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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


流離う者
------<オープニング>--------------------------------------

 草間がのほほんとお茶を啜りつつ目の前にあった煎餅に手を伸ばしかけた時、ふいに目の前の電話が鳴った。
「はい、もしもし草間興信所・・・」
 すぐさま受話器を取った草間がそう告げると、相手は最後まで聞こうともせずいきなり意味不明な事を呟いた。
「私の身体が半分見つからないの・・・」
「は?・・・ちょっ・・・」
 訳が分からず草間は尋ね返そうとするが、そんな間すら与えず切れる電話。
 いつまでも草間の耳元で鳴り続けるツーツーという電子音。
「なんだぁ?」
「どうかしましたー?」
 間延びした口調で零が奥から顔を覗かせる。そんな零に草間は首を捻りつつ今の出来事を告げた。

「身体が半分見つからないって・・・その女の人真っ二つということ?」
 生きてないですね、と至極当たり前の事を真面目な顔で言う零に草間は大きな溜息を吐く。
「だから訳が分からないって言ってるだろう。全く、オレは幽霊からの電話を取ったのか」
「兄さんだったらあり得るかも」
 ニッコリと微笑んで零は紅茶を口に運ぶ。
 草間は面白くなさそうにガリガリと頭を掻きつつ、ぐったりと椅子にもたれかかった。
 そしてこれは依頼に入るのだろうか、それとも入らないのだろうかと数分悩み続ける。
 内容的には幽霊からの電話ということで興味を惹かれる部分も多いような気もするが、依頼主が幽霊とあってはギャラはゼロと考えていいだろう。
 金にもならない仕事を自ら進んでやる人物が居ただろうかと思いを巡らせるが、それは要らぬ心配だった。草間の回りにはそんな物好きな人物達で溢れかえっていたからだ。きっと話を持ちかければすぐさまやってきて調査に乗り出すことだろう。
 そんな人物達の嬉々とした様子が目に浮かび、草間はもう一度溜息を吐く。
「もうこの際幽霊からの電話でも何でも良いんだが、身体が真っ二つになった事件かなんかの情報はないのか?」
 草間の言葉を受け零は平然と、ありますよ、とすぐに答える。
「あるのか?」
「はい。えーっと、この間変な手紙が来たって言ってたでしょう?兄さんに聞いたら機嫌悪かったみたいで燃やしちまえーって言ってたアレ。合ってるかどうかは調査してみないと分からないけどちゃんととってありますよ」
 ふふん、と胸を張った零はその手紙を持ってきて読み上げる。

『助けてください。私の勤務する女子校で変な事が起きています。学校は4F建てで南校舎と北校舎に分かれています。互いの校舎は1Fと3Fだけが中央廊下で繋がっていてそこ以外は両校舎を繋ぐ場所はありません。繋がっているので絶対に会えるはずなのにどうしてなのかは分かりませんが会えないみたいなんです。上半身と下半身が・・・。暗くなると互いに探し合うように校内を徘徊していて怖くて学校に残れません』

 だそうです、と零は手紙を草間に渡す。
 草間はニヤリと笑みを浮かべる。そして、依頼者がきちんと居るんじゃないか、と言いすぐさまその事件に合いそうな人物達に連絡を取り始めた。


------<相棒>--------------------------------------

「へぇー、草間のダンナってば霊から電話もらったのか。さすがだな。電話をかけてくる霊ねぇ・・・。それ、もうちょっと詳しく聞かせて貰おうかな」
 ふらりとたこ焼きを買いに出た先で草間からかかってきた電話内容に、影崎・雅は興味を持つ。
「今近くにいるから・・・10分後にはそっちに着けると思う。その手紙も見せて貰ってそれからだな。あ、あと茶菓子にケーキなんてあると良いねぇ」
 じゃ、と言いつつ電話の向こうで草間が怒鳴る声をぶちっと切り、雅は帰りかけていた足を草間興信所の方へと向ける。
「上半身と下半身が別々の校舎ねぇ・・・なんかそれってテケテケってやつと似てるかもな、ぽち」
 ぽそりと呟き、雅は足下を歩く黒い狼の姿をした護法に顔を向ける。こくり、と頷いたぽちの頭をさわさわと撫でると雅は歩き出した。

