代わり、ヘンなのを呼び出してしまったようです。
霊なことは霊のようデスが、呼んだのはアナタじゃないと言っても帰ってくれまセン。あれからずっとウチに居座ってマス。悪い事はしないみたいだけど、気味が悪いデス。
どうして、お母さンを呼び出す事ができなかったンでしょうカ。どうしたら、この居座ってる霊に帰って貰うコトができるでしょうカ。
どうか教えてください。
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「……なーんか、茶釜子みたいだなぁ」
ふと、三下が呟く。その小声を、麗香は聞き逃さなかった。
「三下君もそう思う?私もそう思ったのよ。この、妙な日本語とゴシュジンサマって言う言い回しね。なんか、物の怪臭くない?」
「いえ、僕には物の怪の臭いは良く分からないです……」
そんな三下の抗議も、勿論あっさりと無視された。
「物の怪がどうかはともかく、この子の言ってるのは『反魂香』よね。それが実在するものだとすれば、そしてそれに寄って何らかの霊が呼び出されているのだとすれば、これはスクープよ。元々、反魂香は死んだ相手の姿が見られる、ってだけのものであった筈でしょ?」
「そうなんですか?」
とぼけた三下の額に、麗香のデコピンが炸裂した。
「寝ぼけた事言ってないで、とっとと調査に行って来なさい!」
*行くか?*
「よ。相変わらず振り回されてるみてぇだな」
片手を上げていつもの調子で編集部にやって来た玲璽に、三下は思わず脱力してソファに座ったままテーブルに突っ伏した。
「お、疲れてんな。そんなに編集者ってのは激務なんか?」
「違いますよぅ…玲璽さんが、他人事みたいに呑気な事を言うから…」
「実際、他人事じゃねぇか」
俺には関係ないもーん、と何故かカワイコぶった調子で玲璽が口笛を吹くので、更に脱力して三下はテーブルの上にのっぺりと上体を寝そべらせた。
「ま、いいじゃねぇか。ちゃんと手伝ってはやるからさ…って、どうした。顔色悪いぜ」
勝手にソファに腰を下ろし手足を組んだ玲璽が、顔を上げた三下の表情を見て目を瞬いた。げっそりと、何やら憔悴したかのような三下の表情に軽く眉を顰める。
「何だよ、まるで質の悪い酒で二日酔いになったみてぇな顔だな…」
「さすがにバーデンダーさんらしい表現ですね…残念ながら違いますよー。僕、酒は殆ど飲めませんもん」
「じゃあなんで」
「…だってこれから行く所…幽霊がいるんでしょう?怖いじゃないですか、そんなの…」
三下の返答を聞いて、暫く無言でいた玲璽だが、やがて呆れたような声を出す。
「…アトラスの編集者とも思えん台詞だな。そんなんで良く今まで取材やって来れたな?」
「まぁ、それは適当に…」
麗香が聞いたら、酷く怒られそうな発言である。
「ま、それはいいとして。んじゃ早速行くか?うだうだしてたって始まらねぇ、覚悟決めやがれ」
「えー……」
未だ煮え切らない三下に、玲璽が溜め息をつく。びし!と三下の方に指差すと、
「【立て!】」
「うわぁ!」
玲璽の言霊に、三下の身体がびくんと跳ね上がって直立不動する。その後も【歩け】とか【走れ】とか、後ろからラジコンのようにコントロールされながら、三下は白水社ビルを後にした。
*いってきます*
「…何でこれ、平仮名で書いてあるんだ?」
編集部に届いた、例の手紙を読みながら玲璽が呟いた。
「そりゃ漢字で書けなかったからだろう。まぁ、そいつにとって『反魂香』が難しい漢字だとするなら、この手紙の主は確実に子供なんだろうが」
「言葉遣いとか書き文字とか、そう言うのを見ると確かにまだ小さな子供っぽいわね」
