コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


Lie

<オープニング>

「嘘なんでしょ」
 その言葉が胸に突き刺さった。
「嘘じゃない」
 言っても言っても。その言葉を信じてくれないから。
「嘘じゃない」
 その言葉を嘘じゃない事を証明してみせる為に。僕は。
「嘘じゃない」
 赤い赤い血の海に飛び込んだんだ。


 月刊アトラス編集部に舞い込んだのは、ここ一週間ほど、ずっと鳴り響いている電話の内容と丸ごと同じ依頼のようなスクープだった。
「嘘に決まってるじゃない」
 冷たい一言で紙を丸めてゴミ箱へ投げ捨てる。麗香は自分を見つめる中年の瞳を真っ向から見つめ返した。
「だが。私の息子は殺されたんだ。殺されたに決まってるんだ」
「だーかーら」
 麗香は溜め息を落として、ふと名案が思いついた。とでも言うように顔をあげた。
「分かったわ。それが、嘘か嘘じゃないか調べてもらいましょう」
「調べてもらえるのか!?」
「私の部下じゃないですがね。そういう現象を調べてくれる人たちにツテがありますから」
 そう言って麗香は丸めた紙を目線で追った。
「嘘に決まってるわ。言葉だけで人を殺せる人間がいるなんて」
「嘘じゃない!」
 そう何度も中年は繰り返した。
「嘘じゃない。嘘じゃないんだ」
 まるで、それが1つの呪文であるかのように。

 
 丸められた紙に書かれた文字。
 人を誘惑し、生気を吸い取り。最後には言葉1つで殺してしまえる『化け物』がいる。
 そんな絵空事に似た・・・・文字が並んでいる。
 スクープという黄色い文字が、やけに空々しかった。


>プロローグ/キリート サーティーン

 闇は生であり死である。闇に生まれ、闇で生きる者。
 その者に呼びかける声。
「・・・・呼ぶ、声」
 ひっそりと、闇の中から声がした。涼やかな、声だ。
「聞える、声・・・・・が」
 やがて、黒一色で塗り固められていた空間が微妙に揺らぐ。声とともに闇の空間が色を付け始めていく。黒から流れる金が。黒から妖しく光る赤が。黒から雪のような白が。
「私を・・・・呼ぶ、声は」
 闇の中から姿を現したのは、長身の男だった。細身の体が闇から生まれ、色を取り戻す。
「誰、だ?」

『誰でもいい!!息子の死の意味を教えてくれ!!!!!』

 切なる程の怒りと悲しみ。
 それに誘われるように、太陽が動いた。

「・・・・条件が揃った・・・・・行くか・・・・・・」
 


>1/集合/キリート サーティーン、九尾 桐伯、海原 みその
 
 東京某所。PM7:27。
 太陽が落ち、すっかり辺りが闇の色に染まる景色の中にキリートはいた。
 バー「ケイオス・シーカー」は知る人ぞ知る。という場所で、簡単には行き着けない場所にある。ひっそりと佇む扉を開けると、カランと鈴の音が1つ鳴る。
「いらっしゃいませ」
 カウンターにいるバーテンらしき、すらりとした身長の男が魅惑的な笑みでキリートを迎えた。しかし、キリートの意識は既に自分の主となるべきものへと向かっている。
「貴方が・・・私の主」
 カウンターに座っている男の前にキリートは声をかけた。
「あ、あんたは?」
 目の前にいる人間とは思えないほどに顔の整ったキリートを見て、男は尻込みしている。
「私の名が必要ならば、キリート。とお呼び下さい・・・・・我が主」
 そう言って、キリートは男の前に膝を付く。
「我が主。貴方の・・・・願いを・・・・私は、叶えに・・・・来ました」
「ね、願い」
 困惑した声で男は尋ねる。だが、すぐに思い当たる事があったのか。男はキリートの傍へと詰め寄った。
「あんたが!あんたが、あの編集部が紹介してくれた人たちの内の1人か!?」
「・・・・いいえ・・・・私は・・・・貴方の、願いを叶えに・・・・・。私を、動かせるもの・・・私の存在意義・・・・・それは、我が主。貴方です」
「・・・・・」
 言っている意味が分からない。というように、男はキリートを見つめる。何を言えば良いのか、考えあぐねている様子の男は口を、金魚のようにパクパクさせている。
「おじ様。深くは考えない方が良いと思いますよ」
 何時の間にか2人の間に、1人の少女が立っていた。黒い服に身を包んだ少女は、どこか神聖な雰囲気をまとっていた。
「初めまして。わたくしは海原 みその(うなばら みその)と申します。碇様より、お話を聞いて今回の事件の解決に参加させて頂きます」
「・・・・」
 キリートは少女を軽く見。だが、何も言わずに男の方へと視線を移した。
「役者は揃ったようですね」
 そして、再び第三者の声。
 カウンターの中にいるバーテンだ。
「初めまして。今回の事件の解決に参加させて頂く、九尾 桐伯(きゅうび とうはく)と言います」
 にっこりと微笑み、三人の前にそれぞれのカクテルを差し出した。
 カクテルの中は、どこまでも蒼い海の色に似ていた。
「私のオリジナルカクテルです。ああ、海原さんは未成年でしたよね?貴方には特別製のジュースですので安心して下さい」
 未成年の飲酒・喫煙は、心身の発達を阻害する恐れがあります。と、どこかで読んだキャッチコピーが瞬時に浮かんだ。
「ありがとう」
 苦笑しながらグラスの1つを取る。
「あ、あんたら・・・・」
「ご心配なさらず。まあ、少しだけ予想外の方がいらっしゃるようですが・・・・」
 桐伯はチラリとキリートを見。そして、フワと微笑んだ。
「悪いようにはならないようですしね」
 その言葉に。それでも、キリートの目も意識も、主となった男だけに向けられていた。

