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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


マヨヒガ

オープニング

マヨヒガ、それは迷い家とも言うその場所には、一人の女性が住んでいるという。
その場所に迷い込んだ者は、心の奥底に何らかの迷いがある者。
その迷いを断ち切るために無意識にマヨヒガに向かってしまう。

投稿者:サヨリ
題名:マヨヒガ
私の友達がこの間まで行方不明だったんだけど、昨日帰ってきたよ。
本人はマヨヒガにいたって言うんだけど、嘘っぽいよね?

投稿者:ケーゴ
題名:Re:マヨヒガ
マヨヒガって迷信だろ?

投稿者:サヨリ
題名:でも〜
私もそう思うけど。でもあるなら行ってみたいよね!
迷いを断ち切ってほしい〜(><)


これは数日前にゴーストネットで見た書き込みだった。
あなた自身もマヨヒガなんてものは迷信にしか過ぎないと思っていた。
けれど−…
今、貴方がいるのは紛れもなくマヨヒガだった。
さぁ……どうする?

視点⇒矢塚・朱羽


 血が繋がっている。たったそれだけの理由で自分の想いを告げることができずに、俺はこんなにも苦しんでいる。でも…俺の想いを伝えて、あの人が傷つくのなら俺が傷ついたままでいい。
 悪いのは自分なんだろうか?それとも血の繋がったものを愛した俺自身の心なのか…。毎日毎日同じ事を考えている。
 そんな時だった。
「…マヨヒガ…?」
 迷いを断ち切ってくれる『マヨヒガ』の存在を知ったのは…。
「迷いを持つものを…呼び寄せる?」
 一般的に神隠しとも言われる現象らしい。だが、今の朱羽はそのマヨヒガにすら自ら行きたいとさえ思っていた。この想いが、異性という意味での愛情なのか、それとも血を分かち合うものとしての愛情なのかはっきりしておきたかったからだ。
「……くそ…肝心の行き方が分からない…」
 机をダンッと叩き、苛立ちを机に向ける。物に八つ当たりをしても仕方がないということは朱羽自身もよく分かっていた。
−チャットルームに名無しさん参加されました。
「誰?今まで来たことがない奴だな…」
−マヨヒガに行きたいの?
「!!」
−行きたいのなら、道を作ってあげましょうか?
「…誰だ…」
 朱羽の中にマヨヒガに行く事に対しての迷いは無かった。むしろ、招いてくれるのなら大歓迎だとさえ思っていた。
−チャットルームに朱羽さんが参加されました。
−行きたい。知っているのなら教えろ。
 人にものを頼む態度ではないかもしれないが、それが性格だからしょうがない。
−じゃあ、今から何でもいいから扉を抜けて。
「扉…?」
 そう言って朱羽が見たのは自室の扉。扉を抜ければリビングへと通じる扉だ。
−分かった。今から抜ける。
 朱羽はそれだけ言い残し、パソコンを切った。そして弓を持って扉を抜ける。弓を持ったのはイザというときの為だ。
 扉を抜けると、何か奇妙な感覚が朱羽を襲う。思わず吐きたくなるくらいの感覚だ。
「…ぐ…」
 朱羽は手を口に当て、吐きそうになるのをこらえる。違和感がなくなり目を開いてみると、そこには大きな屋敷があった。
「…ここがマヨヒガ…か」
 マヨヒガと言うくらいだからもっと不気味な場所かと思っていたのに、想像していた場所とは全然違っていて少し拍子抜けした。
「いらっしゃいませ。矢塚朱羽様ですね」
 玄関から現れたのは小さな少女だった。年は十歳前後だろうか。左右の瞳の色が違うのが特徴的だった。手には僅かな灯りを放つ提灯。
「中へどうぞ」
 朱羽は少女の言うままについていく。屋敷の中は外見同様に広かった。朱羽は深呼吸をしてから屋敷に足を踏み入れる。
「広いな…」
 誰に言うまでも無く朱羽が呟いた。だが、不思議な事が頭をよぎった。広い割に人の気配がまったくしないのだ。
「他に人はいないのか?」
 するとその少女はこちらを向き直り答えた。
「ここには私とお館様しかいません」
 少女は朱羽の問い掛けに答え終えると、また前を向いて歩き出す。
(今更考えても仕方ないか。…来てしまったんだから)
 朱羽は「ふぅ…」と小さく溜め息を漏らしながら少女についていく。
「こちらにお館様がいらっしゃいます」
 やがて他の部屋よりも大きな部屋に案内された。
「お館様、お客様がお見えです」
「中にご案内してちょうだいな」
 少女が襖ごしに言うと中からは女性の上品な声が聞こえてきた。
「中へどうぞ」