正風の言葉に答えて、鞘子がそう続ける。玲璽の隣からその手紙を覗き込んでいたのだ。そんな鞘子にその手紙を渡しつつ、玲璽が言う。
「と言うかさ、…これ、もしかして『反魂香』って言う漢字を当てるモンじゃなかったんじゃねぇか、とも思うんだよな。実は『飯権膏』だった、とかな」
「だから、おかしなものを呼び出してしまった…そう言う可能性もありますね」
化楽が綺麗に整えられた口髭を撫でながらそう言うと、同意を示して玲璽が頷いた。
手紙を送って来た件の人物の住所は、白水社から然程遠くない場所にある事が分かったので、三下始め五人は散歩がてら、のんびり歩いて向かう事にしたのだ。一人、歩みの重い三下は一番後ろからのろのろと付いて来ていた。
「反魂香で死者を蘇生させる為には必要なものがある。多分、それを怠ったんだろう」
「あ、あの…必要なものって…なんですか?」
一番後ろから、三下が恐る恐る正風に問い掛ける。ん?と首を捻って振り返った正風が、事も無げに答えた。
「ああ、生き返らせたい人の死体か、その代理の体だ」
「し、したい……」
その単語だけに恐怖を感じ、気が遠くなる三下はほっといて鞘子が言った。
「例え、亡くなった人の魂を呼び出せたとしても、殆どは悪霊しか呼び出せない危険なものよね…そう言う事も踏まえて考えると、この手紙の主さんはまだ子供でそこまで考えが及ばなかったとするのが妥当ね」
「それだけ、亡くなったお母さんに会いたかったんでしょうねぇ…死んだ魂は何処へ行くか、それは生きている俺達には正しくは分からない事ですし。その魂を本当に呼び戻す事が出来るのかも分からないですしね」
しみじみとそう呟く化楽に、そうね、と鞘子も溜め息混じりに呟いた。
「まぁ、全ての魂が成仏する訳じゃねぇしな。何かしらの思いを残してこの世に留まるヤツもいる。コイツが呼び出した霊ってのも、余程の思いを抱えたヤツかもしんねえしな」
言っているのは同じ化楽なのだが、犬神が出て来ているので先程とは印象は全く変わっていた。だが鞘子は驚きもしないで、そうね、とさっきと同じような調子で答える。
「それに、居座ってる奴が霊と限った訳じゃねぇと思うんだよな。もし、本当にその手紙の主が物の怪なら、そいつに何らかの恨みを持つ奴の仕業、とかな」
と、これは玲璽。それに応えて、こちらは本物の化楽が頷いた。
「やはり狸…なのでしょうかねぇ…会ってみないと分からないですが、さすがに霊じゃ匂いではわかんねぇしな、困ったもんだ」
本物の化楽かと思ったが、後半は犬神が出て来たようだ…。
「本物の霊なのか違うのか、それも行ってみれば分かるだろう。とにかく、急ぐか。そいつが困ってると可哀想だしな」
正風の言葉に答えて、三人は頷いた。唯一頷かなかったのは三下であるが、ただ単に幽霊がいるかもしれない場所に行くのが怖かっただけだった。
*ごめんください、お帰りはこちら*
件の家と言うのは、静かな住宅街に佇む一件の大きくて古びた洋館であった。ひびの入った壁には蔦が巻き付いて鬱蒼とした雰囲気を醸し出し、如何にも何か出そうな感じだ。さすがに三下は少々びびっているようだが、他の四人は慣れたもの、そのまま平気な顔で洋館の門を潜って行く。離れては余計に怖い、とばかりに、三下も慌ててその後を追った。
「…なんか、今にも何か出て来そうな雰囲気ですねぇ!」
三下は、怖さ紛らわせの冗談のつもりで言ったのだが、続く正風の回答に一瞬にして青ざめた。
「そりゃそうだろうな。うようよ居るぜ」
「ええっ!?」
「あら、三下さんってば、分かってて言ったんじゃなかったの?この場所自体が霊道に引っ掛かっているのかしらね。特別に悪い霊は居ないみたいだけど、幾つかの霊体が居る事は居るわよ」
