コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


幻想の国から〜エビフライの恐怖【1】

●ことのはじまり

 扉をノックをする。
 返事の声は聞こえるのだが、親切に開けてくれるという人間はいないらしい。
 大きなお皿に山盛りのエビフライを抱えた結城は、最初と同じように足で扉をノックした。
「ごめん、両手塞がってるんだ。ちょっとドア開けてくれない?」
 少し待つと、今度は中から扉が開かれた。
「こんにちは、結城さん」
 零がにっこりと笑って結城を迎え入れてくれる。
 武彦が、ギョッと目を丸くした。
「・・・なんだ、それは?」
「ああ、これ? お土産。この前のお詫び」
 半分以上大嘘なのだが・・・。
 箱詰めのお菓子ならともかくお皿に山盛り――結城もきちんとは数えていないが、三十尾以上は確実。多分実際にはもっと多いだろう――のエビフライなど、お土産としては不適当な部類に入ると思う。
 意味もなくそんなものを持ってくるのはなんだか不自然に思えて、結城はこの前のゴキブリ騒ぎのお詫びなどという言い訳を持ち出したのだ。
 ・・・・・・どっちにしても不自然なことには変わりない気がするが。
 実を言えばこのエビフライ、結城の友人である芳野風海(よしのふうか)の練習として作られたものだ。
 なんでエビフライに拘るんだか知らないが、完璧にマスターするまでに犠牲となったエビはおそらく百尾以上。
 今結城が持っているこれも、見た目は綺麗だが中身は・・・まあ、ロシアンルーレットだ。
 食べてみなければ成功か失敗かわからないと言う。まったく、見かけが綺麗なだけになお性質が悪い。
 ・・・たとえ美味しいエビフライだとしても、全部を一人で食べるには量が多すぎるが。
 そうしてこのエビフライの処分をどうしようと考えた挙句、思いついたのがこの草間興信所だった。
 ここならばいつもたくさんの人が集まっているし、すぐになくなると見込んだのだ。
「つーわけで、このエビフライ、冷蔵庫入れておくから」
 エビフライを冷蔵庫に仕舞いこんだ結城は、すぐさま興信所を立ち去った。
 外れを引いた人には悪いが・・・・・それも運命。諦めてもらおう。


●興信所の入口で

「あら、結城くん」
 その時シュライン・エマは、丁度興信所に戻ってきたところだった。
 今日は朝方から依頼で外に出ており、もうすぐお昼となるこの時間のたった今、戻ってきたところだったのだ。
「こんにちわ、エマさん」
 ここで人とすれ違うとは思っていなかったのか、結城は少しびっくりしたような様子でシュラインを見て、それから外行きの笑みを浮かべた。
 シュラインもつられて笑顔で返す。
「何か用事だったの?」
「あー・・・お裾分けを置いてきたところだったんだ」
 何故か遠い目をして、結城は告げた。
「お裾分け?」
「うん。作ったのは俺じゃなくて・・・俺の友達の風海で。でも俺食べないしどうしようかなって悩んでたとこに、ここのこと思い出して。で、この前のお詫びも兼ねてお裾分け」
 この前結城が持ちこんできた騒ぎ・・・シュラインは一瞬硬直した。思い出したくもない恐怖の出来事だ。
「ああ、そうなの」
 それでも一応表向きは平静を装って相槌を打つ。
 結城はこくりと頷いて。
「あ、そーだ。さっき草間さんに言い忘れたんだけどさ。食べた感想欲しいんだって、風海が。また来るからさ、よかったらその時にでも聞かせてよ」
「ええ、わかったわ。それじゃ」
「じゃあなー」
 ぱたぱたと元気に駆けて行く結城を見送って、シュラインは興信所に入っていった。


