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柩の中に……?
+++++オープニング+++++
10月31日。
日本国内に置いてはごく普通の金曜日である今日。
草間は吸い殻の積もった灰皿を前に深い溜息を付いていた。
1枚隔てた扉の向こうでは何やらキャァキャァと賑やかな話し声……。
何でも、万聖節のお祝いを、よりにもよって今日ここで開くのだそうだ。
料理やらお菓子やら気味の悪い人形やらを持ち寄った者達が、好き勝手に事務所をパーティー仕様に飾り立ててる。
賑やかな中で仕事が出来よう筈もなく、と言って急ぎの仕事があるでもなく。
出掛ける用もなければ逃げ出す理由もなく、苦々しく煙草をふかし続けて大概喉も痛くなって来た。
換気の為に窓を開けると、僅かに冷えた風が吹き込んでくる。
「……うん?あそこのビルは何時の間になくなったんだ……?」
気が付くと、つい数日前まで確かに存在していたはずのビルがなくなり、空き地が工事中の柵に囲まれている。
「諸行無常だな」
そう、あっちでゴソゴソこっちでゴソゴソ働いている間に、季節は移ろい形あるものは消えてゆく。
秋の空に妙な虚しさを感じてみる草間。
「いい加減煙草も吸い飽きたな……コーヒーでも飲むか」
数時間振りに応接間を出る草間。
ふと、事務所入口が開いている事に気付いた。
「誰だ、開けっ放しにしたのは……」
呟きはざわめきに掻き消されてしまう。
扉を閉めようとドアノブに手を伸ばした草間。
足元に何か黒い影。
「何だ?」
何故かそこには、柩があった。
キッチリと釘打ちされた蓋には、こんな言葉が刻み込まれている。
『草間興信所 所長様』
「……俺か……?」
そう、草間武彦。
「何で柩なんか……冗談にしちゃタチが悪いんじゃないか……?」
++++++++++++++++++++
玄関口で草間が何やら騒いでいるのを聞きつけて、まず最初にやって来た田沼亮一は足元に置かれた柩を見て言った。
「おきみやげ、ですか?」
「……そう見えるか?」
草間は冷たい目で亮一を見て、溜息を付く。
一体何処の誰が置き土産に柩を置いていくのだ。
「あらまぁ、大変ねぇ。草間さんお葬式の予定があったの?」
と、笑みを浮かべた顔を覗かせるのは真迫奏子。
「元気そうだけど?」
すぐその下から別の声。
「草間、死んだの?」
姉に借りたのだと言う仔狐の仮装が妙に自然な海原みあお。
「死んでないっ!」
その、仔狐のふかふかした耳を引っ張って草間。
「あ、死んでないんだ。棺桶先買いだなんて草間にしては今時なんだね。フツーはお墓を先買いすると長生きするって言うけど」
別段身が入っていたり血が通っていたりする訳ではないのだが、引っ張られた耳をさも痛そうに撫でながらみあおは続けた。
「というよりお金、煙草以外にも使うんだね。結構高いんだよね棺桶って。それにサイズ合うの?本人に合わせたオーダーメイドってさらに高いんだよね。日本でも受注はあるそうだけど。」
可愛らしい顔立ちの少女にからかわれて、草間は頭を抱える。
「棺でやんすか〜。郵送で参加しにきた方でやんすかねぇ」
少々風変わりな口調に顔を上げると、目の前には古道具屋「宵幻堂」の店主、黒葉闇壱。
「……なんだ、あんたも来てたのか……」
この狭苦しい興信所内に、一体何人集まっているのだろうか、そんなにハロウィンとは楽しい行事なのか。
突然柩を送りつけられた哀れな主そっちのけで楽しんでいるのかと思うと少々腹が立ってくるのだが……。
「いえね、万聖節には興味はありやせんが、持ち込まれるものには興味がありやして」
と、闇壱は微笑を浮かべる。
「これも性でやんすかねぇ。あちきのところにいるお嬢さんも参加したいみたいでやんすから、一緒に来たでやんす。あ、お嬢さんはこのアンティークドールの女の子でやんすがね。仲良くしてくださいやし」
腕に抱いたアンティークドールの手を握手のように差し出して、闇壱は笑う。
