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暴走植物
●萌ゆる緑
東京郊外に広々とした敷地を持つ、遊具の一つもない公園。
そこは近年の開発で行き場を失った妖怪たちが一時集う――もしくはそのまま棲みついている――妖の類いが異様に多い公園だった。
そんな妖怪たちを束ねるのはここの一番古株、公園内の泉を棲みかとする龍、水龍（すいり）。
ある日水龍が目覚めると、周囲の植物が異常に伸びていた。
いつもは靴すら隠さぬ短い丈の草たちが、今は目の前を塞ぎ公園の様子が見えないほどに伸びている。
「････なんじゃ、これは」
一晩ですっかり変わってしまった風景に目を丸くした。
ふわりと中空に浮かび上がり、下を眺めてみる。
その異常現象は、公園中に広がっていた。
「ふむ･･････」
とりあえず、植物のことは植物に聞くのが良いだろう。
やって来たのは古くからの知り合いである精霊、桜華（おうか）が住まう神社。
外見は五歳くらいの可愛らしい少女だが、実は数百歳を生きている。しかも神社の御神体である桜の化身とあって、なかなか頼りになる存在だ。
まあ、水龍が彼女のところに来るのはそれだけが理由ではないが。
のんびりと茶を飲んでいた桜華は、水龍を見つけると穏やかな笑みを浮かべた。
「水龍、こちらに来るのは久しぶりじゃな」
「うむ。今日はお主に頼みがあってきたのじゃ。悪いが、ちと一緒に来てくれぬか？」
「わしは構わぬよ。守る者同士、困った時はお互い様じゃ」
そこまで言うと桜華はスッとその場に立ちあがり、茶屋の奥にいた青年に声をかけた。
「というわけじゃ。わしは少々出かけてくる」
「あ、はいっ」
「すまぬが、桜華を借りてゆくぞ」
お茶屋の青年に見送られて、二人は現在植物大暴走中の公園へとやって来た。
なにやら、さっきよりもさらに異常植物が増えている気がする････。
「どう思う？」
龍の姿で宙を飛ぶ水龍の背に乗った桜華は、しばらく下を見つめた後、おもむろに口を開いた。
「自然現象でないのは確かじゃが･･･植物を成長させている何者かがいるはずじゃ」
「じゃが、見晴らし最悪のこの状況下でどうやって探す？」
残念ながら、水龍は人探しに有効な能力は持っていない。
アテになるのは桜華だが･････。
「ふむ･･･ちょうど良いのがおるぞ」
桜華は悪戯っぽく笑って、草を掻き分け掻き分け進んでいる数名の人間を指差した。
●噂話
その日も店は平和だった。
祖父より受け継いだ骨董と古本屋で、日下部更夜はのんびりと店番をしていた。
「こんにちわー」
「いらっしゃい」
お客さんの声に、更夜は店の奥から顔を出す。
数分後、本を選んでレジに来たお客はいきなり世間話を始めた。
「ねえ、お兄さん、知ってる？」
「何をですか？」
主語もなにもなしではさすがになんの話なのかわからない。聞き返すと、客である中年女性は嬉々として語り始めた――噂話が好きなタイプらしい。
「なんかね、公園が妙なことになってるらしいのよ」
「妙なこと？」
「あっちの方にある大きな公園なんだけどね」
方角を指差して、『大きな』という単語を強調する。
そちらの方角にある大きな公園･････そういえば、そんなものがあったなとなんとなく思い出した。
更夜自身は行ったことはないけれど、時折お客さんとの話題で出てくる。遊具もない、ただ、だだっ広いだけの公園だ。
「あそこの植物がなんかものすごく伸びてるんだって」
「はい？」
思わず、聞き返した。
女性は嫌な表情一つ見せず――むしろ聞かれるのが嬉しい様子。
「一晩でこーんなに、伸びちゃって。結構な騒ぎになってるみたいなのよ」
ジェスチャーでその高さを示しつつ、女性は語る。
一通り話を聞いて女性が帰った後。
更夜は、出掛ける準備をしていた。もちろん、その公園に行くためである。
●二つの気配
さて、公園はとんでもない状況になっていた。
通常では考えられないほどに･･････あまりにも高く聳える草たち。
それが起こったのは、公園に一歩足を踏み入れた時だった。
突然――景色が、現実感が薄れる。
甲高い子供の声。
泣いている。
誰かを探して。
――場面が、変わった。
何かに追われている、子供。
必死に走っている。
振り返ると････そこに居たのは、巨大なカラスだった。
「大丈夫ですか？」
呼びかけられて、更夜はハッと現実にかえった。
「ええ、大丈夫です。すみません」
「そうですか。よかった」
声をかけてきたのは十代後半の着物の美少女だった。
