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第一話 正義の男 その名はフォルケン!
■始まり■
その日、東京は晴天に恵まれた。
昨日の深夜にここ東京に赴任してきた。
この記念すべき一日に始まりが爽やかな晴天とは……俺はついている。
ファミレスなる店で飲んだ、夜明けのコーヒーも最高だった。
傍らに団長がおられないのが気になるところではあったが、この際、贅沢は言うまい。
お代わり自由で、居座りOK。
お値段税込み262円とは素晴らしいサービスだ。
さすが日本。ファミレスが『ジャパニーズOTAKUの年二回の祀りの友』というのも頷ける。
他にも『DTPコンビニエンスストア』なる店もあるらしいが、飲食店ではないらしい。そこでは流石に夜更かしできんしな。うむ。
…というわけで、コーヒーを頼んだ後、8時間ほどカウンター席に陣取り、ウェイトレスの「お代わりは如何ですか?(早く出て行け、邪魔なのよ!)」攻撃を熱い笑顔でかわす。
俺は、10時きっかりになってから店を出た。
現在は竹下通りを歩いている。
うーむ、紹介が遅れたようだ。俺の名はフォルケン・ラハーニム・ハイデン。
真・聖堂騎士団第17師団筆頭を務めている。
団長の補佐、陣営の参謀、魔術補助が私の仕事だ。
都市の構造を把握しておこうと繁華街を歩いているのだが。
「なんなのだここは」
思わず俺は呟いた。
驚愕が隠し切れん。まだまだ私も若いということだな…フッ。
しかし、10時18分、今は平日午前中だと言うのにこの人通りの多さはどうだ!?
へそだし服の娘とだらしなく服を着こなした若者があっちこちから歩いてくる。
一体、どこからこんなに現れたのだ。日本の家がウサギ小屋というのは真実だったのだな。
感慨深く眺めていれば、睨みつけてくる若者達。
愛馬「オクラホ馬(マ)・ベルツシュタット3」は駅前の街路樹に括り付けてきた。怪しい人物には見えないはず。
何故だッ!! そんな目で見られるはずは無いのだが……
仕方ない…温かい目で見守ろうじゃないか。
それが大人の役目。
何がこんなにも彼らを荒ませてしまったのかと、俺はこの日本の未来を危惧してしまう。
素晴らしきジャパニメーションの国、日本。
全世界のOTAKUの憧れ。
我らの殿堂。
あぁ……なんと悲しい事か。
悲しみを心の奥に隠しつつ、俺は歩み続けた。
■義は我にあり!■
「た…助けてくださいぃっ!」
駅近くのハンバーガーショップの前を歩いていれば、横に伸びる裏路地から、虐められ慣れていると感じれる世にも哀れな懇願の声が聞こえてきた。
声のした方をみれば、眼鏡を掛けた男がボロい鞄を胸の前に抱いて震えていた。
辺りには、通りを行く若者と同じようなカッコをした男が数人、眼鏡の男の周りを取り囲んでいる。
恐怖に震えたまま泣いて見上げる男に、若者は容赦ない蹴りを食らわせていた。
「おらおらッ!」
「痛いッ!!! 何、するんですかぁ」
「馬鹿言ってんじゃねぇよ。ぶつかってきたくせによぉ!」
「ひぃっ! ぶつかってきたのは貴方じゃないですかあ〜」
「なんだと!」
「助けてえ!!」
―― ピアスにドレッド…間違いない。奴等がチーマーという種族!
「待てぇええええええッ!!」
私は素早く大剣を抜き、走っていった。
迷っていては助けられん。
俺は必死に走った。
悪いやつらは野放しにしてはおけない。
日本よ。
クリーンでピュアな国でいてくれ。
私はこの剣で日本のアニメを守ろう!
まずは人助け、悪の根を絶つのだぁ!
きらめく陽射しに輝く剣が空を切る。
ここから16メートル弱。私の足ならほぼ数秒。
私の怒号に相手が怯んだ隙に、眼鏡の男との間に割って入った。
「きゃぁあああッ!!」
「わぁ!! 人殺しーっ」
瞬時に辺りは阿鼻叫喚地獄絵図と変わる。
人殺しとは失敬な。
そう言い返す暇も無く、辺りの人々は逃げ去っていった。
壁に張り付いて泣いていた男は今にも失神しそうな様子。
うむ、イカン! 早く、こやつ等を排除せねばならんな。
「何だてめぇは?」
首領と思われる男が俺に因縁をつけてきた。
古典的な展開だな、チーマーよ。笑止!
私が敵に回った事を後悔させてやろう。
このフォルケン、義に生きる漢ぞ。
ふッ…と俺は笑みを浮かべていた。
己の敗退を予感できぬ者よ、この街の露と消えるか。
俺は立ちはだかった。
「アトラクションかなにかかぁ?」
「つーか。ハロウィンのつもりかよ〜? ひゃぁーはっはっは!」
本気にしてはいないらしい相手を俺は睨みつける。
こんな時は戦いを長引かせると人目についてしまう事請け合い…と言うか。
既に、人目についてしまっているようだな。
喚き散らす女の声が聞こえる。
一撃でけりをつけるしかあるまい!
俺は迷う事なく義眼である紅瞳からビームを発射しようとロックオンした。
「のっほそパワー160%開放! 目標、敵のジャパニーズ・チーマー!」
眼帯の隙間から覗いた深紅の目が輝き、エネルギー充填終了のアラームが聞こえた。
「くたばれゃあー! フォルケンビ〜〜〜〜〜〜〜〜ムッ!!」
赤く光る破壊光線が俺の燃える心の象徴のように辺りを照らした。
いつ見ても、燃える光景だ。
男に生まれたからには、こうでなくてはいかんな。
生きている喜びを実感しつつ、俺は容赦無くビームをお見舞いした。
撃破した連中が逃げ去れば、俺は大剣を仕舞い、のびかけていた男の方に振り向いた。
「大丈夫か?☆」
笑顔も爽やかに不幸な男に手を伸ばした。
「ん?」
何やら様子がおかしいな。
そんなに今回の事が心の傷にでもなったのだろうか。
アフターケアも大事と言う事なのだろうか。
仕方あるまい。
面倒見るか…と思って手を出せば、男は壁際に這って行って首をブンブンと振る。
「ひ…ひぃっ……」
「どうした……さぁ、このフォルケンに掴まれ……」
「ひッ……うひぃー変な人ー」
そう叫ぶと眼鏡の男は叫び声を上げて逃げていってしまった。
「…変な人?」
呆然としながら、俺は辺りを見まわした。
辺りには人気が無く、閑散としている。
先程の賑わいはどこへ消えたのだろうか。
訊ねる相手も居なく、俺は立ち尽くした。
―― 俺は変な人なのかー…!?(悩)
仕方なく、「団長に聞いてみようかな…☆?」と自分自身の気持ちを完結させる努力し、団長の居る場所へと向かった。
寒い風が吹いている。
冬も近い。
しかし、冬の訪れを痛切に感じるのは、この後、団長の一言を聞いたときなのだった。
■END■
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