●冷蔵庫の中に

 興信所に戻ってきたシュラインは、武彦と麗と挨拶を交わし、結城のお土産の話をしてすぐに冷蔵庫に向かった。
 その時、扉が開く音と聞き覚えのある声が聞こえてきた。榊船亜真知の声だ。
「あら、こんにちわ」
「こんにちわ」
 台所に顔を出した亜真知は、シュラインに気付くとにっこりと笑って、手に持っていた菓子折りを示した。
「これ、作りすぎてしまったのでお裾分けに来ました」
「どうもありがとう」
 菓子折りを受け取って、シュラインは冷蔵庫を開けた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 二人は、思わず目を点にした。
 冷蔵庫に放り込まれているエビフライの山!
 ざっと見ただけでも軽く三十尾以上はある。あくまでざっと見ただけだから、実際にはもっと多いだろう。
「これが、お裾分け?」
「どなたのお裾分けなんですか・・・?」
「結城くん、なんだけど・・」
 目を丸くした二人は、半ば茫然としたまま淡々と言葉を交わす。
「お裾分けって量じゃないですよね・・・・・・」
「ええ」
 時計を見れば時刻は十二時ちょっと前。そして今日は土曜日。
 もう少し時間が経てば、学校帰りの学生たちが遊びに――本来ここは遊び場ではないはずなのだが、何故か人が溜まる――来るはずだ。
 亜真知も、シュラインと同じようなコトを考えたらしい。
「せっかくですから、みんなで戴きましょう。もうすぐ皆さんが来る時間ですよね?」
「ええ、そうね」
 だがさすがに全部を一気に食べるのは無理がありそうだ。
 一部をお皿に移し変えて、電子レンジで温めて。
 それからシュラインは、結城の伝言を冷蔵庫と皿の端に張りつけた。
『結城くんに会ったら食べた感想を言ってあげてね エマ』
「ああ、そうだ。エビフライだけって、辛いですよね・・・・・・」
「そうねえ、白い御飯があると良いんだけど。それから、調味料もいるわね」
 二人はあれもこれもと話しながら、食事会(?)の準備を進めていった。


●お昼御飯を食べよう

 御飯を炊いて。それからお酢と醤油、ソースにマヨネーズにタルタルソースと数々の調味料を用意して。
 武彦、零、シュライン、亜真知の四人は昼食の卓についた。
「しっかし、よく作ったなあ」
 でんっとテーブルに置かれたエビフライに、武彦は感嘆の声をあげた。
 ただしこれでもまだ三分の一以下。冷蔵庫の中にはまだ山と重なるエビフライがある。
「この量って、かなりお金かかってそうよねえ」
 お箸を手にしたシュラインは、どこから手をつけるか少しばかり悩みつつ皿のエビフライを見つめた。
「まあ・・・でも、せっかく置いて行ってくれたんだし、深くは考えないことにしません?」
 零が苦笑して呟く。
 この興信所の貧乏状況を知りすぎるくらいによく知ってしまっているせいか、ついつい予算やお金の方へと思考がいってしまう零とシュライン。
 亜真知は、そんな二人ににっこりと笑みを向けた。
「そろそろ頂きません?」
 これから来るはずの人員を待ってもよかったのだが、下手をすると座る場所がないだとか、集った人員によってはまったく食べられない人が出るかもしれないとかいう話し合いがなされた結果。とりあえず軽く昼飯程度でも食べておこうという結論に至った四人は揃っていただきますを言うと、エビフライへと箸を伸ばした。
「・・・・・・」
 一口食べて、シュラインは一旦手を止めた。
 見た目は綺麗な色に揚がっている。
 だが味は・・・・・・。
 普通エビフライとはエビに衣をつけて揚げるだけなのに、なぜこんなことになるのだろう?
 妙な生臭さが口の中に広がる。そしてなんとも形容し難い味が――いったいどんな調理をすればこんな味になるのかちょっと知りたい気がした――舌を刺激した。
「・・・・・・・」
 シュラインは無言のまま、こっそりと武彦の皿にエビフライを移す。
 その意味に気付いたのか武彦が非難の目を向けてくるが、悪いけれど黙殺する。
 諦めたのか武彦は小さな溜息をついて、そのエビフライを一口で食べ―― 
「あの・・・兄さん?」
 武彦が、硬直した。
「どうかしたんですか?」
 亜真知の問いには答えず。
 武彦は、
 ふらりと一瞬傾いた。
「やだ、武彦さん!?」
「これは・・・けっこう効いたぞ」
「一気に口に入れるから・・・・・・・」
「まずいとわかっているエビフライをもそもそとのんびり食べたくない」
 確かにそれも正論である。
「私が食べたのは結構美味しかったのですけど・・・」
 亜真知の言葉に、残る三人はじっとエビフライの山を見つめた。
 シュラインは、恐る恐る、別のエビフライを口にする。
「・・・・・あら」
 美味しかった。
「・・・・ある意味とんでもないな」
 武彦が呟く。
 見た目では全部それなりに美味しそうな感じなのだ。
 つまり、食べてみないとわからないロシアンルーレット。
 四人は神妙な顔でエビフライを見つめ、そして数種類の調味料に目をやった。
 単純に、エビフライばかりでは飽きるからせめて調味料で差をつけようと思って用意したものだったのだが・・・・・・。
 これは用意しておいて正解だったかもしれない。
「とりあえず、もう少し頑張ります?」
 皿の上にはまだ大量のエビフライ。
 冷蔵庫にはその倍以上のエビフライ。
「そうねえ・・・・おみくじエビフライだとでも考えれば、まあ・・・」
 美味しい当たりが出ますようにと祈りつつ箸を進めるドキドキ感はそれなりに楽しいかもしれない。
 四人は、一度は中断しかけたお昼御飯を再開するべく手を動かすのであった。


