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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


釣士の悪戯

【オープニング】
 いつものように朝に眠り夜に起き。からりと開けた窓から颯爽と飛び出したのは、闇に紛れてしまいそうな姿をした、男。
 何故に扉から出て行かないのか。それは気にせず捨て置こう。
 ともかく、黒い衣を翻し華麗に地に付いた男は、神々しく輝く月を仰いでにやりと笑んだ。
「さて、今日は何が釣れるかな」

 巷でちょっと噂になっている話。夜道を行く女性を襲う通り魔の噂だ。
 被害者に目立った外相は泣く、冷たい体だけが眠ったように瞳を伏せて横たわっているそうな。
「草間さんの分野じゃないですか? この犯人、人じゃないみたいですよ」
 茶を淹れながらの草間零のその言葉は、少なくとも草間武彦にとっては驚きと脱力にしかならなかった。
 新聞の記事に目を通しながら、問う。
「何でお前がそんなことを…」
「私、昨日会いましたから」
 微笑んで言われても、困るのだ。
 ともかく、零の目撃情報によれば、悪魔のような羽と釣竿を持った青年が犯人だと言うこと。
 聞きながら、早いうちに何とかしてくれればいいものを。などと思っていた武彦の元に。
 通り魔を捕まえて欲しいと言う依頼が、哀しきかな舞い込んできたのであった。


【本文】
 彼、紗侍摩・刹は、この日もただ一人の世界に佇みながら、言い得ぬ快感を求めていた。
 すなわち、殺す快感をだ。
 行く行く道がてらに、人々が『奇異』と呼ぶものを消し去ってはきた。だが、足りないのだ。
 感情を失い、狂気の殺戮者となった彼には、満足に足る物ではない。
 殺したいのは、もっと別の物。
 殺戮衝動が、欲へと変わり、胸中を疼かせる。焦燥が、起こった。
 刹はただそれを満たすために、ふわりと、歩を進めだしていた。

 世は常に同じように回り、時が経つ。
 けれど、今の刹に昼夜の認識はないに等しい。ある必要が無いのだ。死に触れるそのときだけが、生きている時間なのだから。
 だから、だろうか。刹は自分さえ気付かぬうちに、その場所にきていた。
 通り魔の被害が報じられ、すっかり人の気配も少なくなった、夜の公園に。

 殺したい……もっと、多くを……

 ここに、自分の欲を満たすに足るだけの者はいないのか。
 思い、見渡しても、誰もいない。何もない。いつもなら見かける、奇異なる者さえも。

 …いない……

 刹はすい、と視線を走らせ、その静けさを感じた。
 つまらないというように、すぐにその場を離れようとしたが、そこに現れた気配に、振り返った。
 一つ、二つ…三つ……。
 少しずつ増えていた。世にはびこる、ヒトの気配だ。
 殺せる。己の欲を満たす物が、近くにいることを感じ、それだけで、胸が疼く。
 そんな胸を押さえ、ふわりと歩を進める刹。
 とん、とんと歩く度、その気配に近づいている。
 気配の主はどんなヒトだろう。悦ばせてくれるのか。愉しませてくれるのか。それだけを考えていた。
 思いながら、着いた先には二人の女と一人の男。別の方からも、まだ近づいてくる。