>2/最後の審判/キリート サーティーン

 闇に覆われた世界の中にあって、その建物は一種異様な雰囲気が漂っていた。
 紫色で囲われた看板には赤字で『預言者』と書かれていた。周りには、似たような怪しい店舗が立ち並ぶ裏通りだが、この店だけは浮き彫りだった『怪しさ』と『妖しさ』が混同している。
 キリートは店の前に立ち、左右の店を見る。一見しただけでは何も変わったところは見受けられないが、キリートの耳に届く様々な声が裏の素顔を浮き彫りにさせる。つまり、この周辺の店は表舞台には決して出られない人の吹き溜まりなのだ。
「お待たせしました」
 中から出てきたのは、みそのだ。黒い悪魔風の服が、かえって辺りに溶け込んでいる。
「どうやら、ここで間違いないようです」
 にっこりと笑い、みそのは携帯を取り出す。別行動の九尾に連絡を取るためだ。だが、キリートはみそのの横を通り抜け店の中へと入ろうとする。
「あの。九尾様をお呼びしますので、しばらく待って・・・」
「必要ない」
 みそのの言葉を冷たくキリートは遮断した。
「・・・主の・・・・望みを、叶える。それが・・・・私の存在理由・・・私の存在意義」
 扉の中へと入り込むと同時に、遠くからみそのの溜め息が聞えてきた。その溜め息すら無視して、キリートは中へ中へと足を進める。
 主となった男からの情報は、1つだけ。この占いの館の女主人に入れ込んでいた息子。そして、ついには自殺してしまった息子。

『あいつは言っていた。最初は、馬鹿らしいと一蹴にしていたんだが・・・』

--------親父はお袋が死ね。って言ったら死ねる?お袋が親父に『私を想ってるなんて嘘でしょう』って言われたら・・・そうじゃない。って証明するために死ねる?・・・・・・俺は、死ねるよ。あの人の為なら。あの人が望むなら。

