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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


調査コードネーム:The Dark Ride 3


■序■

"Trick or treat!"
"Oh, Happy Halloween!"

"die or treat,"

"Oops, ha-ha, sorry, Trick or die!"

 がふっ、ぐるるるる、ギャハハハ、ぶしゅッ、ぐちゃッ、
 ゥわッハッハッハ!

「やつが帰ってくる」
 草間はむっつりと、のろのろと煙を吐いた。
 彼には多くの友人がいて、多くの仲間がいるし、多くの協力者がいる。警察関係者にもだ。草間は応接間のデスクに写真を投げ出した。まともに正視するのは至難なほどの殺戮現場が、写し出されていた。
「やつは『13日の金曜日』だし、『エルム街の悪夢』だし、『ハロウィン』だし、『悪魔のいけにえ』で、『死霊のはらわた』で、『スクリーム』――ああ、これは完結したか――要するに、倒しても倒せないのかもしれない。ああでも『スクリーム』は完結……くそッ、俺も混乱してるらしい。忘れてた、『ヘルレイザー』と『オーメン』もだ!」
 草間がところどころでつまずきながら話しだしたのは、去年と一昨年の話だった。
 東京の片隅にある幌羽町で起きた連続殺人事件の話だった。
「なんかくれなきゃ、いたずらするよ」
 ではなく、
「なんかくれなきゃ、ぶっころすよ。ぎゃはははは!」
 玄関を開けると投げかけられるのはそんな下卑た哄笑で、大人が思わずしかめる顔は、ごっそりと持っていかれてしまうのだ。
 ハロウィンというのは日本の盆にあたる日の前夜祭である。クリスチャンはジャック・オー・ランタンを窓辺や玄関先に置いて、ふらふらとこの世にもどってくる悪霊を退けるのだ。
 だが、うっかりランタンを置き忘れたり、ランタンの中の火が消えたままにしておくと――やつが現れ、いたずらをしていく。大人の顔を持っていってしまうのだ。理由などない。たぶん何も考えていない。そういうものだ。アメリカ西部で生まれた都市伝説だったが、それはついに一昨年日本に上陸したのだった。
「やつを今年こそ倒してやりたい。今年で完結させるんだ。やつは――『来年を楽しみにしてろ』って言って死んだ。きっとまた帰ってくる。幌羽町に行ってくれ。あの町には俺の知り合いが何人かいるんだ。死んでほしいやつらじゃないんだ……」
 草間の表情は切実なもので、テーブルに散らばっている写真は本物だった。
 お菓子を手にしたまま死んでいる大人には、顔がなかった。


■4個のカボチャ■

 後日、煙草くさい草間興信所に集まったのは、シュライン・エマ(いや、彼女の場合、集まったというよりは『その日も居た』と言うべきか)、夏比古雪之丞、光月羽澄、藤井百合枝。
 揃って笑い顔のカボチャを携えていた。しかも、すでに興信所の応接間には、シュラインが零や興信所の客と作ったカボチャ製のランタンが、そこら中に置かれていた。まだ火を入れるには早い時間だ。どれも、空っぽの脳味噌のままで笑っている。
 ジャック・オー・ランタン、酔いどれジャックのための灯火。

 夏比古雪之丞が持つシルバーブランドを置くショップのウインドウには、銀のランタンが飾られている。それも今日、10月31日までだ。
 羽澄と百合枝は街中で偶然に、『BmSf』のカボチャを目にしていた。後日その銀のランタンの製作者とともに街を奔走することになろうとは――



