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<東京怪談ノベル(シングル)>


鎖縛(さばく)

1・
歩く度、金属の擦れる音がする。
・・鎖・・。
手と足。それぞれの枷につけられた鎖の音。
一生解けない俺への呪い・・・。

2・
いつの話だったのだろう?
俺・紗侍摩刹(さじませつ)が母親に連れられ、紗侍摩家へと足を踏み入れたのは。
破産した名家の家に愛想をつかした母親は紗侍摩家へと帰った。
紗侍摩の家は閉鎖的で俺たち親子は肩身の狭い思いをした。
だがそれでも俺は、母親について行った。
母親が愛をくれると思っていた。
だが、母親がくれたものは度重なる虐待。
特に、俺が不可思議な力を使った後は酷かった。
そして、親族による迫害。
あの頃既に、俺の手足には枷が有った。
父親の記憶と結びつく唯一のもの。母親と父親がこれをつけた。
俺が動くたびに金属が擦れる音がする。
俺はその音と、ただひたすらに母親が繰り返す言葉を聞いて育った。
『力を使ってはいけない。心を殺しなさい。あなたの心を殺すの。』

3・
俺は感情を殺す方法を身に付けた。
それが母親に愛を与えられる条件だと思った。
きっとそれさえ出来れば母親は俺に愛をくれるのだと。
だが、虐待は止まらず、俺はそれに苛立ちを覚えつつあった。
なぜだろう?母親は俺のために力を使うなと言っていたのではないのだろうか?
俺を愛していたから俺に心を殺せといったのではないのか?
時々暴走しようとする力、俺はそれに苦労した。
母親や親戚が俺を監視しているとも知らずに、必死で力の暴走を止めようとしていた。
だが、そんな努力はどうでもよかったのだ。
紗侍摩の人間は俺を恐れていた。
だから、どんな些細な動機でもよかったのだ。
『力が暴走しようとしている、俺が誰かを殺すかもしれない。』
不安要素を持った人間は暴徒と化す。
集団心理はそれこそ大きな暴徒と化し、1人の時では出来ないことも強行して出来るようになる。
俺は親族会議に呼ばれた。

4・
「この子はこの家の人間を殺すつもりだ!」
「そうだ!今のうちに殺せ!」
俺は敵意をむき出しにした人間の矢面に立った。
今にも掴みかからんとする悪意ある人間。
俺の親族。叔母、叔父、祖母・・。
俺には何故この人たちが俺を恐れるのかがわからなかった。
俺は救いを求めるように母を見た。
「・・あなたがいけないの・・刹。」
その一言が俺の中の力を暴発させた。
今のうちにと襲いかかろうとする親族に目を移す。
『断絶』の力。
一瞬のうちにバラバラに吹き飛ぶ体。
舞い散る血しぶきが俺に降りかかる。
あぁ、この温かさ。
これが俺の求めていたもの。
温かく、この痺れる様に甘美な快楽。
俺の姿を見た者が、恐怖に引きつる。
逃げようとする者、なおも襲い掛かろうとする者。
いいさ。来いよ。
お前たちは俺にどんな快楽を与えてくれる?
次々にバラバラになり、肉塊へと化す。
部屋中を真っ赤に染めてやろう。どんなにか綺麗だろうさ。
「おやめなさい!刹!!」

5・
我に返ると、母親が悲しげに俺を見ていた。
「私は・・・私は力を使ってはいけないといったはずよ!どうして・・どうして!!」
どうして?何を言っている?
「あなたの力を封じ切れなかった・・感情を封じ切れなかった私の責任・・でも、使ってしまったのはあなたなのよ!」
・・・・・
「あなたは死ななきゃいけないの。それがあなたのためなの!」
・・・・・俺のため?違う。おまえは・・・。
「私はあなたを愛・・!?」
それ以上は聞かなかった。
バラバラになった母親はそれ以上口を動かすことなど出来なかったから。
愛?おまえのくれた愛はこの力と、この温かな血しぶきの快楽。
そう。俺はこの快楽を忘れられそうにない。
残りの紗侍摩の人間も殺さなければ。
皆殺しだ。俺にもっと快楽を・・・。
俺は、何かを失っていくのを感じだ。
そう、これは・・・俺が・・俺の感情が・・姿が・・消えて・・・・・。

6・
刹を殺そうとした紗侍摩の人間は全てバラバラにされた。
逃げだした者も全て、殺した。
手枷と足枷は今でも外れない・・・・。
そんなことはどうでもいい、大事なのは・・・・もっと殺すことだ・・・・・ 。
現実世界に身をおくことも許されない刹は言葉と感情を失い、なおも母親に唯一与えられた快楽を得るため殺し続ける。

鎖縛の殺人鬼・紗侍摩刹。
それは死に接触し快楽する者・・・。