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<PCシチュエーションノベル(グループ3)>


遭遇!FZ-01 人ならぬ者

 《違和感》の原因を探るとすれば、それは常識に他ならない。人間は脳の学習という機能により、虫を食すという文化をギャグとして受け取る事がある。当の本人達にとっては至極自然な事なのに、だ。食生活という極めて安定が要求される分野で、それは半分正しくても。
 この光景だってそれに当てはまる。高層ビルという城の主が部屋、主、ゆったりとしたチェアに足を組んで座る威風堂々、その前に、
 ザ・コブラなる怪人。
 奇異。幕の向こうに置き後ろからライトをあて、影としてその造形を浮かび上がらせても、人の範疇ではない事が解るくらい。
 赤の両目が広く離れ、平たい顔の半分以上占めるのは口。牙の間より、長い舌がチロリチロリと垣間見え。緑の胴体も鮮やかに、足元後ろ、尾が踊る。
 体は名になる、つまりそれはコブラだ。半人半蛇の怪人なのだ。
 奇異である。それが社長室という場所に置かれて、社長みたいな直立する。まともな光景では無い。
 だが本人達にとってそれは日常である。寧ろこの光景こそ、威風堂々が作り出した物である。
 何を戸惑う必要がある―――
「解りましたよ」
 ザ・コブラは慣れたように、
「ようはぶっ殺せばいいんでしょ?」
 笑って常のセリフを言えば、目の前の男も、くつりと。


◇◆◇


 鳴神時雨に過去は無い。いや、確かにあったはずなのだが、その記憶は消されている。
 ヴォイドなんて名前は、それゆえに名付けられたのか。
 虚無。
 だがまっさらな器は、やがて注がれる。まず彼に注いだのは雨だった、その次には女性の声だった、そしてそれは同時に優しさも伴い、最後には鳴神時雨という名を。
 こうして虚無は鳴神時雨となる。そしてあるニコ中探偵により、鳴神時雨は喜劇悲劇様々を、次々と注がれる事となる。過去が無くても、案外そこからやっていける物。
 けれど彼は時折、いや結構、ヴォイドとなる。
 ヴォイドとは、一言でいえば仮面ライダーである。悲しみを負ったヒーローである。
 ヴォイドは時雨である。時雨はヴォイドである。
 つまり彼は、未だに虚無を抱えているのだ。悲しみを負ってるという意識は薄いのだけれど。
 とにもかくにも今日も明日も、虚無に日々は注がれる。だから、
「病院に行かなくていいのか?」
「い、いや、大丈夫ですよ。ありがとうございました」
 海外旅行をしそうないでたちの中年を、キレた若者から救ったという事も、そして唇の端が切れた中年を見送った事も、まっさらな器に注がれる。
 生きる限り、器は注がれるのである。


