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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


ゴミ屋敷の恐怖!〜対決編

●怪盗、襲撃!

 無事宝を発見してから数日。怪盗が現われる気配はなかった。
 まったく、日時の・・・いや、日付の指定くらいしてくれれば良いものを。それに、お宝発見からこんなに日が経ってしまっては予告状の意味も薄れるのではないのだろうか?
 前もって監視しておき、宝が発見したその瞬間を狙うのが一番効率的では・・・?
 だが怪盗はそれを実行しなかった。
 さて、そんな毎日が続いたある日の夕刻――と言ってもすでに日は完全に落ちている。
「ふむ・・・怪盗はもう来ないのじゃろうかのう?」
 屋敷の主である老人もまた、怪盗の不可解な行動に首を傾げていた。
 そろそろ警備会社との契約に切り替えることも考えているらしい。
「せっかく警護してもらっていたのに悪いが――」
 警護していた面子にそう切り出しかけた時。
 ガシャンと硝子の割れる音がしたとほぼ同時、屋敷の全ての明かりが一斉に落ちた。


●時間は少し戻りまして

 掃除が終わった直後から、すでに一行は警備に関していろいろと準備をしていた。
 警備対象である動いて喋るの女性像には、警備中はあまり出歩かないよう前もって注意しておき――とりあえず一番片付いている居間に置かれることになった。
 外の警備には岐阜橋矢文と、中庭に置かれている家具――どれも意思持つ物ばかりだ――が担当。
 居間にはシュライン・エマと天音神孝、居間のすぐ外の廊下に真名神慶悟。
 それから、居間の次に片付いている――こちらも動きやすいが向こうも侵入しやすい書庫に、セレスティ・カーニンガム、ラクス・コスミオン、綾和泉汐耶の三人。
 なんだかすっかり中庭に腰を落ち着けてしまった感のある矢文は、警戒しつつも家具の面々に無茶はしないように告げていた。まあ・・・大型家具に加え、何故か御神体まで紛れこんでいる中庭家具だから、大丈夫だとは思うのだが。
 書庫は、中庭とはまた違う意味で呑気だった。ちょっと気配に聡い者ならば各々警戒しているのはすぐにわかるが、だが・・・。本を読む者、本の九十九神と会話を交わす者と、なかなかに優雅(?)な雰囲気を醸し出している。
 ある意味一番しっかりと警戒していたのが居間。守るべき女性像が置かれている部屋でもあるから、当たり前といえば当たり前だが。
 慶悟は赤い小鳥の式神を見張りに立て、人形の周囲には結界の符を用いて侵入不可の結界を張り、破られた時のために小鳥とは別に五体の式神を呼出し符を持たせていた。
 一方慶悟がその準備に忙しく動いているころ、シュラインは居間の人形たちと会話していた。警備の協力をお願いしていたのだ。だが、喋れる人形――人の言葉を理解する人形は数少なく、了解してもらえたのかは微妙なところだ。
 居間の警備要員残る一人、孝はなにやら機械を持ちこみ、調整中だ。誰かが聞けばその正体も判明するのだろうが、生憎と現在それを聞く余裕のある者はいなかった。
 準備と警戒の中、刻々と時間は過ぎて行く。
 そして――


