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とある日曜日の失敗
頂いて来ました。
何をかって…衣装です。
お姉様のところから頂いて来た物です。
っと、まぁ…普通の服とは…違うんですが。
で。
今日は、日曜日。
…お休みの日です。
折角なので、この間頂いて来た衣装を試しに着てみようかと思っています。
結構たくさん頂きました。
ちなみに、既にして妹も何度か学園に着て行った事があります。
可愛い、とは言われたそうですが、特に問題は起きなかったそうで。
なので、きっと大丈夫だろう、とは思います。
よし、と決意して、海原みなもはお姉様から頂いて来たその衣装の中から、ひとつを取り出しました。
そこには。
小さな黒い角に、蝙蝠の皮膜をデフォルメしたような可愛い翼、矢印のような先端の黒い尻尾、レザーのような僅かな布?――の付いた『何か』がありました。
で、結局これは何なのかと言うと、衣装と言うか…オプション付きの下着みたいなものです。
悪魔…と言うか夢魔のような感じですね?
コスプレ時に併用すると可愛いらしいです。
…と、お姉様は言っていました。
と、言うか、実際試したんですけどね、お姉様のところで…少しだけは。
なので、『再び』着てみます。
着用すると、ちょっとHな夢魔のような姿になります。
僅かなレザー部分は、着てみるとビキニ状に付いていました。
素肌が染まったような見た目です。
ちょっと鏡を見てみました。
…悪魔っ娘な自分が映っています…。
着心地はと言うと…かなり良いので、全然違和感はありません。
まるで裸のようです。
なのです。
………………恥ずかしいです。
家の中で、しかも自分しかいない、とは言え。
ちょっと気が引けます。
…ので、みなもはその上から、今まで着ていた服を重ねて着ました。
が。
服を着た筈の背中から黒い翼が確り生えてます。
服の上に尻尾がぴょこんと覗いてます。
…そうなんですよね。
どんな仕組みなのだかわかりませんが、普通の服は透過してしまうようで。
自然に、生えているような形に見えます。
確かに…その方が便利でしょうが。
見た目のようには…家事をしていても邪魔になりそうも無いですし。
取り敢えずみなもはそのままで鏡に向かって頷くと、その“悪魔”を着たままいつも通りの行動に走ります。
即ち、家事。
洗濯を始めます。
終わったら掃除機を。
のほほんと休憩を取ったり、学校の宿題をやったりしつつ。
夕方になりました。
そろそろご飯を作りましょう。
と、思い冷蔵庫を開けようとして。
「…あ」
中に何も無い事を思い出しました。
実際開けて見ても、記憶の通りに中には何もありません。
…買い出しに行かないとですね。
思い、みなもは自分の格好を顧ました。
悪魔っ娘です。
…さすがにこのままで買い出しに行くのは恥ずかし過ぎます。
ので、自分の部屋に戻り、上に着ていた服を脱ぎ、“悪魔”の方を脱ぎました――脱ごうとしました。
が。
脱げません。
………………え。
焦りました。
いえ、そんなひとことで言える程落ち着いていません。
脱げないんです。
脱げないんですよ!?
妹の時は問題無かったんですよ!?
慌てつつ考えを巡らせます。
どうして脱げないのでしょう?
汗で張り付いてしまったんでしょうか。
考える間にも刻々と時間は過ぎて行きます。
脱ぐのを諦めて再び他の服を上に重ねて着ました。
やや時期外れながらもコートなんか引っ張り出して更にその上に着込んでみました。
帽子を深く被ってみました。
鏡を見ます。
………………翼、隠れません。
………………角も、隠れません。
時間は無情にも過ぎて行きます。
そろそろ妹が帰って来そうです。
…夕飯の食材がありません。いえ、明日の朝食の分も無いんです…!
買い出しに行かない訳には…!
仕方ありません。
覚悟を決めて、みなもはそのまま――いえ、勿論、無駄らしいコートやら帽子だけは脱ぎました…だって余計に怪しい気がするんです――悪魔っ娘状態で地元商店街へ行きました。
あああああ穴があったら入りたいです…。
どーか皆様あたしを見ないで下さい…!
「あ、あの…」
「どうしたのみなもちゃん?」
悪魔っ娘なみなもの姿を見て目をぱちくりとさせるお肉屋のおばさん。
「い、いえ…えっと…挽き肉300gお願いします…」
まともに顔を上げられません。
蚊の鳴くような声で呟きつつ、みなもは注文。
はいはい、とにこやかにお肉屋のおばさんは挽き肉を包んでくれました。
今時は物騒だからそう言う挑発的な格好して歩くのやめた方が良いわよー? と親切な声が飛んで来ます。
いえ、親切…なんでしょうけどね…。
それ以前に、
…私のこの格好にツッコまないで下さいぃぃぃ!!!
何だか情けなくて恥ずかしくて今にも泣きそうです。
「お、可愛い格好してるねぇ、みなもちゃん」
ん? と黒い小さな角に蝙蝠めいた翼を見て豆腐屋のおじさん。
「か、可愛いってあの…そうじゃなくて…お豆腐一丁…残っていたらお願いします…」
「う〜ん。ウチの女房たァ大違いだよねえ…食べちゃいたいくら…」
と、豆腐を一丁取り出し包装して置きつつ、皆まで言う前に。
「――何言ってるのあんたァ!」
どがががが。
店の中から響いて来る格ゲーちっくな破砕音。
続いて豆腐屋のおじさんの断末魔の声が。
「…」
えーと。
ちょっと冷汗。
取り敢えずお豆腐は…頂けましたし、これは早々にお暇…した方が良いですよね?
あ、あたしも手っ取り早く用件済ませて帰りたいですし…!
そう判断してみなもはお釣りの無いように豆腐の代金を置き、そこから去ります。
次には道端で。
あ、アクマちゃんだ! などと騒ぐお子様。
しっ、見ちゃいけません! などと叱る母親と思しきおばさん。
ヒュ〜♪ などと口笛吹いて冷やかす若い男の人。
今時の若い子はどんな格好してても似合うねぇ、などとしみじみ頷く通りすがりのおじいさん。
…顔が火照りました。
ど、どうしよう…!
凄く視線が痛いです…。
………………誰か助けて下さい。
で。
…家に帰ってもやっぱり脱げず。
買って来た物を使用して、仕方無く『そのまま』で夕食を作りました。
で、妹と食べまして。
それから更に暫く経ってから漸く。
この“悪魔”は脱ぐ事が出来ました。
やっぱり汗で張り付いてたみたいです。
どうやら、涼しくなって来たので脱げたみたいです。
………………つ、次からは…着る時には気を付けなくては。
【了】
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