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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


幻想の国から〜エビフライの恐怖【3】

●ことのはじまり

 扉をノックをする。
 返事の声は聞こえるのだが、親切に開けてくれるという人間はいないらしい。
 大きなお皿に山盛りのエビフライを抱えた結城は、最初と同じように足で扉をノックした。
「ごめん、両手塞がってるんだ。ちょっとドア開けてくれない?」
 少し待つと、今度は中から扉が開かれた。
「こんにちは、結城さん」
 零がにっこりと笑って結城を迎え入れてくれる。
 武彦が、ギョッと目を丸くした。
「・・・なんだ、それは?」
「ああ、これ? お土産。この前のお詫び」
 半分以上大嘘なのだが・・・。
 箱詰めのお菓子ならともかくお皿に山盛り――結城もきちんとは数えていないが、三十尾以上は確実。多分実際にはもっと多いだろう――のエビフライなど、お土産としては不適当な部類に入ると思う。
 意味もなくそんなものを持ってくるのはなんだか不自然に思えて、結城はこの前のゴキブリ騒ぎのお詫びなどという言い訳を持ち出したのだ。
 ・・・・・・どっちにしても不自然なことには変わりない気がするが。
 実を言えばこのエビフライ、結城の友人である芳野風海(よしのふうか)の練習として作られたものだ。
 なんでエビフライに拘るんだか知らないが、完璧にマスターするまでに犠牲となったエビはおそらく百尾以上。
 今結城が持っているこれも、見た目は綺麗だが中身は・・・まあ、ロシアンルーレットだ。
 食べてみなければ成功か失敗かわからないと言う。まったく、見かけが綺麗なだけになお性質が悪い。
 ・・・たとえ美味しいエビフライだとしても、全部を一人で食べるには量が多すぎるが。
 そうしてこのエビフライの処分をどうしようと考えた挙句、思いついたのがこの草間興信所だった。
 ここならばいつもたくさんの人が集まっているし、すぐになくなると見込んだのだ。
「つーわけで、このエビフライ、冷蔵庫入れておくから」
 エビフライを冷蔵庫に仕舞いこんだ結城は、すぐさま興信所を立ち去った。
 外れを引いた人には悪いが・・・・・それも運命。諦めてもらおう。


●酒のツマミに

 なんてことはない。いつもと同じように興信所にやってくると、酷く疲れた様子の武彦がいた。
 まあ、これとていつものことだ。
「今日は何があったんだ?」
 苦笑半分に尋ねると、草間武彦は大きな溜息をついて台所を指差した。
「ゴキブリ騒動のお詫びだとさ」
 誰が持って来たのかという主語が抜けていたが、なんのことだかはすぐにわかった。
 なぜなら真名神慶悟もその事件に直に関わった人間の一人だからだ。
「結城が? 結構律儀なんだな」
 言いつつ、冷蔵庫の中身を確認した。
 一瞬、言葉に困る。
 そこにあったのは山と積まれたエビフライ。
「ちなみに、それでももう半分くらいには減ってる」
 デスクから、武彦が声をかけた。
「・・・とりあえず、酒のつまみにでもするか」
 一旦冷蔵庫を閉めた慶悟は、酒を調達するべく外に出ていった。


●男同士の飲み会

 扉を開けると、鬼頭郡司がいた。
 テーブルの上には、買い出しに行く前には冷蔵庫の中にあったはずのエビフライの山。
「よう、慶悟も一緒に食べるかー?」
「ああ」
 というか、食べるために買い出しに行っていたのだが。
「おっ、酒か? いいタイミングだな〜♪」
「いいのか、高校生が」
 どうせ止める気もないくせに、武彦が横から口を挟んでくる。
「なんだよ、今更」
 この興信所で宴会が行われ酒が出たのは一度や二度ではない。
 そしてその宴会の面子の中に未成年がいるのも、これまた一度や二度ではない。
「まあ、確かに今更だな」
 そんな事実を思い出して、慶悟は袋の中から買ってきた酒を取り出して、でんっとテーブルに置いた。
「よーし。飲むぞ〜食うぞ〜〜♪」
 箸を片手に、郡司が元気よく宣言する。
 そんな姿を横目にしつつ慶悟もまた遠慮する気はまったくゼロで、箸を手にしつつ
「余ったら貰って帰っても良いか?」
 終わった後のことまで言い出す始末。
「ああ、助かる。だが・・・その台詞は食べてから言った方がいいと思うぞ」
 武彦の台詞に、郡司と慶悟の表情に疑問符が浮かんだ。
 だが武彦はそれ以上言うつもりはないらしい。
「こうやって出すくらいだ。まさかとんでもない失敗作はないだろう」
「そう願いたいところだがな」
 普通、あまりにもな失敗作を人には渡さないだろう。しかも、騒動のお詫びに持って来たというのならば尚更だ。だが慶悟の呑気な言葉に対して、武彦の返事は深刻な色を含んでいた。
「ちょっとくらい失敗してても気にしない気にしない。それよりさ、とっとと食おうぜ〜♪」
 武彦の微妙な空気を察知しつつも結局気にしない郡司は、逸早くエビフライを口へと運んでいった。