「柩とは……万聖節にあわせての届け物か?日本の盆と同じ様なものだと聞いたが、こんな形で死者が帰ってくるとはな。時代も変わったものだな……」
その横で、何やら買い物袋を手に真名神慶悟。
「……笑い事じゃないんだが……」
第三者に取ってはまぁちょっとした事件の一つかもしれない。しかし、当人にとっては重大な事件だ。
草間は深く深く溜息をついてぼやく。
「そうねぇ。起源の古代ケルトじゃ夜に死者の霊が家に帰ると言われている日とはいえ……柩はちょっと悪趣味かも」
「そうか、そう思ってくれるか!」
漸くまともな意見が出たとばかり、振り返って草間は聞き慣れた声の主の手を取る。
「まぁ、武彦さんの事だから、これくらいの事はされて当然の事もしてきたんでしょうけど……」
と、冗談で付け加える事も忘れないシュライン・エマ。
何故だ。
と、草間は肩を落とす。
これだけの人がいて、何故1人として本気で自分を心配してくれる人間がいないんだ。
そりゃぁ確かにちょっと人には言えない事をやった事もある。
もしかしたらうっかり何処かで人の恨みを買ったかも知れない。
万年貧乏で給料を支払えない事はしょっちゅう、冬が来ようと言うのに興信所内の空調はどれも壊れたまま、それを修理する金もない。
ヘビースモーカー故に、副流煙で誰かの健康を害したりしたかもしれない。
だがしかし。
ハロウィンの今日、パーティーを開く会場を提供しているのだから誰か1人くらい親身になってくれても良いんじゃないのか。それともここにはそんな優しい人間は1人としていないとでも言うのか!
……と、草間が1人で軽くショックを受けているその後ろの方で。
「柩……?これからお葬式でもあるのかしら?こんな時に来てはまずかったかしら……。でも柩なんて……ハロウィンのイベントの一貫とか……でも訊くのもなんだし……。プライベートな事かもしれないし」
ぽつぽつと呟く女の姿。
名前を観巫和あげはと言う。
甘味処【和(なごみ)】の店主だ。
いなくなった飼い犬捜しを依頼に来たのだが、階段にはハロウィンパーティー会場と張り紙されているし、いざ興信所の前に来ると柩があるし……で少々面食らっている。
「釘が打ちつけてあるなんて……これから火葬場にでも持っていくのかしら……」
呟きつつ、周囲に目を配り耳をそばだてて柩を取り囲む人の話を聞き、どうやら理由こそ分からないが、この柩は興信所の所長である草間に突然送りつけられたものだと分かった。
「ご愁傷様、草間さん。最後の一目会えて良かったわ……迷わず成仏して頂戴ね」
そっと手を合わせる奏子。
「……おまえなぁ……」
「ハイハイ冗談よ。殺気立たないで頂戴」
両手を挙げて奏子が苦笑する。
「ハロウィンに棺桶って言うのもぞっとしないわね」
と、軽く舌を出しつつ言い、視線を下げて大きな耳とぽってりした尻尾を付けたみあおを見る。
「誰かのいたずら?零とか?って、そんなことしないか、零は。じゃあ、誰か他の人のたちの悪いいたずら?因みに、みあおじゃないからね」
「私も違うわよ」
「勿論私も違うわ。いくらなんでも武彦さんにこんな達の悪いいたずらなんてしないわ」
「俺だって違うさ」
「あちきも違いやすよ」
「俺もこんな事はしない……、もしかして、あなたですか?」
と、突然亮一に指さされてあげはは目を丸くした。
唯一、あげはだけが現在の面々の誰とも知り合いではない。
「え。わ、私?」
違います、とただ一言言えば良いだけなのだが、あげははそうとは言わず首を振る。
「それじゃ、今日のパーティーに参加する方?零ちゃんの友達かしら……?」
シュラインの言葉に、あげはは再び首を振って漸くぽつりと言った。
「いえ、私は犬を探して欲しくて……」
「なんだ、依頼人なの」
拍子抜けしたような奏子に、慌ててシュラインが笑みを浮かべてみせる。
状況がどうであれ、大事な依頼人なのだから。
「今、ちょっと立て込んでいるからお話は後で伺わせて頂いて構わないかしら?」
