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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


讃岐zドリームツーサウザンっっ!!

 ほっ‥‥‥ほおっ。
 檜の米櫃の前で硬直する守崎啓斗。わずかに一粒二粒残った米粒を手に
握り締めると、張りついた微笑を浮かべ、虚空を見つめる。
「こんな事をするのは、ヤツしかいないな。うちに米泥棒でもあるまいし」
 そして、一つ大きく息を吸って。
「ほぉくぅとぉっ!! どこだあああああああっ!!!」
 家が震えるかと思わんばかりの大音響で呼ばわると、何かの気配が玄関の
方に向けていこうとする。
「逃がすかっ!!」
 手元にあった枡を下手投げで放ると、鈍い衝撃音と共に悲鳴が響いてきた。
「し、死ぬって! 死ぬって!!」
 昔から使われている黒光りした枡は重さにすると2,3キロはあるだろう。
 それが後頭部を直撃したのである。
 悶絶する弟‥‥‥北斗を抱き起こす‥‥‥いや、掴み起こすと米櫃の前に
無理やり正座させた。
「一応聞いておこう。腹が減っていたのか?」
 厳粛にそう問うてくる兄に引きつった笑顔を返す弟。
「い、いやぁ。ネズミでも出たのかなあ」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ネズミね」
 襟と左手首を掴んで後方に引き倒しつつ、北斗の体をねじってうつ伏せに
倒すと、素早く両方の足首を取って交差させ、外側になっている右足を手前
上方に引き上げる!
「う、うわぁっ‥‥‥ギブギブギブっっ!!」
「ネズミはギブアップなんて言葉はきけないはずだが?」
「痛いって、痛いっ痛あぁぁあぁぁああああぁぁぁああぁぁぁああ‥‥‥」
 痛みに悶絶する声が5分も続いたろうか。
 真っ白な灰になった北斗の足をようやく離す啓斗。
「ネズミ退治は終ったが‥‥‥今日のご飯はどうしようか。さすがに今から
米買いに行きたくないしな」
 ふうっ、と溜息をついて腕組する啓斗。
 すると、足元の方からテントウ虫がサンバを踊っているような声で(どんな
声やねん)うめく北斗。
「あ〜にぃき〜〜、うどん食いてぇよぉ〜〜」
「いや‥‥‥まだ食うのか?」
 視線を下に向けた啓斗の足元から、まさしく打ち上げ花火のように飛びあ
がって復活する北斗。
「そんなの食うに決まってるべさ!」
「べさって‥‥‥お前‥‥‥」
「食うしかない! そう、腹が求めているのは白くて細長いアンチクショウ
なんだっ!!」
 余りにも苦痛が続いたせいでねじが一本飛んだのか、両拳を握り締めて熱
く宣言する北斗。
 そして‥‥‥。
 突然戸棚の方にかけよった北斗が大事そうに讃岐の地粉と大書された茶色
い紙袋を取り出した。
「それは?」
「ふっふっふ‥‥‥こんな日の為に友達から譲ってもらった(半ば無理やり
奪った?)讃岐うどんの為に生み出された新品種! その名は讃岐zDRE
AMツーサウザンっっ!!」
「つーさうざん!?」
 ‥‥‥2000ってことは、恐らく年号なのだろうが。
 勢いのある名前の粉だなと苦笑する啓斗。
「んじゃあ兄貴、うどん作って♪」
‥‥‥何かが、違う。
「待て」
「えっ!?」
「作ってって言わなかったか、今‥‥‥」
 啓斗の台詞に、にっこりと笑って大きく頷く北斗の左頬に綺麗に入る右フ
ック。くるくると回転しながら壁に激突して、跳ね返ってくる。
「なにすんだよおっ!」
「何じゃ無い。最低でも、一緒にだろ? なんで俺が作ってやらにゃならん
のだっ!!」
 怒る啓斗から顔をそむけて呟く北斗。
「ちぇっ、ひっかかんなかったか」 
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥北斗、なんか言ったか?」
 これ以上なんか言ったら、ものごっついツッコミが入るのはまず間違い無
いので取りあえず万面の笑みで首を降ってみる。
「まあ、いいか。じゃあうどんを作る準備をしよう。どのぐらい食うつもり
なんだ?」
 普通であれば、こんな質問が飛ぶ事は無いのではあろうが、それは相手が
北斗であるから致し方が無い。
「やっぱこれぐらいはいかないとっ!」
 そう言って、片手を開いて出す。
「良く食うな‥‥‥なら、俺のも合わせて800gぐらい使うか」
「これ、一キロあるから全部使おうぜ」
 ‥‥‥ほんと、良く食うな。
「じゃあ、まずはやっぱ塩水作りからだな」
 言われて、ボールなどではなく何故か8Lは入ろうかというバケツを準
備する北斗。食品用とマジックで書いてあることから綺麗ではあるらしい
が問題はそこではなく。
「水はどれぐらいだっけ、兄貴?」
「‥‥‥1kgで今ぐらいの季節だと‥‥‥塩が50g弱入って、水は45
0mlぐらいかな‥‥‥それで、50mlぐらい残そう」
 そう、分量がこの程度なのになぜにバケツなのだろうか。
「解説しよう! 塩を均一に溶かしきらなければならないのだが、普通にや
っていては直前では完全に溶かし切る事は出来ないから、我々はある手段に
よってそれを成そうとしているのだ!」
 声色を変えてそう解説する北斗‥‥‥って、をい!
 こっちの声は聞こえないはずだろっ!??
「堅い事言うなよ」
「‥‥‥北斗、御約束ってのは守るためにあるんだぞ」
 どこをかみながらそうぼそりと呟く啓斗。
「知らん!」
 をいをいっ!!
「1番守崎北斗、行きます! 忍法っ"旋風巻巻(つむじまきまき)の術"!」
 印を幾つか組んだ後そうのたまった北斗の右腕に強烈な風の渦が発生する。
本来であれば飛んできた手裏剣を巻き取る術なのであるが。
ともあれ、それを構わず塩と水の入れられたバケツの中に突っ込んだ!
 すると、水が北斗の手の周りを超高速で回転を始める。
 そして、彼がそうしている時、啓斗は40Lのビニール袋の中に讃岐zD
REAMツーサウザントを入れて、さらにその袋を三重に重ねると、手首を
その口に入れて紐でぎゅっと縛った。
「忍法‥‥‥微塵隠れっ!!」
 へたっていた袋がぼんっという音と共にぷくっと膨らんで、そして急激に
萎んでいく。
「んー‥‥‥」
 紐を解いて中を見ると、小麦粉のだまなどは綺麗になくなっておりさらさ
らの粉がそこにあった。
「そろそろ、どうだ?」
「いいんじゃねーかな」
 徐々に回転のスピードを落とし、やがて水はバケツの底に何事も無かった
かのように静かに溜まっていた。
「よっし、それじゃあ混ぜますか」
 袋の中の粉をボールの中に入れてちょろちょろ水をたらし、手ですりすり
と拝むようになじませていく。
「なんみょーほーれんげーきょー」
「止めろよ、食べ物作っている時に御経なんて」
「なんまいだぶーなんまいだぶー」
「‥‥‥御経じゃなくて御題目だってでも言うのか?」
 ジトーっと冷たい視線で啓戸は北斗を睨み付ける。
「さて、そろそろいいですかね?」
 何事も無かったかのように、ぼろぼろしている小麦粉を両手にすくってそ
う言い放つ北斗。
「まあ、いいだろうな‥‥‥じゃあ、纏めて、と」
 何やらぼこぼこした巨大な団子が出来あがった。見たところ、これが滑ら
かなうどんにはなりそうもないのだが、二人とも慌てているところはない。
 啓斗がさっき使った袋の外側の二枚をはいで、その中に団子を入れて床に
置いた。
「‥‥‥‥‥‥さて」
「ああ」
 袋を中央に置いて、兄と弟、左右にわかれて睨み合う。
「恨みっこ無しってコトで‥‥‥行くぜ、兄貴!」
「望むところだっ!!」

