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釣士の悪戯
【オープニング】
いつものように朝に眠り夜に起き。からりと開けた窓から颯爽と飛び出したのは、闇に紛れてしまいそうな姿をした、男。
何故に扉から出て行かないのか。それは気にせず捨て置こう。
ともかく、黒い衣を翻し華麗に地に付いた男は、神々しく輝く月を仰いでにやりと笑んだ。
「さて、今日は何が釣れるかな」
巷でちょっと噂になっている話。夜道を行く女性を襲う通り魔の噂だ。
被害者に目立った外相は泣く、冷たい体だけが眠ったように瞳を伏せて横たわっているそうな。
「草間さんの分野じゃないですか？ この犯人、人じゃないみたいですよ」
茶を淹れながらの草間零のその言葉は、少なくとも草間武彦にとっては驚きと脱力にしかならなかった。
新聞の記事に目を通しながら、問う。
「何でお前がそんなことを…」
「私、昨日会いましたから」
微笑んで言われても、困るのだ。
ともかく、零の目撃情報によれば、悪魔のような羽と釣竿を持った青年が犯人だと言うこと。
聞きながら、早いうちに何とかしてくれればいいものを。などと思っていた武彦の元に。
通り魔を捕まえて欲しいと言う依頼が、哀しきかな舞い込んできたのであった。
【本文】
海原・みなもは、直接犯人を見てなお無事でいる唯一の証言者、零の前で、詳しい話を聞いていた。
たまたま同じ場にいたシュライン・エマが、「よく無事で…」と、苦笑混じりに言っていたが、そのとおりだ。
無差別殺人犯かもしれない。相手が人外となれば、なおのこと危険極まりない存在であろう。
「犯人、捕まえてくださいね…」
「勿論です。任せてください」
少々不安げな零に、みなもはにこっと微笑むと、零の話を少しまとめた。
「悪魔のような羽に、釣竿……攻撃をかわされたら、すぐに去ってしまったんですか…」
呟き二、三度頷くと、すっくと立ち上がった。
これから、現場へ向かうのだ。
「みなもちゃん。現場へ行くのなら、一緒に行かない？」
声をかけたのは、シュラインだ。前述したように、興信所で偶然会ったのだ。
微笑んで肯定を返すと、シュラインはみなもに並ぶ。
「武彦さんのところで、資料見てきたのよね。次は何処だと思う？」
問われ、みなもは開いていたメモ帳に目を通す。それには、興信所で見た事件の資料が抜粋されて記されている。
「始めは公園でした。次も、公園に続く道。このあたり、殆ど人通りがないらしいですよ」
「零ちゃんが襲われたのも公園の前だったわね。それじゃあ、次も……」
シュラインもみなものメモを覗き込み、思案しているようだ。
「女性の一人歩き、何て、こんな噂が流れてしまえば減るわよね。なら、私も囮ぐらいにはなるかしら」
にこりと微笑むシュラインを見上げると、みなもは彼女と別れ、夜を待った。
「それじゃ、行ってくるから」
「うん、気をつけてね」
妹に夕食の用意を済ませると。みなもは、はら、とエプロンをとり、昼間目星をつけたその場所へ向かった。
念のため、身を護るための水衣を纏っていながら、何故だか不安が付きまとうのを感じていた。
夜道が怖いわけではない。通り魔が怖いわけではない。
理由がわからないことが、よりみなもを不安にさせるのだった。
（…大丈夫…）
場慣れによる根性で思いを振り払うと、みなもは問題の場所――公園の中に入った。
誰もいない。そう思っていたそこに、さらり流れる銀髪を見つけた。
（…誰、でしょうか……）
通りすがりなら、ここは危険だ。立ち退いてもらった方がいいだろう。
「あの……」
思い、みなもは声をかけようとしたが、その前に、気付かれた。
こちらを振り返ったそのものは、みなもの姿を認めるや否や、叫んだ。
「伏せて！！」
「え…？」
反射的に身を伏せた直後、背に何かがかすめるのを感じた。
「あれ…惜しいな…取ったと思ったのに……」
みなもの背に振る声は、空からかけられたものだった。
身を翻して向き直ると、背に闇のような翼を生やした青年が、宙に佇んでいた。
（この男が、犯人……）
きっと睨みつけると、先ほどの人が、いつの間にか隣にいた。
「大丈夫ですか？ …貴女も、もしかして草間様の…？」
みなもは一瞬きょとんとしてから、微笑んだ。
「はい、海原みなもといいます。貴女は？」
「私はメイカ。梅田メイカです」
みなもと梅田・メイカは、互いに軽く挨拶を交わすと、改めて青年と対峙した。
釣竿をに義理顔をしかめている青年は、ふよふよと宙に浮きながら、残念そうに首をかしげた。
「この間の子といい、最近は魂取るのも大変だなぁ……」
「黙りなさい。貴方を捕縛します」
きっと睨みつけて言う、メイカ。だが、相手が宙に浮いていることからか。彼女は用意に手を出そうとはしなかった。
みなもとて、それは同じ。纏う衣は一応攻撃能力は持っているものの、基本的に防御を高める物なのだ。
近くに水場もなく、行き詰まったように、ただ見上げることしか出来なかった。
と、そこにシュラインが駆けつけた。傍には男性も一緒だ。
その男性――後に天城・昴と言う名だと知るが、彼は、メイカと知り合いのようだった。一瞬みなもを見て、名前を問うてきたが、いまは先ほどより余裕が無い。
