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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


迷子の迷子のお人形さん

●人形の噂

「動く人形?」
 ここ数日で急激に増えている書き込みを目にして、雫は首を傾げた。
 良くある話と言えばよくある話なのだが、ちょっと違うのは見かけるのが全て外だと言うこと。
 怪談なんかで見かけるのは家の人形が夜中に歩きまわっているとか、日本人形の表情が変わるだとか、そんな話だ。
 だけれど、今話題になっている人形は、どうやら昼間でも見かけるらしい。
 だが一応は人に見つからないよう気をつけているようで、人の視線に気付くと逃げてしまうそうだ。小さい人形は人間には入れない隙間にも簡単に入って行けるから、それで結局見失ってしまうというわけだ。
「面白そう。探しに行ってみようっと♪」
 出現ポイントがそう遠くない場所だというのも運が良い。
「あれ・・・・・・・?」
 ふと、とあることに気付いて、雫は再度書きこみを確認した。
「これって・・・」
 以前『アンティークドール博物館へいらっしゃいませんか?』という誘いの書きこみがあった、その博物館の近く。そこには十人もの動く人形がいて、彼女らはただの暇つぶしに人間を招待したのだ。
「まさかとは思うけど・・・」
 まあ、今話題の動く人形が博物館の人形だとしても、そうではなかったとしても。
 行ってみればわかることだ。


●迷子か、散歩か

「流石に、小さな人形が出歩いていては騒ぎにもなるか」
 その書きこみを見つけた時、真名神慶悟はすぐに一人の少女を思い出した。
 以前、退屈だからと人間を話相手に招待した、とある人形博物館の人形たち。
 慶悟が直接に出会ったのはそのうちの一人だけで、名前はキャロライン。ストレートの金髪を青いリボンでうさぎ結びにまとめた、可愛らしい人形である。
 話したのはたったの一晩だが、それでも彼女の性格をある程度掴むには充分な時間だった。
 無邪気に我侭で、けれど子供特有の雰囲気につられてついつい許してしまう――そんな雰囲気を持つ少女だ。
 欲しい物は率直に欲しいと告げ、泣きたければ素直に泣く。
 そんな彼女だから・・・・・・退屈だと言って、外に出ていく図も簡単に想像がついた。
 まあ、慶悟に彼女の楽しみを妨害する権利などないが、だが外には危険も伴う。
 ゴーストネットの書きこみを確認しつつ、慶悟はぽつりと呟いた。
「迷子になっているか、興味本位で表を出歩いているかは訊いてみなければ解らないが・・・。心無い者の掌に収まる前にどうにかしてやらないとな」
 そう。
 この世の中は、善人ばかりではないのだ。
 博物館の目玉の人形というからにはそれなりの金銭的価値を持っているだろうし、動く人形を珍しがってどこかの誰かに売りつけようとする者だって、いないとは限らない。
 その場に立ちあがった慶悟は、人形博物館に出かけるべく準備を始めた。


●空からの探索

 博物館の近くまでやってきた慶悟は、最初に考えていたとおり数体の赤い小鳥の式神を呼出した。
 式神と視聴覚を連動しておけば人形を発見した時にすぐにその視点を使って人形を追いかけることができるし、小さな式神のサイズならば人間には入れない――人形には入れる――狭いところにも入っていける。
 それに以前この博物館で出会った人形、キャロラインは慶悟の出した赤い小鳥の式神をとても気に入っていた。
 もし自分の意思ではなく外に出るハメに陥っていた時・・・警戒心を和らげる事もできるだろう。
 そう思って式神を放った直後。
 博物館の本当にすぐ近くで、さっそく一人の人形が引っかかった。
 どうやら幼い子供に捕まっている様子。
 慶悟は、すぐさま駆け出した。