あげはが頷くのを確認して、シュラインは視線を柩に戻す。
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「『この日』に『此処』で起きる事ならば『悪戯か御馳走』でしょうけど、御馳走‥‥は考えづらいですし、ね。可愛い悪戯で済む様なら良いですが……」
亮一はどう考えても御馳走が詰まっているのではなさそうな柩を見下ろして言った。
「送り主がいる筈だが……、中身が当人かもしれないしな。だが釘を打ち付けてあるという事は、少なくとも中身以外にも関わる者がいるという事か」
慶悟の言う通り、柩にはきちんと釘が打ってある。
中に誰かが入っているとしたら、その場合外から自分で釘を打つのは不可能だからして絶対にもう1人関係者がいる事になる。
「ふぅむ……草間さんにはちょいと寸法が足りないでやんすねぇ……」
素早く柩と草間の丈を比べて、闇壱。
「誰も引き取り手がいなければ、あちきが預からせていただきやすよ。草間さん、必要になったらいつでもどうぞでやんす。ご希望なら他のものを用意いたしやすよ。日本風の方がいいでやんすかねぇ。」
何故か商売人のように手を揉む闇壱に、奏子が笑う。
「あら、良いじゃない草間さん。やっぱり日本人には日本風の棺桶よね」
「いらん!」
「……冗談はそれくらいにして、この柩が運ばれてくるのを見た人はいないの?妙な人影は?」
シュラインの問いに、全員が首を振る。
「これだけの物を運ぶなら、相当目立っていた筈だけれど……。外に行って聞いて回ってみましょうか?」
「そうだよね。まさかこの柩が突然降って湧いた訳じゃないもんね。でも、これって重いのかな?1人で運べるもの?トラックとか、そーゆーので運んだのかな、それとも誰かが担いで来たのかな?」
みあおの言葉に、重さを見てみようと言って亮一が柩に手を伸ばす。
訳の分からないものに突然手を出したりして大丈夫なのか……とあげはは思ったのだが、それを口に出すより早く亮一は柩に触れていた。
因みに亮一もそう言う点に無頓着な訳ではない。
ちゃんと彼の霊的干渉を一切遮断出来ると言う力を使っている。
「以外と軽いですね。もしかしたら中はカラッポかも知れませんよ」
1人で担ぎ上げる事こそ出来ないが、頭側を両手で持ち上げる事は出来る。
「まぁ、男が2人で持てば十分だと」
「カラッポなの?」
言って、シュラインはそっと柩に耳を押し当てて軽く叩いてみた。
コンコン、と響く音。
しかし、カラッポと言うには少々響きが悪いようだ。
「とりあえず開けてみたら?誰かが」
誰かが、を強調して奏子が言う。
「誰が開けるんだ。お前か?」
と、草間は恨めしげに奏子を見る。
「私?いやあよ危ないことはそれ相応の人材が居るでしょ。もし何かあってお座敷に響いたらどうしてくれるのよ」
洒落にならないがもっともと言えばもっともな事を言って奏子は男性陣を見る。
「いや、柩に封印を施した形跡がないか念の為調べよう。厄介払いで此処に送りつけてきたのだとしたら、迂闊に開けるのは危険だからな」
言って、慶悟は闇壱と亮一、そして草間に手伝わせて柩の前後左右、表裏に呪術らしい形跡がないかを調べる。
「幸い飾りに使うハシバミやヒイラギもあるし……護符代わりになるんじゃないかしら?あ、悪霊払い様の焚き火代わりに煙草に火、つけておいたら?武彦さん」
シュラインが言うと、あげはが口を開いた。
「これは予想ですが……中には、人が入っているんじゃないでしょうか……」
え?と振り返る面々。
「人が入っていると言う割には軽いようだが……」
草間が言うと、あげはは頷いて続けた。
「はい、あの人と言っても小さい……この子くらいの女の子じゃないかと……」
と、みあおを指差す。
実はあげはは遠隔視・透視を含めた千里眼の持ち主だ。
本人はそれをあまり知られたくないと思っているので詳しくは話さないのだが。
「って事は、開けても危険じゃないって事?」
みあおの言葉に、「はい、多分……」と答えてあげはは少し首を傾げる。
