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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


ステータス異常ウイルス


 突然現れた何かのエージェントを想像させる、サングラスをかけた黒コートの二人組。
 それだけでも十分すぎるほど目立つのに、一人は大型犬を連れもう一人はミイラのように包帯を顔に巻いている。
 怪奇探偵と名高い草間も、思わずくわえていたタバコを取り落としそうになった。
「………」
 無言で取り上げかけた受話器を、疲れたように止めに入ったのは夜倉木有悟。
「少し厄介な事になったんだ」
 サングラスを少しずらして見せ、本来ならそこに見えるはずの物がない事に驚愕する。
「……透明?」
 目も顔も何もないのだ。
 向こう側の包帯が透けて見えている。
「IO2本部に後ろのバカが線の一本切れたエセ医者を連れて行ったら……何か変な物を復元した途端にこれだ」
「………そっちの事はそっちで解決したらいいだろう」
「そうもいかないんだ。どうやらこれは効果は感染した人間によって違うらしい、向こうは風邪で寝込んだり目が見えなくなったり色々面倒な事になってる」
 視線を移した盛岬りょうは、ジェスチャーで喋れないと言う。
「………つまり沈黙」
「嘘付け」
「ギャインッ!」
 思い切り足を踏むと同時に聞こえた犬のような声。
 慌てて口を押さえ……恨みがましく夜倉木をにらみ返し……取りだした手帳にペンを走らせ突きつける。
『堪れ、バーーーカ!』
「吠えてろ負け犬」
 再びペンを走らせるりょう。
 そこで、ハタと気づく。
「感染とか言わなかったか?」

 感染=伝染病にかかる事。

「正解、そろそろ来るな」
 初めから、巻き込むつもりだったのだ。
「……………」
 一体何が起こるのか、毒か石化かはたまた混乱か。
「…………」
 見守っていた草間が不意にガクンと頭を落とし慌てて起き上がる。
「………眠い、もの凄く眠い」
 結果は睡眠らしい。

【奉丈・遮那】

 唐突に転がり込んできた事件を目の当たりに運悪く巻き込まれた奉丈遮那は、とりあえず声を出して確認してみた。
「あー、あー……」
 とりあえず声に問題はない。
 他にも確かめていって……一つの事に気付く。
 おかしい、何かがおかしい。
 それを確認するより早く、事件を持ち込んできた二人と一匹にシュライン・エマが言うべき事を口に乗せるが………。
「武彦さんを……」
 そこまで言って、口元を押さえた。
 今の声は、間違えようがなく草間武彦の声だったのである。
 もちろん自分の意志でそうしようとした訳ではない。
「声が変わるのか、新しいタイプの症例だな」
 夜倉木がポツリと呟きメモを取る。
「あなたって人は……」
 今度は、夜倉木の声だった。
「大丈夫ですか、シュラインさん?」
 心配そうに尋ねたのは、奉丈遮那。
 ある程度の仮説は立っていた。
 その確証をえるために、声を出してみる。
「……そうね、一応は」
 その声は完全に遮那の物だった。
 メモを取りだし、全員に書いてみせる。
『直前に聞いた人の声になるようね』
 と………。
「それは大変ですね……」
 心配そうに言う遮那にまったくだと同意しながら、やるべき事を思い出し二人に視線を移し、手を動かすどうやら手話なのだろう。
 果たしてこの中に通じる人間がいるんだろうか……そんな沈黙の後に夜倉木が口を開く。
「草間を仮眠室に連れて行けと」
 ポンとりょうが手を打つ。
 一応は通じるらしい。
「僕が手伝います」
 仮眠室に草間を寝かせている間に、ノックの音が聞こえる。
「………そうだ!」
 今新しく誰かが来るのは危険だ。
 慌てて事務所に戻るが一足遅かったようである、入ってきたのは二人の少女。
 海原みなもと、御影瑠璃花。
「あ、あの!」
 このウイルスの事を伝えなければならない、だがそれよりも効果が出る方が先だった。
「えっ……!」
 手や足からじわりと淡い白に変化していくみなもと、りょうの姿を見るなり瞳を輝かせてその愛らしい頬を赤く染める瑠璃花。
「………りょう様」
「わ、わふ!?」
 ピタリと寄り添った瑠璃花に、りょうが驚いたように声を上げる。
 これはもう大事だ。
 この時の瑠璃花には完全にりょうしか見えなくなっていのである。
「りょう様、どうかなさいましたか?」
 その笑顔のかわいさと言ったら、羨ましい事この上ない。
「珍しく役得だな、お前」
「……わん」
「……遅かったですね」
 もっと早くに気付くべきだったのだ、これはウイルスなのである。
 戻ってきたシュラインが、頭を抱えた。
「また変な事に巻き込まれたんですか……?」
 みなもの一言が、この場の心情をもっとも的確に表していた事は間違いないだろう。