 知りたいと切実に男は願っていた。女主人に息子が殺されたのか、違うのか。
 だから、確かめに来た。この店の女主人が、キリートの主の息子を殺したのどうか。そして、主の願いを叶えるために。
 薄い白のカーテンによって幾重にも遮られている部屋の真ん中へと到着する。キリートはカーテンを取り払うように破り捨てた。白いカーテンが鳥の羽のようにはらはらと周りに落ちる。
「・・・・ずいぶんと派手なご挨拶ですわね」
 丸い部屋だ。
 部屋の中には濃紺のカーテンがかけられている。電気と呼べるものは、上から下がっている豆電球1つだけ。ベルベットらしいカーテンが、豆電球の微かな光をうけて艶やかさを増している。
 そして丸い机の前に座っているのは垂れ目が特徴の女だ。上から紫のヴェールを被っているが、顔を隠す意味とは取れないほど、こんな薄闇の中でもはっきりと顔が見える。
「・・・・・ここの・・・・女主人・・・・だな」
「えぇ。そうですわ。貴方は?」
「・・・・我が主の願い・・・・叶えるために・・・・」
「え?」
 女主人の媚を少なからず含んだ問いには答えず、キリートは一歩だけ女主人に近づいた。
「・・・男を殺した・・・・言葉を使い」
「・・・・・何の事でしょう」
「2週間前・・・・自殺したとなっている男・・・・・」
 その言葉に女主人は目を細めた。冷ややかな目線がキリートを捕える。
「あら。あの人の身内に頼まれたのですか?」
 がらりと変わった口調は、キリートを見下しているようだ。だが、キリートは女主人の目線にも口調にも意を解さない。
「でも。無駄ですよ?彼は自殺だったのでしょう」
 笑う。
 その笑顔が無駄に明るく不自然だ。
「なぜ・・・・・・嘘をつく」
「嘘?」
「・・・・・貴方の言葉は・・・・全て、嘘にしか見えない」
 キリートの言葉に女主人は顔を強張らせる。
「嘘と虚勢・・・・・私に見える貴方は・・・・それだけ」
「・・・・・・貴方、何を」
「お取り込み中すいません」
 第三者の声が突然、2人の間に割って入ってきた。女主人とは初対面だが、キリートは後を見なくても分かっている。桐伯だ。
「言霊というのがありますね。元々、言葉には力が宿る。そして、貴方の言葉には力が宿りすぎていたようですね」
 桐伯はにっこりと笑って、黒く長い髪を掻き揚げた。
「調べさせて頂きました。貴方の周りの男性・・・全て自殺したそうですね」
「だから。何」
 女主人はぎゅっと拳を握り締める。
「嘘なのよ、全部」
「・・・嘘?」
 静かに問い返すキリートに女主人は顔を俯けた。
「そう、嘘。何時か終わるのよ、どんな関係も。私の命も・・・・もし、私が死んだら、あの人達は私だけを愛し続ける。と言っても、他の人を愛すに決まってる。だから、言ったの・・・全部、嘘なんでしょう・・・・って」
 その時の様子が、様々とキリートの中へと入ってくる。
「嘘、なんでしょう。この世界の全部」
「そうでもないと思いますけれどね」
 そう言って、桐伯は女主人の前に一冊の手紙を投げ出した。
「今回の依頼者とは別の人のですよ」
 隣にいるキリートに、そう説明する。
「2番目に死んだ人の手紙です。貴方に届けるよう、友人の人に頼んでいたようですね」
 もっとも、ここの裏通りに友人は来れず、今まで手紙は机の中にしまわれていたわけだが。
「その手紙を読んでみて下さい。それでも、貴方は全てを『嘘』だと言えますか?」
 静かな問いかけに女主人は静かに頭をうな垂れた。
「・・・・嘘も虚勢も必要・・・ない」
 キリートは静かに言葉を作り出し、女主人の前まで歩く。泣いているのだろうか、震える肩に手を置いて静かに言った。
「その言霊の力を・・・・・殺す」
 それが、キリートに出来る事だった。
「え?」
「眠れば・・・・・・いい」
 それが引き金となって、女主人は静かに机に倒れこんだ。
「彼女は?」
 傍観者となっていた桐伯が聞くと、キリートは静かに踵を返した。
「問題はない」
「問題はない。ですか」
 キリートの後に続き、桐伯も部屋を後にする。
 店の前には空を見上げている、みそのがいた。
「碇様から、お電話がありましたわ」 
 手に持っている携帯電話を上げ、悲しそうに微笑んだ。
「依頼者様、事故に合われたそうです」
「え?」
 キリートは驚いたように声をあげた。
「幸いな事に命は取り留めました。けれど、一部の記憶を失ったらしいです」
「記憶喪失・・・・・」
「ええ。息子さんを亡くした事を、忘れたと」
 その言葉に桐伯は目を閉じた。キリートは最後まで、みそのの言葉を聞く事なく2人の前から姿を消すように夜の街へと消えた。
 息子を亡くした記憶を消した。それは、つまり碇に依頼したものすら忘れたという事。キリートの事も全て記憶から削除されたという事だ。
「貴方の願いは叶えました・・・・我が主」

『私は裏切らない、嘘をつかない・・・・さぁ、願いをおっしゃってください・・・ 』


 そんなキリートに言った願い。それは、本当に女主人が息子を殺したと言うのなら、その能力を奪って欲しいという願い。そして、後で事実を知らせてくれ。という依頼だったのだ。
 キリートの声は闇に途切れ、そして、姿は徐々に闇に溶けた。
 遠くから朝日が色を変えて上がってきていた。

