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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


このままずっと・・・

●貴方の願い、叶えます

***
投稿者:
題名:貴方の願いを叶えます

 楽しい時間がいつまでも続けば良いと思ったことはありませんか?
 永遠に大切な人の隣にいたいと思ったことはありませんか?
 ずっと今の幸せの中で過ごしたいと思うことはありませんか?

 貴方の願いを叶えて差し上げます。

***

「胡散くさいなあ・・・」
 投稿者の欄が空白だなんて、どう連絡を取れというのだ。・・・こっちでメールアドレス付きのレスを返すという手もあるが。
 怪奇事件とは少し違う雰囲気だし、放っておいても良いだろうか?
 一通り掲示板のチェックを終えた頃には、雫の判断はもう決まっていた。
「ん、そうしようっと」
 とりあえず数日様子を見て、必要とあらば発言を削除するのが妥当なところだろう。


 ――それは、事件の始まりを予告する書きこみだった。
 数日後。
 この書きこみに「願いを叶えて欲しい」とレスをつけた人間が、ことごとく行方不明になっていたのだ。


●ある月夜に

 噂というのは広がるのが早いものだ。
 匿名の世界であるインターネット上で、その噂はあっという間に広がった。
 『貴方の願いを叶えます』
 その書きこみに願いを書いたレスを返した人物が行方不明になるという。

 インターネット上にそんな噂が広まるより数日前――。

 細い三日月が藍の空に浮かんだ夜。星が明るく瞬くの夜空の下で。
 ふいに、キリート・サーティーンは誰かに呼ばれて振り返った。
「・・・・・条件が、揃いかけている・・・・・」
 キリートは、完全ではないものの吸血鬼だ。
 だがその行動は一般に言われる吸血鬼のそれとは大きく違っている。
 彼は吸血鬼でありながら人間の血を吸わない。正確に言えば、キリートを作った吸血鬼の戒めにより吸えないのだ。
 そして彼は限りなく概念に近い存在であり、ある条件が揃うと他者の願いを叶えるためにその姿をあらわす。そして、願いを叶えるための条件が揃った者には絶対服従する。
 ・・・夜闇の中を吸血鬼が飛ぶ。
 願う聲に導かれ。
 キリートがやってきたのは真夜中だと言うのに明るい街の雑踏の中。
「・・・・・・・・・・・・」
 見上げれば、そこにもう星はなかった。
 明るすぎる街の灯に照らされて、星の光は薄く――三日月が照らす光も弱くなっているように見えた。
 聲が
 願う。
 ――サミシイ
 ――ダレカ
 ――・・・・・・・・・・・・
「・・・?」
 唐突に、聲が途切れた。
 改めて周囲を見れば、そこはまだ街の真ん中。大通りの中央で立ち止まったキリートに鬱陶しげな視線を向けてくる若者たち。
 これは・・・悲しみだろうか? 落胆だろうか? それとも、絶望だろうか?
 聲が聞こえなくなった代わりとばかりに、強い感情の気配がキリートに届く。
 感情の元を追って視線を向けた場所にはビルがあった。
「あそこか」
 カツン、と音が鳴る。
 隠す理由もないので気にしないが。
 コツ、コツと階段を昇っていったところにあったのは、インターネットカフェの看板を掲げる店だった。
「この奥から・・・・・・」
 深夜だと言うのに、店は明るかった。
 だが人の出入りが多いわけではなく、店の外であり殺風景なビルの階段の踊り場であるこの場所に他の人間の姿はなかった。
 キリートの身体が、すうっと闇に溶ける。
 店の奥――願い持つ者の前で、キリートの姿が闇から有(ゆう)へと戻った。
 だが。
 血の色にも似た赤い瞳が、目的の者を探して彷徨う。
「・・・・・・これは・・・・」
 確かに、その感情はここから発せられている。
 キリートは全身で願い持つ者の心をひしひしと感じ取っていた。
 それなのに。
 この店の席の中ではもっとも入口から遠い、一番奥の場所。左右は壁に囲まれていて外からは見えない、プレイベートスペースの一つ。

