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瑪瑙の番犬
■序■
拾いものをした。
三下にとってはその程度の認識であった。
3日前に三下は拾いものをしたのだが、彼は道端でボールを拾ったわけでも、金を拾ったわけでもなかった。拾ったものは実のところとんでもないものであったし、拾った場所もその辺りの道端ではなかった。
三下が拾いものをしたのは、東京都のはずれにある洋館だった。
そこは曰くつきの廃墟であり、いわゆる心霊スポットであって、小心者で不運な三下にとっても慣れた取材であった。怖がりながらも手際よく、三下は広い洋館の内部の写真を収めていった。取材には数名ほど麗香のほうから人員を割いてもらっていたし、窓の外からは住宅街の明かりも見えていた。三下はさほど怖がらずにすんでいたのだ。デジカメに収めた写真をその場でプレビューしても、廃れた洋館の部屋が写っているばかりで、オーヴのひとつすらも見出すことはなかったのである。
ただその三下が、取材を終えて同行人に礼を言い、現地で解散したあと――拾いものをしたのである。
「あれ……なんだろ。こんなの……落ちてたっけ……」
それは玄関ドアの前に、ひっそりと奉られているかのようだった。
そう、落ちているというより置かれていたのだ。同行してくれていた調査員も気がつかなかったのだろうか。
3センチほどの大きさの石に、彫細工が施されたものだった。縞模様が渦を巻く緑青色の石で、三下にはその石が何であるのか判別しかねた。どうやら、犬か狼か――その系統の獣を模したものであるらしかった。
この家の曰く因縁に関係しているものかもしれないと、三下はそれをポケットに収め、編集部へと戻ったのだった――。
そして現在、三下やあの洋館への取材に同行した者たちの周りでは、おぞましい怪奇現象が頻発しているのである。
夜な夜な聞こえてくる獣の唸り声と下卑た哄笑に睡眠を妨げられ、自宅の周辺をうろついていた野良猫や、近所の飼い犬が惨殺された。昨日は、三下の住む下宿の向かいに住んでいる青年が、何かに襲われて重傷を負った。青年は深夜1時にコンビニへ出かける途中だったそうだ。
声は確実に近づいてきている――
三下は改めて洋館の写真を確認し、危うく気を失いかけた。
彼は洋館に入る前、玄関を写していた。
……少なくとも三下が洋館に入る前までは、ドアの前には何も落ちていなかったのである。デジカメが見落としたりしていなければ。
洋館の主は、15年前に変死していたそうだ。
庭で、ずたずたに引き裂かれていたそうだ。
彼が死ぬ数日前から、近所の住民によって保健所に苦情が入っていたそうだ。
野良犬の唸り声が、五月蝿いと。
■被害者ABCDE■
3日前に三下の取材に付き合ったのは、4人。
白金兇、九尾桐伯、藤井百合枝、黒澤早百合。ほんの気まぐれで、三下に付き合ってやっていたのだ。
3日後、月刊アトラス編集部に全員が戻ってきた。
桐伯が経営するバーが騒がしくなったのは、三下とともに洋館の取材に行った2日後のことだった。つまり――昨日であり、今日なのだ。
桐伯が最後の客を送り出した直後に、3日前から聞こえていた野良犬の唸り声が聞こえてきたのだった。それはひどく近くにまで来ていた。桐伯にはわかっていたのだ。唸り声が段々と自分に近づいてきていることに。
断末魔の悲鳴が聞こえ、桐伯は店の外に飛び出した。
桐伯は無言で眉をひそめ、店の中へ取って返すと、すぐに警察を呼んだ。
その日最後の客は、バー『ケイオス・シーカー』の前で八つ裂きにされていた。文字通りの八つ裂きだった。四肢が飛び散り、臓物がネオンに引っ掛かって、何やら香ばしい匂いを立てていたし、すべての内臓が暴き出されていたが、どこにも心臓を見出すことは出来なかった。襲撃者は脳髄や眼球には興味がなかったようで、犠牲者の首は比較的無傷で転がっていた。表情は恐怖と狂気で引き攣り、目はこれ以上開かないのではと思わせるほどに見開かれていた。
見るだけで充分だった。「大丈夫ですか」と声をかける必要も、駆け寄って容態を診る必要もない。あの客はもう死んでいる。
