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<東京怪談・PCゲームノベル>


駅前マンションの怪

●掃除の最中に

 その日、天薙撫子は、祖父とともに家の神社の御蔵を整理していた。
 一年以上もの間まともに整理のされていなかった御蔵は、それでも普段出入りする程度ならば困らないくらいには整頓されている。
 だが改めてきちんと整理しようと思えば、それはなかなかに大変な量だった。
「ん?」
 そんな整理の真っ最中、一本の古刀を目に留めて、祖父が微かに眉を顰めた。だがその表情はすぐに変わる。昔を懐かしむような瞳。懐旧の表情へと。
 シンプルな作りで骨董品としての価値で言えばそう高額なものではないが、だが実戦向きの刀だ。
「お爺様のものですか?」
 じっと静かにその刀を眺めていた祖父は、撫子が声をかけた途端、大袈裟に不機嫌そうな顔をして見せる。
「まさか! これは昔の知り合いの物でな。預かったままになっておったんじゃ」
 それから祖父は、御蔵の整理をしつつもその知り合いについていろいろと語ってくれた。
 本人曰く、犬猿の仲でライバル同士だったというが、話す様子からはあまりそんなふうには見えなかった。
「預かりものなら、返しに行かなくては」
 穏やかに笑って言うと、祖父は刀を撫子に押し付けるようにして手渡した。
 素直じゃない祖父に苦笑しつつ。
「わかりました。わたくしが届けて参ります」
 撫子は、差し出された刀を受け取った。


●偶然の合流

 祖父の友人が大家をしているというマンションに近づいた時。
 撫子はすぐにその気配に気がついた。
 マンションのすぐ真上。降り立とうとしている、気配。
 だがその気配はとても友好的なものには感じられなかった。
 ゆっくりと歩いていた足が、自然と駆け足になる。
 その時、
「真名神様!?」
 急ぐ様子のない、だが確かにマンションに向かっている見知った男性を目に留めて、撫子は思わず声をあげた。
 顔見知りの男性――真名神慶悟が、振り返る。
 何度か草間興信所などの仕事で一緒になったことのある、陰陽師の男性だ。
「ああ、あんたか。もしかしてあんたも気付いたのか?」
 撫子の焦りの表情を読みとってか、そう問いかけて来た慶悟の様子は、撫子とは正反対の呑気なものだった。
「気付いているのなら――」
 言いかけたところで、慶悟が制止する。
「まあ、そうかもしれないが。焦りすぎても良いことは何もないぞ」
 ある意味では、確かに正論なのだが・・・・・・。
 ここからマンションまではまだ少し距離がある。
 そして、運悪くエレベーターがなかなか降りてこなかったりした場合、二十階建ての階段を地道に徒歩で行くことになるのだ。
「そうかもしれませんけど、被害が出る前に何か手を打たなければ」
 隠そうともしない殺気の気配をひしひしと感じて、撫子は少しだけ声の調子を強くした。
「だがあそこの住人の大半は術者と人外の者だろう? まあ、だからといって放っておけるわけではないが」
 言いつつ、再び歩き出した慶悟とともに。
 撫子は改めてマンションへと急いだ。


●呑気な大家

 大家の部屋は、マンション一階の一番入口に近い部屋。
 慶悟とともに中に招き入れられた撫子は、挨拶もそこそこに、大家のお爺さんへと問いかけた。
「あの、今日、なにかおかしなことはありませんでしたか?」
 真剣な表情の撫子と慶悟に、お爺さんはカラカラと楽しげに笑った。
「なーんも、ないよ。いつものコトならあったがな」
 お爺さんは座布団を勧めてくれ、テーブルの上に置かれていた煎餅の皿――ちょうど食べていたところに二人が訪ねて来たらしい――を、スイと二人の前に押し出してくれた。
「いつものコトって・・・殺気を撒き散らしてるあの気配か?」
 慶悟の問いに、お爺さんはうむ、と鷹揚に頷いた。
「そんな、のんびりしている場合ではないのではないですか?」
「ふむ。ま、誰かがなんとかするから大丈夫だろう。私のような引退したモンがわざわざ出ていくまでもない」
「まあ、間違っちゃいないが・・・・・」
 それでもどこか納得いかないのだろう。慶悟は呆れ気味の表情でぽつりと呟いた。
「では、わかる限りで構いませんから、状況を教えていただけませんか?」
 だが。
「さあなあ。羽音は聞こえてきたが、特に確認に行ったわけでもなし」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
 あまりにも呑気なその答えに撫子は思わず沈黙を返した。
「な、なら。ちょっと頼みがあるんだが」
 苦笑しつつ、慶悟は数体の式神を呼出した。
「様子を見るのにこいつを使いたいんだが」
「やめといた方がいい。術者はともかく、妖怪連中は面白がってからかいにくるぞ」
「だから、印をつけてくれないか? あんたの関係者だってわかるように」
 お爺さんの答えは最初から予想済みだったらしい。慶悟はすぐさま答えを返し、お爺さんはそれに快く頷いてくれた。
「じゃあ、行くか」
 印つきの式神を連れて少し賑やかに、二人プラスαの一行は殺気の主の元、屋上へと出かけた。