 博物館の門のすぐ前を駆け抜けようとした時だった。
 ふいに目の前に現れた人物と衝突しそうになって、慌てて足を止めた。
 彼の方も衝突寸前となったことに驚いたのか、歩く足を止めて慶悟を見つめる。
「すまない、急いでいたものでな」
「いや、結局はぶつからなかったわけだし。そう気にすることはないですよ」
 その時だった。
 あの人形たちとは違う、人外の気配を感じ取ったのは。
 どうやらこちらに向かってきているらしい気配に、慶悟は思わず表情を引き締めた。
 敵意は感じられない。
 だが、味方であるとも言いきれない。
 さきほど見つけた人形はまだ動く気配はなかったが、いつ動き出すかもしれない。
 かといって、この妖の気配を放っておくのも・・・・・・。
「では、俺はこれで」
 沈黙のまま難しい顔をした慶悟の相手をする気はなかったのだろう。
 目の前の男はスタスタと歩き出した――その方向は、慶悟の向かう方角と同じ。
 このすぐあとに続いて歩くというのもなんだか気まずいが、目的方向が同じなのだから仕方がない。
 歩き出すと、男は少しだけ振り返って、だが何事もなかったかのように歩きつづける。
 どうやら妖の気配は男の味方だったらしい。男の移動とともに動いた妖の気配に、慶悟は少しだけ緊張を緩めた。
 しばらく歩いたのい、一つの分かれ道で男はつと立ち止まった。
 それは慶悟の向かう先と同じ――そう、人形がいる場所。
 慶悟は慌てて歩を早めた。動く人形を見て騒ぎたてられては困るのだ。
 だが。
 男は、騒いだりはしなかった。
 見える横顔から察するに、どうやら男の目的も動く人形だったらしい。


●人形二人とお子様一人

 道の先にいたのは、さっき見たのと同じ銀髪の、五歳前後の少女。
 それと、その少女に抱きかかえられている幼児の人形が一体と、しっかりと自分の足で地面に立っている少女の人形が一体。
「あ・・・・」
 二人の人形が、こちらを見つけて表情を変えた。
 人形の様子に気がついた幼い少女が、こちらに振り向く。
 どこか不機嫌そうにも見える、無表情。
 じっと動かないのは動く人形を見られたことにたいする焦りか、それとも何か別のことでも考えているのか。
 少女の表情がふいと変わる。むーっとした感じの無表情には変わらないのだが、何かを思いついたらしく瞳が小さくきらめいた。
 少女が口を開き掛けた時――地面に立っていた人形がこそこそと少女の影に隠れつつも、しっかりとした声で告げた。
「あの・・・えーと。貴方・・・キャルの招待客だった方ですか?」
 どうやら彼女はキャロラインから慶悟の話を聞いていたらしい。そういえば、人形たち同士であとの話題のネタにするとか言っていた。
「ああ。真名神慶悟という。あんたたちの噂を聞いて探しに来た」
 頷いて答えると、隣に立っていた男がチラと慶悟に目をやった。
「同じ目的で動いてたわけですね」
 慶悟の視線が返すと、男は改めて口を開いた。
「俺は日下部更夜と言います」
 少女は二人の人形を抱えてとことこと男二人の前まで歩み出た。言いかけた言葉を、今度は幼児の人形が遮った。
「ねえねえ、たすけてほしいの。おともだちがさらわれたのっ!」
 エリスの真剣な眼差しに、慶悟と更夜も真剣な表情を返した。
「こういう言い方ってあんまり好きじゃないんですけど・・・。わたしたちの中で特に金銭的価値のある二人が攫われてしまって。博物館の人たちも探してくれてるんですけど、でも・・・・」
「おともだちだもん」
 外に出て周囲を騒がせた事に多少の罪悪感があるのだろう、言い淀んだマリーの言葉を付け足すように。エリスがにっこり笑った。
 慶悟と更夜はほぼ同じタイミングでこくりと頷いた。
「何かしら事情あっての事だとは思っていたが・・・そんなことになっていたのか」
「わかった、手を貸そう」
「ヴィエも手伝うよ」
 さてとりあえず、手掛かりを探すべく一旦博物館の方に行くことを提案しかけた時だった。
 別の方角に放っていた式神が、別の人形を見つけた。
 しかもどうやらシュラインと一緒らしい。向こうと一緒にいる人形は三体。うち一人は慶悟の顔見知りだった。
 慶悟はシュラインと合流するべく、式神に案内を命じた。


●誘拐犯をやっつけろ!