しかし店に入った桐伯の背中に、ドア越しの唸り声が投げかけられた。その唸り声には悪意が満ち、蔑みをもって嘲笑っているかのような節さえあったのだ。
桐伯は再びドアを開けた。
ぢりぢりと焼けている内臓の匂いがひどくなってきているだけだ。
死体が散らばっているだけだ。
首が桐伯を見て恐怖しているだけだ。
嗤う犬などどこにもいない。
兇が経営する喫茶店が騒がしくなったのは、三下とともに洋館の取材に行った2日後のことだった。
兇が最後の客を送り出し、コーヒーカップを片付けている最中に、3日前から聞こえていた野良犬の唸り声が聞こえてきたのだった。それは今ではひどく近くにまで来ていた。胸騒ぎがするどころの話ではなく、兇はコーヒーカップをシンクに置くと、まだ洗っていないナイフを手にして店の外に飛び出した。断末魔の悲鳴が上がったのはその直後のことで、まとまった血潮がばら撒かれる湿った音や、内臓が引きずり出されて貪られる少なくとも気分の悪い部類の音が、兇の耳に飛び込んできた。びしゃばしゃと店の前が汚され始めたころには、悲鳴は止んでいた。
代わりに、あの唸り声が聞こえてきた。その唸り声には悪意が満ち、蔑みをもって嘲笑っているかのような節さえあった。
襲撃者の姿は上手い具合に夜の闇に溶けていて、兇が見たのは、哀れな犠牲者の姿だけだった。兇は、ふと手にしたナイフに目を落とした。
……とりあえず、誰かに目撃される前に、ナイフをシンクに置いてから、警察に電話をしよう。店の評判が落ちるならまだしもだが、自分がサイコにされるのは勘弁だ。警察が解決できる事件だとも思えないが。
藤井百合枝は3日前から困り果てていた。明かりを落とすと、どこか遠くから獣の唸り声のようなものが聞こえてくるのだ。その声は日増しに大きくなっていて、百合枝の安眠はことごとく妨げられた。2日前は妹の家に逃げ込んでみたのだが、唸り声は消えなかった。百合枝の妹も、犬が五月蝿いとぼやいていた。
そしてその夜は一睡も出来なかった。
百合枝は休日前にみっちり残業をさせられ、一番最後に会社を出ることになってしまった。
そう、一番最後だ。守衛がいなくなってしまったのだから、百合枝が最後だった。
オフィスの鍵を返そうとしたのに、守衛はいなかった。
目を落とせば、床に血痕があった。ずるずると引き摺られたような痕だった。電灯を落とされた廊下の闇の奥にまで、血痕は続いていた。百合枝は賢明だったので、その痕を辿ろうとは思わなかった。
そのとき唸り声が聞こえ、闇の奥で燐光を放つふたつの目が開き、百合枝は思わず鍵を持ったまま会社を飛び出してしまったのだ。唸り声は間もなく嘲笑に変わった。嗤う犬など、この世にいるものか。
結局この日は、一睡も出来ずに終わってしまった。
早百合のその日の目覚めは悪かった。
ひどい臭いに叩き起こされたのだ。生臭い血と臓物の臭いだった。目を覚ましてベッドの周りを見た早百合は、起きながらにして悪夢を見ているのではないかと考えてしまった。
ベッドの周りは人間や犬や猫の臓物に埋め尽くされていた。
恐怖と狂気に歪んだ女の首を見て、早百合は顔をしかめた。
先日スカウトしたばかりの『腕利き』だった。
起き上がると、シーツや布団も、早百合自身も、べっとり血で汚れていた。早百合はしかめっ面のまま、血を拭おうとした。時間が経っているらしく、血糊はしつこくネグリジェや肌に貼りついて離れようとはしなかった。
シャワーを浴びるしかないようだ――
だが、シャワーヘッドから湯気を上げて飛び出してきたのは、湯ではなく温められた血液だった。そこで初めて早百合は呻き声じみた怨嗟の声を上げ、キャリーのような容姿でシャワールームから飛び出した。
湯沸し器の蓋が壊され、早百合の部下の首がひとつ、ねじ込まれていた。
身体を伝う血潮をそのままに、生首を睨みつける早百合を嗤う者がいる。犬の唸り声のようにも、含み笑いのようにも聞こえる、腹の立つ声だった。
4人の被害状況は――三下も含めると5人だが、似通っていた。