◇◆◇


 警視庁二十四時、安息の為に安息が許されない一種の矛盾を孕む機構。葛藤を覚悟しながらもそこに集う者がいる理由は、安定した収入も勿論あるけれど、もう一つ、正義の為、もっとひらたく言えば皆の笑顔の為である。つまりこの建物こそ(度重なる汚職や失態を重ねてる実例に照らし合わせると疑問の声が叫ばれど)正義の機構、その本部。
 ゆえにここに身を置く者は、老若男女関わらず、皆、正義の遂行者である。それは彼とて例外では無い。
 葉月政人、初夏の訪れを知らせるカゼのような風貌を持つ青年。しかし彼の行動の源は内、まるで燃え盛る炎。普段はその火はぬくもりとして、老人の手を引き、子供が離した風船を取る為に使われるが、一度、誰かの笑顔が危機にさらされた時に自分が重なれば、彼は己を――警視庁トップの知力体力応用した格闘射撃の能力―――解放させる為に、
 青の服を纏うのだ。
 警視庁対超常現象特殊強化服装着員、その肩書きゆえの、服。
 それは正義の機構が世界の守り手に用意した、能力を飛躍させる強化服。超常現象なるでたらめに、対抗する為の科学的なでたらめ。スーツが名はFZ-01。走り出せば時を越え、唸る拳は風を呼び、一発の弾丸が百発の重み。誇大広告みたいな文句だが、嘘を言ってる訳じゃなく。実際、この力で、守ったのだ。
 人が、化け物を。
 それがこのスーツを着る意味である。笑顔が危機にさらされた時に、投入されるのがFZ-01である。
 危機は突然やってくる物だ。
『テスト終了、装着室で脱衣した後、報告書の記入をお願いします』
 女性アナウンサーの声が響くのは、地下という秘密に、作られた訓練室。四方八方に秒刻みで表れたターゲットを、打ち落としてゴミにし、それで築いた山が溢れる光景である。鬼神が如き成果、驚いたのは政人本人もだった。
(……加速している感じだな)
 射撃の腕前に自信はあった。だけど自分で戸惑うくらいに、FZ-01を身に着けた自分は、凄くなる。自我自賛も正当化されるであろう性能。
 政人は笑った。その笑いは正義ゆえの笑いである。そう、化け物が人に襲われた時、人である自分が化け物を倒したのだ。笑顔を、守った。守り続ける事が出きる。
 ゆえに政人は笑った。嬉しいから笑った。だけど誰よりも親しい自分自身の笑みとはいえ、その笑みに油断する訳にはいけない。
 実際あの時も、危なかったのだから。
(もっと強くならなければ、皆を守れはしない)
 装着室に向かいながら、
(強くなろう)
 静かに、静かに誓った時、危機は突然やってくる。
『葉月君!緊急指令!』
「っ、どうしましたか」
 いきなりの声に微細に驚いた様子の葉月の声を聞き、『冷静に聞いて、私も冷静に喋るから』オペレーターは自分の声から緊迫感を取り除いて、確実に説明し始める。
『空港の格納庫で怪人を確認。通報者の言葉によると怪人は男性を殺害して、その死体の荷物等を物色してるとの事』
 その時すでに葉月政人は走っていた。最後まで聞く必要も無い、解っているから、すべき事は。
 介抱の為に待っていた後輩から、通りすがりにがんばってくださいの声を聞きながら、決意を新たにしながら、
『FZ-01始動!』
 もう一つのでたらめ、特殊白バイク《チェイサー》を駆って、FZ-01は。


◇◆◇


 その時、彼は、興信所の依頼。
「どうしたんだ時雨?心当たりがあるのか?」
 依頼内容、東京に行くと言い残し、一ヶ月前に失踪した夫の捜索。この侭行方不明になったら、連れ添ってから掛けた保険金の意味が無いと。
 あの中年に間違いない。
 血は流れていた。つまり幽霊という訳でもないだろう。ならば、あのいでたちからして、外国へ高飛びしようと?
 そこまで考えをまとめれば、時雨、ソファより立ち上がり入り口にもなる出口へと。草間には何も言わない。間に合えば依頼は完了する。間に合わなければ、無理だ。
 時雨のバイクと、それを操る腕前の問題である事を、彼にいちいち説明する理由も無いから、時雨は黙って興信所に出た。


◇◆◇


「こんな所にかよぉ、手間かけさせやがって」
 そう言ってコブラは物言わぬ死体に、蹴りをいれた。物言わぬからうめき声も無い。腹が立つ。こんな事ならあっさり殺すんじゃなかった。
 まさかTI社の極秘資料を――
「奥歯に埋め込んでたとはよぉ」
 トランクを引っくり返しても、服をビリビリに引き裂いても、見つからなかった訳である。まさに科学の時代。マイクロチップに辞書より厚い情報。
「全くよぉ、ムカつく事してんじゃねぇよッ!」
 蹴り、蹴り、蹴り!だがやはり、死体は跳ねるだけ。つまらなさそうに長いベロで舌打ちをした後、
「俺が顔面とろけさせてたらどうなってたと思うんだよタコ」
 そう言って、ドロドロに溶解した腹部を、ぐちゃりと踏み倒した。
 その傷口はまがまがしい紫の液に支配されて、皮膚を、その中身を、おぞましく侵食してるかのようで。コブラ、
 狂い笑う。キヒャヒャと、およそ人の言葉では無い音程で。そして一頻り笑った後、まぁいいかと思いなおす。今思えばこの場所に追い込めたのは良かっただろう。全く使われない無人の倉庫、おかげで宝探しの時間は稼げて、
「後は、」
 帰還するだけと、余裕ぶいて振り返った蛇の頭に、

