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<PCシチュエーションノベル(グループ3)>


謎の手紙と地底とチワワ〜アトラス秘密諜報部外伝

 そこはアトラス編集部。
 ――ではなく。
 否、座標的な位置はそれで合っている。正しい。
 但し。
 高さが違う。
 …そこは、アトラス編集部の地下にあると言う…アトラス秘密諜報部。

 放浪の魔術師シェラン・ギリアムが――様々ななりゆき(?)でそこの代表(?)である加地葉霧こと加地のとっつぁんの妻になっている妹の様子を――窺いに立ち寄った時の事。
 その怪しげな部屋のドアを開け――まず眼前に広がっている…累々たる屍に一瞬、思考が停止した。
 よくよく見ればそれは諜報員の面子の様子。
 何事かと更によくよく見れば、デスクの上には――…。
 …――口に出すも恐ろしい。
「ほう、へらんはんひゃはらへんは」
「…エディー?」
 くる、と訝しげなシェランの呼び掛けに振り返ったのは…何やら怪しげな料理と言うかモザイク掛けたくなるような謎の物体と言うかむしろ…ぴくっ、ぴくっと不穏に動いていて生物でもあるような…皿に乗った良くわからない『何か』をもごもごと食べて(!?)いる真っ最中の日系ロシア人な男子高校生。
 彼の正体は淡兎エディヒソイこと愛称・エディー。
 …つまりシェランの呼び掛けは正しかった訳である。
 口の中に入れた分を何やら凄い音を立て咀嚼し飲み込んでから、エディーは改めて口を開いた。
「んっく…何妙な顔しとるんや? あ、シェランさんも一緒に試食してみぃへん?」
 ワイの新作料理や、たーんとあるで☆
 にこっ、と激しく嬉しそうにエディーは皿のひとつを手に取り…。
「これな、名付けて――」
「いえ、結構です」
 本能的に即座に辞退。
 …料理の名前も何も――どちらにしろ殺人的な新作料理だとは部屋の様子を見てわかる。
 シェランはすぱっとその声を切り捨て、本来の目的を誰にとも無く問い掛けた。
「ところであの、妹は――」
 と。
 シェランから見るとちょうどエディーの影になる位置から。
 独特な笑い声が響いた。
「はっはっはっ、彼女は元気も元気だよシェランくん。この僕の愛を一身に受けてね☆」
 出ました、代表。
 累々たる屍――部下の様子をものともせず、提供者・エディーと共に新作料理と言う名の劇薬をぱくぱく食べている猛者が。
 きらーんと歯を輝かせて、その猛者…加地葉霧はシェランに答えていた。
「ちなみに彼女は今…少々外に出ているが」
 示すよう、今し方シェランが入ってきたドアへと視線を流す。
 そしてそのまま視線をぐるぅりと巡らし、ちょうどシェランの立ち位置の側にある棚の上で停止させる。
「…それより、だ」
 視線が止められた棚の上にひょいと適当においてあったのは…ごくごく普通の封書のよう。
「それ、なんやと思います??」
 ずるずるずると毒々しいビビットカラーの怪奇物体を啜り(?)つつ、エディーはその手紙をびしっ、と指し示す。
 普通の封書だ。
 ここにあるには普通過ぎる気さえ。
「なんですか?」
 首を傾げつつも、シェランは手紙を取る。
 そして当然の如く――いや、場所が場所だし下手したら危ないからせめてひとこと断ってからにした方が良いのでは――勝手に封を開けた。
 するとそこには。
 真っ黒のつぶらな瞳でじーっと見上げてくる愛らしいチワワの写真と、ある一点にだけ、乱暴にかつ豪快な筆遣いで赤色の×印が付けられた…何かの地図が入っていた。
 封筒の中には他には何も。
 意味不明。
「…」
 シェランは悩む。
「…」
「…」
 いつの間にやらそのすぐ側まで来て、シェランの手許――手紙の内容物をちゃっかり覗き込んでいるエディーと加地。
 写真と地図を見て、三人はお互い顔を見合わせた。
「取り敢えず…私のところの…とは違うチワワのようですが」
 チワワの写真を示しつつ呟くシェラン。
「…何か心当たりあるんか加地っち?」
 諜報部の代表?に振るエディー。
「いや。だがこれは…この×印には何か感じるモノがある。うむ。それにこの愛らしいチワワ…」
 加地はううむと考え込み、やがて、よし、と元気に頷くと…ぐっ、と握り拳を固めた。
「では早速、その手紙の謎を解きに皆でこの地へ出立! …と言いたいところではあるが…」
 そこまで言って加地はくるぅりと室内の様子を振り返る。
 ………………未だ復活の兆し無い屍の山が。
 シェランにエディーも続いてその山を見渡す。
「…諜報部の皆さんは…お休み中のようですね☆」
「だったら…この地図の場所、ワイらだけで逝ってみぃへんか!?」
 嬉々として提案するエディー。
 …て言うか何処か字が違います。
「手伝ってくれるか、エディーくん☆」
「私も同行致しましょう。居合わせた縁です」
「おお、シェランくんもか☆」
 エディーとシェランの頼もしい言葉に加地は感涙。