「何かが封印されているような形跡もない……子供だと言うなら今日のパーティーの出席者じゃないのか?」
と言う慶悟に、シュラインは今日の参加予定は今ここにいるメンバーと買い出しに出掛けている零だけだと答える。
「飛び入り参加かな?て言うか、中の女の子って生きてるの?」
「あら?そう言えばさっき耳を澄ませたけど呼吸の音なんて聞こえなかったわよ?」
シュラインの耳に聞こえない音など、あるだろうか。
全員が顔を見合わせる。
「諸行無常なんて言うから、こんな素敵な贈り物届いたんじゃないの?」
奏子が言った。
何の事かと首を傾げる面々。
ついさっき、草間が応接室から出る前に呟いた言葉なのだが、奏子はそれを聞いていたらしい。
「諸行無常の何がいけないんだ」
「さぁね。このままにしておく訳にもいかないんだし、開けてみれば?中身は女の子なんでしょう?生きているにしろ死んでいるにしろ、出すもの出してくれるなら出てきたものを殴りつける程度のことはしてもいいわよ。あんまり淑女のやることじゃないんだけどね」
お前の何処が淑女なんだ……と言う草間の呟きは無視して、開けるべきか開けざるべきか、奏子は一同を見る。
「折角楽しく準備されてる最中ですから。あまり無粋な真似もしたくはありませんよね、皆。‥‥‥中に入っている『女の子』に関しては『届け主』がはっきりしている以上、その「主」である草間さんが責任取ってくれるでしょう‥‥‥きっと」
苦笑しながら、決して反対はしない亮一。
「心配はいらない。何が出てきてもそれなりに対処出来る」
と、慶悟も反対はしない。
「責任なんか取らんぞ俺はっ!」
ただ一人、往生際の悪い草間。
その時、突然何かが光った。
「わっ」
驚きの声を上げて、みあおが振り返る。
と、あげはがデジカメを持っている。
「あ、すみません突然」
「あれ?記念撮影?それならみあおもやりたい!カメラちゃんと持ってきたんだ。そうだよね、折角柩があって、届け主の草間もいるんだから、記念撮影しないとだよね!」
「い、いえ、そうじゃなくて……」
持参したカメラを取り出して自分も撮影しようとするみあおに、あげはは慌ててデジカメを差し出す。
その画面に映し出された画像。
「おや?一体何を取ったんでやんすか?」
画像を覗き込み、闇壱は首を傾げる。
そこには草間も柩も写っていない。
「あの、念写をしてみました」
「念写?」
「念写と言うと、あの念写ですか?」
同じく、画像を覗き込んで奏子と亮一。
「……これは……、屋上か?」
慶悟が言った。
画面に映るのは、ビルかマンションか……コンクリートの地面と低い塀、そして青空。
「過去視で、この柩の元の位置を写してみました。もう1枚、良いですか?」
と、あげはは再びデジカメを構える。
普通にファインダーを覗くのではなく、額に押しつけるようにして目を閉じる。
そして数秒後、ゆっくりとシャッターを押した。
「多分、送り主が写っていると思うのですが」
あげはが差し出すデジカメを、全員が覗き込む。
「送り主……?祠のように見えるけれど?」
暫し眺めて、シュラインが言った。
「うーん……どう見ても祠でやんすねぇ……、この祠が送り主と言う事ざんすかね?」
「祠が送り主……そりゃ益々厄介払いの可能性が高いな」
まったくもう、どうしてこの興信所には面倒な物事しかやって来ないんだ。
実はこの所長には厄介事を引き寄せる才能でもあるんじゃないか……。
と言う視線で見られている事にはとんと気付かない草間。
「しょうがない、取り敢えず開けてみるか……このままここに置くのも邪魔だからな。女の子だと言うが、腐ると困る」
「届け主の許可も下りた事ですから、それでは開けてみますか?」
亮一が一同を見る。別段反対する者はいないようだ。
「で、誰が開けるの?」
「それは勿論、届け主の武彦さんでしょ」
「うん、贈り物を本人以外が開けるってちょっとマナー違反な感じだよね」
「……と言う訳でやんすから、草間さんが開けてください」