「『キャンディマン』と『チャイルド・プレイ』を入れるのを忘れてた」
 多少落ち着いたらしい草間が、煙草を燻らせながら呟いた。
「意外とホラー映画好きなのね」
「例なんて挙げたらキリないよ」
 冷静に突っ込んだのは羽澄と百合枝だ。パソコンのモニタの陰から身を乗り出したシュラインが、苦笑を返す。
「先週、『フレディVSジェイソン』観に行って興奮しながら帰ってきたのよ」
「興奮はしてない。感動はしたが」
「興奮したときと感動したときの反応って殆ど同じよ」
「ああ、最近何かが対決したとは聞いてたけど、それだったのかい。良かったの?」
「だから感動ものだったって言っただろ……客は俺の他に10人しかいなかったけどな」
「面白いものなのか? 単にヒトが殺されるだけの活動写真だろう。仏蘭西の活動写真なぞを観ろ。芸術的だ」
 冷めているような、ただ単に冷静なような、夏比古雪之丞が草間虐めに加わった。彼は手にしていた銀カボチャに、ふっと息を吹きかけた。
 珍しい来客であった。シュラインは雪之丞の訪問に少しばかり驚いたし、応接間に入ったところでクールな白い男に出くわした羽澄と百合枝も、呆気に取られた。この男には奇妙な風情があった。何でも彼は、草間がカボチャ絡みで人を探していることを耳にして、銀のカボチャを手に興信所を訪ねてきたのである。
「私はホラーって苦手。何だか気が知れないわ」
 羽澄の呆れたような一言に、百合枝が首を傾げる。
 悪気はなくとも覗いてしまった羽澄の心の中は、今回起きようとしている事件にもさして恐怖を抱いていないようだったし、草間が放り投げた写真を見ても平然としていたからだ。それほど芯の強い少女が、果たして安っぽいホラー映画を怖がるだろうか?
「そっちの方が意外だねえ」
「ああ、怖いわけではなくて……私、音に敏感なんです。あの怖がらせるためだけの音楽が、どうしても肌に合わなくて。急に音が大きくなったりするし。実際の事件のほうがよっぽど大人しいもの」
「……そう……? そんなもの……なのかな……」
 百合枝の目は、顔が削げ落ちた死体の写真に向けられた。
「大体まとめたわ」
 シュラインが資料を抱えてパソコンの陰から出てきた。
「道すがら情報を頭に入れていきましょ。武彦さんは焦ってるみたいだし、今日は10月31日だし」
「行くか」
 雪之丞がうっすらと笑い、銀カボチャをひとつデスクに置いた。
 羽澄と百合枝は、同時に、「あ」と声を漏らした。
 街中で魅了された、あの銀のランタンだった。


■怪物の正体■

 シュラインがまとめた興信所が手がけた事件のデータを、羽澄がネットの海で拾い集めた情報を、4人は移動中に頭に叩き込んだ。
「一昨年は武彦さんも関わってなかったみたいね。データはあるけど」
「世間じゃ、全然話題にもなってないわ。ネットでも、取り上げてたのは個人のサイトで1件だけ。それも日記」
「幌羽町の人だね」
「余程殺されねば、ヒトは忘れる」
 雪之丞がフと鼻で軽くあしらった通り――草間があれほど危惧していたのに首をひねりたくなるほど、事件は小規模なものだった。少なくとも、日本では。一昨年被害に遭ったのは2人、去年は4人と未遂が1人、とりあえず、シリーズを重ねるごとに被害者が増えるという轍は踏んでいるようなのだが……。
「アメリカの事件はちょっと深刻だけどね。警察も今年は警戒してるみたい」
「待って、ということは怪物は1匹じゃないってこと? 同時にアメリカと日本で事件が起きるなんて」
「2匹でもないでしょうね」
 シュラインが肩をすくめ、羽澄が持ってきた英語サイトのプリントアウトを傍らに置いた。
 幌羽町の商店街では、いくつもの橙のカボチャが笑っていた。
「ねえ、知ってるかい? ジェイソンはチェーンソーを使ったことがないんだよ。ふたつのホラー映画のイメージがごっちゃになって、いつの間にかジェイソンは『ホッケーマスクにチェーンソー』っていうイメージになったっていうんだ」
 流れていくカボチャを見ながら、百合枝はぼんやりと呟き、すっかり愛用品となった霊刀を引き寄せた。
「今回の怪物も、そんなんじゃないのかねえ。『ハロウィン』って映画と、何かの映画が混ざっちゃったんじゃないかい? 『ハロウィン』は、お面かぶった頭のおかしい男が、10月31日にただ殺してまわるだけの映画。それに何かが混じって……10月31日に殺しにやって来るのは、何だかよくわからない怪物ってことに、なったんじゃないのかねえ」
「『パンプキンヘッド』ではないのか」
 雪之丞が指輪をくるくると回しながら答えた。相変わらず、口元には微かな笑みが浮かんでいる。
「草間が言っていただろう。私は観たことがないが、『パンプキンヘッド』と聞いたとき……私は南瓜頭の何かを想像した。南瓜と言えば、欧米の人間はハロウィンなのではないか?」
 そして『パンプキンヘッド』という映画自体は、ハロウィンとは何の関係もないのだ。
 4人の視線が交錯した。
「『パンプキンヘッド』は願いを叶えてくれる化物だよ」
 百合枝が言った。
「主人公が、復讐を願ったんだ。だから化物は徹底的に殺してまわったんだよ」
「百合枝さん」
「なに?」
「百合枝さんも、ホラー好き?」
 羽澄の問いに、百合枝は答えなかった。