鞘子にもそう断言され、三下は今にも気を失いそうだ。そんな三下を見ながら、化楽が同情するような声で言う。
「俺には霊能力はありませんからそこまではっきりは分かりませんが、それでもちょっと異様な感じがしますね、ここは」
「ああ、妙に寒々しいと言うかな…空気そのものが違うような」
「でも、霊体ばかりじゃないようですね。精霊とか妖精とか…そんなような存在も感じるわ」
「どっちにしても不思議な場所だと言う事だな。これなら、狐や狸に出迎えられても、何ら可笑しくはないな」
そう言いながら、正風が呼び鈴を押した。暫くして顔を覗かせたのは一人の少年である。釣り上がった金色の瞳が特徴的な事を除けば、至って普通の、小学校就学前か直後ぐらいの年頃の少年だ。そんな少年を見て、化楽が、くすんと鼻を鳴らす。
「あの…もしカして、アトラス編集部の人達でスか?」
少年の問い掛けに、鞘子が頷いた。
「ええ、そうよ。こちらがアトラス編集部の三下さん。私達はお手伝いの者よ。…あなたが、お手紙をくれた子かしら?」
こくり、と少年が頷く。どうぞ、と扉を大きく開いて、五人を屋敷の中へと迎え入れた。
「バカヤロウッ!」
少年の脳天に、正風の拳骨が炸裂する。ひーん!と泣き声を上げて少年が頭を両手で抱え込み、その場にしゃがみ込んだ。
洋館の内部は、外側同様、古びて所々にガタが来ているような、基本的な洋館の構造をしていた。小綺麗にしてはいるものの、人が住んでいると言う印象は受けない、だが荒廃しているという印象も無い。何か、人ならざるものが人の振りをして暮らしている。そんな感じだった。
少年――ここではそのゴシュジンサマとやらに紺(こん)と呼ばれているらしい――が五人をリビングのような場所へと案内すると、まずはいきなり正風の鉄拳制裁を食らったのだ。しゃがみ込んだままの少年の傍に膝を突き、頭を撫でてやりながら鞘子が苦笑を向ける。
「正風さんったら、そんないきなりゲンコで殴らなくても」
「いいや、こう言う危険な事を仕出かすガキはがつんと言って聞かせないと。てか、分かってんのか?遊び半分で呼び出すようなもんじゃねぇんだぞ、霊ってのは」
そう睨みつける正風に、『遊びじゃなイもん…』と言い訳をする紺だったが、再び正風が拳を固めるのを見て、慌てて両手で自分の口を塞いだ。そんな様子を見て笑い声を漏らしながら、鞘子が紺に言う。
「でもね、正風さんの言う通り、反魂香はとても危険な道具なのよ?正しい知識無しに使ってはいけないの。あなたの気持ちは分かるけど、寂しかったらお母さんの霊を呼び出すなんて事しないで、私の所に遊びにいらっしゃいよ。ね?」
「大体その前に、そのハンゴンコーは本物なのか?」
鞘子に頭を撫でられたまま、紺が玲璽の問い掛けに首を傾げた。
「……だと、思うケど…ゴシュジンサマはお仕事で世界中を旅しテ回ってル人だから、その時にどっカの国で手に入れた、って言っテたの。で、僕は、そのはんごんこうに付いてた説明書を見ながらやったんダけど…」
「…これ、日本語で書いてありますよ」
紺が差し出した、ぼろぼろの紙片を受け取って中を見た化楽が言った。他のメンバーもそれを覗き込み、確かに日本語で書かれたそれに目を丸くした。
「もしかしたら、反魂香の正しい取り扱い方を日本語に訳したものかもしれねぇけど…それにしてもボロボロだな、これ」
「しかも肝心な所が虫食いで抜けてるじゃないか。こんなのを当てにして霊を呼び出したんじゃ、ちゃんとした霊が来る訳ないだろ」
玲璽と一緒に紙片を覗き込んでいた正風が、そう言ってじろり紺の方を睨みつけるので、慌てて紺は鞘子の後ろに隠れた。