「……何やってるのよ」
 電話を受けてやってきた光月羽澄が、そう言わずにはいられない光景が目の前には広がっていた。
「とにかく状況を整理したほうがいいわね」
『二人がウイルスを持ち込んだみたい』
 予想してあった事は事前に書いてあったのだろう、メモに丁寧な字で書かれてあった。
「何ともないんですか?」
「私にはこれがあるから平気よ」
 そういって小さな鈴をリンと鳴らしてみせる。
「何かあるといけないと思って用意してきたんだけど、考えは間違ってなかったみたいね」
 ウイルスのようにどんなに小さな物でも、害をなそうと触れただけで消滅するように振動を作りだし、羽澄が意識することなく身を守る事ができるのだ。
「すごいですね」
 夜倉木が手を伸ばし書けた事に気付き、羽澄は盗られないようにその手をあげる。
「……なに?」
「別に?」
 残念そうなのは気のせいだろうか。
「とにかく、状況を整理したほうがいいわね」
 羽住の提案に、それぞれが同意する。
 まずここの所長である草間は仮眠室で熟睡中。
 騒ぎを持ち込んだりょうは犬の鳴き声でしか言葉が出ずに、一緒にいた夜倉木は透明状態。
 ナハトは特に症状が表れるにいたってはいない。
 そしてシュラインは直前に話した人の声になってしまうのだそうだ。
「大変ね」
「ーー……ー……」
 試してみたところ、出たのは鈴の音だった。
 どうやら人の声には限定されてはいないらしい。
 そして海原みなもは手足から真珠のように身体が変化しつつあり、立つべきか座るべきかで迷っていた。
「どっちで固まったほうがいいと思います?」
「慣れてますね」
「……はい、幸か不幸か」
 それから御影瑠璃花はりょうに抱きついて潤んだ瞳で見上げている。
 魅了されたとの事だ。
「ところで君はかかってないみたいだけど」
「え!? あ、僕は……」
『かかる人とかから無い人がいるのかしら?』
「調べてみる価値はありそうね」
「調べる……」
 それはまずい、非常にまずい。
 遮那が体を引きかけた途端、興信所の扉をノックする音。
 これ以上の被害を広げるのはまずいと、鍵をかけてあったのだ。
「待って、今大変な事になってるの」
 開ける訳には、いかない。
 感染してしまう。
 とりあえず話が逸れた事にホッとする。
「……こっちも感染者だ」
 ドア越しに聞こえた声は、ハッキリとそう告げた。