 雅が草間興信所に辿り着いた時、ちょうど同じドアをくぐろうとする人物と遭遇した。
 手に大きな箱を持っている青年だ。
 初め雅は自分と同じ件でやってきた調査員かと思ったが、少し事情が違うようだと感じる。
 そしてその人物がドアに手をかけようとしたその瞬間、雅は背後から声をかけた。
「あんたもここに用事?」
「はわわっ、って脅かさないでくださいよ。落としちゃうところだったじゃないですか。・・・俺はこちらにケーキを届けに・・・」
「ケーキ?草間のダンナ文句言いつつケーキちゃんと用意してくれたのか?・・ま、いっか。よーしお邪魔するかー」
 がしっと雅はその青年の腕を掴むと、ずるずると引きずるように興信所の中に入っていく。
 そして訳も分からず引きずられていくケーキ配達人。まるで何かの生け贄にでもされるかのように悲痛な表情を浮かべている。
 そんなことも気にせずに雅は青年を引きずったまま入り口を抜け、開口一番に礼を述べる。
「草間のダンナ、ケーキありがとな」
「は?俺は頼んでないぞ?」
 雅の言葉に草間が首を傾げる。すると奥から零がパタパタと走ってきて声を上げた。
「こんばんは、雅さん。あ、ケーキ頼んだのは私です」
 雅はぽん、と零の頭に手を乗せ笑う。
「そっか、零ちゃんか。ありがとなー。俺も可笑しいとは思ったんだけどな。草間のダンナがケーキなんて頼んでくれるほど気が利くとは思えないしなー」
「あはは。・・・で、あの・・・あなたは?」
 零が雅に引きずられて入ってきた人物に気づき、ひょいと覗き込むように視線を下げ声をかけた。
 すると雅は、悪い悪い、と掴んでいた腕をほどく。
「ご注文のケーキを届けに来たんですけど・・・」
 青年は複雑な笑みを浮かべ手にしっかりと持っていた箱を零に差し出した。
「アリガトウございます。シュラインさんから美味しいケーキがあるって聞いたので楽しみにしていたんですよ」
 嬉しそうにケーキを受け取り、代金を支払うと零は奥へと消える。
 仕事を終えた青年はほっとした表情を見せ、草間興信所を後にしようとしたがまたしても雅に腕を捕まれ引き戻される。
「あの・・・まだ何か?」
 困惑した表情で青年が雅と草間の顔を見比べる。しかし雅はにかっとした笑みを浮かべたまま青年に名を尋ねた。困惑したまま青年は名を述べる。
「天樹・昴ですけど・・・どうかしました?」
「よし、あんた俺と組もう」
 突拍子もない雅の言葉。
「いや、あの・・・なんのコンビ・・・」
「はい、。草間のダンナ、今回の依頼の概要をヨロシク」
 戸惑う昴の言葉を遮って雅が草間に話を振ると仕方なく草間は掻い摘んで依頼の説明をした。それが終わると雅は先を続ける。
「そこで今回俺が相棒に選んだのがあんた。俺は影崎・雅よろしく」
「はぁ・・・あのですね、事件があってそれを雅さんが解決しようとしているところまでは分かりましたけど、そこでなんで俺が相棒に選ばれるんでしょうか。しがない喫茶店店長代理なんですけど・・・」
「だってあんた見える質だろ?しかも身体の中になんかでっかいもの持ってるようだし」
「いや・・・それはですねー」
 逃げ切ろうと必死な昴。しかしここで捕まえた魚を逃すわけにはいかない雅。
「とりあえず俺と一緒に事件担当決定!ということでいいよな、ダンナ?仕事のギャラも半分ずつということで」
「分かった」
 草間が頷いたのを見て、今度こそこの件から逃れられないということを知った昴はがくりと肩を落とす。
「あの・・・もしかして俺も人数に含まれてますか?仕事が・・・」
 昴の悲痛な声が興信所に響くが、ケーキと紅茶を持った零の出現により湧いた歓声でかき消された。