「…で、その間違って呼び出しちまって、帰ってくれねぇ霊ってのは、どこにいるんだ?」
化楽(と言うか犬神)が、そう紺に尋ねる。紺は頷いて、そこ、と黙って立ち尽くしていた三下の背後を指差した。
「えええええっ!!?」
悲鳴を上げて三下が横っとびに飛びすさる。そこに居たのは白い靄のような、と言うか居るのか居ないのかも分からない程、存在が希薄な霊体がゆらりと漂っていたのだ。
「…あら。いつの間に」
のんびりとした口調でそう言う鞘子に、三下がさっきの紺と同じように縋り付いた。
「だ、だから…なんでそんなに冷静なんですか、皆さーん」
「いいじゃねぇか、霊のひとりやふたり。あんただって、死ねばこうなるんだぜ?」
立てた親指で霊の方を指し示す玲璽にあっさりそう言われ、三下はがっくりとその場に膝を突く。が、その傍らで腕組みをして霊体を見詰めていた正風が、
「…いや、死んでもすぐにはこうなならないだろう。この霊は死んでからかなり時が経ってるな。その所為で、自分が何故この世に留まっているかも分かってないようだ」
「ああ、それでか。どうも犬でもねぇ、狸でもねぇ、ましてや人間でもねぇなってさっきから不思議に思ってた所だ。…言葉、通じるんかねぇ?」
化楽(ではなく犬神)が、頷きながら鞘子の方を見た。困ったような表情で、鞘子が手を頬に宛い、首を傾げる。
「…ちょっと無理っぽい…かしら。言葉が通じないと言うよりは、言語そのものを既に失っているような感じがするわ。困ったわね、これでは説得も出来ないわね……」
「出来るかで来ねぇか、試してみてもいいんじゃねぇ?なぁ、あんた。俺達の話は分かるかい?」
玲璽の言葉に、霊は聞いているのかいないのか、ただその場でゆらりと陽炎のようにその白い靄を揺らめかせた。
「黙ってちゃ何も解らねぇぜ。言いたい事があったらはっきり言ってみな。……何か俺達に出来る事があれば協力しますから。ここで留まり続けるよりは、在るべき場所に還った方がいいと思いますからね…」
勿論これは、前半は犬神の後半化楽の言葉だ。だが、そんな化楽の申し出にも、霊は反応を示さない。敢えて無視をしているのか、それとも本当に理解出来ていないのか、それは分からなかったが。だが、そんな埒の開かない様子に、ブチ切れた男がひとり。
「いい加減にしろ、煮え切らん奴だなっ!」
言うが早いか、さっき紺の脳天の拳骨を叩き込んだのと同じ勢いで、気を練った。
「ま、正風さん!」
「退いてろ!奥義、鬼哭破裏拳ッ!」
驚いた鞘子が静止する間もなく、正風の気の打撃が霊体を攻撃する。人間なら骨が砕け肉が裂け…と血生臭いシーンが展開されただろうが、相手は肉体を持たない霊。それでもエネルギーの塊であるから、それなりのダメージは食らったか、そのままよれよれと力なく萎むと床の上に縮こまる。それは白い霧がただ小さくなってしまっただけなのだが、皆には霊体が指先で床にのの字を書きながら、正風を鬼だの悪魔だのと罵っているような気がした。
「おやおや。正風ちゃんも嫌われてしまいましたねぇ」
可笑しげに笑いながら化楽が言う。別に、と正風も喉で笑った。
「ね、これ以上ここに居たら、逆にあなたが危険な目に遭うのよ?あなたが在るべき場所に帰って、次の生を受けた方がいいわ」
いじける霊の様子に、思わず込み上げてくる笑いを堪えつつも、鞘子がそう説得する。それでも霊は、その場から動こうとしなかった。意志も思いも何もない、唯の存在だけの霊であるが故に、この場に留まらなければならない理由も無いが、成仏しなければならない理由も無い、動くのはいちいち面倒臭いし、だったらこの場から動かなくてもいいじゃないか。そんな感じだった。
