|
マヨヒガ
オープニング
マヨヒガ、それは迷い家とも言うその場所には、一人の女性が住んでいるという。
その場所に迷い込んだ者は、心の奥底に何らかの迷いがある者。
その迷いを断ち切るために無意識にマヨヒガに向かってしまう。
投稿者:サヨリ
題名:マヨヒガ
私の友達がこの間まで行方不明だったんだけど、昨日帰ってきたよ。
本人はマヨヒガにいたって言うんだけど、嘘っぽいよね?
投稿者:ケーゴ
題名:Re:マヨヒガ
マヨヒガって迷信だろ?
投稿者:サヨリ
題名:でも〜
私もそう思うけど。でもあるなら行ってみたいよね!
迷いを断ち切ってほしい〜(><)
これは数日前にゴーストネットで見た書き込みだった。
あなた自身もマヨヒガなんてものは迷信にしか過ぎないと思っていた。
けれど−…
今、貴方がいるのは紛れもなくマヨヒガだった。
さぁ……どうする?
視点⇒海原・みなも
『海原さんの考えは理想論ね』
先生に言われた言葉。それなりに傷ついた言葉だった。高校をどこにするか迷うんじゃなく、将来の事で悩んでいるのは多分あたしだけだろう。同級生は『考え始めるのはまだ早いよ』とか言うけれど…。
どんな進路に進むにしても自分の為になることをしたいと考えるのはあたしだけだろうか?
そんな時だった。このマヨヒガに迷い込んだのは…。
大きな日本風の屋敷。気がついたらココにいた。とりあえず土足ではマズイだろうと思い、靴を早々に脱ぐ。
「ここは……?」
以前、掲示板でマヨヒガの書き込みを見た事があった。
「マヨヒガ…?」
いくつも部屋があり、元いた場所さえ分からなくなりそうなくらい大きな屋敷だった。
「いらっしゃいませ。お館様がお待ちです」
背後から話しかけてきたのは日本人形のような小さくて可愛い少女だった。青い着物がとてもよく似合っている。その少女はみなもに奥に行くように進める。
ここはどこなのですか?と聞こうとしたがやめた。ここがどこなのかを聞いたところで抜け出す事は出来ないだろう。それなら、まずはその『お館様』とやらに会ってみるのも悪くないと思った。
「この奥でお館様がお待ちです」
案内されたのは他の部屋よりも大きな部屋。
「お客様をお連れしました」
「どうぞ」
少女は襖を開け、みなもに中に入るように促す。中からは透き通った綺麗な声が聞こえた。
「どうしたの?怖がる必要はありませんよ?中にお入りなさいな」
クスクスと笑う声に誘われて中に入ると、部屋の中央に真っ白な髪に赤い着物を着た女性がいた。
「今、お茶を点てたところなのよ。どうぞ」
みなもは彼女の前に置かれた座布団に座る。
「あら…。お茶とか嫌いだったかしら?」
「いえ…作法とかが分からなくて…」
すると女性はクスクスと笑いながら言った。
「作法なんて気にする事はないのよ。もし、飲めないのなら他のものを持ってこさせましょうか?」
どうやら、彼女はみなもがお茶を飲めないのでは?と考えたらしい。
みなもは、彼女の申し出を断り、お茶を一口飲む。
「美味しいです」
それは本音だった。すると女性は「それは良かった」と先程と同じように静かに笑んだ。
「…あの…ここは…」
みなもが湯飲みを下に降ろし、女性に問いかける。
「ここは迷い家。何か、迷いがあるものが来る場所…。貴方の迷いを聞かせてちょうだいな」
みなもは、その言葉に少し戸惑いを隠せなかった。はたして正直に話してもいいのか?信頼している者にならともかく、初対面の得体の知れない女性に話すのを躊躇う気持ちの方が大きかった。
「初めて会ったのに、失礼だったわね…。あの子にもいつも言われるのだけれど…。私ってばせっかちね」
あの子、とは先程案内をしてきた子供の事だろう。
「私の名は葛葉。この迷い家を管理してるの。貴方の名前は?」
「…あたしの名前は…みなも、海原みなもです」
「そう、いい名前ね」
そう言いながら、葛葉は今まで伏せていた瞳を開いた。全てを見透かされるような赤い瞳にしばらく身体が動かなくなるような感覚に見舞われた。
「…?…あら、貴方ただの人間ではないでしょう?この…気配は人魚?」
「気配…?」
「あ、私は目を患っておりまして、ほとんど見えませんの。何か気に障るような事を言ってしまいましたか?」
「いえ…ちょっと驚いただけです」
まさか、ほとんど見えないとは予想もしていなかった。葛葉の行動は目が見える者のようにしていたからだ。
「あたし…将来に迷っているんです。同級生はまだ早いって言うんですけれど…」
高校や大学に行かないつもりはない。むしろ色々な事を知りたいと思うから生きたいと思う。
「貴方は…優しいのね。優しいからこそ、悩んだり迷うんだわ」
「…でも、あたし…いつまでもここにいるわけにはいかないんです」
帰りたいという意思表示を見せて、葛葉の瞳から視線を逸らすことなく言う。
「…ここはどんな場所だと思う?迷いを断ち切る?他人の迷いなど誰にも断ち切る事などできはしないわ」
どんなに分かり合っていても所詮は他人なのだから、と葛葉は付け足す。
「じゃあ…ここは何のためにあるんですか?