------<調査>--------------------------------------

「さてと、行くとするか」
 雅は青空の下で大きく伸びをしながら後ろに佇む昴に声をかける。
 無理矢理『相棒』として引きずりこまれた昴だが、断ろうと思えば断れたはずだ。しかし話を聞いている内にどうにかしてやりたいという気持ちが働き現在に至る。
 昴も雅と同じように青空を見上げ、空の青さに目を細めた。澄んだ青空に少し肌寒くなった風。もう少しで冬が訪れる合図。
「そうですね。行きましょうか」
 人の良さそうな笑みを浮かべ頷いた昴に、にかっ、と笑いかける雅。
 2人は揃って問題の女子校へと向かいはじめた。
 
 通学ラッシュが過ぎたのか、通学路にはまばらに人がいるだけだ。
 霊本体が現れるのは夜だという。それならば昼間は聞き込みをしようという事になったのだった。
 女子校が見えてきたが別段変わったところは無いように見える。
 変わったことがあるのはやはり夜だけなのか、と思いつつ2人が足を踏み入れると薄いベールに包まれたような妙な感覚が2人を襲う。
 昴が立ち止まり当たりを見渡すが、目立つものは見あたらなかった。
「なんか・・・変ですね」
「妙な違和感だな。だけど違和感を感じるだけでそれ以上のことはない」
試しに、と昴はもう1度学校の門から外に出る。するとその不思議な感覚は消え去った。それを確認してから再び門をくぐる。
くぐった瞬間に別の世界へと紛れ込んだ気持ちになる。
「結界でもないし・・・なんでしょうね」
「やっぱ現地来てみないと分かんないもんだなー。ま、なんかおかしな事が起こるわけでもないみたいだし今のところは問題なしでしょ」
うんうん、と頷きつつ雅は当初の予定の職員室を目指す。
 しかし後ろから付いてきていた足音が聞こえなくなり、雅は振り返り昴の姿を探した。すると校門付近にある木を見上げて立っている昴が見える。
「おーい、置いてくぞー」
 雅が声をあげると、どうぞー、という返事が戻ってくる。雅は苦笑するしかない。
 なにか気になるものでも見つけたか、と呟いて雅は職員室へと歩き出した。
 