 人形たちに博物館に残るよう説得をしたのち、五人――ヴィエ・フィエン、真名神慶悟、日下部更夜、御影涼、シュライン・エマ――はある小さなアパートにやってきた。
 慶悟と更夜とヴィエの黒犬で探索した結果、あっさりとここを見つけることができたのだ。
 バタンと、一つの扉が開いた。
 途端、
「マリーとエリスをいじめた人」
 一行の中で唯一犯人を直接見ていたヴィエがびしりと男を指差した。
 五人は男の進路を塞いで立つ。男は、不機嫌そうに眉を顰めた。
「そこにいられると通れないんだけど」
「人形を返してもらおうか」
 慶悟の言葉に、男の顔色がさっと変わった。
「なんのことだ?」
 だが男はあくまでもトボける気らしい。
「大人しく頼んでいるうちに返した方がいいよ」
 きっと睨みつける涼に、男が数歩下がった。
「エリスとマリー、いじめた」
 睨みつけるヴィエに気付いて、男は肩を竦めた。
「人形を返しなさい」
 きっぱりと言うシュラインに、だが男はニヤニヤと下卑た笑みを浮かべる。
「証拠もナシに人を犯人扱いはよくないよ、お兄さんたち」
「さっき、人形を二つ。持ち去ろうとしていたでしょう」
 更夜の言葉に、男はやはり余裕を崩さなかった。
「ガキの言うことを信じるのか? 見間違いかもしれないじゃないか」
 だが。
 男の余裕はそこまでだった。
 実は慶悟は、話の間にこっそりと式神をアパートに忍び込ませて扉を開けていたのだ。
「わたくしたちだけでなく、他の者にも手を出していたのですか」
「まったく、救いようのない男ですわね」
 聞こえた声に、男はバッと後ろを振り返った。
 扉の前に、人形が二つ。エメラルドの瞳を持った少女と、サファイアの瞳を持った少女。瞳に宝石を持つ少女がそこにいた。
「動く人形だとは知らずに盗んだわけね」
 男の様子から、シュラインはそう判断した。
「人前では動かないと決めていましたから、大人しくしていましたけれど」
「大事な仲間にまで手を出そうとしていたならば、話は別です」
 どこか高貴な雰囲気を纏う人形たち二人は、どうやら特殊な能力を持っているらしい。
 あっさりと男を撃退すると、にこりと一行に笑い掛けた。
「大変ご迷惑をおかけいたしました」
「よろしければ、迷惑ついでに家まで送って頂けないかしら?」
 快く頷いた一行。
 人形たちの歓迎は喜ばしいものだったが、盗難届けの出ていた人形だ。警察の事情聴取なんてものに付き合わされ、その日は皆、疲れた顔で帰路についたのだった。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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整理番号|PC名|性別|年齢|職業

0389|真名神慶悟   |男| 20|陰陽師
1846|ヴィエ・フィエン|女|700|子供風
0086|シュライン・エマ|女| 26|翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
1831|御影涼     |男| 19|大学生兼探偵助手
2191|日下部更夜   |男| 24|骨董&古本屋

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、日向 葵です。
 このたびは迷子探し(?)にご協力ありがとうございました。
 迷子などと言いつつ、実は誘拐事件だったわけですが(笑)

>ヴィエさん
 今回も可愛らしいプレイングをありがとうございました。
 くしゃみ能力が使えて楽しかったです♪

>シュラインさん
 迷子の人形さんをいろいろと心配してくださり、ありがとうございました。
 でもごめんなさい、実は誘拐事件でした(^^;

>慶悟さん
 ある意味今回の大正解は慶悟さんでした。外に出たから悪い人に出会ったのではなく、盗まれたのですが(笑)
 式神のプレイングは毎度楽しませて頂いておりますv

>涼さん
 プレゼント、どうもありがとうございました。
 文中で渡す暇がなかったのが残念ですが、ミュリエルは大喜びだったと思います。賑やかで綺麗なもの大好きですから(笑)

>更夜さん
 文中では人形探しが主であったため、お喋りがあまりできませんでした(汗)
 今回基本能力は使えませんでしたが、翠霞さんとの会話は書いててとても楽しかったです。


 それでは、今回はこの辺で失礼いたします。
 また機会がありましたら、その時はよろしくお願いいたします。
 どうもありがとうございました♪