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<東京怪談ノベル(シングル)>


睡魔 ⇔ ??

 朝。
 夢の中にいた私だったけれど、普段ではありえない気配を感じてゆっくりと目を開いた。
「――あっ、起きちゃったじゃない〜」
「あんたがトロトロしてるからでしょ」
「なによ〜、人のせいにしないでよ!」
 開いたその目が、そのまま大きくなる。
(何……ですか?)
 私の周りを小さな妖精のようなものが飛んでいた。それも1匹や2匹ではない。しかも私の目にもくっきりと映っている。
(水魔……?)
 それにしてはどこか、様子が変だ。
「そうよ、私たちのせいじゃないわ」
「この人が鋭すぎるのが悪いのよ」
「あ、そうね!」
「そうよそうよっ」
 意見を一致させた彼女らは、そろってこちらを振り返った。私はまだ上半身すら起こさぬ――起こせぬままだ。
「あ、あの……?」
 突然の展開についていけない。
「この人、私たちのこと知らないみたい」
「そういえば、起こす前に起きられたの初めてだったわよね」
「そうだわ」
「どうする?」
「説明する?」
「してあげましょうよ」
「もう邪魔されないようにね」
 ずいぶんと好き放題な発言。
(私が一体何を邪魔したと……)
 まだぼんやりとした頭で、考えてみてもわかるはずがない。
「私たちはね、起魔っていうのよ」
「睡魔の逆ね」
「睡魔は眠りを誘うけど」
「私たちは覚醒を促すの」
「それであなたを起こそうと思って来たんだけど」
「やる前にあなたが起きちゃったってわけ」
 なるほど言われてみれば、睡魔の逆になるものがいてもおかしくはない。
(――ですが)
「それは……私のせいではないのでしょう?」
 もし彼女たちが本当に起魔なら、私が起きる時はいつも現れているはずなのだ。しかし私は今日初めて、彼女たちを見た。私の方がいつもと変わらないのなら、理由は彼女たちにあるはずだ。
「えー?」
「私たちが悪いの?」
「何かしたっけ」
「――あ、もしかして」
 不満そうな彼女たちの中で、1匹(1人?)が何かを思いついたようだ。
「あなた、夢を見てた?」
「見ていましたよ。内容はもう忘れましたが」
「途中で切れた?」
「気配を感じましたからね」
「それだわ」
(そういえば)
 夢を見ている時は浅い眠りで、その浅い眠りと深い眠りを一定の周期でくり返しているのだと聞いたことがある。そして深い眠りの間に起こされた方が、気持ちよく目覚められるという話だった。
「夢を見ている時には近づいちゃいけないって、言われてたもんね」
「私たち話に夢中だったから……」
 原因がわかると、彼女たちは深刻そうに顔を見合わせた。それから1人が代表して。
「ごめんなさい。次からは気をつけるから……目覚まし時計は使わないでね」
「目覚まし時計?」
 思わず訊き返すと、今度は皆が話し出す。
「目覚まし時計を使っている人たちは、私たちがいらないの」
「時計が私たちの代わりになるから」
「日本ではそれを使っている人ばかりで」
「私たちの仕事が少ないのよ」
「でも私たちは」
「必要とされなければ消えてしまうから」
 瞳をウルウルさせて、私を覗きこんでくる。
 私は苦笑しながら。
「心配しなくとも、私は今の生活を変えるつもりはありませんよ。安心して起こしに来て下さい」
「ホント?!」
 声がそろった。ステレオで聞くと、おきぬけの頭にはさすがに響く。
「……もう少し小さい声でお願いします」
「あ、ごめんなさい」
 またそろった。今度はしょぼんと小さい声だったけれど。
 思わず皆で忍び笑い。
「――じゃあ、私たち今から睡魔を呼んできてあげるわ」
「え? いいですよ、このまま起きますから」
「でもいつもよりすっきりしてないよね?」
 確かに、「眠った」という満足感があまりない。
 私が答えに困っていると。
「あなた優しいね」
「だから今度から、優しく起こしてあげるわ」
「じゃーね」
「おやすみなさ〜い」
 それぞれに言葉を発して、どんどんと上昇してゆく。
(”優しく起こす”とは)
 一体何をされるのだろう……。
 少々不安に思いながらも、返した。
「おやすみ。これからもよろしく」
 天井あたりで、彼女たちの気配が消えた。そして私の意識も――。



 朝。
 目が覚めると、妙な違和感を覚えた。
(あれ……?)
 だがその理由にすぐ気づく。いつもより時間が少し遅いのだ。そしていつもより、少し鮮明な夢を見た気がした。
(相変わらず)
 内容を覚えてはいないけれど。
 私はベッドから起き上がると、大きく伸びをした。
(今日もすっきりとした)
 いい目覚めだ。
「――ん?」
 ふと、枕の辺りにキラキラと光る粉のようなものを見つけ、指のはらにくっつけてみる。
「……羽根?」
 その一粒一粒が、小さな羽根の形をしていた。そして目を近づけてよく見ると、それは枕だけではなく色んな場所に散らばっている。
(何でしょう、これは……)
 首を傾げる私の周りで、誰かの笑い声が聞こえた気がした――。





(終)