そうかやはり俺が開けるのか。
草間は心中で呟いて、柩に向かう。
取り敢えず打ち付けてある釘を外さなければ。
工具箱から釘抜きを取り出して、柩と蓋との間に無理矢理差し込む。
そして力任せに持ち上げようとしたその時。
「キャー!!痛い痛い痛いっ!!!」
何故か悲鳴が。
一旦顔を上げて、草間は誰も悲鳴を上げていない事を確認する。
そしてもう一度、力任せに釘抜きの柄を押した。
「イヤーっ助けて!痛ーいっ!!!」
「キャーッ!!こわーい!!」
甲高い少女の悲鳴(それも2人分)に呆気に取られる7人と草間の前で、突然柩はモワモワと煙を噴き。
「な、なんだぁ!?」
思わず尻餅を付く草間の前で、2人の少女に姿を変えた。
「やーんごめんなさいーっ」
「驚かすつもりはなかったんですーっ」
……怯えたように手を取り合って震える目でこちらを見る2人の少女。
朱色の袴姿だが、何故かにあおの仮装に似たふかふかの耳とぽってりとした尻尾が付いている。
「あら可愛いv」
つい正直に呟いてしまう奏子。
「おやおや、これは柩に似つかわしくない可愛いお嬢さんの登場でやんすね」
これは一体どう言う訳かと2人の少女を見る一同。
「ご、ごめんなさい」
「食べないで下さいー」
見分けの付かないそっくりの目に、涙を浮かべる少女2人。
「狐さんなの?でも何で2人なの?柩はどこに消えたの?」
手を取り合ったままの2人に、みあおが尋ねる。
「あたしが柩に化けて」
「あたしが中に入ってましたー」
と言う事は確かにあげはの言葉は当たっていたと言う事だ。
「ああ、成る程。だからさっき草間さんが蓋を開けようとしたら痛いと言ったんですか」
ポン、と手を打つ亮一。
「そうですー。痛かったですー」
「吃驚したですー」
「それは可哀想な事をしちゃったわね。大丈夫?怪我はないの?」
全くもう、武彦さんたら手荒なんだから……と言う視線で睨みつつ、シュライン。
「……やはり碌なモノじゃなかったな……」
軽く溜息を付いて草間の肩を叩く慶悟。
「あのぅ、でもどうして柩に?」
首を傾げるあげは。
至極最も且つ現状に相応しい疑問だ。
「それについては」
「話すと長くなるんですが」
くすんくすんと鼻を鳴らす2人。
「それなら、こんなところで立ち話もなんだから、中に入ってじっくり聞きましょう」
うっとりと2人の尻尾を見つめる奏子。
「そうね、お茶でも入れて……」
いそいそと中に入って行くシュライン。
何だか納得いかないのだが……。
仕方なく草間は応接間に戻った。
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「実はあたしたち」
「すぐ向かいのビルの屋上にいたんですけど」
と、シュラインの入れた紅茶を飲んで2人が口を開く。
「すぐ向かい?と言うと……?」
亮一が窓の外を見る。
「そう言えばビルがあったわね……数日前まで。取り壊されちゃったけど……」
カップをテーブルに置いてシュラインが言った。
確かに向かいには古いビルがあった。
今は工事中の柵に囲まれた空き地になっているのだが。
「はい。屋上に、あたしたちの祠がありまして」
「管理人のお爺さんが面倒を見てくれていたのですが」
何でも、その管理人が病気で亡くなり、以来誰も面倒を見てくれる人がいない。
と思ったら、ビルは老朽化が進み取り壊しが決定。
せめて自分達の居場所は確保して貰えるものと思ったら、新しい管理人は祠の存在など全く知らず、ビルもともろ取り壊されてしまったのだそうだ。
「あたしたち、住処がなくなってしまいまして」
「いつも拝見していたこちらには、色々な方が出入りしているようなので」
便乗して住まわせて貰おうと言う魂胆で、訪れたのだと言う。
「でも、何で柩なの?ハロウィンだから?」
ただ住まわせて欲しいだかならば普通に訪れたら良いものを、何故柩になる必要があるのか。
みあおが首を傾げると、2人は交互にその理由を語った。