 途中、すれ違う女子高生たちに学校の七不思議があるかを尋ねてみる。すると口々に自分の知っている話を話し始めた。7つどころか10以上ありそうだ。
 その中で上半身と下半身が分かれて存在していることを告げる人物が居た。その少女はそれが1番はじめに雅が思ったように、妖怪テケテケなのではないかと言い出した。テケテケは真っ直ぐに進むことしか出来ないから、北校舎と南校舎を繋ぐ中央廊下が見えないのではないかと。
 雅も同じ事を考えたが今日この敷地内に足を踏み入れて考えが変わった。この敷地自体、どこか可笑しいのだ。何かが歪んでいるとしか思えない。
 まだ騒いでいる女子高生に礼を述べ、雅は職員室へ向かい1人の女教師と話し込んでいるシュライン・エマを見つける。
 近くにいた教師に、あの女性の連れなんです、と断って話し込む2人に近づく。
 足音を忍ばせていたわけではないが、2人が雅に気づくことはなかった。
 「本当だな」
 そうシュラインの背中越しに地図を覗き込んだ雅が声を上げると、シュラインと女教師は揃って慌てたように雅の方を見るが、シュラインはそこにあった顔を見てすぐに緊張をほどき苦笑した。
「やっぱり来たのね。名前は聞いてたからここに来るような予感はしてたんだけど。・・・えっと、彼も草間興信所から派遣された人物で『影崎・雅』さん」
 女教師に雅を紹介してからシュラインは雅に、もちろん聞いていくわよね?、と問いかける。もちろん、と頷いてシュラインの隣に当たり前のように腰掛ける。それを気にした様子もなく、シュラインは話を続けた。
「それではお話を整理させて頂きますね。その霊は上半身と下半身に分かれた少女で、北校舎には上半身が、南校舎には下半身が存在して居ると。そして2つの校舎を繋ぐ中央廊下があるにも関わらず、その霊の半身は出会うことなく自分の半身を求めて彷徨っている。そしてその現象が起き始めたのは改築工事後から・・・でよろしいですか?」
 はい、と頷いて女教師は辺りを見渡して誰もいないことを確認してからこそこそと告げる。
「実はその霊なんですけど・・・どうも昔うちの学校に通っていた生徒のようなんです。事故死してしまったという話をちらっと聞いたことがあるのですが・・・その事故というのがかなり悲惨なもので。現在屋上は出入り禁止になっているんですが、それはその事故が原因だとか。屋上から過って落下した少女の身体はすぐ下にあった木の天辺に刺さり2つに分かれてしまったと言われているんです。それで上半身と下半身の話が・・・。だいぶ昔の事のようなので今では本当のことを知っている人は誰も居ませんけれど」
 そこまで話し終えるとタイミング良く生徒が女教師を訪ねてくる。すみません、と言い残し女教師は席を立ち部屋を出ていった。
 残された2人は軽い溜息を吐き出すが、すぐに表情を一変させ期待に満ちた瞳で雅は言う。
「当たり・・・っぽくないか?」
 雅の言葉にシュラインは、そうね、と言いながらもう一度地図を眺めた。
「人形かなんかが半分にされて置かれていると思ったんだけど、まさか実際にあった事とはね。・・・やっぱり校舎の配置もなんだか気になる」
「そうだな・・・」
 そう雅が呟いた時、窓から春華が飛び込んできた。ここは2階だったが翼のある春華には建物の高さなど関係ない。
「いたいたーっ!やーっと見つけた。ちょっと凄いこと発見したんだけど」
「こっちも収穫有りよ。それじゃあ、情報交換といきましょうか」
「おうっ。じゃ、俺から。この学校なんか結界じゃないけど入った瞬間変な感じがしただろ?あれの意味が分かったんだ。北校舎と南校舎を中心に敷地内に一際高い木が6本植えられていてそれを辿っていくと六芒星が出来上がる。それがまず一つ目。で、霊に見えないらしい問題の中央廊下だけどそれがその六芒星の中心部。なんかこの学校そのものが創られた図形になってるんだ。それが結界みたいな役割をはたしてる」
「やっぱ空から見ると違うものが見えてくるんだな」
 へぇ、と感心したように雅が言うと少し得意気に春華が胸を張る。
「まぁね。で、そっちは?」
「今話に出たけどやっぱり中心部は中央廊下みたい。地図を見て一目瞭然。そして手紙を送ってきた人物の話だと、霊はこの学校の生徒で屋上から過って転落したみたいね。その際、木の天辺に落ちてしまい上半身と下半身に分かれてしまったということらしいの。それとこの校舎と回りの建物なんだけど、左右対称にわざわざ改修工事でしたようね。そしてこの工事が終わってからだそうよ、霊が出始めたのは」
 シュラインの言葉に雅と春華は顔を見合わせる。
「歪んだ音に歪んだ空間。鏡面効果とでも言うのかしら。同じように向かい合った建物の間にある中央廊下。そこに歪みがあるのかもしれない」
 とりあえず私はその木を見に行って中央廊下を調べるわ、とシュラインが言うと春華も一緒に行くという。
 雅は一瞬考えるそぶりを見せたが、実は初めから決めていたらしくそっけなく告げる。
「じゃ、俺は中央廊下とその付近を先に調べておく。相方も探さなくちゃなんないしなー」
 ぽち、と名を呼ぶと黒い狼の姿をした護法が雅の足下に姿を現す。そして雅の回りを犬が飼い主に懐くようにくるりと一周すると何処かへ駆けていった。
「それじゃあ夜に中央廊下で会いましょう」
 三人は顔を見合わせて頷き、それぞれの調査を開始した。
 