 そこには・だれも・いなかった。

 ずっと客がいなかったのだろうか。電源が落ちているモニタの前で、キリートは半ば茫然としていた。
 今まで何人もの人間の願いを叶えてきた。
 だがこんなことは初めてだ。
 部屋の中には哀しみと絶望を纏った重い空気が満ちている。
 キリートは鋭い瞳で部屋の中を見まわす。
 人の姿はない。
 だが。
 間違えるはずがない。
 ここに、願いを求める者がいるのだ。
「・・・・・・ここにいるのでしょう?」
 沈黙。
「私は裏切らない」
 気配が、揺らぐ。
「嘘をつかない」
 途絶えていた聲が、戻ってくる。
「・・・・・・さあ、願いをおっしゃってください」
 願いを叶えるための条件はほぼ揃っている。
 時間帯が夕方から夜であること。
 恐怖、絶望、悲しみ、落胆――その感情のうちのどれか一つを強く発していること。
 そして。
「逆ですよ」
 死の気配を強く宿した少女が、キリートの前に姿を現した。
 少女は静かに口の端を上げて微笑み、だが瞳は哀しげに伏せられていた。
「ここで出会ったのも何かの縁です。
 楽しい時間がいつまでも続けば良いと思ったことはありませんか?
 永遠に大切な人の隣にいたいと思ったことはありませんか?
 ずっと今の幸せの中で過ごしたいと思うことはありませんか?
 あの時ああしていれば、こう言っていれば・・・そんなふうに思ったことはありませんか?」
 静かに静かに。
 リンと細く響く鈴のような声。
「どうぞ願いをおっしゃってください。貴方の願いを叶えて差し上げます」
 キリートは返す言葉を見つけられずに沈黙した。


●願いを叶える者

 少女と出会ってから数日。
 キリートは再度ネットカフェを訪れていた。
 彼女は願いを言わない。
 『貴方の願いを叶えることが自分の願いだ』
 そんなふうに言ってくれれば、まだ対処のしようもあるのだが――といっても、キリート自身に願いらしい願いなどないが――少女が自らの願いを告げることはなかった。
 願いを叶えることを己の意義とする者同士。互いに願いはなく、ゆえに、お互いの言葉は平行線のままだったのだ。
 だがそれでも、彼女はキリートを呼ぶ。
 その悲しみと絶望と。纏う死の気配と。そして本人は自覚していないのかもしれない、自らの願いを込めた聲で。
 だからキリートは今日も彼女の元に行くのだ。
 彼女の真の願いを聞くために・・・・・・。
 時は夕刻。夕闇の奥から、キリートはもう見慣れた彼女の住まう地へと向かう。
「キミは・・・・・・」
 その日は、先客がいた。
 キリートは優雅に一礼をして、
「私はキリート・サーティーンと言います。彼女の願いを、叶える者です」
 穏やかな物言いとは裏腹に、感情の見えにくい冷たい瞳で告げた。
「どういうことですか?」
 銀の髪と青い瞳。青年は、綺麗に整った顔立ちに困惑の色を浮かべて問いかけた。
 隠す必要もないから、キリートは素直に告げる。
「彼女は条件を揃えた。ゆえに私は、彼女の願いを聞きに来たのです」
 青年に答えつつも、キリートの瞳は青年を見ていなかった。
 見つめられた少女は、哀しげに目を伏せてキリートから視線を外し、そして。
 そっと青年の手に腕時計を触れさせた。
「貴方の願いは叶えられました」
「え・・?」
 青年の疑問に答えることはせず、少女はくるりとキリートに向き直った。
「私自身に願いはありません。どうか、お引き取りください」
「・・・本当に?」
 きっぱりと言った少女に、だがキリートは確信を持った声で問い返した。
 願いはないと告げる少女。
 けれど。
 もし本当に願いがないのならば、キリートが呼ばれるはずがないのだ。
「淋しいと仰っていましたよね。・・・何故ですか?」
 優しく尋ねる青年に、少女は小さく微笑んだ。
「一人は、淋しいから」
「だから願いを叶えると言って、人々を引き込んでいたのですか?」
 少女は、首を横に振る。
「いいえ・・・私は彼らの願いを叶えていただけです」
 はっきりと少女が告げたその時。
 新しい客が入ってきたのだろうか?
 それにしては少しばかり様子がおかしいが・・・・・・。
 入口のほうから、焦ったような声が聞こえた。