 ぽん。

 啓斗→ぱー  ちょき←北斗
「っしゃああああっっ!!」
「うわっ、踏みかよ‥‥‥」
 と、二人が大騒ぎしてるこの作業、足で踏んで延ばしては畳んでまた踏
む。ぐるぐる回りつつ、しかし飛びあがってはならず、のこの作業。やっ
てみるとなかなか単調でつらい作業でありまして。
「そうそう、外側を中に折りこむのよ!」
「煩いっ!」
 こればかりは、術を使って早く動けばイイって言うものでもなく、さり
とて、やったぶんは確実に戻ってくる作業なので手を抜く訳にも行かない。
こうしてじんわりと啓斗の体があったまった頃、袋の中からは先ほどの団
子とは思えないツヤツヤの生地が出てきた。
「よし、俺の出番だなっ!」
 勝ったほうはこね、と言う事であったらしい。テーブルの上に生地を乗
せると、力をこめてぎゅっぎゅっと中央に向けてこねあげていく。
 ここで余り力をこめてもイケナイのではあるが、それはもう作りなれて
いるのであろう。絶妙な力加減でそれを行なっていた。
 ここの作業で力を込めすぎると、讃岐うどんの命であるいわゆる"伸び
るコシ"を失ってしまうのである。
 弾性が無くても剛性が強ければ口当たりは強い麺にしあがるのだが、喉
越しは致命的に悪くなるのだ。
 そんなこんなで、北斗も体があったまったところで納得がいったのであ
ろう。その作業の手を止める。
「早く食いたい」
「だめだ。寝かせないと良い麺に成らない」
「ううう‥‥‥」
「だめだ」
「ううううう‥‥‥」
「だめだって言ってるだろう」
「ううううううう‥‥‥‥‥‥」
「しつこいっ! 今日のお前おかしいぞ?」
「わん」