■なんかくる■

 日が落ちようとしている。
 ランタンに火を灯す時間はもうじきだ。
 だが、この日本でランタンを窓辺なり玄関先なりに置いている家など、殆どなかった。ジャック・オー・ランタンがハロウィンのイメージだというのは周知の事実であっても、実践する家は限られている。小さな子供のいる家で子供とわいわい楽しくカボチャをえぐってランタンを作ることはあれども、実際に火を灯して、お菓子を求める子供を歓迎する家は少ない。
 『カボチャ頭』がランタンを灯していない家の者を皆殺しにするのであれば――幌羽町8万の大人はほぼ皆殺しだ。
「だが――待て」
 雪之丞が、シュラインのまとめたファイルを今一度開いた。
「去年、最初に殺された人間はともかくだ……襲われているのは教会か、教会の近くに住んでいた者だな」
「ということは……」
「ランタンを置かねば殺されるのではない。ランタンを置くからこそ、化物に目をつけられるのだ」
 4人が降りたバス停からは、教会の十字架が見えていた。
 きっとランタンが置かれている。
「でもこの、去年最初に殺された人は何なの?」
 羽澄が眉をひそめ、頬を撫でた。
「大学生よ。それにランタン置くようなオチャメな人じゃ、なかったみたいだけど……」
「何だかいやな予感がしてきた」
 シュラインもまた、羽澄に習うかのように眉をひそめた。
「武彦さんの知り合いの家に行きましょ。ちょっと気になることが……」
「何だ」
「百合枝さん、ホラー映画シリーズのお約束ってあるわよね」
「お約束の塊を笑うのが、ホラー映画だよ」
 百合枝が苦笑した。彼女は白状したのである。百合枝は『ハロウィン』と『パンプキンヘッド』を知っていた。……草間武彦と同じ趣味を持っていると言っても、過言ではないのだ。
「例えば、前作で生き残った人っていうのは……」
「ああ、続編で真っ先に殺さ――」
 4人は足を止めた。
 いやな沈黙が流れた。


「武彦さん、ランタンに火をつけて! 早く!!」


 10月31日だ、日が落ちる。
 草間の知人、藪木は健在だったが、ランタンを作ってもいなかった。彼は去年、草間とともに『カボチャ頭』を葬ったと言ってくれた。草間が引きつけ、自分が鉄パイプで頭を殴りつけ、ガソリンをかけて火をつけた――やつが喚きながら崩れ落ちる様を、草間とともに見守っていた。やつが地獄に落ちるのを、確かにこの目で見たというのだ。
 だが、ジェイソン・ボーヒーズは? マイケル・マイヤーズは? フレディ・クルーガーは? クイーン・エイリアンは? 主人公はやつらが地獄に落ちる様を見ている。大抵の場合、自分が地獄に叩き落すのだから当然だ。だが、やつらは――何故か翌年、蘇る。
 草間はお約束を知っていた。
 だからきっと、焦っていたのだ――。


「もうつけてる」
 シュラインの電話に、草間は答えた。
 応接間のランタンというランタンが、赤々と笑っていた。


 やつは地獄に落ちたが、また蘇った。
 続編を期待する人間に応えるかのようにだ――
 草間と藪木をはじめとした今までの被害者が、やつの存在を忘れてしまえば、やつは来なかったのかもしれない。二度と蘇ることもなく、悶々と地獄で横たわっていたのだろう。
 欧米ではハロウィンには『何か』が起こりやすいと言われている。日本で言う盆だ。日本でも盆では何かが起きる。
 誰かが何かが起きると不安を抱いている限りは、何かが起こり続けるのだ。
 だが、何も起きない夜が――ハロウィンだと言えるのかと、きっと誰かが疑問に思う。
 やつはその思いに応えているだけなのだ。
 やつは人間である。

 藪木の家の玄関に、百合枝が作ったジャック・オー・ランタンが据え置かれた。
 少し不恰好だが、逆にこれぞ手作りというその風体が微笑ましい。そのランタンには火が灯されることがない。