返事をかえしながらも、更夜の思考はたった今見た過去の風景を思う。
カラスに追われて、この公園に逃げ込んだ子供がいたのだろうか･･･。だがそれにしては大きさがおかしい。
いくら子供の目からの視点とはいえ、カラスがあんなに大きなわけがない。
つまり。
小人････ということだろうか？
タイミングよく見たあの過去はそう古い時間ではなかった――もしかして･･･。
「････どうかしたのですか？」
推測でしかないが、だが探してみる価値はありそうだ。
「ああ、えっと･･･公園の中に迷子の子供がいるんですよ」
「この状況では探すのも大変なのでは･･･」
ええ、と。
頷こうとした時、少女がふいに公園の奥を見つめた。
しばらくの後、振り返った少女は真剣な表情で告げた。
「私も手伝いますから、一緒に行きませんか？」
●二人の神様
公園内を歩くのは、外から見て予想していた以上に大変な作業だった。
草を掻き分け、踏みしめて。
「そういえば･･･子供の特徴ってどんな風なんですか？」
亜真知の問いに、更夜は何かを考えるように視線を宙にさまよわせた。
「そうだな･･･背は小さい」
小さいというか、ミニサイズだが。
だがあまり詳しく言うと、自分の能力のことが知れてしまう。
「それだけですか？」
「ああ」
「顔や服装はわからないのですか？」
「わからない」
更夜の答えに、亜真知は不思議そうな顔をしたがそれ以上追及することはなかった。
あの子供の視点で過去を見ていたから、子供の顔や服装はまったくわからなかったのだ。
まあ、服装がどうとか言う以前に、あの小ささ――カラスの大きさと比較して計算してみると身長は十センチほどであろうと思われた。
しっかりとした足取りで公園の奥へ進む亜真知。その後を歩く更夜。
そしてその先にいたのは････
「あら、桜華様？」
全部で十一人。なかなかの大人数である。しかもそのうち二人は十代前半の子供だ――亜真知の言葉を信じるなら神様であるらしいが。
「二つも神様の気配がしたんで追ってきてみたんですけど･･･桜華様だったのですね」
亜真知はにっこりと笑う。
「おお、ちょうど良いところにきた。お主も手伝ってくれぬか？」
「はい。あ、それと･･･」
笑顔のままで頷いた亜真知は、ふと思い出したような声をあげた。
だが亜真知が言う前に、更夜が口を開く。
「この公園に、迷子の子供がいるんだ。一緒に探してやれないかな」
「あら、大変」
初対面の女性の一人が呟いた。大人でも歩くのに一苦労のこの状況だ。子供はもっと大変だろう。
「それじゃ、その迷子の子供と異常の中心点を探しに行きましょうか」
シュラインの声を合図に、二つのグループは行動を開始した。
●中心点
桜華とともに公園内を探索することとなったのは翠、理都、愛華のフリージャーナリスト組プラス後から合流してきた亜真知と更夜の計六人。
面白半分でやってきた更夜は、とりあえず他の面々の作業を眺めていた。
「おぬしはなにもしないのか？」
特に思うところはなく、動かない更夜になんとなく問い掛けてきただけなのだろう。
桜華の言葉に、更夜はニッと笑みを返した。
「他に手がなくなったらちゃんと動くさ」
「････シュライン様から連絡が入りました。植物の生長の中心点があちらの方にあるそうです」
亜真知の言葉に、それぞれ調査をしていた面々の視線が集う。
歩き出した一行は、進みながらもそれぞれの情報を交換し合う。
「なんか、誰かに匿って欲しいって頼まれたみたい。お友達だって言ってたけど、詳しいことはわかんなかったの」
愛華の言葉に、翠が納得したように頷いた。
「それじゃあ、俺が読み取った恐怖と焦りは、そのお友達とやらのものかもしれないな」
しばらく歩いた頃、ふいに理都が呟いた。
「子供の声が聞こえるわ････」
更夜が、パッと理都の見つめる先に視線を向けた。
だが誰も理都の言う声を聞き取ることはできなかった。
「中心もあっちのほうなんですよね？」
更夜の問いに、亜真知がこくりと頷いた。
そして一行は亜真知と理都のナビにより確実に異常生長の中心点へと近づいていた。
●迷子の子供
「こっちの方･･･ですね」
中心近くまで来ると、理都だけでなく他の面々にもその声は聞こえてきた。
甲高い少年の声だ。
「迷子の子供ってなあの声の主か？」
翠の問いに、更夜はじっくりと聞いてみる。
「うーん･･･似てるけど、もっと高い声だったような気がするな」
「まあ、とりあえず行ってみましょう。あの辺りが原因であるようですし」
亜真知の言葉に、一行は頷いて、そして。
「きゃあっ！？」