 
------<調査2>--------------------------------------

 シュラインと春華と別れてから雅は先ほど自分が置いていった昴を探しはじめる。
 先ほどぽちに昴の行方を捜しておくよう命を出しておいた。暫く2F中央廊下で現象の究明を行っていると遠くでぽちが呼ぶのを感じ雅はそちらに足を向けた。
 昴が居たのは中央廊下の両脇に立っている木の上だった。
 窓から顔を出し昴に声をかける。
「おーい、なんかいいものあったのか?」
「いいものというかー・・ってわぁ」
 手を滑らせた昴が空から地上へと降っていく。それを見た雅がすぐにぽちを走らせ昴を上手くキャッチさせる。
「冷や冷やさせてくれるなぁ。で、手に持ってるのは?」
「鏡です。謎が解けたんですよ、この中央廊下の」
 鏡をキラキラと回転させながら昴が告げることには、合わせ鏡のせいで地場が狂っていたらしい。四面からの合わせ鏡の影響はそこに強い霊場を創り上げてしまう。鏡で囲まれた世界になってしまうと予測されると。
 そしてそこが中心になり、全体の敷地の空間を歪ませているのではないかと。
「なるほどなー。それじゃ、その合わせ鏡を全部取り除いてしまえば、中央廊下の異変と敷地の歪みは収まると」
 雅がそう言うと昴が頷く。
「ただ・・・仕組みは分かっても誰が何のためにそんな手の込んだ事をしたのか、それが分からないんですけどね」
「それが一番厄介だ。たとえこの事件を解決できたとしても、地場を利用してまでこんなことをしている奴を止めることは出来ないしな」
 ふぅ、と溜息を吐きつつも昴はもう片方の木へと登りはじめる。
 それを1階まで駆け下りた雅にすんでの所で止められた。
「ちょっと待て。さっきみたいな思いをするくらいなら俺が登る」
 人の失敗見てる方が恐ろしい、と雅は呟き器用に木を登りはじめた。
「器用ですねー、雅さん。あ、その辺です。鏡が置かれているのは」
 下から昴が声をかけると、雅がその付近を探し見事鏡を見つけだした。
 そして二人は4階中央廊下へと向かいそこでも1個の鏡を見つけだす。
 あとは下ですね〜、と言ってるところで外からシュラインと春華の声が聞こえてきた。
 雅はいそいそと窓から顔を出し外の二人に声をかける。