 がふっ、ぐるるるる……


■なんかくれ■

「期待通りだな。お前は期待が生んだ化物だ。必ず期待に応えてくれる」
 玄関先に独り腰掛けていた白い男が、狐じみた意地悪な笑みでやつを出迎えた。
 やつの邪悪な黒い瞳には、火が灯っていないランタンが映っている。
『Trick or treat!』
 地の底から響いてくるかのような、特殊効果たっぷりの声がずしんと届いた。やつはいびつな四肢を持っていて、雪之丞は後々これこれこういう姿だったと、やつの姿を説明するのに苦労しそうだと踏んでいた。そう、雪之丞は後々のことを考えていた。この怪物に殺されるつもりも予定もなかったのである。
『ハァハ、悪かった。ハロウィンの意味なんてこれっぽっちも知らないよな。おまえはジャップだ。――なんかくれ、でなきゃぶっころす』
 カボチャ頭でも何でもなかった。
 本当に、見たこともない姿だった。
「くれてやるものは、いくらでもあるぞ」
 雪之丞は、銀の鈴がついたブレスレットに手をかけた。
「『死』などはどうだ、『パンプキンヘッド』」

「あ、あれ! あれ見た?! エマさん、見たかい?!」
「み、見てるわよ? どうしたの?」
「『パンプキンヘッド』そのものなのさ、あいつ!」
 百合枝の珍しい興奮ぶりに、シュラインはデジャ・ヴュを覚えた。
 ああ、そう言えば!
『おいッ、シュライン、観ろ! 是非観ろ!』
「な、なにを? どうしたの、武彦さんたら」
『「フレディVSジェイソン」だ! あれは凄いぞ! 傑作だ!』
 つい1週間前に、まったく同じような場面の中に入りこんでいたのだ。
 今百合枝は、窓の外で雪之丞が対峙している化物を見て、興奮――もとい、感動しているのである。
 そして藪木が、男らしくもなく悲鳴を上げた。
「やつだ! やつが戻ってきた! やつが蘇ったんだ!!」

 がふうっ、

 やつの邪悪な瞳が、雪之丞ではなく、窓に向けられた。
『ハァハッ、「なんか」の匂いがするぞ。おまえが何もくれないんなら、用はない!』
 やつが雪之丞をひらりと飛び越えて、窓枠に飛びついた。
 ちいっ、
 雪之丞は大して表情を変えず、タトゥーとともに手中に現れた弓を、きりりと引き絞る。やつが窓ガラスをごっそり食って中に侵入するのと、雪之丞が矢を放ったのは同時だった。だが、矢はやつの飛び出した肩骨をかすめただけだった。やつはあまりのろまではなかったのだ。
「どこがPumpkinheadだ?」
 雪之丞は毒づいた。


 百合枝が、さっとシュラインの前に出た。先ほどの興奮は瞬く間に消えていて、彼女は刀を抜いていた。
 ちりりん、
 百合枝の動きを、まるで鈴の音は飾ったかのよう。
 きらめきながら現れた鎖が、たちまちやつを縛り上げた。
 ぐるるぅ、
『ジャップどもが、ちくしょうめ』
 やつは無様に這いつくばった。鎖は細く頼りなげであったが、やつはにとってはひどく重いらしい――鈴の音をまといながら、羽澄が深夜の闇から現れる。
「あなたも不死身? ジェイソンとブギーマンなの?」
 羽澄の声色は至極穏やかであり、憐れみなどは特に感じられなかった。
 やつは前作の生き残りを殺すためにやってきた。何もかもセオリー通りなのだ。草間が今はランタンに火をつけて、悪霊を退けている――やつを退けている。草間はやつの復活を信じてしまっていた。それこそが問題なのだ。やつは永遠に蘇り続けるのだ。ここで4人の探求者が地獄に送り返したとしても。
「爆破オチは使えないわね。でも、完結させなくちゃ……」
『おれはまだもどってくるぞ』
 やつは床を引っ掻きながら、嘲笑った。
『何度でも蘇ってやる。理由なんかいらないんだ。そうだろう』
 そして、世界中の10月31日に、やつはたくさんの人を殺してまわる。
『おれはおまえたちなんだ。ハロウィンの夜にはなにかがおこるんだろ? 怖いんだろ、ハロウィンの夜が!』

 ぎゃはははは!