 別口で情報を耳にした火腋は、独自で調査に乗り出したところ興信所の下に止めてあった車の中の人物と遭遇し運悪く感染したとの事。
「まさか開けるとは思わなかったな」
『風邪だっていったから、車に入れといたのに』
 夜倉木とりょうの言葉に、火腋が事情を説明してくれる。
「花だらけで窒息しそうになってましたよ、ハッパ……あれ?」
「ドクターリッパーです、げぼっ、ごほっ」
 症状は、真面目に言うなら記憶障害。
 つまりは酷い物忘れ。
 そして火腋と一緒にいた、白衣を着た男が子の事件の発端の内の一人……ドクターリッパーでは、セキをする度に花が手品のように出てきていた。おかげで事務所の床は花で埋もれつつある。
 とりあえず、現在興信所にいる感染者はこれで全員だ。
『揃ったところで、何故こうなったのかを聞きましょうか?』
 全員に解るように、丁重な字で書かれたメモをシュラインが見せる。
『どうするかは、後で決めるとしてね』
 笑顔、だが目が笑っていない。
「自業自得よね」
「あの、ここに来たのは何か理由があるんじゃないかと思うんですが、ただ被害を広げるためだけに来たとは思いたくないですし」
 フォローを入れてくれたみなもに、りょうが首を体に振って答える。
「大分浸食が進みましたね」
 心配そうに遮那が言うとおり、もう2、3分もすれば完全に真珠化するかも知れないところまで来ていた。
 その割りには大分落ち着いている。
「大丈夫?」
「はい、人魚ですから多少の変化は大丈夫です」
 どうやら座る事で覚悟を決めたらしいみなもは、苦笑いをしながら自分の手を見ジッと見つめため息を付く。
「………?」
「この真珠……凄くいいものですよね」
「そう言えばそうね」
「高そう、ですね」
 その言葉の裏に真意は涙ぐましい物を感じずにはいられなかったが、この状態はあまり良くない事だけは確かなのだ。
「ちゃんと治したほうがいいって、なっ、みその?」
「それは姉の名前です」
 火腋の状態以上も順調に進行しつつある。
『確かにみなもちゃんが言った事も気になるわね』
「本当はどうなの?」
 シュラインと羽澄の言葉に、夜倉木がスラスラと説明を始めた。
「初めにも言ったとおり、これはウイルスなんです。出る効果も様々でまとまりが無く、おそらく世間一般では公表できない類の物です」
「確かに……そうです、ね」
「ウイルスが原因ならワクチンさえ用意すればいい、ただ、そのワクチンもないばあい、解決方法としては原因を調べてクスリを開発し製造すと言う手段が必要ですが、ハッキリ言ってそれには時間がかかりすぎる。IO2もあまり長い事機能を停止する訳には行かないそうですから」
『だからこいつが言ったんだ、天然のワクチンを探せばいいって』
 例えばナハトのように、感染する体質の人間と、そうでない人間がいるのなら……その人物に協力を得てワクチンを作った方が効率がいいと考えたのだ。
「ナハトの血は毒性が強く使えない、IO2職員の……事件の発端となった部署は隔離されてて、他は手を出せないようになっているんです」
「ずいぶん酷い事になってるみたいだな」
「そうなったら、何とかなりそうなのはここだけでしょう。感染しても直ぐに順応できて、なおかつ天然のワクチン保持者がいたとしてもここなら有り得ない事じゃない」
「……じゃあ予告なしに来たのは感染させても発症しない人を捜すため?」
「正解、予告してから言ったら逃げる奴もいるかも知れないですし、そしたらただでさえ少ない確率が減ってしまいます」
 どんな脳みそで物を考えたら、そんな効率だけを優先した非人道的な行動に出れるのかが謎である。
『まあ、ここでたっぷりと恩を売っておくのも悪くないわね』
 ため息を付きながら、メモを見せるシュライン。
「まあ、これ以上感染者も増やす必要もないみたいだし」
「………はい?」
 この中に変化の見られない人物、つまり遮那へと集まる。
「あ、あの僕は……」
 感染してますと言えば、説明しなければならなくなってしまう。
「出来れば協力して欲しいんだけど」
「ええと……」
 立ち上がり周囲に視線をめぐらせる。
「調べるって言っても直ぐ終わると思うから」
「……調べる!?」
『大丈夫、私たちが付いてるから』
「いえ、あの……付いてるって、困ります!」
 安心しようとしてシュラインの言葉も、何故か逆効果にしかならなかった。
「どうかしたんですか?」
「感染したのか?」
「………!」
 逃げようと勢い良く立ち上がり、走った方向上に居たのはりょうと瑠璃花。
「危ないですよ」
「はい?」
 すぐ側にいたドクターリッパーが軽々と瑠璃花を持ち上げ、そこへ真っ直ぐに遮那が突っ込んでくる。
「ワ、ワン!」
 避ける事は出来た、だがそうしたら逃げられてしまう。
 体の脇をすり抜けようとする体をりょうが受け止め……固まった。
 止めようと伸ばした手が、胸のあたりに濡れたのだから、ハッキリ解ったに違いない。
「………!?」
「ーーーっ!?」
 慌てて手を離すりょうを見上げ、遮那がさっと頬を染める。
 バッチィィィン!!!
「ギャイン!」
 なかなかいい音のする平手打ちを決めたのは、その直後の事だった。



 とりあえず話を再開したのは、紗那が落ち着いてからだった。
「大丈夫ですの、りょう様?」
「………わんっ」
 話しさえすれば、まだ恥ずかしさは残るが理解者が居るぶん大分楽にもなった。
 よくよく考えれば男なのだから胸ぐらい触られても気にする事はないのだが……そこはなんとなく勢いと言う物だろう。
「大丈夫?」
「は、はい……」
 うつむき加減に、頬を赤くした紗那を落ち着かせ疑わしげな目でりょうをみる。
「わん、わわんっ!」
 必死になって首を振り、弁明のためにメモにペンを走らせるがそれはあっさりと流された。
「赤くなってますわ、早く冷やさないといけません」
 事実思い切りぶたれたのが原因で絵に描いたような赤い手形がくっきりと残っている。
「さっ、行きましょう」
 瑠璃花に引っ張られていくりょうを見送りながら、とりあえず話を元に戻す。