「そこに居るか、2人とも」
「えぇ、ちょっと捜し物。って、あら?マスターも呼ばれたの?」
 シュライン行きつけの喫茶店店長代理の天樹・昴の姿を雅の隣に見つけ驚きの声をあげるシュライン。
 苦笑を浮かべ昴は、色々あって、と言葉を濁す。まさか美味しいケーキだと零に推薦してくれたおかげでこの件に巻き込まれることになったらしい、なんて事は昴の性格上言えるはずもない。
 しかしそんな二人の様子を気にすることもなく、雅は、にやっと笑みを浮かべ楽しそうに告げる。
「捜し物ね。さっすが勘がいいな。そこにあるの多分鏡だぞ」
「鏡?どういうこと?」
 昴が手にしたものをヒラヒラと翳してみせる。それは夕焼けを反射してキラキラと光った。
「ここにもあったんです、鏡が。天井に埋め込まれてました」
「合わせ鏡かっ!」
「そういうこと。4階の天井から地面の鏡。そして中央廊下両脇の木にも鏡が設置されてた。四方に合わせ鏡でその中間であるここは強力な霊場となる」
「じゃ、1つはずしたって事は少しそれが緩和されてる?」
「とりあえず気づいた部分の鏡は外したから。計5個だっけ?」
雅が隣の昴に尋ねると、そうです、と昴は頷く。
「よっしゃ!やっぱちょっと退いてて」
 それを聞いた春華は、嬉々としながら竜巻を起こし地面を風の力で掘っていく。
 威力は普段より小さいものの、それでも手で掘るよりはかなり楽だった。
「あ、見えた!」
 シュラインの声に春華は術を取り消すと穴を覗き込む。
 そこには小さな手鏡が埋まっていた。いつから埋まっていたのか分からないが20年は経過してるだろう。以前は色鮮やかな紅であったであろう色はくすみ、時を感じさせる。
「6個目ね。・・・これで全部・・・かしら」
 シュラインはゆっくりと瞳を閉じ耳をこらした。
 音の歪みは感じられない。空間も正常になったように思われた。
「大丈夫みたいだけれど・・・」
「俺も何も感じない」
「俺は元から結界とか気にならないからなぁ・・でも今朝来た時の感覚は消えたな」
「・・・いや、まだです。もう1個。空間の歪みにもう1つ落ちてます」
 昴はそう呟き意識を集中させる。
 そして赤と蒼に光る2刀の剣を身体の中からゆっくりと取り出した。まるで自分自身が剣の鞘だ。
『焔・月姫』は昴が身体に宿す2刀の剣で、物理法則に捕らわれない行動を行える。昴に与えられた力だった。
 意識をその2刀に集中し、空間の歪みを切り裂く。
 切り裂いた瞬間、今まで中央廊下付近を吹いた風がずっとその場所に溜め込まれていたように、突如として猛烈な風が昴と雅を襲った。
 二人の両脇にあった硝子は砕け散り二人に鋭い切っ先を向ける。
 しかしその瞬間、雅の身体を護法のぽちが瞬時に形を変え取り囲み切っ先を交わす。
 昴は剣の力でそれを交わし、歪みの中に落ちていた手鏡を拾い上げた。
「回収完了だな」
「えぇ」
 余裕の笑みを浮かべる2人にシュラインと春華から心配そうな声がかかる。
「大丈夫なの?すごい音がしたけど」
「なんか今の俺が作る風よりも凄くなかった?」
「いやー、あんたの作る風が凄いかどうかまでは知らないが流石の俺もすこーしだけビックリしたなー」
「雅さんってなんだか緊張感がありませんよね」
 くすくすと笑う昴に雅はヘラヘラと笑いながらシュライン達を覗き込み、さっさと上がってこーい、と呼んだ。