●少女の願い

 ネットカフェの一角に、一種異様な空気があった。
 狭いプライベートスペースに六人。
 少女の願いを叶えに来たキリート・サーティーン。行方不明事件を調べていたセレスティ・カーニンガム、海原みなも、直井晴佳、矢塚朱羽。
 そして。
 今回の事件の発端である少女。
「それで・・・どうなったんだ?」
 朱羽の問いに、一人このネットカフェに先に来ていたセレスティが状況を説明する。
 少女が一人で淋しいと思っていること。だが今回の行方不明については、単純に願いを叶えているだけで、人間を引き込んだわけではないということ。
 それから、突然現われたキリートのこと。
「では、何故レスをつけた人が行方不明になったんですか?」
 みなもの問いに、少女はふいと時計を見つめた。
「彼らは、閉じた時間の中にいたんです。正常な時間の流れの中で彼らが消えたように見えたのは、彼らがいつも同じポイントで過去に戻って、時間をやりなおしているからなんです」
「閉じた時間・・・」
 オウム返しに呟いた晴佳に、少女は淋しげな笑みを浮かべた。
「幸せな時間を永遠に繰り返す。そうすれば、哀しい未来にたどり着くことはなくなるでしょう?」
「それは間違いだ」
 朱羽の瞳が厳しさを増す。
「・・・哀しい未来を知らなければ。そこに着かなければ。あの人は死なずにすんだんです」
「あの人・・・?」
「生きることに絶望して、自ら死を選んでしまった・・・」
 少女はチラと、時計を見る。可愛らしい、女物の腕時計を。
「この時計の持ち主ですか」
 こくりと頷いた少女は、ゆっくりと口を開いた。
「貴方の願いは叶えられました。閉じた時間は、開かれました。彼らが、それを望むかどうかはわかりませんけれど」
「望まないかもしれないが、それは逃げてるだけだろう。そもそも、誰かに縋って自分の願いを叶えようという根性が嫌いだ」
 朱羽は眉を顰めてそんなふうに言う。
「その考えがすべて間違っているとは言わない・・・・・・だが」
 朱羽の発言に今まで黙って事の成り行きを見守っていたキリートが告げ、それから、少女に向き直った。
「一人では叶えられぬ願いというのもある」
 その言葉を受けて、セレスティが微笑む。
「貴方自身にも願いはあるのではないですか?」
 淋しいといった時の少女の表情は、とても演技には見えなかった。
「現状に満足してるようには見えないしな」
 晴佳が、セレスティのあとに続く。
「・・・未来が哀しいものと決めつけることはないと思うんです。それに、本当に哀しい未来だったとしても、乗り越えることだってできるはずです」
 みなもは、自信をもってそう告げた。
 辛い想いをしても、誰しもが必ずその重みに負けてしまうわけではない。
 しばらく茫然とした表情を浮かべていた少女が、ふいに、笑みを浮かべた。
「そう・・・・・そうね。じゃあ、お願い」
 一旦言葉を切った彼女の姿は、ほとんど消えかけていた。
「貴方が、幸せな未来へ進めますように」
 それは願いというより祈りのようだった。

 ――そして。
 彼女が消えたあと、そこには針の止まった腕時計だけが残されていた。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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整理番号|PC名|性別|年齢|職業

1986|キリート・サーティーン |男|800|吸血鬼
1883|セレスティ・カーニンガム|男|725|財閥総帥・占い師・水霊使い
2058|矢塚朱羽    |男| 17|焔法師
2101|直井晴佳        |男| 17|高校生/獣人
1252|海原みなも       |女| 13|中学生

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、日向 葵です。
 セレスティさん、みなもさん。いつもお世話になっております。
 キリートさん、朱羽さん、晴佳さん。初めまして。
 今回は依頼に参加いただきありがとうございました。

 少女とキリートさんの、願いを叶える者同士の会話がとても楽しかったです♪
 セレスティさんの提案はナイスでした。おかげで誰の犠牲もなくあっさりと全員帰ってきました。
 文中でも触れてますが、行方不明者はみんな過去や現在の永遠を望んだために行方不明になっていたので。
 朱羽さんの真実を見る能力のおかげで、居残り組(?)もあっさりと正体が掴めて移動することができました。ありがとうございます♪
 晴佳さん、あんまり朱羽さんとの絡みが書けなくてすみません。次の機会がありましたら、その時こそは・・・(涙)
 みなもさんは、今回は宥め役にまわっていただきました。あまりプレイングいかせなくて申し訳なかったのですが、その分みなもさんの最後の台詞に気合を入れました(苦笑
 次の機会がありましたら、その時にはもっとプレイングをいかせるよう精進します。

 それでは、今回はこの辺で失礼します。
 どうもありがとうございました。
 またお会いする機会がありましたら、その時はよろしくお願いします。