 そして。
 屍を放置したまま、三人は地上へ――。

 出たところ。

 …出たその場所で。

「うわぁっ!?」
 唐突に聞き慣れた悲鳴が響き渡った。
 それは三人の目の前。
 慌てふためく分厚い眼鏡に冴えないスーツの見慣れた姿。
「…サンシタ?」
「三下くんではないか。どうしたそんなに驚いて」
「だってあの…今、いったい何処から…」
「何処からって…我らが諜報部の秘密アジトからに決まっているではないか☆」
 …ちなみに現在地、月刊アトラス編集部のすぐ近くに当たる白王社ビル内の廊下である。
 更に言えば…間違いなくそれらしき地下からの出入り口は近場に存在しない。
 と、なれば…三下忠雄の発言の方が一応、正常である。
 が。
 残念ながらこの面子にそれは通じない。
 そもそも既にして彼らは…何処からともなくこの場所に来てしまっていると言う事実がある。
 …そこに至るまでの経過は…最早気にしない方が身の為。
「決まって…るんですか、ってああ、まさか時々謎の物音が地下から聞こえると言うのは…!」
「そう、我々諜報部の華麗なる作戦がぐりぐりと練られ実行に移されているのだよ☆」
 はっはっはっ、と笑いつつまたも加地の歯がきらーん。
 と、そこにエディーがぽつりとひとこと。
「なぁなぁ、加地っちにシェランさん☆ どうせやから三下さんも連れて行かへん?」
「おお、確かに旅は道連れ世は情け、ここで遭ったも何かの縁と言う部分もあったりなかったりするような?」
「それは素敵な提案ですねエディー☆ さぁ、共に参りましょう、この謎の地への旅路を!」
「…って謎の旅路に共にって何なんですかああああっ!?」
 ぽん、とサンシタ…じゃない三下の肩を叩きつつ、シェランは高らかにそう告げた。

 ………………三下忠雄、何だか良くわからない三人組に連れられ、相も変わらずの貧乏籤決定。
 ついでに言うと多分これ、編集長には無断早退と取られるかと。
 合掌。

 だが一行はそんな三下氏の不運をものともせず!
 地図に記された地名を頼りに、一行は電車を乗り継ぎ細く寂しい道をどんどんと進み、深く繁る前人未到げな森を突き抜け、冷たい洞窟に侵入し、大書きされた×印の部分と思しき地点を探り当てた。
 一行は立ち止まる。
 そして辺りを見渡した。

 ぴちゃん…と水滴が落ちる音。
 息が白くなる。
 気が付けば妙に寒い。
 空気が湿っている。
 神秘的な鍾乳石がそこかしこに。

「………………地底…やな」
「………………完璧に地底洞窟ですね」
「………………さ、さ、さ、寒いですよぅっ!!!」
「………………はっはっはっ。とっても何かありそうでステキではないか☆ さぁ行こう」
 奥へ。
 隊長・加地の号令の元、一行はどんどんと奥へ突き進む。
 寒いと大騒ぎする三下を余所に、何故か地底探検御用達な重装備済みの加地とエディーに元々厚着?のシェランは素知らぬ顔で行軍を続ける。当然の如く三下に関しては…ずるずるずると無理矢理引き摺って。
 その姿は見ていて泣けてくる程だ。
 と、まぁ、それはさておき。

 ある地点で。

「ん? 今何か音がしなかったかね?」
 聞き耳を立てるような仕草をし、加地が前方を窺う。
「声のようにも聞こえるような…」
「そーか? ワイ何にも聞こえんかったけど??」
「いえ、確かに私にも聞こえましたよ、とっつあん」
「うむ…シェランくんにも聞こえたか…ならばこれはもしやまさか地底人の呼び声!?」
「…ってあのそれも少々飛躍し過ぎのような」
 苦笑するシェラン。
「何が飛躍かな? ここは奥深い地底、しかもあの謎の地図に誘われて来たからこそ今我々はここに居る! 地底人が居たとしても全然まったく不思議ではなかろう☆」
 はっはっは。
 頼もしげに笑うと、歯をきらーん。
 …何処から光が入っているのかいまいち謎だがそれでもきらーん。
 と。
 ぽん、と背後からエディーの肩を叩く手が。
「ん? 何やシェランさ…」
 振り返りつつ言い掛けて――その手が人間の物とは違う事に気付き、エディーは、はっ、とその手に繋がる顔を見上げる。
 何者。
 黒い。
 て言うか。
「アンタホンマに地底人かぃいっ!!」
『●○▼■○△○▽×■!!!』
「なんやワケわからんわっ、ちゃんと通じる言葉で話しぃっ!!!」
『○△○▽×■●、○▼■○△○△!!!!!』
 …エディーの声に対し何やら叫びつつ、地底人の群れは一行をびしっと指差し。
 そこはかとなく険悪な雰囲気を漂わせてくる…。
「だぁぁああああっなんかどうしようもなさげな気配に…どないしよ加地っち!」
 エディーが言う間にも地底人が何処からともなくぞろぞろと現れ、一行をじわじわと威圧してくる。
「むぅ…ならば…こんな事もあろうかと密かに造っておいたこの“惑星破壊爆弾”をっ!」
 言うなり加地は鋭くその“惑星破壊爆弾”――て言うかただの花火玉では――を地底人に投擲。
 が。