みなもが聞いた『マヨヒガ』の話は『迷いを断ち切ってくれる場所』という事しか聞いたことがない。
「ここは迷いを話して、少しでも苦しみを和らげる場所。話すだけでも少しは楽になるということがあるでしょう?」
葛葉はにっこりと笑いながら言う。確かに溜め込むよりは誰かに聞いてもらったほうが楽になることもある。
「なぜ、あたしはここに迷ったんでしょうか?あたしはそんな苦しんでるってほどでは…」
「貴方、自分の良いところを自分で言える?」
「え?」
突然、話の主旨を変えられて戸惑った。
「言えないでしょう?でも悪いところはすぐに言えるんでなくて?」
みなもは言葉が出なかった。葛葉の言う通りだからだ。良いところは答えられないが、悪いところなら何個でも答える事が出来る。
「迷いもそれと同じ。他人の目から見て、初めて思いつめていると分かるものなの」
知らずに自分を追い詰めて、最終的に自分を死に導くという人間も少なくはないらしい。
「お話…聞いてくださってありがとうございました。おかげで少し、楽になりました」
「将来の事で悩むのは悪いことではないわ。むしろ良いことよ。けれど貴方はっまだ、これからなのだから、急いで考えなくてもいいんじゃないかしら?焦って答えを出しても長くは続かないわ」
ね?と葛葉はにっこりと笑って答えた。
「はい」
みなもも、にっこりと笑みを返す。
「もうココは貴方には必要のない場所。帰るための扉をあげる」
そう言って葛葉は後ろの部屋にいくように進める。
「最後にこれをあげるわ。また悩みそうになったらこれを見て、今日の事を思い出してね」
葛葉が着物の裾から取り出したのは、青い石のついたブレスレットだった。
「…綺麗」
みなもは早速腕につける。それはキラキラと輝いて、とても綺麗だった。
「さぁ、お行きなさいな。そして、もうここに来る事がないようにね」
葛葉は淋しそうに笑う。その横にはいつのまにか、案内をしてくれた少女もいて、手を振っている。
「さようなら」
みなもも、手を振り返しながら、襖の奥に進む。通った瞬間、何か違和感のようなものを感じ、伏せていた瞳を開く。
「…え…?」
目にした光景にみなもは驚いた。なぜなら、そこは自宅の自室だったのだから。
「マヨヒガ…」
行ったからと言って、何が変わったわけでもない。迷いが無くなったわけでもない。現に今も将来のことをどうしようかと不安になっているのだから。
でもマヨヒガに迷い込んだ事は無駄ではないと思う。
「…さぁ…これから何をしようかな?」
大きく伸びをして、これからのことを考える。とりあえずは、今するべきことをしよう。それらをしながら将来の事は考えようと思うのだった。
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
1252/海原・みなも/女/13/中学生
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■ ライター通信 ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
海原・みなも様、お会いできるのは今回で二度目ですね(^−^
ありがとうございます。
今回の「マヨヒガ」はいかがだったでしょうか?(ドキドキ
あと、マヨヒガ、というのは地方によって言い方が違うみたいですね。
マヨイガというところもあれば、マヨヒガと言うところもあるみたいです。
最初、マヨイガにしようと思ったのですが、どうせなら普段聞かない言葉の方にしよう!と思いまして
マヨヒガになりました(笑
では、またお会いできる事を祈りつつ、失礼します
−瀬皇緋澄
|
|
|