<エピローグ>
 
 あいかわらず忙しさだけは一流雑誌社と変わらない月刊アトラス編集部内。
「このスクープもダメになっちゃったわね」
 碇のセリフに、みそのも桐伯も苦笑するしかない。
 実際、本当だったスクープはキリートの手によって永遠に封じられたのだ。あの店の女主人は姿を消し。あの場所にあった店の跡地には、色々な外人が行き来するバーが出来ていた。
「さて。次のスクープでも探しに行かせなくちゃね」
 立ち上がる碇を見ながら、みそのはソッと隣の桐伯に耳打ちした。
「碇様。ずいぶんと楽しそうですわね」
「どうやら、次のスクープを見つけたらしいからね」
 出されたカップの紅茶に手をつけて、くすくすと桐伯は微笑んだ。
「あのポジティブな性格は見習いたいものです」
「本当ですわね・・・・さて、わたくしも、そろそろお暇しますわ。九尾様は、どうされます?」
「ああ。私も失礼するよ。そろそろ店の仕込を始めなければならないからね」
「また、九尾様のお店にお邪魔してもよろしいでしょうか?」
「かまわないですよ。でも、来てもカクテル類は出せないよ」
「心得ていますわ。それじゃあ、また近いうちにお会いしましょう」
「ああ。それじゃ、気をつけて」
「九尾様も」
 お互いに笑いあって、手を振りアトラス前で分かれる。
 人々の行きかう道で、ふと見知った顔が2人の分かれた後に通り過ぎた。
 微かに残る残滓。
 キリートは顔をあげ空を見た。月が浮かぶ真っ暗な空に、目を閉じる。
 嘘と虚勢で固められた世界は、もしかしたら。この地球そのものなのかもしれない。
 3人の胸に通り過ぎる風のような言葉が、また1つ聞えた。

『ねぇ。どうせ、全部・・・嘘なんでしょう?』

 それは、女主人が最後に残した。
 冷たい、言霊。



□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【1986 / キリート・サーティーン / 男 / 800 / 吸血鬼】
【0332 / 九尾・桐伯 / 男 / 27 / バーテンダー】
【1388 / 海原・みその / 女 / 13 / 深淵の巫女】
※並び順は申し込みして頂いた順となっております。ご了承下さい。
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

 こんにちわ、朝井 智樹です。
 とてつもなく、お久しぶりな仕事になってしまいましたが・・・。あの東京怪談らしい独特の雰囲気を壊してないかどうか・・・。ちょっぴり不安なだったりしますが。如何でしたでしょう?
 今回、依頼に参加して下さった方々。本当にありがとうございます。少しでも、不可不思議な感覚を味わっていただけたらのなら嬉しいのですが。そして、何時ものごとくギリギリの納品で申し訳ございません(平伏)

□キリートさん
>初めまして、こんにちわ。朝井 智樹と申します。13番目の吸血鬼。という設定に、さりげなく胸をときめかせております(笑)吸血鬼、というのは背徳的な感じがして私は、とても好きなのですが。その妖しくも魅せられずにはいられない雰囲気を文中で発揮できていれば。と思います。

□九尾さん
>こんにちわ。そして、お久しぶりです。再度の依頼のご参加、とても嬉しく思います。今回も、九尾さんは、とことん!大人の男の色気。というものを追及させてみたのですが・・・。いかがだったでしょうか?少しでも、あの落ち着いた大人の雰囲気がだせていればいいのですが。

□海原さん
>初めまして、こんにちわ。朝井 智樹と申します。今回は、唯一の紅一点という事で。しかも、周りの殿方(笑)が大人の男。という事で、その辺りのドキドキ感も・・・と、思ったのですが。巫女さんは、清純なの!という個人的意見により、かなりサッパリした感じに・・・。けれど、女の子では久しぶりなタイプの方でしたので、とても嬉しかったです。巫女さん・・・素敵な響きです(え)

 今回は、各々のタイプごとに話を書き分けさせて頂きました。ですので、それぞれの方のお話も合わせて読むと、あそこではこうなっていたのか。という部分が多々あります。今回、ご一緒に事件に向かわれた方のお話も合わせてお読みになると、多少、面白さが増すかと。
 それでは最後になりましたが。
 このお話を読んで、少しでも『うん、楽しかったぞ』・『こういう話、結構好きかも』と心の片隅で思っていただけるのであれば幸いです。また、どこかの平行線上の世界で、皆様と不可不思議な旅路をご一緒できることを楽しみにしております。