 血………欲しい…快……

 疼く胸は、殺戮を求める。
 とん、と、また歩を進めて近づけば、女が互いに名乗りあっているのが聞こえた。
 梅田・メイカと海原・みなも。知らぬ名だ。
 もっとも、紗侍摩以外のものは皆『知らぬ者』ではあったが。
 後に姿あらわし二つの影、彼らがそれぞれ、シュライン・エマ、天城・昴と名を持っていることも、刹は知らない。
 知る必要も、無かった。
 いまの刹に、名前と言う概念は無いのだから。
 ただ殺せれば。欲を満たし、快楽を与えてくれれば、それでよかったのだ。
 だから、いつものように『断絶』しようと、した。
 視界に捉えればいい、それだけのこと。
 だが、刹が視線を配ったその瞬間、シュラインが発した声が、刹のいるわずかにずれた空間さえ、揺るがした。
 一瞬、己の存在を感じた気がした。
 気の紛れ。そう思いながら再度視線を配るが、何故だろう。断絶しようとは、思わなかった。
 変わらぬ殺気を放っていれば、みなもが自分の存在に気付いた。
 メイカや昴も、態度にこそあらわさないが、刹が放つ殺気を感じ取っているようだった。
 何故だろう。彼らが戦う姿に、魅入られた。眺めていたいと思った。
 刹が孤独の中に生きるようになってから、初めて、己の存在を認められたような気がしたから?
 殺すこと以外で、満たされたような気がしたから?
 それは刹本人にも判り得ないこと。ただ、確かにいま、常とは違う感覚に満たされた気がしたのだった。
 それも一瞬のことではあったが。すぐに、殺したいという思いが沸くようになった。しかし。

 ………殺せ……ない………?

 殺したい。けれど、殺してはいけない。
 視界に捉えるだけ。それだけのことが、出来なかった。
 刹の中の無意識が、本能的な殺人衝動を押さえようとしているのか。
 そんなはずは、無いのに。

「どうして、女性ばかり襲ったりしたんですか」

「何でって…そりゃ、仕事…だし……どうせやるなら、女の子の方が……」

 殺したい、けれど、殺してはいけない。
 葛藤する己の内が、不快だった。不快は、快に変えねばならない。
 不可解な思いに沸く焦燥が、殺意に変わる。

「それだけも何も、だから仕事なんだって……」

 殺したい、殺したい。
 ただその思いだけを抱き、刹は目の前にいた悪魔の青年を、『断絶』した。
 弾けるように霧散した体。バタバタと体に飛び濡らしていく血は、足元に広がり、美しく輝いている。その赤い色に、満たされるような感覚を抱く刹。
 わずかなその瞬間だけ、いい得ない心地よさを感じていた。
 血の暖かさが快楽に変わる。脆く崩れ去ったからだが、体の底で興奮を掻き立てる。
 刹はそれに酔いながら、更なる快楽を求めた。
 やはり、一番いいのはこの感覚なのだ。殺すことで得られる、悦び。
 もっと殺したい。もっと、多くを。
 ピィン、と、殺気が張り詰める。その瞬間は、空間のゆがみさえ関係ない。辺りを包むのは殺気だけ。ただそれだけが、刹の世界の全てとなっていた。
 殺したい、殺したい。
 血を求めて視界の中に映す者達は、けれど断絶されることは無かった。
 刹は久しく帰ることの無かった表情を、変えた。そう、わずかな驚きに。
 断絶できない者がいた。そのことに、興味が湧いた。不思議な悦びに、刹は浸る。
 焦燥は薄れていた。けれど、まだ殺意は薄れない。
 刹は独りずれた世界の中、踵を返して去っていった。
 ぱた、ぱたと滴る鮮血を残して。
 もっと、悦べるものを求めて……。

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           登場人物

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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0086 / シュライン・エマ / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【1252 / 海原・みなも / 女 / 13 / 中学生】
【2063 / 天城・昴 / 男 / 21 / 大学生&喫茶店店長】
【2156 / 紗侍摩・刹 / 男 / 17 / 殺人気】
【2165 / 梅田・メイカ / 女 / 15 / 高校生】

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         ライター通信          

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 えぇっと…初めまして。このたびは【釣師の悪戯】に参加いただき、まことにありがとうございます。
 初めてのことでてんやわんや状態ですが、なんとなく楽しんでいただけたら幸い…かと。

 刹さんは、儚くて冷たい少年…的イメージで書かせていただきました。
 一部一部、詩的な部分が多いのは、私の中のイメージにより、です(汗
 そしてプレイングを見た瞬間、これはもしや挑戦状とか思ったことは抜群に内緒です。(ぇ
 …何にせよ、お疲れ様でした。またお会いできる機会を楽しみにしております…