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収穫祭
0・依頼
「芋ほりを手伝ってくださいまし。」
農作業に適した格好をした男は草間にそういった。
その一言で草間の糸がぷつんと切れた。
「ここは何でも屋じゃない。おい、零。客のお帰りだ。」
「は、はい・・・。」
零がおたおたと周りを見回した。
男はそれでもなお言葉を続けた。
「草間様、収穫時期は今しかないのございます。貴方様のお力をお借りせねば、収穫されない芋たちは腐るばかり。どうかお力をお貸し賜りたいのでございます。」
丁重に男は頭を下げた。
草間は眉間にしわを寄せたまま目をつぶった。
「・・・なぜ俺じゃなければならん?」
「えぇ、他のお方では辿り着くことも出来はしないと。」
男はゆっくりと頭を上げた。嫌な予感が草間に告げた。
これはまたあっち方面の依頼なのだと。
「もちろん報酬の方は弾ませていただきます。どうでございましょう?お手伝いいただけますでしょうか?」
「・・・俺よりも適任のヤツを紹介する。それでいいか?」
「もちろんでございますとも。貴方様のお墨付きであれば十分お手伝いいただけますから。」
草間は(さて、誰に頼んだものか?)とタバコに火をつけてくゆらせた。
1・集
「私が行きますわ。」
事務仕事をしていたシュライン・エマが立ち上がった。
「・・おまえが?」
草間が鸚鵡返しに聞いた。
「あら、私が行くのに武彦さんはご不満ですか?」
エマは別段不快そうにするでもなく訊ねた。
「いや、特にそういう訳じゃ・・。」
言葉を濁した草間にエマは「あぁ、そうだ」と何かを思い出した。
「そこで寝てるあんた。」
エマはソファに近寄り、うたた寝していた柚品弧月(ゆしなこげつ)を揺すり起こした。
「・・何ですか?俺、今朝方まで発掘調査の仕事してて、とても疲れてるんですけど・・・。」
柚品は寝ぼけ眼でエマを見た。
「そう。それそれ。発掘調査してるぐらいだもの、芋掘りなんかお手の物じゃなくて?」
「・・芋掘り?」
柚品が興味を示し起き上がったのを見て、エマはにこりと草間に向き直った。
「ほら、こんないい助っ人がいたわ。」
と言った時、バンッと勢いよく扉が開き2人の男が入ってきた。
「面白そうだな武彦!俺も行くぞ!」
「俺も行く!!」
そこには立ち聞きしていたらしい伍宮春華(いつみやはるか)と天音神孝(あまねがみこう)が牽制し合うように立っていた。
「あら。適任が来たじゃない。決まりね?武彦さん。」
エマがそういうと草間は一抹の不安を感じながらも了承した。
「そろそろ行きませんと、収穫が遅くなりますので・・。」
すっかり忘れられた依頼人の男が口を挟んだ。
「せめて準備くらいはさせてもらいたいな」と、天音神が言った。
「そうね。それにまだ色々とお話も聞きたいし。」エマが目を光らせた。
「そうでございますね。準備には30分ほどあればよろしいでしょうか?」
男はそう言って時計を見た。
「わかった。即行で準備してくる」と天音神は一旦興信所を後にした。
「俺もちょっと行ってくる」天音神に続き伍宮も興信所を後にした。
2・尋問
エマと柚品は男に話を聞く事にした。
エマは興信所内にある使えそうなものを一通り集め、柚品は発掘帰りなので事足りると判断し興信所に残っていた。
「で、お聞きしたいのは・・・」と、エマが切り出すよりも早く男は語りだした。
「収穫いたしますのは、独自のサツマイモでございます。特殊な道具は必要ではございませんし、芋が動き出したりは致しません。ただ、畑の場所が問題でございます。『嫉み(そねみ)の道』を通らねばなりません。」
エマは眉をひそめた。
この男はエマの訊こうとした質問を次々に答えていったからだ。
「申し訳ございません、シュライン・エマ様。私読心術を心得ておりますので、つい・・。」
男はそういうと深々と頭を下げた。追及を口にする暇もなく謝られエマは文句を言うタイミングを失い「いえ、以後お気をつけくださいな」と言うしかなかった。
「『嫉みの道』とは一体?」と、柚品が話を元に戻した。
「人の負の感情が集う道・・・と言ったところでございましょうか。」
「何か、危険があるのですか?」
エマがそう訊くと、男は頷いた。
やはり草間興信所に持ち込まれる依頼はタダでは済まない物ばかりか、とエマと柚品は溜息をついた。
「ただいま!!」
「いざ行かん!俺の芋!」
再び、バンッと牽制するように入ってきた天音神と伍宮。
見ると伍宮は先ほどの姿と変わりない和服だが天音神はその姿を一変させていた。
動きやすさ重視の服・重々しく膨らんだリュック・軍手をはめた姿はまさにサバイバー。
「・・・」
一同言葉を失うもエマは冷静さを失わずに「行きましょう」と男を促し興信所を後にした。
3・嫉みの道
エマは道すがら伍宮と天音神に依頼の詳細を教えた。
その説明が終わる頃、一同は『嫉みの道』へと辿り着いた。
いつの間にか東京の町並みが消え、辺りが霧に覆われていた。
「さて申し訳ないのですが、襲ってくる輩もおると思いますのでご用心くださいませ。」
男はそういうと一歩を踏み出した。
「・・・」
気を引き締め、その一歩に続く。
と次の瞬間、人の腐りかけの様な者が次々と溢れる様に現れた!