「自己紹介は、あとでしましょう」
軽くいなして向き直った青年は、いままさに逃げ去らんとしていた。
だが、その足をシュラインが止める。一瞬空気が張り詰めるような音がした、刹那。みなもはまた、あの不安を抱いていた。
その理由は、恐らくあの青年やメイカに会った時からぴりぴりと感じていた、殺気。
誰にとは言わず、場の全員に向けられているかのような殺気の主が、気になって仕方が無かった。
みなもに探査能力は無い。それでも、終始辺りを見渡していた。
すると、少し離れた場所に、不思議な歪みを見つけた。そこだけ、空間が隔離されているような歪みだ。
更に凝視すると、今まで見えなかったものが、わずかに、視界をよぎった。
（……男の…子…？）
そう、みなもが見たのは、少年。
儚げで、存在そのものが虚ろな、少年の姿だった。
彼も、草間武彦の依頼を受けたものだろうか。それにしては、雰囲気が違った。
声をかけるべきか。迷っていると、いつの間にか青年の方に決着がつきそうだった。
不思議な形状をした刀を投げた昴に合わせるように、メイカが光弾を放つ。鮮やかに仕留められたのに感嘆し、みなもは地面に倒れた青年に、駆け寄った。
後頭部をさすりながら体を起こす青年。４人に囲まれる形になっているのを見て、わずかに引いているのが、判った。
「さぁ、言い訳ぐらい聞きましょうか？」
にっこり笑って、シュラインがずい、と詰め寄る。
「どうして、女性ばかり襲ったりしたんですか」
同じように、みなもも問いただす。
そんな二人に思わず引きつつ、青年はもごもごと答えた。
「何でって…そりゃ、仕事…だし……どうせやるなら、女の子の方がキャーって叫んでくれたりして、いいかなぁ……って……」
「それ、だけですか？」
昴が、微笑みながら問う。みなももまったく同じ思いで、叱咤するような視線を送る。
直後、みなもは先ほどと同じ、殺気を感じた。
ぞくりと何かが背に走るのを感じると、また、辺りをうかがう。見つかるのは、やはり先ほどの少年だけ。その少年は、そっとこちらに近づいていた。
殺気の主が、この少年であるのか。少し首をかしげながら、みなもは何気なくその少年を見つめていた。
耳は、青年の言葉に傾けながら。
「それだけも何も、だから仕事なんだって……」
しかし。青年はそれ以上言葉を紡ぐことは無かった。
正確には、紡ぐことが出来なかった。その体が、ばらばらに砕け散ってしまったのだから。
辺りに飛び散る血飛沫と肉塊に、みなもの表情は青ざめていく。
しかも、感じてしまったのだ。青年が粉砕される瞬間、ひときわ強い殺気を放ったのが、間違いなく、あの少年だと言うことを。
視線をやれば、場の中心で殺気を放つその少年は、血を浴びて静かに佇んでいた。
その少年が何者かなど、判らない。ただ、気圧されれば、今ほどの青年のようにばらばらにされてしまいそうだということだけは、判った。
（この人、一体……何……）
一触即発の雰囲気さえ漂うその場から、少年の方が姿を消した。
滴り落ちる血の音だけを残して。
あの者は何だったのか。呟く者がいる。
みなもも含め、彼らは知らない。あの少年が紗侍摩・刹という名を持ち、ただ一人、孤独の中で狂った意識を飼い続けているという、そのことを。
知ることが出来る、理由が無かったのだから。
「…なん、だったんでしょうか……」
静かな公園に響く、声。見間違いではなかろうか。思い違いではなかろうか。
そんな思いをめぐらせながら、みなもは少年が去ったその場所を、静かに見つめていた……。
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登場人物
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【整理番号 ／ ＰＣ名 ／ 性別 ／ 年齢 ／ 職業】
【0086 ／ シュライン・エマ ／ 女 ／ 26 ／ 翻訳家＆幽霊作家＋草間興信所事務員】
【1252 ／ 海原・みなも ／ 女 ／ 13 ／ 中学生】
【2063 ／ 天城・昴 ／ 男 ／ 21 ／ 大学生＆喫茶店店長】
【2156 ／ 紗侍摩・刹 ／ 男 ／ 17 ／ 殺人気】
【2165 ／ 梅田・メイカ ／ 女 ／ 15 ／ 高校生】
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ライター通信
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えぇっと…初めまして。このたびは【釣師の悪戯】に参加いただき、まことにありがとうございます。
初めてのことでてんやわんや状態ですが、なんとなく楽しんでいただけたら幸い…かと。
みなもさんは、繊細な女の子と言うイメージの元、書かせていただきました。ので、誰よりも早く少年の姿を見つけています。
プレイングも判りやすく、とても楽しんでかけました。 経験も豊富な方なので、かなりどきどきしながらでしたが……（汗
…何にせよ、お疲れ様でした。またお会いできる機会を楽しみにしております…
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