4人は「もしかすると」とアトラスにやって来たのだが、予感は的中したようだ。三下が余計なことをしてくれていた。
「これ……持ってきちゃまずかったですかねえ……」
三下はおずおずと、小さな石の置物を取り出したのである。
■年寄りは知恵袋■
「さぁーんーしぃーたぁーッ!」
「ひ!!」
「耳塚の石を拾ってきちゃダメだって、修学旅行のときに言われなかった?! 心霊スポットに落ちてるものを拾ってくる怪奇雑誌記者ってどう思う?!」
「ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」
三下の襟首を掴み、がるると牙を剥く百合枝の横では、冷めた目の早百合が出された安いコーヒーを飲んでいた。
「全く、余計なことに巻きこんでくれたわね。あの洋館で何にもしなかった私も悪いのかもしれないけど」
早百合は手にした高級エステ優待券で、百合枝の肩を叩いた。
「藤井さん、編集長は一応気を利かせてくれたわ。これでこの件は許してあげましょう」
「……何だい、これ」
「もう一度取材をしていい記事にしてくれ、だって。その報酬。2枚あるから」
「あらら」
特に遠慮することもなく、百合枝は優待券を受け取った。三下は取り敢えず解放された。その横では、男性陣が三下の拾いものを検めていた。
「これは瑪瑙ですね」
プラダのサングラスを外さずに、置物を見つめていた兇が口を開いた。
「翼持つ犬、ですか」
「紐をかけられる構造ですね。見たことはないものですが……呪術的な紋様もある。魔除の類かもしれません」
桐伯は顎に手をやると、記憶を手繰り寄せた。
確か、似たような事件を綴った怪奇小説がなかったか。石の犬……翼持つ犬……唸り声……血、八つ裂きの死体。
桐伯はかぶりを振った。ラヴクラフトの『魔犬』だ。しかしあれは確か、翡翠の魔除であったはず。
「三下さん、オカルトに詳しい方に相談はされましたか?」
「い、いえ。そっちに詳しい人、今取材中で……」
「レイさんは?」
桐伯の問いに、三下はあッと声を上げた。
しかし5人はまず唖然とすることになる。
今やすっかり応接間の住人となったイギリス人オカルティスト、リチャード・レイは、三下が差し出した瑪瑙の置物を見た途端、英語でも日本語でもない言語で何ごとか罵り、応接間のドアを閉め、あまつさえ鍵までかけてしまったのだ。
「何で逃げるのさ、あんただけ納得されても困るよ!」
「儂を見るな、触るな、近づくな! 呪うぞ!」
ドアの向こうから返ってきた怒号は、日本語だった。達者な日本語だ。桐伯以外レイと話したことがある者はなかったが、時折アトラスで見かける灰色の外国人という程度の認識はしていた。イメージとはかけ離れた態度と台詞に、誰もが呆気に取られた。
「……何なの、あの外人は」
「オカルトに詳しい方ですよ」
「だいぶ長生きもしているようです」
「レイさぁん、僕ら困ってるんです……何か知ってるんだったら教えてくださいよう」
三下の懇願に、ドアの向こうのオカルティストは唸った。
かちゃり、とドアが開き――
灰色の男が顔を出した。
「……取り乱しました。私が知っていることをお話ししましょう。その代わり必ずその件を解決していただきたいのですが」
「はいはい、わかってるわよ。こっちも早くぐっすり静かなところで寝たいから」
「お任せ下さい」
リチャード・レイは、4人を信頼しているようだったが――憂鬱そうであった。
そして、瑪瑙の置物について知っているようだった。
「名もない魔除なのですよ」
レイは瑪瑙の置物を一瞥してから、ファイルを取り出した。セピア色の写真がいくつか、デスクの上に並べられた。それは今この場にある置物を写したように見えた。
「確認されているものは翡翠製ものだけでして、この写真もその翡翠製の魔除なのですが、ミノシタさんが拾ってきたものとまったく形が同じです」
「……魔除なのに、持ってると化物に殺されるわけかい?」
「魔除を持つ者が誰か、ということが重要なのです」
レイは瑪瑙の魔除に目を移した。
