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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


このままずっと・・・

●貴方の願い、叶えます

***
投稿者:
題名:貴方の願いを叶えます

 楽しい時間がいつまでも続けば良いと思ったことはありませんか?
 永遠に大切な人の隣にいたいと思ったことはありませんか?
 ずっと今の幸せの中で過ごしたいと思うことはありませんか?

 貴方の願いを叶えて差し上げます。

***

「胡散くさいなあ・・・」
 投稿者の欄が空白だなんて、どう連絡を取れというのだ。・・・こっちでメールアドレス付きのレスを返すという手もあるが。
 怪奇事件とは少し違う雰囲気だし、放っておいても良いだろうか?
 一通り掲示板のチェックを終えた頃には、雫の判断はもう決まっていた。
「ん、そうしようっと」
 とりあえず数日様子を見て、必要とあらば発言を削除するのが妥当なところだろう。


 ――それは、事件の始まりを予告する書きこみだった。
 数日後。
 この書きこみに「願いを叶えて欲しい」とレスをつけた人間が、ことごとく行方不明になっていたのだ。


●ゴーストネットにて

 噂というのは広がるのが早いものだ。
 匿名の世界であるインターネット上で、その噂はあっという間に広がった。
 『貴方の願いを叶えます』
 その書きこみに願いを書いたレスを返した人物が行方不明になるという。
 ゴーストネット掲示板の上で今話題のその噂に反応した者が四人。海原みなも、矢塚朱羽、直井晴佳、セレスティ・カーニンガムである。
「一応、もう発言は削除しちゃったんだけど・・・」
 興味本意で次々レスをつけられて、行方不明者が――まだ噂の段階だが、火のない所に煙は立たぬ。噂の出所がこの掲示板ならば尚更だ――増えても困るからと言い足して。雫は、集まった四人にそのスレッドのログを見せた。
 最初の書きこみに影響されてか、それぞれの理由は違ってもほとんどが『現在(いま)がずっと続ければいい』だとか『過去の幸せな時間に戻りたい』というような内容のレスだった。
「レスを付けた人物の行方を追えれば良いのですけど・・・」
「そうですね、何かに巻き込まれているなら助けたいですし」
 ログを確認しつつ、セレスティとみなもが呟く。
 ざっとログを読んだあと、朱羽がくるりと雫の方へ振り返った。
「消えた人は、特定できているのか?」
「全然、わかんない」
 ニュースになるほどの大きな事件でもないかぎり、どこで誰が行方不明になっているかなんてわからない。レスをつけた人間がもともと無断外泊の多い人間だったりしたらそもそも捜索願すら出されていない――行方不明だと思われていない可能性だってあるのだ。
 それに、もしそれらの情報を手に入れたとしてもその中の誰がゴーストネット掲示板にレスをつけた人間なのかまではわからないし。
 雫の答えに少しばかりイライラした様子を見せた朱羽の肩に、晴佳がぽんっと手を置いた。
「なんとかなるって。とにかく行動しようぜ、なんでもいいからさ」
 何も考えていないような発言に朱羽は呆れた表情を浮かべたが、その代わりイライラは少し治まったようだ。
「そうだな・・・危険を承知で、レスをつけるのが一番手っ取り早いか。だけどその前にやることがある」
 言って朱羽は空白の投稿者欄を指差した。
「名前がなくても、IPから接続元を割り出すことはできるんじゃないか?」
「もうやったの」
 雫は肩を落として告げた。
 接続元は都内のとあるネットカフェ。いつ誰がどこに繋いだかだなんていちいち覚えてる人間はいなかったのだ。
「大丈夫?」
 不安そうな雫に、みなもがにっこりと笑いかけた。
「さっき直井さんも言ってましたし、なんとかなりますよ」
 レスをつけるとどうなるのか・・・・・・恐くないといえば嘘になるが、だがみなもはこの事態を放っておけるような性格ではなかった。
「そうですね・・・・・・なら、『願いを叶えて欲しいとレスを付けた人々を返還して頂くことが願い』と書いてみてはどうでしょう?」
「そうか。それなら他の人間は戻ってくるもんな」
 ここに集っているのは多かれ少なかれ怪奇現象に関わっており、それなりの力を持っている者ばかりだ。
 セレスティの提案に、みなも、朱羽、晴佳は頷いて答えた。