------<遭遇>--------------------------------------

 橙色に染まっていた空が、だんだんと深い青に染まっていく。
 既に校舎には長い影が伸び、夜の訪れを告げていた。
 硝子の割れてしまった中央廊下に集まる4人はじわじわと忍び寄ってくる寒さに身を震わせる。
「ちょーっと寒くないか?」
「ちょっとどころじゃなく寒いわね。ちょっと場所移動しない?」
 雅とシュラインがそんな提案をする。すると昴がそれに乗ってきた。
「だったら上半身さんを探しに行きませんか?せっかくこの中央廊下、彼女も通れるようになったんですし迎えに行ってあげましょう。両手で動き回るのも大変でしょうし、俺がおぶって下半身さんのところまで運んでいってもいいですしね」」
「は?なに?」
 呆気にとられる3人を、ここでただ座ってるのも寒いでしょう?、と昴は皆を急かす。
 かくして4人は昴提案の元により『北校舎・上半身さん探索ツアー』へと出かけることになった。
 しかし北校舎に入ってすぐ、異質な音を耳にする。
「この引きずる音って・・・」
「おでましだな」
 雅の向けた視線の先に、血まみれの上半身がゆっくりとこちらに向かってくる姿が見えた。
 しかしその上半身の前に集まり出す光の粒子。
 それは人の形を成し、皆の前に姿を現した。
 その人物を見上げた少女は唸るように声をあげる。
「キリート・サーティーン・・・」
「あなたは条件を満たしています。私の現在のマスターと言っても過言ではない。私は願いを叶える者。さあ、あなたの願いを仰って下さい」
 突然のキリートの出現で4人は声を失う。しかし一番先に動いたのは昴だった。
「きっとあれは説得ですよね・・・。俺も混ざってこよう」
 臆した様子もなく昴はつかつかとキリートと少女の側へと向かう。そして少女の目線に合わせて昴は声をかけた。
「こんばんは、貴女の手伝いをさせて頂けませんか?」
 優しい笑みを浮かべた昴の表情に一瞬毒気を抜かれた少女の表情。
 それを見ていた残りの3人もそれぞれに動き出した。
 雅は護法のぽちに下半身を連れてくるように命を下し、自分は少女の元へと向かう。
 先ほどから出しっぱなしにしてる翼をはためかせ春華は少女の元へと降り立った。
 シュラインは手にした先ほどの手鏡を指先で弄びながら、少女に声をかける。
「どうして屋上から落ちてしまったの?」
「それ・・・」
 シュラインに目を向けた少女の視線が、手の中で所在なさそうに弄ばれている2枚の手鏡に釘付けになる。その手鏡は昴が空間の歪みの中から拾い上げたものと、シュラインと春華が土の中から掘り出したものだった。
「鏡は嫌い・・・嫌い嫌いっ!それがあったから・・・私は・・・」
 少女は突然半狂乱になり暴れ出す。それを必死に押さえつける昴と雅。
「落ちたのはこの鏡のせい?だから鏡が嫌いなの?だからあの中央廊下へ向かうことが出来なかったの?」
「それだけではないでしょう・・・あそこは合わせ鏡の作り出す世界でした。北校舎を見ても南校舎を見ても全面鏡張りで自分の姿しか映らない」
 ぽそり、とキリートがシュラインの言葉を聞いて呟く。
「だから私は少しあの空間を壊しました。その世界があなたを苦しめるものだと思ったから。今はもうないようですが」
「俺達が壊滅させたからな」
 春華がにんまりと笑いそう告げる。
「これであんたを脅かすものはなくなった。分かれた半身もほら、ここに」
 雅の足下にぽちが連れてきた下半身がある。
「この学校の中央廊下に誰が何のために合わせ鏡の空間を作ったのか分からない。あんたを苦しませるためだけにやったとは思えないしな。そっちも気になるけど今はあんたの方が先だ」
「そうです。あの・・・俺達を信用して貰えませんか?」
 昴はそう少女に尋ねる。すると少女が逆に5人へ問いかけた。
「なんで私が気になるの?血まみれで半分ずつの身体で・・・昨日、あなたには酷いことをしたわ」
 最後の言葉はキリートへ向けられる。しかしキリートは小さくかぶりを振りどうでも良いことのように、あなたの望み通りに、と呟く。
 そんな中、昴が5人を代表するような形で言葉を発した。
「人は心の在り様で物事の見え方が違うって言いますよね?私には、貴女が困っている普通の人と同じに見えるんです」
 俺達はあなたを助けられる力を持っていると思うんです、と昴は笑顔を向けた。
 胸が暖かくなるような笑顔。少女の鋭かった瞳が少しずつ落ち着きを取り戻していく。