「この魔除は、冒涜者を罰するためのものだという説があります。恐怖を与え、精神が狂気に支配されるその直前に、死の制裁が加えられるのです。制裁を受けた者が魔除の次の持ち主になり、新たな冒涜者が現れるまで、魔除を持ってかりそめの眠りにつくことになります。……失礼ですが、皆さん、墓荒らしなどされておられませんでしょうね」
「さて、廃屋を墓だと呼ぶのなら、光のもとに暴いたかもしれません」
兇がひどくうっすらとした笑みを浮かべて、レイを見た。
レイが困った顔をして頷いた。
「前の持ち主につき返して下さい。或いは――前の持ち主を、滅ぼすか」
レイの言葉は謎のようだった。
前の持ち主は、すでに引き裂かれて滅びているはずではないか。
■見張る嘲笑者■
夜を待って、5人は例の洋館に舞い戻った。
これまでに起きた事件や、忌々しい唸り声は、すべて闇の中で襲ってきたものだ。罰する者は、夜にしか現れないのだろう。
しかし――3日ぶりだ。
だがあのりとき、またこの陰気な心霊スポットに戻って来ることになるとは思わなかった。
桐伯が調べたところによると、魔除の「今の」持ち主は、西洋古美術品の収集家であったらしい。遺体はすでに火葬され、墓地の中だ。
なるほど、と桐伯は納得してみた。
翡翠の魔除は棺桶の中の死体が身につけていたというが、瑪瑙の魔除は居場所を確保できなかったのだろう。何しろここは日本で、遺体は灰にされるのだ。文化の違いが魔除を戸惑わせたのだろうか。
兇はずっと黙っていた。事件が解決しても、彼は口にしないつもりだった。彼はこの洋館を以前から知っていたし、しかも3日前、すでにこの瑪瑙の魔除を目にしていたのだ。触れてはいけないものだと、勘が彼に語りかけた。血と犬の涎の臭いを嗅ぎ取ってもいた。この洋館は呪われている。レイの言葉を借りれば、「罰を受けている」のだ。
「面倒ね、まったく」
早百合が黒髪をかき上げながら、玄関に近づいた。彼女には臆するものなど何もない。
臆しているのは三下ばかりで、彼は百合枝の身体に半ばしがみついていた。
「あんたは何なの、鬱陶しいねえ」
「ぼぼぼ僕、つつつ次の持ち主なんかにななななりたくないんですううう」
「あんたが持ち主になっても、他人に罰なんか与えられそうにないけど……」
「おや」
桐伯がぴたりと足を止め、兇が金眼で玄関を見据えた。
早百合を恐れて、洋館に集まっていた浮遊霊たちが退き――
唸り声が、聞こえてきた。
「ひいいッ! 許して下さぁいッ!」
三下が百合枝にしがみつく腕に力をこめた。
唸り声が現実のものとなり、制裁者が現れた。
爪と牙を持つ人骨が、唸り声と下卑た笑いを漏らしながら、犬のようににじり寄ってきている。空の眼窩の中には燐光が湛えられ、身体のあちこちからぱらぱらと灰が落ちていた。牙と爪には、血がこびりついていた。
見苦しいのはその肋骨の中身だ。
5人を震え上がらせようと、5人の周囲で血生臭い惨殺を行ってきた制裁者の胴では、内臓が蠢いていた。喰ったか、押しこんだか、はたまた自前のものが再生を始めているのか――そもそも、この魔除の「今の」持ち主は、火葬されたはずなのだ。それが今、内臓を伴った人骨としてここに居る。
すでに人間ではなかった。制裁者は尾さえ持った猟犬であった。
犬は早百合から目を逸らすと、百合枝の後ろの三下に、ぎらりと狙いを定めた。
彼は嘲笑した。
「藤井さん!」
桐伯の警鐘に百合枝が動き、三下が逃げた。明後日の方向に逃げ出す三下を、兇は素早く無言で捕らえた。
百合枝が携えていた霊刀の白刃が、制裁者の瞳の光を受けて輝いた。三下を追おうとした犬の背中に、百合枝は刃を振り下ろす。灰まみれの骨に当たった霊刀が、がちんと跳ね返った。制裁者は、怒りと嘲りも露わにして振り向いた。
この制裁者に言葉はなかった。喉もないのに生まれる唸り声と、狂気に支配された嘲笑以外に、ものを言うことは出来なくなっている。
兇はその金眼を犬じみた白骨から逸らした。滑稽ではなかったが――哀れなものだ。この犬は、犬の形をした魔除に従うしかない狗なのだ。
制裁者の眼窩にある光は、かっと燃え上がった。牙が、百合枝の喉元を狙った。だが百合枝は霊刀を捨てて、犬の鎖骨に手をかけると、肺に触れてしまったその感触に吐き気を催しながら、1本背負いをお見舞いした。