●怪盗、襲撃!〜書庫

 ガチャンと居間の方から響いた硝子の音に、書庫担当の三人はそれぞれの作業をやめぱっと顔を上げた。
 ほぼ同時に書庫の明かりが全て消えうせ、辺りが夜闇に染まる。
 まず最初に動いたのは汐耶。
「すみません、どなたか明かりを灯せる方はいらっしゃいませんか?」
 暗闇の中では物を見るのも難しいし、ロクに動けもしない。
 ここにはたくさんの曰く付きの本があるし――友好的に話し掛けてきたのは目録本の九十九神のお爺さんだけだったが――誰か一人くらいそういう特技を持ってる者がいるかもしれないと思っての質問だった。
「あ、でしたらラクスが・・・」
 ふいと、魔術の明かりが灯される。
「どうもありがとう、助かるわ」
 いくつかの光源を周囲に浮かせて辺りの様子を探るが、今のところ怪しい気配は見つからない。多分。
 多分――というのは、もともとここに雑多な気配が多すぎるゆえだ。だが停電以降に大きく動いた気配はないから、今はまだ大丈夫だろう。
「女性像は居間でしたよね・・・・大丈夫でしょうか」
 彫像を狙っているのならば、怪盗が居間に行くのは至極当然のことだ。
「それなりにこういうことには慣れてる人間ばかりだから大丈夫だと思うけど」
 一応周囲の気配を警戒しつつ、時の経つこと十数分。
 ガチャン! と、書庫内に音が響いた。
「侵入者?」
 三人はざっと周囲に目を向ける。
 何かが動く気配――だが明かりがあるとはいえ、魔術で作った光源の数はそう多くはなく、書庫全体をカバーするには少しばかり光量が足りなかった。
「ど、どちらの方でしょう・・・」
 震えた声のラクスが、一生懸命気配を追って光源を移動させる。
 だが動く気配は素早く、なかなか姿を追いきれなかった。
「とりあえず書庫の扉を閉めましょう」
 セレスティが入口に向かった時、
 唐突に、電気が復帰した。
 突然の明るさの変化に対応しきれず、一瞬、目が眩む。
「あ、あそこっ!」
 汐耶が指差したのは、閉じた扉の隙間を抜けて行こうとする黒い影の姿だった。


●舞台は居間へ!

 唐突に、明かりが戻ってきた。
 あまりにも突然の明るさの変化に、一瞬目が眩む。
「来たっ!」
 視覚よりも感覚を鋭く研ぎ澄ませて待っていた慶悟が、まずそれに気付いた。
 続いてシュラインの聴覚にもその音が飛び込んでくる。
 数人の足音――しかしその音の持ち主が居間に来る前に、やってきたのは音もなく動く黒い影。
 ペラペラのそれを見るに、紙で作った式神かそれに近いものらしい。
 そして、その紙を追ってきた汐耶、セレスティ、孝。その数歩後ろに少し遅れてラクス。
「気をつけろ!」
 なんの前触れもなく、外から矢文の声がかかった。
 直後、割れた窓ガラスからわらわらと入ってくる大量の黒い影。
 その後ろから入ってきた矢文の手には、すでに退治済みらしい黒い影の紙が数枚握られていた。
「うわ・・・」
「なにこれ・・・・」
「凄いな、この数は」
 シュライン、汐耶、慶悟が思わず声を漏らした。
「ひとつひとつ退治していったらキリがなさそうですね」
「先に本体の居場所を探す必要があるな」
 セレスティ、孝がその様子を眺めつつ呟く。
 一行がこんなに呑気にしているのは、慶悟の結界があるせいだ。
 実際、黒い紙たちは女性像とそれを入れている壷(九十九神付き)の周囲に張られた結界に阻まれて、まったく目標に近づけないでいる。
「あのお・・・この人たち、いったい何がしたいんでしょう?」
 居間に入った一行と少し離れて、居間の外の廊下から中の様子を窺っているラクスが小さな声で告げた。
 まあ、ラクスの疑問もわからないでもない。
 黒い紙たちは諦めるということを知らないようで、次々と結界に張りつき・・・・何も出来ずにそのまま止まっている。
「結界はこのままにして、本体を探しに行くか?」
 矢文の提案に、一行はあっさりと頷いた。


