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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


芸術の秋〜深淵に潤いを?

 またもみそのお姉様に呼ばれました。
 今回は…何やら絵の手伝いに来て欲しい、と。
 絵の手伝いと来れば…なんだろう? と少々疑問に思いつつ、みなもはそれでもやっぱり大好きなみそのお姉様から呼ばれれば――嫌がる事はありません。
 手伝う事、手伝う事。
 手伝い、で思い当たる事を、ちょっと考えてみます。
 うーん。
 ………………モデル、でしょうか?
 もしくは画材やら道具の運搬とか。…本格的な絵の道具って重い物多いですからね?

 悩みながらもみなもはみそのお姉様の元に来ました。
 ここには――白くて大きなキャンバスが立て掛けて置かれています。
 大きいです。
 …ええ、とても。
 この中に何か人物でも描くとしたら…等身大でも大丈夫なくらい。
 そんなキャンバスを前に、みそのお姉様は大きな絵筆を持ってにこやかに微笑んでいました。
 …とても機嫌が良さそうです。
 はい。

 ………………嫌な予感がしたのは気のせいでしょうか。

 いえ。
 気のせいではありませんでした。
「素材…ですか?」
「ええ。みなもをキャンバスに貼り付けて…臨場感など…出してみたいと思ったんですわ」
 ただ描くだけでは…どうも、表現し切れないと思えましてね。
 みそのお姉様はそんな風に告げ、みなもに服を脱ぐよう頼みます。
 …ヌード…ですか…。
 少々冷汗が。
 ですがみそのお姉様の頼みなので、みなももやはり素直に聞いてしまいます。
 けれどスカートを、ぱさ、と落としたその時、ふと気付きました。

 ………………今、キャンバスに貼り付ける、って言いませんでしたっけ?

 ちょっと待って下さい!?
 思ったその時。
 ふ、と足の裏の感覚が無くなりました。
 え? と疑問に思った時には、ふわり、と。
 身体が宙に浮いていました。
 と、思ったら。
 青色の何かが視界に入りました。
 緑色の何かも。
 白色の、藍色の、黒色の、水色の。
 それらが。
 細く伸び。
 するるっ、と。
 身体に巻き付いて行きます。
“流れ”るように。
 今脱いだ服の代わりとでも言うように。
 …“流れ”ているみたいに…となるとこれはお姉様の…?!
 などと考えている余裕も殆どありません。
 淡い色、深い色、濃い色、優しい色の。
 微妙な色調を見せているこの何か――絵の具?――がみなもの身体にぐるぐると巻き付き、高波の如く…先程の白いキャンバスごと彼女を飲み込んでいきます。
 視界が青いです。
 青い――海の色のような。
 様々な色彩が混じり合っているその絵の具? がみなもの身体を染めていました。
 ふと見えた腕は緑柱石とラピスラズリが混じっているような色をしていました。
 自分のものとはとても思えなく。
 みそのお姉様が操っていると思しきその絵の具? に翻弄されつつ、みなもの身体は勝手に動きます。
 背中から、ざらついた平面に触れた気がしました。
 キャンバス、でしょうか。
 位置が決まると、それっきり。
 今度は様々な色彩がみなもの上を細かく、優雅に流れて行きます。
 くすぐったいです。
 絵の具らしきその色彩が、次々、重ねられて行くのがわかります。
 キャンバスに塗り込められているような気がしました。
 だんだん、動けなくなります。
 真っ青な海の色だけが、あたしの視界に残って…。
 …その内、意識が無くなって行きました。

 で。
 唐突に気が付きました。
 ぱちりと瞼を開きます。
 …あれ? あたし、眠ってましたっけ?
 疑問に思いながら身体を起こしますと――もう絵の具? らしきものはみなもの身体には全然付いていません――すぐ隣から、す、とみそのお姉様の手が伸びて来ました。安心させるようにか、みなもの手の上にやんわりと置きます。
「有難う御座いました。おかげでとっても素敵な『絵』が出来上がりましたわ」
 嬉しそうに微笑みつつ、みそのお姉様はみなもに言います。
 が。
 みなもとしては手伝った意識が殆どありません。
 何が何やらわからない内に全て終わってしまっていて。
 やっぱり疑問に思いつつ、みなもはきょろきょろと辺りを見回します。

 と。

 真っ白だった大きなキャンバスが深い藍に染められていました。
 人魚の如き――って薄い血筋ですけどあたしも一応本物ではあるんですが、じゃなくってとにかくそんな感じの、マーメイドな…と言うか、青や緑の…海の水の色を基調にした波や水飛沫だけを纏っていて…何処か幻想的な『海の妖精』とでも言うべき姿になってます…じゃなくって、いえ、そこまでは良いんですが、身体のラインがくっきりしていて――ってそれはその分立体的なわけですから当然なんですが――じゃなく、この『絵』は…何となくお姉様のよう落ち着いた雰囲気があると同時に、何かに心を奪われているような、少しぼぅっとした表情で…と言うか何か誘っているような風でもありそこはかとなく妖艶さがあるようなないような…。
 焦ります。
 思考が纏まりません。
 ――ちょ、ちょっと…待って下さい…っ…!

 …これ何なんですかー!!??
 思わず…ゆでダコの如くかーっと赤面してしまいます。

「お、お姉様…っ」
 慌てます。
 だって何か…ちょっと…これは…。
「綺麗に仕上がってますでしょう?」
 にこにこ。
 上機嫌でみそのお姉様はみなもに微笑み掛けます。
 で、嬉しそうにその『絵』を見てました。
 その『絵』を見ながら、これはみなもに手伝ってもらった『絵』とそっくりの形に、知り合いに造ってもらった複製品ですわ、と、みなもに説明します。
「…さすがに、みなもをずぅっとキャンバスに貼り付けておく訳には参りませんからね」
 にこにこ。
 平然と。
 否、むしろこれ以上無いくらい楽しそうに。
 みそのお姉様は微笑んでいます。

 いえ、『絵』の素材でも良いんですが。
 みそのお姉様のお役に立てたのならそれも良いんですが。

 それ以前に。
 この完成品は。

 ………………物凄く恥ずかしいですよーっっっ!!!

【了】