 結局夜倉木の出した案は使えないと言う事はないが、ワクチン保持者は別に性さればならない事言うことだが犠牲者を増やす訳にも行かないだろう。
「あの、僕のタロットカードでなんとか出来るか試してみますね」
「出来るの?」
「はい、落ち着きさえすればなんとか」
 これでなんとか出来るのならワクチン保持者も探す必要がない。
「ここは良いですが、IO2本部の感染者の数は凄いぞ」
 ハッキリと言いきった事実に、羽澄が尋ねてみる。
「何人ぐらい?」
「出る前は50人ぐらい」
 さすがはウイルス、厄介だ。
「最初は大したこと無かったんですが、盛岬の能力が影響したみたいで」
 これには事情を知っている羽澄とシュラインがため息を付く。
 みなもも同様だったかも知れないが、無事な部分がすくなくなってしまっいて判断は解らなくなっていた。
「触媒能力ね」
『ウイルスにも効果があるのなら、ワクチンにも使えるのかしら』
「多分な」
「どういう事だ? えーと、その……さーが関係あるのか」
 一瞬首を傾げるが、すぐに解ったらしい。
「ああ盛岬の事か、奴は能力を増幅させる力があるんだ」
「だったらそれで解決できるのでは」
 つまり、紗那が触媒能力で力を増幅させ……一度にステータス異常を治してしまえばいいのだ。
「そうね、そうしましょう」


 花だらけになっていた車になんとか乗り込み、本当に隔離されているワンフロア分の階へと到着する。
「何があったんですか?」
 そう聞かずには居られない状況ではあった。
『倒れてる人とか、大丈夫なんでしょうか?』
 完全に真珠化しては居たが水文を器用に操り、言葉通り床に倒れてたりする内部の人間を心配する。
「混乱して暴れた奴も居たからな」
 みなもを椅子に座らせ、夜倉木が散らばっていた人間を回収しに行く。
「治す前に確認しておきたいんだけど」
「……?」
『そもそも原因のウイルスをどうしたらこうなったのかしら?』
 りょうがドクターリッパーを肘で押して、説明を促す。
「これを治そうとしてたんだ」
  ポケットから取りだしたのは、手の平大の小瓶の中に入った細かいすす。
「最初は化石のようだったんですが、治そうとしていたらウイルスの方が先に復元されたようで……」
『それを元の状態に治したら治まらない?』
「そうですね、治してもまたウイルスが感染したなんて事になったら同じ事ですから」
 澁井顔をする二人に、羽澄が直ぐに何かあると気付く。
「何か隠してるでしょ?」
「そもそもりーは何を治そうとしてたんだ?」
 羽澄と火腋の追求に黙秘権を思考しようと明後日の方向を見るが、もちろんそんな事出来よう筈もない。
「……っ、わん?」
 火腋の方を見る。
 謎の言葉が気になったらしい。
『彼も、大分進行してる、みたいです』
「早く治してあげた方がよろしいと思いますわ、りょう様」
 みなもと瑠璃花の真っ直ぐな視線に罪悪感めいた物を感じるらしい。
「とりあえずそれを何とかしたほうがいいわよね」
『観念したほうがいいわよ』
「盛岬さん」
 口を割らせるのならりょうのほうがいいと確信したらしい、全員に詰め寄られ。あっさりと音を上げた。
「……わん」
 ドクターリッパーにやれと訴える。
「……仕方ないですね、じゃあ力を借ります」
 ため息を付いてから、りょうの肩に手を置き小瓶に意識を集中させた。
「ちょっ、治して平気なのか。ドク?」
「ドクターリッパーですよ。不完全な状態だから余計に駄目なんです、こうして治しさえすれば、空中に漂っているウイルスも固定化できる………筈かと」
 あやふやな物言いに不安を覚えたが、固定化されていくすすだった物を見て……おおむねこの事件の発端が解ったような気がした。
「……ダイヤ!?」
「そう、ウイルスの正体は呪いなんです」
 ビンを傾けると、手の平にサラとこぼれ出す数々のダイヤ。
「最初に呪われたすすつまり灰だと聞いて、直ぐに思い当たったんですよ。元々はホープダイヤだったんじゃないかって」
「確かに炭素とダイヤの原子は同じね」
 かつて何かの理由で燃やされたて灰になったダイアモンドがIO2に来た事を知り、治そうと思ったのだろう。
 確かにそう考えてもおかしくはない、捨て値で裁いたとしても遊んで暮らせる量がある。
「お前等が失敗しなかったらもっと簡単に済んだんだ」
 とりあえず全員揃ったようだ。
「それじゃぁ、お願いね。遮那君」
「はい」
 ドクターリッパーがやったように遮那がりょうの背に手を置いて、デッキから取りだしたカードに意識を集中させる。
「浄化を意味する『司祭』よ、どうか手をお貸し下さい」
 手から放れたカードの光が部屋を埋め尽くす。
 まぶしさに目を閉じ、次に目を開ける頃にはそれぞれが自分や周りの様子を確かめていた。
「あ、あーー」
 ちゃんと声が出るかを確かめたり。
「……よかった」
 このまま女性の体のままだったらどうしよう何て恐ろしい事を考えてしまっていただけに、安心感は大きい。
「治りましたーー」
 いつも通りの体にホッとしたり。
「良かったですわ、皆様」
「本当よね」
「そっちから盛岬りょう、夜倉木有悟、ドクターリッパー……」
 しっかりと名前を確認していたりもする中、羽澄が鈴をしまいニコリと微笑む。
「さて、どうするつもり?」
「…………え?」
「そうね、このままめでたしめでたしって訳には行かないわよね」
「当然だな」
 そこにシュラインと火腋も加わり問いつめる。
「いや、これは彼が言いだした事ですし……そうでなければこんな事には」
「それを言うか!? 乗り気だったじゃねーかよ! そもそもワクチン探しに草間興信所を選んだのは夜倉木って……居ねぇーー!?」
 既にこうなる事まで予測していたかのような素晴らしい逃げっぷりだった。
「とにかく捕まえましょう、まだ遠くに入ってないはずだわ」
「今すぐ封鎖して貰えば逃げられないはずよ」
「よし、俺が追いかける!」
 手早く指示を出すシュラインと羽澄。
「ちょっとりょう、ダイヤをしまわない!」
「良いだろ少しぐらい、元々そう言う約束だったんだ!!」
「あっ、ドクターリッパーさんが逃げます!」
「それは逆効果だと思いますが」
 その騒ぎに、起きたばかりの草間が呻いた。
「………何があったんだ?」
「鬼ごっこ、でしょうか?」