 ‥‥‥。

 おもむろに拳骨を固めて、正拳を北斗の顔面に叩きこむ啓斗。
「な、な、なにすんだよっ!!」
「気にするな、ツッコミだ」
 いや、気にするって。
 右の鼻の穴から赤いものをたらぁりとさせた北斗はしっかりと丸めティ
ッシュ装備で兄の許可が下りるのを待っていた。
 そして。
 長針が盤を二周する頃。
 徐に麺棒と打ち粉を準備する啓斗。
「おっ、寝かし終了!?」
「‥‥‥ああ。ぎりぎりだが‥‥‥‥‥‥まあいいだろう」
「やったー!」
 そして、伸ばしは昔から啓斗の担当だったので、ためらう事無く生地に
麺棒を入れていくと、まるで最初からその形であったかのように角の丸い
菱形、といったような形に伸ばしあがる。
 それを啓斗は麺棒に巻きつけて、リズミカルにシュッシュッと伸ばして
いくと、その菱形は少しずつ大きくなり、そして厚さも均等になっていく。
「よし、北斗。終ったぞ!」
「あいよー。御待ちしておりました」
 腹が減っているのであろう、物凄い勢いで位置を変わったかと思うと、
布のような麺生地をたんたん畳んでいく。
 そして、一瞬息を止めて独特の形の麺きり包丁を躊躇無く生地に連続し
て振り下ろした!
参考までに、麺切り台と言う物もあるのではあるが、北斗の切りの正確
さと速さはそれをはるかに凌駕しており、息を吸った時にはすでに全てを
終了していた。
 そして、徐に麺を纏めて持ち上げると軽くはたいてから、まな板にうど
んをうって打ち粉を落とす。
「お湯、沸いてる?」
「もちろん」
 ガスバーナーの圧倒的な火力でぐらぐら沸いた大鍋はゆうに20Lは入
るであろう業務用である。これぐらいなければ、湯温の損失は避けられな
いのだ。
 ぱらぱらと湯の中に踊り込む麺。
 最初かき混ぜただけで、後は湯の対流により自然と麺はふんわりと湯の
で舞っている。
 湯で時間は微妙ではあるが‥‥‥。

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讃岐うどんとは。
香川県内で製造されたもの
手打、手打式(風)のもの
加 水 量 ・・・小麦粉重量に対し 40%以上
食   塩 ・・・小麦粉重量に対し 3%以上
熟成時間 ・・・・2時間以上
ゆでる場合・・・・ゆで時間約15分間で十分アルファー化されていること
------------------------------全国製麺協同組合連合会 規約より-----

 と、あるので、とりあえず15分程度としておこう。
 ‥‥‥おこう、というのもこの兄弟、湯で時間を計ったりしてないので、
正確にはわからないのだ。
「おまえ、計れよ。見てるんだろ?」
 いや、だから‥‥‥こっちに話しかけないでってば。
 あ、はい。茹であがったようでございます。
 タボを器用に使って、啓斗が鍋の中の麺を一本残らず集めてあげる。
「北斗! シンクに水たまってないじゃないか、早く!」
「あ、ああ‥‥‥」
 冷蔵庫の中のポリタンクから、勢いよく水を注ぎ込む。
 そして、タボからシンクにあけられたうどんを啓斗は大急ぎでそれを洗っ
てタボに再び取って‥‥‥。
「何してる! うどんに水かけろ!!」
「へいへい」
 正直、水道の水でいいじゃねえかと北斗は思ってみたりするが、啓斗のこ
だわりは、この湧水でなければうどんはだめらしい。難儀である。
「悪かったな」
 ‥‥‥啓斗、お前もかっ!!(カエサル調)
 そんなこんなで‥‥‥気がつくと。
 昼ご飯を作っていたはずが、なんと夕方6時。
 

ぐぅううぅぅうぅぅぅうぅぅうううううぅぅ‥‥‥。

 北斗の腹の虫が催促する中で、ツイに出来あがりました!
「うっひゃー! 釜玉釜玉かーまーたーまっ!!」
「そんなに叫ばなくても、わかるって」
 讃岐zDREAMツーサウザント100%の麺は、ASWよりクリーム色
が強く、見た目で違う事がよくわかる。
「あにぃきぃぃぃぃぃ、讃岐zDREAM美味いよ〜! 香りが香りが卵
の黄味の甘さと相俟ってもう〜〜」
 見ると、双眸から涙がつうっと垂れてきているではないか。
「何も泣かなくても‥‥‥」
「うわぁ〜ん‥‥‥ずるるるるるるる〜ひっくひっくずるるるるるる〜」
「前言撤回! 泣くか食うかどっちかにしろ!」
「無論勿論食う!」
 呆れ果てた啓斗も、苦笑して箸を麺につけた。

 こんな、守崎家の日常の食卓。
 あなたも、一度御一緒にどうですか?

「兄貴ぃ‥‥‥食っちゃった。兄貴の少し‥‥‥」
「絶対、だめだ!!」