●ロシアンエビフライ

 思わず見守る、武彦と慶悟。
 ガツガツと食べている郡司の様子を見て、武彦がようやっと手を出す。
 続いて、慶悟も。
 武彦を除く二人は、それなりに箸の進みは早い。――郡司にいたっては早いというより速攻といった感じだが。
「ふむ。まあまあじゃないか」
 確かにあまり美味とは言えないエビフライだが、食べられないほどではない。
 まあ、本命はお酒だし。
「うんうん」
 もごもごとものすごい勢いで食べながら、郡司が頷いて同意した。
「・・・・・・そうか」
 武彦が手を出そうとしたその時。
 慶悟の手が止まった。
「どうした?」
「さ、酒を・・・・・・」
 どうやら、全部が美味しいワケでもないようだ。口直しに酒を飲みつつ、慶悟はなんとか息をついた。
 さっきからあまりおいしくないモノにもぶち当たっていてが、今食べたのは本当に外れだった。
 表面はきちんとキツネ色なのに、エビが半生。いや、エビだけではない。衣の内側も生に近い状態だった。
 エビだけならまだしも、衣まで半生は・・・・・・ちょっとツライ。
「やっぱり当たったか。実は俺は昼飯にもコレを食っていてな」
「・・・・・当たったのか」
 問うと、武彦は沈痛な面持ちで頷いた。
「時々美味しいのも入ってるからなお性質が悪いんだ、これは」
 実を言えば慶悟はまだ一度も美味しいエビフライを引いていないが・・・美味しいものも入っているという武彦の言にじっとエビフライを見つめる。
「まぁ・・・人生というのは山あり谷あり、影あり光あり。それこそが陰陽だ。これ位が丁度良いのかもしれないな・・・」
 二人で顔を見合わせて苦笑して――その時になって慶悟はようやっと、郡司の手も止まっていることに気付いた。
「なんだ、そっちも当たったのか?」
 苦い笑みで郡司に声をかけた瞬間。
 武彦と慶悟は先ほどとは別の理由で固まった。
 パチパチと、郡司の周囲が放電している。
「お、おい・・・・?」
 どうやら、最悪の部類の外れに当たったらしい。
 慶悟の問いかけに答えることもなく、郡司はひたすら俯いて自分の箸を見つめている――というか、こういう場合は放心していると言ったほうが正しいだろうか。
 そんな呑気なことを考えていた。
 直後。
 バチィッ!!
「うわぁぁっ!?」
「おい、何やってるんだ!?」
 郡司の放電現象のせいでショートしたのか、一気に電源が落ちた。
 いまだ電流放電真っ最中の郡司の周囲だけがうっすらと明るい。
「おい、落ちつけ・・・・」
 武彦はなんとか宥めようとするが、危なくて近づけたもんじゃない。
「・・・聞こえてるか?」
「なんでこんな味になるんだ・・・・・・?」
 ぼそりと。
 一言。
「いや、なんでって言われても」
「こればっかは作った本人に聞かないとなあ」
 今ここで正確な答えを求めていたわけではないだろうが、二人は思わず答えていた。
「ちょっとは落ちついたか・・?」
 まだ近づけないので、声だけをかける。
 郡司は答えなかった。
「おーい・・・?」
 ゆらりと、郡司の体が傾く。
 床と仲良くなった郡司を見つめつつ、二人は大きな溜息をついた。
 とりあえず。ショートした電気機器を修理する必要がありそうだ。


●ことのおわりに

 最後の一番まずいエビフライを食べた勇者・郡司のおかげで、見事エビフライはからとなった。
「だ、大丈夫か・・・?」
 倒れてから十分ほどで起きてきた郡司に、慶悟が声をかけた。
 ちなみに武彦は電気修理中だ。視界の端に、壊れた電化製品をどうにか直せないかと頑張る武彦の姿が映った。
「くっ・・・・悪食の郡ちゃんで名の通った俺サマをこんな目にあわせるたぁ」
「悪食って・・・」
 呆れたような慶悟の言葉は郡司の耳には届かなかった。
「次はぜーったい、制覇してやるっ!」
「なにをだ、なにを」
 思わずツッコんだ慶悟だったが、やはり郡司は聞いていなかった。
 宙を睨んでガッツポーズをして無駄に燃えている――いや、本人には切実なのだが――郡司に、慶悟はこれ以上なにか言うのを諦めて溜息をついた。
 ふと、一つだけ残っているエビフライが目に入った。
 郡司が全部片付けたのかと思っていたが、どうやら食い逃されたらしい。
「・・・・・・・・・・・・・」
 悪食と呼ばれた(?)郡司が倒れるほどのエビフライ・・・・。
 いったいどんなエビフライなんだろう?
 まあ、残すのもなんだし。
 本当の最後の一尾を口に運んだ慶悟は、自分の行動を思いっきり後悔した。
「これは・・・・呪いか?」
 思わず涙目になった慶悟は、燃える郡司の横でばたんとテーブルに突っ伏した。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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整理番号|PC名|性別|年齢|職業

0086|シュライン・エマ|女|26|翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
1593|榊船亜真知|女|999|超高位次元知的生命体・・・神さま!?
1312|藤井葛  |女|22|学生
0389|真名神慶悟|男|20|陰陽師
1415|海原みあお|女|13|小学生
1838|鬼頭郡司 |男|15|高校生・雷鬼

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■         ライター通信          ■
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こんにちわ、日向 葵です。
このたびはエビフライの恐怖にご参加頂きありがとうございました。
タイトル横の番号は時間経過順に並んでおります。
【1】は昼前、【2】は昼過ぎ、【3】は夕方。
後ろにいる人ほど、まずいエビフライを食べる確率が高くなっていました。
作りながらエビフライを重ねていったので、下のほうにあるものほどマズい・・・(笑)

残り物には福が・・・ありませんでしたの3番の皆様。お疲れ様でした。
当初はここが一番ロシアン率高かったのですが・・・・。
みあおちゃんが美味しいモノだけを引き当ててくれたので、こちらは不味い物だけを引くという結果になりました。
マズいものでもあまり気にしない郡司さんと、お酒が本命の慶悟さんという面子だったおかげで案外平和(?)に終わって一安心です(笑)