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<東京怪談・PCゲームノベル>


駅前マンションの怪

●いつもの見回り

 二十階建て新築四LDKで、立地は駅前。しかも家賃は激安。
 真柴尚道、年齢は二十一歳。彼は、このマンションの二階に住居を構えるフリーターだ。
 まあ、安さには秘密があって、実を言うとこのマンション。かつて退魔行をしていたという老人が建てたものだ。
 つまり。人間のお金をあまり持っていないだろう人外の存在や、駆け出しでロクに仕事が入らない陰陽師や術者のために家賃を安く設定したということらしい。
 そんな老人にちょっとしたお礼のつもりで、尚道はよく自主的にマンションを見て回っていた。
 幽霊や妖怪騒ぎが多くて空き地となっていた場所に建てたというから、そのせいなのか。それとも特殊な能力を持つ住人たちのせいなのか。
 よくはわからないが、時たま――というか、ちょくちょく。
 このマンション内で歪みを見つける。
 それは幽霊の通り道のようなものであったり、異次元との境のようなものであったり。
 歪みの本質は様々だが、あまり放置しておいて良いようなものではない。
 尚道は自主的に、そういった歪みをこっそり封じて回っているのだ。
 そして今日も、バイトからの帰りがけにぐるっとマンションの気配を探っていた。
 その時。
「・・・・・・・・・なんだ?」
 バサバッという賑やかな羽音。
 まあ、翼を持つ連中なんてここにはたくさんいるが。
「上の天狗どものとはちょっと違う感じだな」
 そう。このマンションの住人の放つ気配とは明らかに違う。
 感じるのは、隠そうとしない殺気。
「行ってみるか」
 尚道は、その目的地を屋上に定めて駆け出した。


●階段踊り場にて

 さすがに全速力とは行かないが、マンション内を進むには明らかに危険なスピードで。
 尚道は階段を駆け上がっていった。
 と、
「きゃあっ!?」
 十階の辺りで、廊下から階段へとやって来た女性と衝突しそうになって、尚道は慌てて足を止めた。
「あ、ワリィ。大丈夫か?」
 マンション内ではあまり見かけない女性だ。
 ここの住人の誰かを訪ねて来たのだろうか・・・?
 ふといくつかの疑問が頭を過ぎったが、だが今はそれを考えている場合ではない。
 再び駆け出そうとした尚道に、
「待って!」
 女性の声がかかった。
「ああ? なんだ?」
 少しの焦りが、声を苛立たせる。
 女性は真剣な表情で、それでも少しだけ思案するような様子を見せた。
「もしかして、さっきの羽音――」
「あんたも聞いてたのか?」
 聞こえた羽音は結構大きな音だったから、尚道の他に聞いていた者がいてもなんらおかしくはない。
「私はその羽音を確かめに行くところだったの」
 女性の答えに、尚道は軽く笑って見せた。
「へえ。じゃあ目的は俺と一緒ってわけか。でも、自分が大事なら行かないほうがいいぜ」
 明るい声と表情とは裏腹に、脅すような内容の発言をする。
 女性が何者かもわからない――ここの住人の知り合いならばなんらかの術者である可能性も高いが、だがまったくの一般人である可能性もゼロではない――この状況で、あれが人外の者らしいとまでは言えなかった。
 女性は、まったく怯まなかった。
「だったら余計、放っておけないでしょ」
 女性の答えを聞いた尚道は、口の片端を上げて小さく笑った。
「そうか、なら一緒に行くか。俺は真柴尚道、よろしくな」
「私はシュライン・エマよ。よろしく」
 さらりと挨拶を交わした二人は、改めて上へ向かって歩き出した。


●屋上にいた先客

 駆け上がった先には屋上へ出る扉――その前に、女性が一人、立っていた。二十代後半、ショートの茶髪。
 その直前にガチャンと響いた音から考えるに、ちょうど今、屋上への扉を閉じたところだったのだろう。
「あら、貴方もあの気配を追ってきたの?」
「ったく、物好きが多いな」
 少女が、くるりと振り返った。静かに閉じられたままの瞳が印象的だった。
 沈黙したままの少女が軽く会釈をした。シュラインと尚道が軽い挨拶と自己紹介を返すと、少女はレベル・ゴルデルゼと名乗った。
 シュラインが、ピタリと扉に耳を当てて向こうの様子に耳を澄ませる。
 今のところ、特に騒ぐ気配はない様子。
 だが。
「殺気は消えてねぇな」
 尚道は真剣な表情でそう呟いた。
「どうしましょう?」
 レベルが問う。
 彼女の言う通り、ここでいつまでも様子見をしているわけにもいかないのだ。
「そうねえ・・・本当に敵意ある者かどうかは会ってみないとわからないものね」
「あれだけの殺気を放ってるのに、か?」
 疑い半分のような尚道の言葉を聞いて、シュラインはしっかりと頷いた。
「ええ。例えば・・・手負いの獣なら、警戒して殺気を撒き散らしていてもおかしくないでしょう?」
 尚道が納得したように頷いたのを確認してから、シュラインは改めて扉に耳を寄せた。
「やっぱり、暴れてるような物音はしないわね」
「はい」
 扉に耳を寄せるまでもなく、レベルはあっさりとシュラインに同意した。
 二人の聞こえるのはバサバサという――だがどこかバランスの悪い、翼の羽音だけだ。
「とりあえず・・・救急箱でも持ってこようかしら」
 怪我をしてるなら必要になるだろうという配慮だ。
「人間の薬で治せるもんなのか?」
「・・・・・・でも、何も用意しないよりは良いと思います」
 レベルの同意もあって、救急箱を用意した数分後。
 三人は屋上への扉を開けた。