 その哄笑が途切れた。割れた窓から飛び込んできた光矢が、やつの喉を捕らえたのだ。
 やつにも声帯はあったのか、ともかく、やつは悲鳴のようなものを上げたのだが――声にはなっていなかった。鎖を引き千切らんばかりに怪物は悶えたが、苦し紛れに伸ばした凶悪な爪は、百合枝の刀に斬り飛ばされた。映画の中でしか見られない、膿じみた緑色の血液が飛び散った。
「黙らせたぞ」
 窓から中を覗きこんだ雪之丞が、迷惑そうに言い捨てた。
「お前の言う通り、耳障りだ」
 雪之丞の一瞥は、羽澄に向けられた。
 羽澄はすっかり忘れていた。
 ずっと耳障りな声が聞こえていたのだ。
 それが唐突に途切れて、今は、哀れなかすれた苦悶の声が、地を這っているだけだった。
「あ」
 シュラインが、テレビの上の目覚まし時計を見た。
 あの時計が正確ならば、あと30秒で、11月の1日になる。
 ハロウィンが終わるのだ。代わって、諸聖人の日がやってくる。
 やつのオニキスのような目が、シュラインの視線を負って――
 やつは確かに怯え、悲鳴を上げた。

 10月31日によみがえるのは悪霊だが、11月1日に降りてくるのは、聖人たちの魂だ。

 かちっ、と時計が0時を指した。


■11月1日■

 雪之丞が、シュラインが、羽澄が、百合枝が、眩しさに目を細めた。
 一瞬、光が降ってきたようだった。
 クリスチャンが、すべての聖人の恩恵を受けられる日が――
 いたずらをする悪霊がお仕置きを受ける日が――
 11月1日が訪れた。
 やつは今度こそ、滅ぼされた。
 光の中で、音の化身たる鎖に戒められたやつが、もがきながら溶けていった。
 ランタンの役目が終わった。
 百合枝がこっそり持参していた、お菓子の役目も。
 シュラインが携帯を取り出した。


■平日■

「武彦さん、火を消してもいいわよ」
 シュラインの言葉をバックに、羽澄が鎖を拾い上げた。
 雪之丞が――割れた窓から、中に入ってくる。
「良い鎖だ」
 彼は珍しく、友人以外のものを誉めた。いや、たとえ友人であっても、彼はなかなか誉めないのだが。
「次の作品に使うとしよう」
「あ、作品といえば」
 羽澄が微笑んだ。
「アルタ前のウインドウに出てるシルバーのカボチャのペンダントトップ、雪之丞さんが作ったんですよね?」
「だとしたら?」
「たくさん作ってるんでしたら、買いたいなって」
「ああ、私も。便乗してるわけじゃないよ、本当に」
 百合枝と羽澄の照れた笑顔から、雪之丞にはしっかり本心が伝わっていた。
「もう、時期外れだぞ。……それでも良いのなら」
 たくさんではないが、数個売りに出している。
 それが残っていたらと、雪之丞は約束した。
 たとえ残っていなくても、追加で作ってやろうとも――約束した。

 藪木の家を出るときに、シュラインは玄関先のジャック・オー・ランタンに躓いた。
 本来の役目を与えられなかったランタンだ。
 シュラインは苦笑しながら、それを拾い上げようと手を伸ばす。

 ぎゃはははははは!

「!」
 それは幻聴であったのか。
 シュラインが、幻聴など――ナンセンスだ。
 だが、それを聞いたのも見たのもシュラインだけだったようだ。
 ランタンが、地の底から伸びてきた鉤爪に捕らえられ、地の中に引き摺り込まれていった。
「また来年、ってわけ?」

 がふっ、ぐるるるる、ギャハハハ、ぶしゅッ、ぐちゃッ、
 ゥわッハッハッハ!




<了>

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   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)
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【0086/シュライン・エマ/女/26/翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト】
【1282/光月・羽澄/女/18/高校生・歌手・調達屋胡弓堂バイト店員】
【1686/夏比古・雪之丞/男/627/白狐asアクセサリデザイナー】
【1873/藤井・百合枝/女/25/派遣社員】

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               ライター通信
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どうも、モロクっちです。『The Dark Ride 3』をお届けします。来年、『The Dark Ride 4』でお会いしましょう……なんて(笑)
今回はオマージュが多かったです。『スクリーム』みたいなノリでやってみました。マニアな方なら「プッ」と来るかも、と期待しながら10/31に一気に書きました。
ちなみにタイトルも、わたしが愛してやまないHELLOWEENのアルバム名なのです。幌羽町も「ホロウ」町と読みます。……遊んでますね。
今回はお久し振りな方もいつもお世話になっている方も、みんな仲良しといった感じになりましたが、如何でしたでしょうか。わたしの書く草間さんに限り、ホラー映画マニアであるようです(笑)
ハロウィンを楽しんでいただけたのならば幸いです。

それでは、また!