地面に叩きつけられた内臓持つ骨は、ばらばらに砕けることもなく、ただ唸りながら転がった。だが身を起こしたとき、投げ飛ばされた際にひびでも入ったのか、右腕がばきりと折れた。
よろめいたその首に鋼糸がかかり、
ぴゅるりと千切れた鋼糸に向かって、出し抜けの落雷が落ちた。
蒼い浄化の光が、内臓を溶かし、血を焦がし、骨を再び焼き尽くした。
早百合が手にしていた剣を下ろし、溜息をつく。
三下は兇が男性であることもわからなくなっているのだろうか、兇の胸に飛び込んで、わあッと泣き出した。桐伯が、鋼糸をぐるぐるとまとめながら噴き出している。
「しかし、残念だったわね、この魔除の持ち主も」
霊剣を弄びながら、早百合が肩をすくめた。
「私たちはちっとも怖がらなかったもの」
「彼は狗ですよ」
ようやく三下から解放された兇は、瑪瑙の置物を手のひらで転がしながら答えた。
「怖がらせたくて怖がらせていたわけではないでしょう。殺していたわけでもない」
「浄化させてやって良かったのかしら?」
「ええ、お礼を言っていましたよ。そして出来れば、この連鎖をここで断ち切ってほしいとも」
兇が瑪瑙の魔除を放り投げ、
早百合が面倒臭げに呼んだ雷が、粉々に魔除を打ち砕いた。
「しかし、さすがは三下君です」
桐伯は珍しく悪戯っぽい笑みを浮かべて、まだ泣いている三下にハンカチを手渡した。
「三下君に裁かれる人を見るのも面白かったかもしれませんね」
「骨になって牙と爪とシッポがつけば、少しは迫力が出るかもだし」
「ひどいですよう……でも、助かりました……もうどうなっちゃうかと……うううう」
「あら」
眼鏡を外してハンカチで目を拭う三下を見て、早百合が目を見開いた。
「あなた、意外とカワイイ顔してるじゃないの」
「あ、ホント」
「おや、三下君、良かったですね。両手に花とはこのことですよ」
2輪の百合が、三下の前で微笑んでいる。
何故か三下の目には、眼鏡を外していてぼやけているせいだろうか、花の微笑みがどうにも恐ろしいものに見えてたまらなかった。
兇は4人を黙って見つめ、人知れず微笑んだあとに、じろりと洋館を振り返った。
魔除を破壊して正解だったかもしれない。
この洋館は変わらず心霊スポットであり続けるのだ。
そして、冒涜者によって光のもとに暴かれ続けるのである。
<了>
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登場人物(この物語に登場した人物の一覧)
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【0332/九尾・桐伯/男/27/バーテンダー】
【1778/白金・兇/男/28/何でも屋(喫茶店店主)】
【1873/藤井・百合枝/女/25/派遣社員】
【2098/黒澤・早百合/女/29/暗殺組織の首領】
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ライター通信
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モロクっちです。大変お待たせしました。『瑪瑙の番犬』をお届けします。
個別パートを作ろうかと思ったのですが、皆様が体験した事件を4つ並べたほうがいい感じに血生臭いのではないかと考え直し、1本化しました。
久し振りの依頼だったような気がします。黒澤早百合様、はじめまして。今後ともよろしくお願いします!
今回はひょっとすると三下をキーパーソンにしたのが初めてかもしれません。オフィシャルNPCは扱いやすいですね。今回でそれを痛感しました。レイは……どんどんギャグキャラ化していっているような気が……(笑)
B級スプラッター・ムービーのノリで楽しんでいただけたら幸いです。
それでは、また!
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