●ことのおわり

 ノックの音がしたと思ったその直後。
「こんにちわ〜」
 やってきたのは藤井葛。
「あら、いらっしゃい」
 元気に入ってきた葛は、テーブルの上に積み上げられたエビフライを見て目を丸くしている。
「丁度良いところに来た。一緒に食べないか?」
 武彦の誘いに、葛は上機嫌で近場のソファーに腰掛けた。
「ホントにこれ食べていいの?」
「まだまだたくさんありますから」
 亜真知の答えに、葛が浮かれた声をあげる。
「一人暮らしだからなかなか食べる機会がないんだよね〜♪」
「あ、じゃあ私お箸持ってきますね」
 零がパタパタと台所へ向かって行く。
 その後ろ姿を眺めながら、シュラインは少しだけ迷っていた。
 ロシアンエビフライだと告げておいた方がよいのかどうか・・・・・・。
 だがエビフライはまだまだ大量にあるのだ。
 運良くまずいエビフライにぶつからないかもしれないのに、先に事実を告げて処理要員を減らすのは得策ではない。
 少し悪いなと思いながらも、シュラインはその場に立ちあがった。
「あら、もうこんな時間。私はもう行くわね。このあとアトラスの方に顔出す約束があるのよ」
 別に嘘ではないし、もうそろそろ出ないと間に合わないのも本当だった。
 まあ、あとで出るかもしれない文句から逃げたという見かたもできなくはないが・・・・。
「それじゃ、ゆっくりしてってね」
 葛と亜真知に告げ、シュラインは興信所をあとにした。
 今はまだいい。しかしこのあときっと続々と集まる面子があのエビフライを食べた時・・・・あまり大きな騒ぎにならないことを祈るばかりである。


□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
整理番号|PC名|性別|年齢|職業

0086|シュライン・エマ|女|26|翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
1593|榊船亜真知|女|999|超高位次元知的生命体・・・神さま!?
1312|藤井葛  |女|22|学生
0389|真名神慶悟|男|20|陰陽師
1415|海原みあお|女|13|小学生
1838|鬼頭郡司 |男|15|高校生・雷鬼

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

こんにちわ、日向 葵です。
このたびはエビフライの恐怖にご参加頂きありがとうございました。
タイトル横の番号は時間経過順に並んでおります。
【1】は昼前、【2】は昼過ぎ、【3】は夕方。
後ろにいる人ほど、まずいエビフライを食べる確率が高くなっていました。
作りながらエビフライを重ねていったので、下のほうにあるものほどマズい・・・(笑)

ある意味一番平和だった1番の皆様。お疲れ様でした。
一番美味しいものを食べられる確率が高い時間帯だったのですが、あまりにも楽しいプレイングに、思いきりまずいエビフライがちょっとだけ登場しました(笑)