●怪盗の正体

 さてそれから約三十分後。居間には、再度全員が集っていた。
 結界の保持のために居間に残った慶悟が、ついでに黒い紙を地道に退治していたところ――最後の一枚の様子が他と違う。大人しくなったし、平和的話し合いができそうだったのでとりあえず一行を呼び戻したのだ。
「どうして、女性像を盗もうだなんて思ったのかしら?」
 ペラペラと動く黒い紙に問い詰めるのもなんだかなさけない気がするが・・・・。
「そもそも、こいつの正体はなんなんだ?」
 ただの動く紙・・・と言うにはヒトガタに切られてる時点でなにか違う気がするし、九十九神だと仮定してもなんの九十九神だか予想もつかない。
 魔物や妖怪関係だと考えるのが一番マシだろうか・・・。世の中人に知られていない魔物や妖怪なんぞいくらでもいる。
 どうやら喋れないらしい。ペラペラと動く紙はしばらく思案したのち、マジックとメモ用紙を引っ張り出してきた。
『別に、なんでもよかったんです』
「は?」
『あの女性像が一番わかりにくいところに押し込められてたから、あれを指定しただけで』
「なんで?」
 最初の声は汐耶。次の疑問は孝。見事に単語ばかりの疑問符だ。
 紙は続けてメッセージを書いていく。確かにその筆跡は予告状の筆跡そのものだった。
『だって、盗まれると予告された物の場所がわからなかったら、探すでしょう?』
「まあ、そうだな」
『探すなら、一旦整理したほうが探しやすいと考えるのが普通じゃないですか』
「なら何故今になって怪盗をやろうと思ったんだ?」
 矢文のこの問いには全員が同じ気持ちだった。
 あんまり怪盗が来ないので、そろそろ警備も終わろうという時だったのだ。
『なかなか警備が終わらなかったんでとりあえず女性像に手を出して失敗しておこうかと』
「・・・・・・・なんと言うか、タイミング最悪とはまさにこのことだな」
 慶悟が、大きな溜息をついた。
「そういえば、でもなんで掃除が始まってから予告状を?」
 気づいてみればそれも謎だ。先に掃除の依頼が来て、それに少し遅れて予告状が届いたのだ。
 汐耶の問いに、黒い紙はペランと首(?)を傾げた。
『始まってましたっけ? なんか、いろいろ騒ぎが起きて、これ以上汚されたら嫌だなあって思ったんですけど』
 その一言に、初回の掃除に参加していた面子は初期の掃除風景を思い出し、そして――大きく肩を落とすとともに息を吐き出した。
「最初の頃は整理よりむしろ人に害為す物の退治が主だったな・・・」
 矢文がぽつりと呟いた。
 つまり紙の証言を纏めるとこういうことだ。
 掃除を進めるために物に憑り付いた魔物などを退治していた騒ぎを、この紙はまたさらにゴミが広がるのではと勘違いし、なんとか掃除をしてもらおうと予告状を出した。それなりに屋敷が綺麗になったところで満足したは良いが、無関係の人たちにいつまでも警備をさせるのは悪い気がした。原因は自分の出した予告状なのだから、責任をとってどうにかしようと思ったというワケだ。
「で、結局おまえはなんなんだ?」
 なんだか疲れる結論に頭を抱えつつ、孝はそういえばまだ聞いていない正体を尋ねてみた。
 黒い紙はひょいと天井を見上げて(?)から、流暢な文字を綴った。
『家です。今動かしてる黒い紙は、壁紙を拝借しました』
 ・・・・・・このゴミ屋敷。
 どうやら、普通じゃないのは老人の収集物品だけではなかったらしい。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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整理番号|PC名|性別|年齢|職業

0389| 真名神慶悟 |男| 20|陰陽師

1449| 綾和泉汐耶 |女| 23|都立図書館司書

1571| 岐阜橋矢文 |男|103|日雇い労働者

1990| 天音神孝  |男|367|フリーの運び屋・フリーター・異世界調査員

0086|シュライン・エマ|女|26|翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

1963|ラクス・コスミオン|女|240|スフィンクス

1883|セレスティ・カーニンガム|男|725|財閥総帥・占い師・水霊使い

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■         ライター通信          ■
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こんにちわ、日向 葵です。
今回にてゴミ屋敷編三本終了いたしました。
初回から連続参加してくださった方も、途中参加の方もお疲れ様でした。
どうもありがとうございます。
毎度微妙に皆様の予想を外しております、最終結論・・・。
物品だけでなく家までも意思持ち物品。しかもテンポズレの人騒がせな家でした(笑)