●獣

 その先にいたのは、一匹の獣。
 黒い毛並みで、全長は二メートルほど。背には黒い翼があった。
 獣は、どうやら怪我をしているらしい。屋上の床には赤黒い血のあとがぽつりぽつりと落ちている。
「なんとか治してあげられないかしら」
 一歩踏み出す。
 と、途端に獣が低い唸り声をあげた。
 慌てて下がると、獣は静かになった。どうやら、こちらから近づかなければ害を与える気はないらしい。
 だがこれでは治療ができない。
 どうしようかと悩んでいたところに、
「シュライン様!?」
 聞こえた声に振り返れば、そこには二人の男女が立っていた。どちらも見知らぬ顔だ。
「あら、二人とも。奇遇ね」
「あんたらもこれ、確かめに来たのか」
 シュラインに続いて、尚道が軽い口調で言う。
「え、ええ」
 微妙に緊張感のない受け答えに、女性は返す言葉に戸惑いを見せた。
「あ、俺は真柴尚道」
「レベル・ゴルゼルデです」
「俺は真名神慶悟だ」
「天薙撫子といいます」
 さっと名乗りあって、それから、慶悟と撫子は改めて獣の方へと目を向けた。
「でもちょうど良いところに来てくれたわ」
「ちょうど良いところ・・・ですか?」
 シュラインの言葉に、撫子が不思議そうな顔をした。慶悟は変わらず獣の方への警戒を怠らない。
「あの子・・・怪我をしてここに不時着したみたいなんです」
 レベルが、ゆっくりと静かに告げた。
「なんとか治療なりしてやりたいんだけどさ、近づかせてくれねえんだよ」
 まあ、手負いの獣とはそういうものだ。
「言葉は通じないのか?」
 慶悟の問いを聞いて、尚道とシュラインが首を横に振った。
「知能は普通の獣と大差ないみたいで」
 そう答えたのはレベル。
「ならば、少し強引だが無理やり動きを封じるか?」
「でもそれでは、下手をすると暴れ出すのではないでしょうか・・・?」
 その時だった。
 ふいに、レベルが何かに気付いた。
「どうした?」
 じっと俯いて――自分の服のポケットを見ている。
 途端。
 なんの気負いもなく。
 レベルはすたすたと獣に向かって歩き出した。
 止める暇は、なかった。
 慶悟は慌てて符を手にし、撫子は妖斬鋼糸を手にして、尚道も戦闘態勢を整えた。
「待って・・・」
 獣の呼吸音の変化を鋭い聴覚で聞き分けたシュラインが、三人に制止をかけた。
 暴れ出す様子はない。
 三人は、戦闘態勢は崩さないまま、静かにレベルの動向を見守る。
「これ・・・食べます?」
 レベルがそっとお菓子を差し出すと・・・・何を思ったのか、獣は急に大人しくなって、差し出されたお菓子を食べ始めた。


●そして、終わりに

 一行の現在地。
 マンション一階、入口に一番近い一一〇号室。
 このマンションの大家の部屋である。
「おお、お疲れさん」
 何時どこから情報を仕入れたのか、大家である老人は五人を快く家に迎え入れた。
「まあ、私にはこれくらいしかできないが、お礼だ。ゆっくりしていきなさい」
 お煎餅とお茶を出して、老人は五人をもてなしてくれた。
 もともと別口の用事で出てきていたレベルは早々に帰っていってしまったが・・・・・・残る四人は、老人の淹れたお茶と、撫子が持参してきた栗蒸し羊羹で、楽しいお茶の時間を過ごしたのであった。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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整理番号|PC名|性別|年齢|職業

0328|天薙撫子     |女|18|大学生(巫女)
0389|真名神慶悟    |男|20|陰陽師
1823|レベル・ゴルデルゼ|女| 5|家事手伝い、錬金術師の弟子
0086|シュライン・エマ |女|26|翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
2158|真柴尚道     |男|21|フリーター

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■         ライター通信          ■
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 こんにちわ、日向 葵です。
 撫子さん、慶悟さん、シュラインさん。いつもお世話になっております。
 レベルさん、尚道さん。初めまして。
 この度はやってきた魔物の調査、お疲れ様でした。

>撫子さん
 素敵な設定をどうもありがとうございました♪
 序盤の蔵整理のシーンは書いていてとても楽しかったです。(実は頑固老人系書くの大好き・・・v)

>慶悟さん
 今回は符を使う暇もなく・・・。もともと羽音が屋上から響いてる事もあって、一直線に屋上を目指してしまいました。
 せっかくつけてもらった印の活躍シーンがあんまり書けなくてすみません。
 次回までにもっと精進していたいと思います。

>レベルさん
 動物に懐く方ということで、獣の宥め役に回っていただきました。
 ヴィエちゃんのお菓子ならきっと美味しいお菓子だったろうと思います(笑)

>尚道さん
 マンション住人さんのご参加、ありがとうございました。
 なにかマンションに怪しい設定が増え、ますます楽しいことになりそうです♪

>シュラインさん
 お見事、大正解でした。
 悪意=敵とは限らないという発想の方がいらっしゃったおかげで平和的にコトを進められました。
 どうもありがとうございました〜。


 それでは、今回はこの辺で。
 またお会いする機会がありましたら、よろしくお願いいたします。