「っ!気持ちのいいものじゃないわね。」
エマが後ろに仰け反るとその前を柚品が遮る様に立った。
「男が三人もいるのに、女性に戦わせるわけにいきません。」
柚品がエマを守るように戦う。
たまにはか弱い女の子みたいに守られてみるのも悪くはないわね。エマは内心笑った。
敵を全滅させると「ありがとう」とエマは柚品に言った。
なぜか天音神と伍宮は向き合って笑っていた。
「流石、草間様のお墨付きでございます。お見事。」
拍手の後、男が一方向を指差した。
「畑はもうすぐです。襲ってくる輩も、もうおりますまい。」
一同は最初の依頼を果たすべく、畑への道を歩き始めた。
4・収穫
金色の葉、一面の畑。その一区画に緑の葉が見える。
「サツマイモってあっちの緑色の葉じゃなかったかしら?」
エマが鋭い質問を男に放った。
「この金色の葉が独自のサツマイモでございます。」
「品種改良してメッチャ美味いとか?」
天音神が軍手の具合を確認して、シャベルと武器を両手に何やら悩んでいる。
「とても美味しいですとも。」
「腕が鳴るぜ!俺に任せとけって!こういうのは山に居たから慣れてんだよ!」
いたずらっ子のように笑い、伍宮は誰に言われるでもなく作業を開始した。
「あ!こら!抜け駆けすんな!」と後に続いて天音神も作業を開始した。
柚品をちらりと見たら呆然と立ち尽くしていた。
エマは柚品に近寄ると背中をポンと叩き「始めましょう」と促した。
「そ、そうですね。見てるだけでは収穫できませんね。」
柚品はそういうと自分の荷物からシャベルを持ち出してせっせと掘り出した。
エマは軍手をはめた手で地表部分に出ているツルを引っ張った。
多少手は汚れたもののサラサラとした土は意外と簡単に収穫させてくれた。
出てくる芋は金色がかった白色に見えた。全部の芋を収穫すると二つの山が出来た。
白色の芋と普通に売っている赤紫の芋の山。
「ありがとうございました。今年は無事に収穫を終えられました。貴方様方が一生懸命掘って下さったおかげでございます。」
男は深々と頭を下げた。そして言った。
「報酬は赤紫のサツマイモの山、全てをお持ち下さいませ。」
「なにー!?じゃあそっちのメッチャ美味いって芋は!?」
天音神が掴みかからん勢いで異議を申し立てた。
「申し訳ございません。既に行き先が決まっておりますゆえ。近日貴方様方の所にも届くかもしれませんが・・。」
「なんだよそれー!」伍宮が不愉快さを満面に浮かべた。
「どういうことでしょう?私達の所にも届くというのは。」
伍宮を制止し、エマは冷静に男にそう訊いた。
「・・手伝って頂いた事ですし、お答え致します。実は私、運命管理局員でございます。これは私がサツマイモに似せて作った『幸せ』。これを人々に配る事によって様々な幸せを皆様にお届けするのです。腐らせてしまえば『不幸』になりますが。」
『運命管理局?』と頭に疑問符が浮かんだが、そこは何でもありの草間興信所。
未知な物などまだまだいくらでもあるのだと納得せざるを得ない。
「では、こちらの紫の芋は?」
柚品は素朴な疑問を口にした。
「そちらは趣味で育てたサツマイモ『ベニアズマ』でございます。『幸せ』を作る参考にした物でございます。」
男は微笑んで再度深く礼をすると雲散霧消した。
と同時に白い芋の山も消え、4人は草間興信所前に紫の芋の山と共に立っていた。
5・収穫祭
芋を草間興信所内に運び、エマは零と共に早速調理を始めた。
蒸し芋・芋の天ぷら・スイートポテト・大学芋・煮物に味噌汁他多数。
芋づくしの料理をずらっとテーブルの上に並べると壮観だった。
当分は芋料理が続く事になるが、興信所の家計の足しにはなる。
「どうですか?武彦さん。」
「んまい。秋って感じだな。」
美味そうに食す草間を見つめ、エマは思った。
これもあの依頼人が作った芋の『幸せ』なのかしら?と。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【0086 / シュライン・エマ / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【1892 / 伍宮・春華 / 男 / 75 / 中学生】
【1990 / 天音神・孝 / 男 / 367 / フリーの運び屋・フリーター・異世界調査員】
【1582 / 柚品・弧月 / 男 / 22 / 大学生】
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■ ライター通信 ■
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シュライン・エマ様
初めまして、とーいと申します。
この度は曖昧な調査依頼を受けて戴きありがとうございます。
仕事に対するスマートさと草間氏に対する恋心が素敵な女性でしたので、そちらに重点を置かせて戴きました。
詰め込みすぎの感がありますが、少しでも幸せを感じていただけたら幸いです。
またいつかお会いできることを夢見て。
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