 その鬼ごっこは、3人とこの件に関わっていたIO2職員が散々叩かれる事になってようやく終止符を打たれる事になったのはもちろんの事だが……。
「このモンブランよくできてるわね」
「良かった、少しブランデーが入ってるんだけど大丈夫?」
「はい、とてもおいしいです、羽澄おねーさま」
「ごちそうさまです」
 興信所に戻ってから羽澄が持ってきたモンブランをみんなで食べたり。
「この紅茶おいしいですね」
「なかなか食べる機会無かったけど、これはなかなか」
 楽しげにお茶会が繰り広げられている部屋の隅。
「……モンブラン」
「足痛い……」
「なんで俺まで」
 正座させられたりする3人の姿があったり。
「しばらくタバコの心配はいらないな」
「でも吸い過ぎを良くないわ、武彦さん」
 復元されたダイヤモンドの一部が、お礼と称して草間興信所の運営に回された事は……現在でも公にされていない事実だ。



     【終わり】

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0086 / シュライン・エマ / 女性  / 26 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員 】
【0506 / 奉丈・遮那 / 男性 / 17 / 占い師 】
【1252 / 海原・みなも / 女性 / 13 / 中学生 】
【1282 / 光月・羽澄 / 女性 / 18 / 高校生・歌手・調達屋胡弓堂バイト店員 】
【1316 / 御影・瑠璃花 / 女性 / 11 / お嬢様・モデル 】
【1573 / (蘭空)・火腋 / 男性 / 16 / 万屋『N』のメンバー 】

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■         ライター通信          ■
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参加いただいた皆様、ありがとうございました。

今回は状態異常(呪い)でした。
その正体はホープダイア。
呪いはちゃんと浄化してから手に入れたものと思われます。

珍しく潤う興信所。
皆様、お気に召していただけたけたでしょうか。

今回の3人はまた何かやらかす事と思いますので、その時はまた解決していただけたら幸いです。