●獣

 屋上へ出る扉は、開け放たれていた。そして、数人の声。
 その中に聞き覚えのある声を見つけて、慶悟は走るスピードを上げた。
「シュライン様!?」
 同じく気付いた撫子は、ぱっと声をあげて扉の向こうを見る。
 そこには、シュラインのほかに二人――男が一人と、女性が一人。どちらも慶悟と撫子には見覚えのない人物だった。
「あら、二人とも。奇遇ね」
「あんたらもこれ、確かめに来たのか」
 シュラインに続いて、男が軽い口調で言う。
「え、ええ」
 微妙に緊張感のない受け答えに、撫子は返す言葉に戸惑いを見せた。
「あ、俺は真柴尚道」
「レベル・ゴルゼルデです」
「俺は真名神慶悟だ」
「天薙撫子といいます」
 さっと名乗りあって、それから、慶悟と撫子は改めて獣の方へと目を向けた。
 黒い毛並みで、全長は二メートルほど。背には黒い翼があった。
 獣は、どうやら怪我をしているらしい。屋上の床には赤黒い血のあとがぽつりぽつりと落ちている。
「でもちょうど良いところに来てくれたわ」
「ちょうど良いところ・・・ですか?」
 シュラインの言葉に、撫子が不思議そうな顔をした。慶悟は変わらず獣の方への警戒を怠らない。
「あの子・・・怪我をしてここに不時着したみたいなんです」
 レベルが、ゆっくりと静かに告げた。
「なんとか治療なりしてやりたいんだけどさ、近づかせてくれねえんだよ」
 まあ、手負いの獣とはそういうものだ。
「言葉は通じないのか?」
 慶悟の問いを聞いて、尚道とシュラインが首を横に振った。
「知能は普通の獣と大差ないみたいで」
 そう答えたのはレベル。
「ならば、少し強引だが無理やり動きを封じるか?」
「でもそれでは、下手をすると暴れ出すのではないでしょうか・・・?」
 その時だった。
 ふいに、レベルが何かに気付いた。
「どうした?」
 じっと俯いて――自分の服のポケットを見ている。
 途端。
 なんの気負いもなく。
 レベルはすたすたと獣に向かって歩き出した。
 止める暇は、なかった。
 慶悟は慌てて符を手にし、撫子は妖斬鋼糸を手にして、尚道も戦闘態勢を整えた。
「待って・・・」
 獣の呼吸音の変化を鋭い聴覚で聞き分けたシュラインが、三人に制止をかけた。
 暴れ出す様子はない。
 三人は、戦闘態勢は崩さないまま、静かにレベルの動向を見守る。
「これ・・・食べます?」
 レベルがそっとお菓子を差し出すと・・・・何を思ったのか、獣は急に大人しくなって、差し出されたお菓子を食べ始めた。


●そして、終わりに

 一行の現在地。
 マンション一階、入口に一番近い一一〇号室。
 このマンションの大家の部屋である。
「おお、お疲れさん」
 何時どこから情報を仕入れたのか、大家である老人は五人を快く家に迎え入れた。
「まあ、私にはこれくらいしかできないが、お礼だ。ゆっくりしていきなさい」
 お煎餅とお茶を出して、老人は五人をもてなしてくれた。
 もともと別口の用事で出てきていたレベルは早々に帰っていってしまったが・・・・・・残る四人は、老人の淹れたお茶と、撫子が持参してきた栗蒸し羊羹で、楽しいお茶の時間を過ごしたのであった。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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整理番号|PC名|性別|年齢|職業

0328|天薙撫子     |女|18|大学生(巫女)
0389|真名神慶悟    |男|20|陰陽師
1823|レベル・ゴルデルゼ|女| 5|家事手伝い、錬金術師の弟子
0086|シュライン・エマ |女|26|翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
2158|真柴尚道     |男|21|フリーター

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■         ライター通信          ■
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 こんにちわ、日向 葵です。
 撫子さん、慶悟さん、シュラインさん。いつもお世話になっております。
 レベルさん、尚道さん。初めまして。
 この度はやってきた魔物の調査、お疲れ様でした。

>撫子さん
 素敵な設定をどうもありがとうございました♪
 序盤の蔵整理のシーンは書いていてとても楽しかったです。(実は頑固老人系書くの大好き・・・v)

>慶悟さん
 今回は符を使う暇もなく・・・。もともと羽音が屋上から響いてる事もあって、一直線に屋上を目指してしまいました。
 せっかくつけてもらった印の活躍シーンがあんまり書けなくてすみません。
 次回までにもっと精進していたいと思います。

>レベルさん
 動物に懐く方ということで、獣の宥め役に回っていただきました。
 ヴィエちゃんのお菓子ならきっと美味しいお菓子だったろうと思います(笑)

>尚道さん
 マンション住人さんのご参加、ありがとうございました。
 なにかマンションに怪しい設定が増え、ますます楽しいことになりそうです♪

>シュラインさん
 お見事、大正解でした。
 悪意=敵とは限らないという発想の方がいらっしゃったおかげで平和的にコトを進められました。
 どうもありがとうございました〜。


 それでは、今回はこの辺で。
 またお会いする機会がありましたら、よろしくお願いいたします。