「前の管理人さんが、よく祠を掃除しながら映画のお話をしてくださいまして」
「その中に、柩に入った花嫁のお話がありましたので、真似してみました」
「………………」
頭を抱えて深く溜息を付く草間。
「でも、こちらには既に住んでいる方がいらっしゃるようなので」
「あたしたちは他の場所を探すです。お騒がせしました……」
自分達と同じ耳と尻尾を持ったみあおを見て、しょんぼりとする2人。
「みあおは狐じゃないよ!今日はハロウィンだから、そう言う仮装なの!」
慌てて手を振るみあお。
「気にしなくて良いのよー、そんな事。可愛いあなた達を路頭に迷わせるなんて、出来ないわ。私には」
ソファの上に丸まった2本の尻尾を撫でつつ、奏子。
「だそうですよ、良かったでやんすねぇ、新しい住処が見付かって」
横に人形を座らせて紅茶を飲みつつ、闇壱。
「コラコラ、何を勝手に決めているっ!?」
慌てて草間が否定にかかったが、時既に遅し。
2人……2匹の狐の新居決定祝いを兼ねてのパーティーにしようと、シュラインと奏子、みあおと、犬の捜査を後回しにしたあげはが立ち上がる。
それを手伝おうとする亮一と闇壱。
「まぁ、精々頑張れ……」
煙草に火を付けつつちょっとだけ草間に同情する慶悟。
自分に関係ないので別段何の支障もないのだが。
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買い出しに出ていた零も戻り、準備も整った。
魔女に化けたシュラインと化け猫の仮装の奏子とみあおを入れて3匹の狐、そしてかぼちゃのお面を付けた亮一、吸血鬼の牙を付けた闇壱、ホストの幽霊だと言い張る慶悟。
仮装していないのは、未だ苦虫を噛み潰したような顔の草間と、飛び入り参加のあげは。
「ハロウィンのイベントなら、この格好では浮いてしまうわね……恥ずかしいわ」
と、あげはは心配していたのだが、パーティーが始まってしまえばそんな事は気にもかからない。
テーブルに並んだ料理と酒と、山ほどのお菓子に舌鼓を打って思う存分に楽しんだ。
特に2匹の狐少女は管理人が亡くなって以来飢えていたらしく、凄まじい早さで料理を平らげていった。
そして後日。
興信所の片隅に住み着いた2匹の狐少女達は、時折家賃として電球の切れた部屋に狐火を提供している。
end
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
0086 / シュライン・エマ / 女 / 26 /翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
1650 / 真迫・奏子 / 女 / 20 /芸者
1764 / 黒葉・闇壱 / 男 / 28 /古道具屋「宵幻堂」店主
0931 / 田沼・亮一 / 男 / 24 /探偵
0389 / 真名神・慶悟 / 男 / 20 /陰陽師
2129 / 観巫和・あげは / 女 / 19 /甘味処【和(なごみ)】の店主
1415 / 海原・みあお / 女 / 13 /小学生
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■ ライター通信 ■
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……ハロウィンにする必要があったのだろうかと疑問に思っている佳楽です、こんにちは。
この度はご利用有り難う御座いました。
ハロウィン……ハロウィンと言えば……何だろう……。
えーっと……えーっと……えーっと……。
あv溶かしたマシュマロにポップコーンを絡めたお菓子がありますね!
アレを何時か作ってみたいです。(←別にハロウィンじゃなくても良いんでは……)
とか言う訳で。
また何時か何かでお目に掛かれたら幸せです。
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