●現われた者

***
投稿者:セレスティ
題名:願い

 このスレッドにレスをつけて行方不明になった人を返してください。

***

 レスをつけるために一度書きこみを掲示板内に復帰させ、自分が言い出したことだからとセレスティの名前でレスをつけた、途端。
 部屋の温度が数度も下がったように感じられた。
「これは・・・」
 みなもは思わず周囲に視線を巡らせた。
 気付いたのはみなもだけではない。朱羽も、セレスティも、晴佳も。特に霊感のない雫までも。全員が、急な温度の低下に目を見張った。
 何もない中空に一人の少女が現われる。スッと静かに地面に降り立った。
 敵意も邪気もなく。ただ穏やかに、彼女は、微笑んだ。
 朱羽は、じっと彼女を視る。真の姿を見抜く瞳で――少女の向こう側に見えたのは、可愛らしい腕時計だった。腕時計が置かれているのは、どこかのパソコンのすぐ傍。
「キミがこの書きこみをしたのですか?」
 願いを叶えますというスレッドを示して問いかけたセレスティに、少女は肯定の笑みを見せる。
「なんでこんなことをしたんだ」
 朱羽は強い調子で言う。たとえ相手が邪悪なものでなくても――結果的に害を為すものならば浄化するべきだと思うから。
 少女はなにも答えず、穏やかな微笑を浮かべたままだった。
「まさか喋れないとか?」
 あまりのだんまりに晴佳がそんなふうに言い出したころ。
「・・・・・・淋しいから」
 ようやっと、少女が声を発した。
 今にも消えそうな、細く高い鈴の音のような声だ。
「あ、あの・・・」
 言いかけた時。
 唐突に。
 少女が消えた。
 同時に、セレスティも消える。
「え、ええっ!?」
 一応予想済みのことだったとはいえ、あまりにも突然の消失に、みなもは思わず声をあげた。
「行くぞ・・・多分、そのネットカフェだ」
「なに。おまえなんかわかったの?」
 断言した朱羽に晴佳が呑気な声で問う。
「あれは、人間じゃない」
「ではその正体は?」
 続くみなもの疑問に、朱羽は自信を持って答えた。
「時計だ」


●時計が示すもの

「・・・時計、ですか?」
 接続元であるネットカフェに向かいつつ、みなもはさっきの朱羽の言葉に質問を向けた。
 朱羽は頷き、そして告げる。
「あの子に重なって女物の腕時計が見えたんだ。九十九神なのか、それともその時計に幽霊が憑依しているのかまではわからなかったが」
「まあとにかく、時計に関係してるわけだ、あの子は」
 わかっているんだかいないんだか。晴佳は実に単純明快に話をまとめた。
「時計・・・・」
 早足に歩きながら、みなもが考え込む。
「どうしたんだ?」
 晴佳の問いかけにも答えない。
 なにか・・・・・・何かが、引っかかっているのだ。
「ここまで出かかっているんですけど・・・」
「何が?」
 歩く速さは緩めぬままに、一行は少女の正体を知るべく思考を巡らしつつ進む。
「あの書きこみです」
 みなもの言葉に、朱羽がハッと気付いて口を開いた。
「まさか・・・・・・」
「なんだよ、どういうことだ?」
 調査や推理といったものが苦手な晴佳が、二人に説明を求める。
「つまり、幸せな時で時間を止めてしまえば・・・永遠に幸せでいられます」
「大切な人が傍に居るその瞬間で時を止めれば、その時間が永遠に続く」
 本人にそれが知覚できなくとも、永遠は永遠だ。
「でも、それだと行方不明と繋がらないんじゃないか?」
「ええ。だから、引っかかっているんです」
 時計が司るものは時間。
 だが。
 一人の人間の時だけを止める――そんなことが可能なのだろうか?
「とにかくさ、行ってみて直接聞きゃあいいだろう」
「そうですね」
「確かに、それが一番早い」
 そして一行は、問題のネットカフェへと到着した。