突然何かに足を取られて、愛華は盛大にコケ･･････そうになったところを翠に支えられた。
不可抗力とはいえ憧れのお兄ちゃんに抱きとめられるかたちになって、愛華はサッと顔を赤くした。
「大丈夫か？」
「う、うんっ。ありがとう」
赤い顔を見られなくて俯いた視線が、何かを捕らえた。
じっと下を見たままの愛華を不思議に思った一行もまたその視線を追って下を見る。
そこには。
小さな小さな男の子がいた。
バチリと目が合った途端。
「オマエらっ。オレの妹を返せーっ！」
「は？」
突然わけのわからぬ嫌疑をかけられて、六人は思わず疑問の表情を浮かべた。
●小人の兄妹
アトラス組のほうで保護した小人の少女。フリージャーナリスト組の方でなんとか宥めて連れてきた小人の少年。
二人は顔を見合わせるなり、
「お兄ちゃんっ！」
「よかった、無事だったかー」
ひしと抱き合い互いの無事を喜び合った。
「･･･どうしてこんなことになったのかしら？」
素朴な疑問を述べた冬華に、兄妹は代わる代わるに説明した。
最近まで近くの畑に住んでいたのだが、最近畑が潰され行き場を失っていた所にこの公園の噂を聞いてやってきた二人。だが途中でカラスに襲われ、はぐれてしまったのだと言う。
「オレたち、植物を生長させることができるんだけど･･･」
「興奮しすぎて制御が効かなくなってたんですね」
撫子の言葉に、兄がこくりと頷いた。
妹はもじもじと俯いたまま、
「あの･･･いっぱい迷惑かけちゃって、ごめんなさい･･･」
泣きそうな声で頭を下げた。
「ふむ････そういう事情ならば仕方がないじゃろう」
水龍が苦笑を浮かべた。
「とりあえずほら、植物は元に戻せるんだよね？」
期待を込めた愛華の言葉に、二人はちょっと考えたあと頷いた。
「おいおい。ホントに大丈夫なのか･･？」
「考えてからって辺りがな･･･」
翠と更夜が不安に思うのも無理はないだろう。
「大丈夫って言ってるんだから、信用してあげましょうよ」
「どうしても無理だったらまた何か手を考えましょ」
理都に続いて、シュラインが言い、小さな笑みを浮かべる。
「悪気はなかったのですし、この際ですから最後までお付き合いしますわ」
みそのがにっこりと優しい笑みを浮かべた。
「この後片付けが終わったら、皆でお茶にいたしましょう」
亜真知が穏やかに笑って、そしてそれからきっかり一時間後。
無事元に戻った公園で、一行は秋空の下のお茶会を楽しんだのであった。
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■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
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整理番号｜ＰＣ名｜性別｜年齢｜職業
0086｜シュライン・エマ｜女｜26｜翻訳家＆幽霊作家＋草間興信所事務員
1388｜海原みその ｜女｜13｜深淵の巫女
2053｜氷女杜冬華 ｜女｜24｜フルーツパーラー店主
1593｜榊船亜真知 ｜女｜999｜超高位次元知的生命体（神様？）
0382｜天薙撫子 ｜女｜18｜大学生（巫女）
0523｜花房翠 ｜男｜20｜フリージャーナリスト
2155｜桜木愛華 ｜女｜17｜高校生・ウェイトレス
0366｜高橋理都 ｜女｜24｜スチュワーデス（ＦＡ）
2191｜日下部更夜 ｜男｜24｜骨董＆古本夜
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■ ライター通信 ■
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こんにちわ、日向 葵です。
シュラインさん、みそのさん、亜真知さん、撫子さん。毎度お世話になっております。
冬華さん、翠さん、愛華さん、理都さん、更夜さん。初めまして。
このたびは依頼にご参加頂きありがとうございました。
過去見、使わせていただきました！
最後への伏線（というかそのまんま）っぽくつなげてみましたが、どうでしたでしょう？
ご本人が能力を隠してらっしゃるということで、物語進行上の鍵にこそなりませんでしたが、過去見のシーンはとても楽しかったです♪
では、今回はこの辺で･･･。
次に会う機会がありましたら、その時はまたよろしくお願いいたします。
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