「・・・私は・・・私は元通りの身体になりたい。ずっと誰かに助けて貰いたかった。で誰も私が見えなかった。だけど皆が私を見れるようになって、いかに私が恐ろしい姿をしているか知ってしまった。ずっと元に戻りたくて、でも戻れなくて。本当は助けが欲しくて電話をしたの・・・もう生きれないけど・・・でも・・・」
「それはあなたの願いですか?」
「そう、願いよ」
 昨日は自分から逸らした瞳をキリートにしっかりと向ける少女。
「その願い確かに・・・」
 キリートは願う。少女本来の姿を。
 血まみれなどではなく、裂かれた身体でもなく、大切にしていた鏡を拾おうとして屋上から不運にも落ちてしまった少女の姿を。
 キリートの身体を形作ったときと同じように、少女の身体を光が取り巻いていく。
 ゆっくりとその光は消え、そこには上半身と下半身が元通りになった少女が居た。
 悲しみと苦しみに満ちた瞳は消えている。
「あっ・・・私の身体・・・」
 あなたの願いは叶えられましたか?、とキリートは座り込んだ少女に手を貸しその場に立たせた。
 昨日はキリートよりも冷たかった肌が、今は普通の生きている人間と同じ暖かさを宿している。
「ありがとう・・・血まみれの自分の姿が怖くて惨めで鏡が怖かったの・・・今なら見れるよね。私普通よね」
「えぇ。・・・さぁ、鏡を見てご覧なさい」
 シュラインは少女へ手鏡を渡す。
 おそるおそる少女は鏡を自分の顔の前に持っていき、ゆっくりと鏡面を自分の顔に翳した。
 そしてゆっくりと少女は鏡を下ろす。
「良かった・・・」
 これで私逝くことが出来る、と少女は笑う。
 その笑顔につられて昴も微笑んだ。
「ひとつお願いがあるの」
「最後だから特別サービスで聞いてやる」
 ぶっきらぼうにそう一言告げる春華。隣で雅も頷く。
「私が消えたらこの鏡を壊して」
 瞳の端に涙を浮かべ少女が手鏡を2枚差し出す。
「まかせとけ!」
「それがあなたの願いならば・・・」
 雅とキリートが1枚ずつ手鏡を受け取った。
 その手鏡だけが心残りだったかのように、少女は手鏡を渡すとすっと闇に融けていった。
 少女の全てが消えた瞬間、雅とキリートは手鏡を消し去る。
 雅の拳が手鏡を粉砕し、キリートの力で手鏡は闇に吸収されるように消えてなくなった。
「良かったですね、彼女」
 昴が安心したように呟くと、シュラインも頷く。
 しかし心配そうに硝子の割れた中央廊下を眺め呟いた。
「だけど・・・この霊場を創り上げたのは誰なのかしらね。また訪れることになりそうでイヤだわ」
「ま、その時はその時じゃない?とりあえずは一件落着したんだし」
 んー、と大きく伸びをした春華がそう告げると雅もつられたように伸びをする。
「さてと、帰るか。草間のダンナに報酬貰わなきゃなー」
「・・・でも武彦さんのことだから・・・硝子の修理費に私たちの報酬使いそう」
「それって詐欺だろ」
「人助け・・・もとい霊助けできたんだから、良しとしましょう」
「俺はそんなボランティア精神持ち合わせちゃいないんだけどなー」
 雅がそんなことを言いながら歩き出す。
 それに合わせシュラインと昴と春華はその場を後にした。
 既にキリートは願いを成就させたため、闇へと身を任せ消えている。
 
 そしてそこから全ての生ある者が消え去った。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】
【0086/シュライン・エマ/女/26/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【1986/キリート・サーティーン/男/800/吸血鬼】
【1892/伍宮・春華/男/75/中学生】
【0843/影崎・雅/男/27/トラブル清掃業+時々住職】
【2093/天樹・昴/男/21/大学生&喫茶店店長】

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■         ライター通信          ■
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初めまして、夕凪沙久夜です。
この度は『流離う者』へのご参加まことに有り難うございました。
動かしやすい雅さんを要所要所に詰めてみました。
生き生きとしている姿を描けていたら良いなぁと思います。
またどこかでお会いできることをお祈りしております。
有り難うございました。