 弾丸が炸裂する。

 中年の死体の傍まで、のけぞり倒れるコブラ。一瞬、時が停止する。
 しかし白バイに乗りながら銃口を向けた侭、白バイから降りても銃口を向けた侭。その弾丸を放ったモノが、コブラとの距離を縮めようとした時、
「全くよぉう」
 50メートルの距離が半分せばまった時、「不意打ちなんて、正義のヒーロー様がやる事かぁ?」くねりと、
 立ち上がる――
「やっぱり来やがったか、FZ-01」
 そうじゃなくちゃおもしろくねぇと、コブラはにやりと、裂けた口を歪め。
 だが彼の態度より、FZ-01は、別の事に驚愕する。
 何故傷ついていない?
 強化銃の弾丸は、そこまで軟かったか、いや、ダイヤモンドでさえ急所を心得れば破壊できるはずなのに、何故、
(どうして)
 惑いを見せる葉月を、コブラが見逃すはずが無い。蛇が立ち上がった時の間合い、25メートル――
 牙よりの毒液が届く距離。
 突然放たれた毒液を、本能を全開してかわすFZ-01!しかし毒液は連続する、防戦一方では、攻撃に、
(転じるッ!)
 そう心で強く唱え、今度は弾丸を心臓に向けて撃ち放つっ、ビリヤードの玉のように正確無比に弾丸は直にッ、ぶち抜く!葉月政人が確信した刹那、
 弾丸が、後ろへと弾かれた。
「なっ!?」
 驚きが隙となる。隙が致命傷になる。
 FZ-01の複合装甲の肩を、毒液が腐食する。
「ほーう?ギリギリ助かったみたいですねぇ。頑丈な鎧なこった。だけど僅かな隙間に気をつけろよぉう、なんせ俺の毒は直接噛みゃあアフリカ象十頭を殺せっからな」
 一発あてればこっちの物と、近寄ってくるコブラ。焦りという名の混乱で、葉月政人は連射する。しかし弾丸は弾かれる。
「学習能力ねぇなぁ?どの角度から撃っても無駄だっつうの」
「……ッ!」
 言われて本能を潜めて。やっと葉月政人の知力が機能させた時、気付いた。
 鱗だ。あの鱗が。
 弾丸を後ろへと滑らせる。
(この武器じゃ、無理だ)
 ならば接近戦?いや、確かに拳なら、あの鱗をブチ破れるかもしれないが、近づけば毒液を直接、……飛び道具でしか、飛び道具、………っ!
(あったッ!)
 勝機をみつけて、ヘルメットの中の瞳に光っ、FZ-01は後ろへと跳ねた。その先には特殊白バイチェイサー、様々な武器が積まれた中に、《対妖魔ガトリングライフル》!
(あれだったら)
 研究に研究を重ね、
(鱗も問題じゃない)
 絶え間ない努力により、
(勝てる、勝つんだっ!)
 自分に託された未来を守る為の、
(――守る)
 道具に手を伸ばそうとする。

 それよりも早く、コブラの腕が伸びた。

 気がつけば、コブラの顔が目の前。
 そして身体を締め上げる腕―――
 強化服FZ-01が悲鳴をあげる、内部で響くその音が、葉月政人を攻め立てる。
「全部無駄な足掻きなんだよなぁ」
 コブラ、笑う、
「俺は貴様を参考に作られた改造人間。貴様に勝つように作られた怪人」
 ハサミが石に勝てる訳ねぇだろと、コブラは笑う、笑い声にも、政人は犯される。だが身体が動かない。身体が、FZ-01が、
 機能を、停止した。
 能力を開放する強化服が、ただの重りになる。
 その時、肩口が砕けた。
 毒液で脆くなった強化服―――そこから覗く生身の肩を、コブラはギラつく目でみつめて、牙、
 牙を、「さぁて、それじゃ見学すっかなぁ」
 牙を、「正義の味方が蛇の毒で」
 牙、
「無様に、死んでいくのをよぉっっ!!」
 ―――突き立てられる