 少女が襖を開け、朱羽に中に入るように促す。中にいたのは白銀とも呼べる真っ白な髪を持つ女性が座っていた。
「私も随分長い事ココの管理をしているけれど、貴方みたいな人は初めてだわ」
 クスクスと女性は笑いながら言った。
「どういう意味です?」
「自分から迷い家に迷い込みたいなんていう人は初めて、という意味よ」
 よっぽどの事があるようね、と女性は付け足す。
「私の名前は葛葉、貴方の名前は?」
「矢塚…朱羽」
「朱羽、いい名前だわね。とりあえずその物騒な物をおろして座らない?」
 葛葉は朱羽の持つ弓を指差し、座布団を朱羽の所に置く。
「それで自分から迷い込みたいと思わせるほどの迷いは何?」
 朱羽はしばらく黙り込む。葛葉も無理に聞き出そうとはしない。
「…葛葉は…血の繋がりをどう思う?」
 数分間黙り込み、ようやく言った言葉がそれだった。
「血の繋がり?」
「血の繋がりを持つ者を…俺は、異性として見ている。その想いが止まらない…どうしていいのかも分からない」
 朱羽は拳を握り締めながら、震える声で呟く。葛葉は何も言わずに静かに朱羽の言葉を聞いている。
「誰にもいえない。言えば傷つくから…相手が傷つくくらいなら…」
「自分が傷ついた方がいい?」
 途切れた朱羽の言葉の続きを葛葉が言う。
「貴方は…自分をどんな風に思っているの?自分の事は考えてあげている?追い詰めるばかりでは何も解決しないわ」
 その言葉にいつもの冷静沈着な朱羽の仮面が崩れた。
「あんたに何が分かる!?血の繋がりがあるというだけで、自分の想いを告げることもできない!他の男なら簡単にできることも俺にはできない!忘れようと思えば思うほど頭から離れなくなる!」
 叫んだ後にはぁ、はぁと息を整える。
「…じゃあ、貴方は私が忘れなさいと言ったら忘れる事ができるの?…そんな簡単な想いならさっさと捨てなさい」
 朱羽はグッと言葉に詰まる。ココに来たのは想いを断ち切りたいからじゃない。自分の感情の意味を、理由を知りたかっただけだ。
「人の想いほど難しい事はないわ。自分でも分からない事を他人には理解できない。それは血が繋がりがどうのとか言う意味ではないわ」
 朱羽は葛葉の言葉を一言一句逃さずに聞き入る。
「貴方が他の人間より辛い想いを抱えているの分かったわ。でも…私には聞いてあげることしかできないの…」
 −それで十分だ…と朱羽は思ったが口にはしなかった。今まで誰にも言えなかった事を言えて、少しは気が楽になるのを感じた。抱えている問題は変わらないのだが…。
「…いつか、この想いが無駄じゃなかったと思える日が来るのだろうか?」
 ポツリと朱羽が呟いた。葛葉は朱羽の呟きににっこりと笑って「もちろんよ」と答えた。何の根拠も、確信もない言葉なのだが…なぜだか安心できるような気がした。
「俺…帰るよ。話を聞いてくれてありがとうな」
「もう大丈夫?帰り道は後ろの襖を抜ける事ね」
「もう大丈夫さ。もう会う事はないだろうけど…またな」
 軽く手を上げ、弓を手に持ち葛葉が示した帰り道の襖を抜ける。


「…ふぅ…」
 襖を抜けると、そこは元いた自室。朱羽は小さく溜め息を漏らすと、ベッドにゴロリと寝転んだ。そして最愛の人の名前を呟いてみる。何故だか、少し…ほんの少しだけ目の奥が熱くなるような感じがした。

 何も望まない。あの人が笑うなら…なんてガラじゃないけど本当にそう思うのだから仕方がない。
「…さて、何をしようかな…」
 朱羽の呟きがやけに部屋に響いた気がした。






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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】
2058/矢塚・朱羽/男/17/焔法師
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■         ライター通信          ■
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矢塚・朱羽様>初めまして、瀬皇緋澄です。
今回は「マヨヒガ」に発注をかけてくださり、ありがとうございます。
矢塚様のキャラ設定を拝見して、難しいかな…と思いましたが結構すらすらと文章が浮かんできました。
やはり私の好みの設定だからでしょうか(笑
では、またお会いできることを祈りつつ失礼します。
                   −瀬皇緋澄