 ビシィッ

 ………………謎の障壁により、“惑星破壊爆弾”はあっさりと跳ね返され…一行の元に転がってきた。
 ちょうどそのタイミングで炸裂する火花。
 弾ける音。
「のわあぁああああああっ!!!!!」
「ぎぃやぁあああああっ!!!!!」
「ぐわぁあああぁあああぁっ!!!!!」
 叫ぶ一行。
 速攻で何やら瀕死である。
「く…フッ…やるな、さすが地底人…だがまだ“惑星破壊爆弾”はここに山ほ…」
「もうやめて下さいっ!」
 …だってどうせ跳ね返ってくる。
「ふむ。そうだな…ならばどうする?」
「フ…ここはワイの出番やな…」
 血まみれ(?)なままニヒルに笑い、エディーは、じー、と荷物のジッパーを開け、かちゃかちゃと何やら組み立て始める。
 約十秒後。
 エディーのその手にはライフルが一丁組み立てられていた。
 そしてそのライフルを地底人らに向け構えるなり。
「おっしゃほな行くでぇっ! 食らえ! 必殺・“スナイパー●イフル”ゥうぅっ!!!」
 謎な叫びと“スナイパーアイ●ル”とやらの銃弾が地底人たちの中に炸裂した。

 と。

 その銃弾が命中したと思しき数人?の地底人が。
 ぽん、ぽん、と弾けるように――。
 何故か愛らしいチワワの姿に変わっていた。

 その不条理な事実に、波が引くよう反射的に後退る地底人。
 が、遠巻きにやっぱり一行を威圧する態度は変わらず。
 …て言うかチワワ化が出てから前以上に警戒されている様子です。

「おお、さすがだエディーくん、奴らに効いているぞ!!!」
「ふ、何人たりともワイの“スナイパーアイフ●”からは逃れられんでぇ…」
 にやりと笑いまた照準を定める。
 狙うは後方に下がった地底人。

 …そしてまたエディーの“スナイパーア●フル”が火を吹いた。

「どりゃあああああぁぁああっ!!!」

 ちょん、ぽん、ころん、とつい今し方まで地底人が居たと思しき位置に、何故かチワワがころころ落ちている。
 時々、きゃんと鳴いてみせたり、チワワ特有のあの零れ落ちそうな瞳でじーっと諜報部の面子を見つめていたり。最近では一番オーソドックスげな白のショートヘア、かと思えば癖っ毛なロングヘア、更にはカラーリングも白のみではなく黒やら茶色やら様々な…とにかく世界最小犬種・チワワがやたらめったら転がっていた。

「…どや!?」
 粗方片付いたかと判じたところで、ちゃき、と銃口を上げつつ、エディーはきょろきょろと辺りを確認。
 と。
「きゃん!」
 彼の声に速攻で返事をしたのはチワワの内一匹。
 …いや、敵(…?)に返事をされても。
「うむ。…どうやら地底人は皆チワワ化してしまったようだが☆」
 加地のとっつあんは油断無く洞窟内を観察しつつ、鮮やかに振り返ると白い歯をきらーんと輝かせる。
「…そ、か。ようやっと勝利やな☆ って…結局あの手紙は…これの予告なワケか?」
 ぼそりとエディー。
 その周辺にはわらわらと夥しい数のチワワが。
 更に言えば増殖している様子さえ。
「…ところで何か…増えてませんか?」
 足許から着実にチワワに埋もれつつ(!?)、ふと指摘するシェラン。
 ちなみに三下は先程何処ぞに足を引っ掛けて転倒し…既にチワワの海に全身沈んで姿が見えない。
「まぁ、細かい事は気にすまい。…さあチワワの海を掻き分け地上に帰還するぞ、シェランくんにエディーくん☆ そして三下くん…君も男なら頑張って己の力で浮き上がって来たまえよ☆」
 そしてまた爽やか過ぎるくらい爽やかに加地っちの歯がきらーん。

 …ところで細かい事は気にすまいって。
 それで良いのかアトラス秘密諜報部。

 ………………否、これで…皆さんそもそも無事に帰れたんでしょうか…。

【了(…?)】