 だけれども、
 それは実行されずに、
 代わりに起こった事。

 FZ-01を縛る腕が、切断されて、ボトボトと。

 地面に。
「いぎゃあぁぁぁぁぁあぁあっぁっ!?」
 腕!激痛!腕ぇっ!燃えるような暴虐な痛みに、蛇は生まれて初めての絶叫。ただひたすらに、痛い痛い痛い痛い痛――
「てめぇえぇぇっ!?何を、何をぉっ」
 やっと怒りを目の前の、青い服に向けた時、
「怒りの矛先を間違ってる」
 、
「錯乱してるようだな」
 視力で確認できない背後を、顔にある熱を感じる器官ピットで、捉える。
 第三者。
「だ、誰だぁっ!」
 切り落とされた腕を抑えながら、振り返ってコブラが見るよりも先に、
 葉月政人は現れたものを、見ていた。

 それは銀の煌きを、闇色の身体に装着し、
 仮面を被り、腕を振るい、
 神のように浮遊する―――
 それは鳴神時雨である、ヴォイドだ。
 だが葉月政人にとって、そしてコブラにとって、それは、
「語る必要は無いだろう」
 未経験、

 人ならぬ者。

 神が如く浮遊した、仮面の男は、着地した。
 そして腹が溶けた中年の死体を見て、間に合わなかったかと呟いて。もう一度、コブラに顔を向ける。
 その顔には、すでに毒液が放たれて、だが。
《キャンセラー:力場により形成された盾》
 防がれる。
「……な、」コブラ、「なな、な」
 恐怖、
「何者だよてめぇぇっ!?いきなり、現れて、こいつか!こいつの、仲間」
「通りがかかっただけだ」、「助けに来た訳じゃない、つまり、そいつの仲間じゃない、だが敵でも無い。しかし」
 青い仮面にやってた目を、コブラに移して、「お前の敵ではある」
 絶句するコブラ。暫く、重い沈黙が続いた、が、
「……キヒャ、キヒャヒャ、………キヒャアァッ!」
 コブラは牙をたてて飛び掛るっ!まるで音すら越えそうな速度で、時雨を噛み砕くっ!捉えたっ!
 硬質音がした。
 歯と歯が、噛み合わさった音だ。
 なんで、噛んでるのに、噛んでるのに、
 血の味がしない―――
「幻影」
 《ミラージュ》時雨自身が作成した新たなアタッチメントアーム、効果は、見ての通り、
「立体映像を作り出した」
 聞いてるコブラの、
 身体が浮かんでいる。《重力制御》
 ゆっくりと、ゆっくりと上昇する怪人。呆然と、格納庫の中心まで連れ去られて、
 連れ去られて、それからは、
 抵抗も出来ず、
「終りだ」
 天よりの声を聞いた。
 《重力制御》

 重力を全身に負った時雨の足が、落雷のようにコブラへ直撃し、
 その侭地面に激突する――

 天地

 破壊力に、コブラは毒混じりの血を吐き、
 吐きながら、
「殺して、来たんだな」
 声、「殺して来たんだなあぁぁっ!」
 絶叫して、
 絶命した。

 それはまるで映画のように、葉月の前に繰り広げられた光景。
 だがそれは、確実に、現実である。目の前の銀の仮面は、圧倒的な強さで、僕を救い、怪人を倒して、信じられない、出来事だけど、確実に、現実、
 現実に、
「貴方は、」
 現実に語りかける、「貴方は、一体」
 その時、蓄積した疲労が始動したのか、意識が霞み始める。だがまだ答えは聞いていない。必死で目をあけて、ヘルメットを通して仮面のヒーローを、
 ヒーローは言った。
「覚悟があるのか?」
 ………、
 ……それは、
 貴方のようになる、覚悟があるのかどうかという事か。
 人ならぬ者に、なる覚悟が、あるのかどうかという事か。
 僕は、僕は、
「僕は」
 時雨は、
 続けた。

「人であり続ける覚悟が」
 葉月の、生身の肩を見ながら、

 虚無より言葉は生まれない。
 それは時雨の、人の、言の葉で。喜びや悲しみを負ってきた男の言葉で。
 その問いに、激闘でとても疲れていたのだけど、目を閉じたら、二度と起きないかもしれないかもしれなかったけど、
 多分、答えた。
「人間として、みんなを」


◇◆◇


 何者なのかという、最初の疑問には答えずに、仮面のヒーローは去っていった。
 葉月政人は今も問い続けてる。強いあれは何者だったのか。そして、
 人であり続ける覚悟を。

 そして葉月政人は、運命に巻き込まれていく。