「…しょうがねぇなぁ……ほら、じゃ手伝ってやるよ。【帰れ!】」
玲璽が、言霊を込めてその単語を放つ。すると、その力に引き摺られた霊は、魔人がアラジンのランプに吸い込まれて行くように、見る見るうちに細くなって天へと昇って消えて行った。
「…あっという間だったわね」
鞘子が、片手を日除けにして目の上に翳し、窓から空を見上げた。その隣で化楽も同じようにして眩い青空を見上げる。
「言葉の通じる霊なら、説得で帰って頂く事も出来たかもしれませんけどね、あの霊はそれが出来ませんでしたし、致し方なかったでしょう。…もしも、本当に紺ちゃんのお母さんだったとしてもね」
「そーいや、なんであれが自分の母親じゃねぇって分かったんだ?会った事ねぇんなら、違うかどうかも分かんねぇだろ」
玲璽の問い掛けに、紺が首を緩く左右に振った。
「確カに会った事はないけド…でもゴシュジンサマが言ったんだ。オマエのお母さんは立派な尻尾を持ってたよ、って。オマエの、そのふさふさ尻尾は母親譲りだネ、って」
「し、尻尾!?」
鞘子の声が裏返る。慌てて紺のお尻を覗き込むが、当然そこには尻尾など無く。
「今は人間に化けてんだろ。お前、狐の物の怪だろ?」
クン、とまた鼻を鳴らして化楽が――いや犬神がそう指摘する。見た目は全く普通の人間の子供だが、さすがに犬神には匂いで分かったらしい。
「…狐の物の怪、ねぇ……」
感心したように、正風と玲璽がまじまじと紺を見詰める。えへへ、と照れたように紺が笑って頭を掻いた。
*ありがとう*
「ありがとう、玲璽お兄さん」
帰り際、玲璽の顔を見上げて紺が礼を告げる。にやりと笑って、玲璽がその大きな手を紺の頭の上にぽすっと乗せた。笑う紺の頭を、くしゃくしゃと掻き乱してやる。擽ったそうに首を竦める少年を、目を細めて見降ろした。
じゃあな、と手を振る玲璽に、紺も手を振り返す。そんな少年の腰辺りに、ふさふさの狐の尻尾が覗いてた…と思ったのは気のせいであったが。
尻尾を出せ!っつって言霊飛ばしたら、出してたんだろうか。ふと、疑問に思った玲璽であった。
おわり。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【 0374 / 那神・化楽 / 男 / 30歳 / 絵本作家 】
【 0391 / 雪ノ下・正風 / 男 / 22歳 / オカルト作家 】
【 1973 / 威吹・玲璽 / 男 / 24歳 / バーテンダー 】
【 2005 / 牧・鞘子 / 女 / 19歳 / 人形師見習い兼拝み屋 】
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■ ライター通信 ■
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皆様大変お待たせして申し訳ありません、ライターの碧川桜でございます。
威吹・玲璽様、またお会い出来て光栄です!ありがとうございます。
今回、この中で判明した事実は、1.紺の母親は死んではいないようだ、2.紺は狐の物の怪である、の二点ですが、こちらのチームでは話の展開において、2の方だけが判明した形になっています。が、後でもうひとつの事実も聞いた、と言う事で周知として頂ければ、と。それが今後、この物の怪達のどう関わってくるかは謎ですが…。また機会がありましたらお付き合い頂けると幸いです。
ではでは、またお会い出来る事をお祈りしつつ……。
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