●少女の願い

 ネットカフェの一角に、一種異様な空気があった。
 狭いプライベートスペースに六人。
 少女の願いを叶えに来たキリート・サーティーン。行方不明事件を調べていたセレスティ・カーニンガム、海原みなも、直井晴佳、矢塚朱羽。
 そして。
 今回の事件の発端である少女。
「それで・・・どうなったんだ?」
 朱羽の問いに、一人このネットカフェに先に来ていたセレスティが状況を説明する。
 だが新しい情報はほとんどない。少女が一人で淋しいと思っていること。だが今回の行方不明については、単純に願いを叶えているだけで、人間を引き込んだわけではないということ。
 それから、突然現われたキリートのこと。
「では、何故レスをつけた人が行方不明になったんですか?」
 みなもの問いに、少女はふいと時計を見つめた。
「彼らは、閉じた時間の中にいたんです。正常な時間の流れの中で彼らが消えたように見えたのは、彼らがいつも同じポイントで過去に戻って、時間をやりなおしているからなんです」
「閉じた時間・・・」
 オウム返しに呟いた晴佳に、少女は淋しげな笑みを浮かべた。
「幸せな時間を永遠に繰り返す。そうすれば、哀しい未来にたどり着くことはなくなるでしょう?」
「それは間違いだ」
 朱羽の瞳が厳しさを増す。
「・・・哀しい未来を知らなければ。そこに着かなければ。あの人は死なずにすんだんです」
「あの人・・・?」
「生きることに絶望して、自ら死を選んでしまった・・・」
 少女はチラと、時計を見る。可愛らしい、女物の腕時計を。
「この時計の持ち主ですか」
 こくりと頷いた少女は、ゆっくりと口を開いた。
「貴方の願いは叶えられました。閉じた時間は、開かれました。彼らが、それを望むかどうかはわかりませんけれど」
「望まないかもしれないが、それは逃げてるだけだろう。そもそも、誰かに縋って自分の願いを叶えようという根性が嫌いだ」
 朱羽は眉を顰めてそんなふうに言う。
「その考えがすべて間違っているとは言わない・・・・・・だが」
 朱羽の発言に、今まで黙って事の成り行きを見守っていたキリートが告げ、それから、少女に向き直った。
「一人では叶えられぬ願いというのもある」
 その言葉を受けて、セレスティが微笑む。
「貴方自身にも願いはあるのではないですか?」
 淋しいといった時の少女の表情は、とても演技には見えなかった。
「現状に満足してるようには見えないしな」
 晴佳が、セレスティのあとに続く。
「・・・未来が哀しいものと決めつけることはないと思うんです。それに、本当に哀しい未来だったとしても、乗り越えることだってできるはずです」
 みなもは、自信をもってそう告げた。
 辛い想いをしても、誰しもが必ずその重みに負けてしまうわけではない。
 しばらく茫然とした表情を浮かべていた少女が、ふいに、笑みを浮かべた。
「そう・・・・・そうね。じゃあ、お願い」
 一旦言葉を切った彼女の姿は、ほとんど消えかけていた。
「貴方が、幸せな未来へ進めますように」
 それは願いというより祈りのようだった。

 ――そして。
 彼女が消えたあと、そこには針の止まった腕時計だけが残されていた。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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整理番号|PC名|性別|年齢|職業

1986|キリート・サーティーン |男|800|吸血鬼
1883|セレスティ・カーニンガム|男|725|財閥総帥・占い師・水霊使い
2058|矢塚朱羽    |男| 17|焔法師
2101|直井晴佳        |男| 17|高校生/獣人
1252|海原みなも       |女| 13|中学生

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、日向 葵です。
 セレスティさん、みなもさん。いつもお世話になっております。
 キリートさん、朱羽さん、晴佳さん。初めまして。
 今回は依頼に参加いただきありがとうございました。

 少女とキリートさんの、願いを叶える者同士の会話がとても楽しかったです♪
 セレスティさんの提案はナイスでした。おかげで誰の犠牲もなくあっさりと全員帰ってきました。
 文中でも触れてますが、行方不明者はみんな過去や現在の永遠を望んだために行方不明になっていたので。
 朱羽さんの真実を見る能力のおかげで、居残り組(?)もあっさりと正体が掴めて移動することができました。ありがとうございます♪
 晴佳さん、あんまり朱羽さんとの絡みが書けなくてすみません。次の機会がありましたら、その時こそは・・・(涙)
 みなもさんは、今回は宥め役にまわっていただきました。あまりプレイングいかせなくて申し訳なかったのですが、その分みなもさんの最後の台詞に気合を入れました(苦笑
 次の機会がありましたら、その時にはもっとプレイングをいかせるよう精進します。

 それでは、今回はこの辺で失礼します。
 どうもありがとうございました。
 またお会いする機会がありましたら、その時はよろしくお願いします。