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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


迷子の迷子のお人形さん

●人形の噂

「動く人形?」
 ここ数日で急激に増えている書き込みを目にして、雫は首を傾げた。
 良くある話と言えばよくある話なのだが、ちょっと違うのは見かけるのが全て外だと言うこと。
 怪談なんかで見かけるのは家の人形が夜中に歩きまわっているとか、日本人形の表情が変わるだとか、そんな話だ。
 だけれど、今話題になっている人形は、どうやら昼間でも見かけるらしい。
 だが一応は人に見つからないよう気をつけているようで、人の視線に気付くと逃げてしまうそうだ。小さい人形は人間には入れない隙間にも簡単に入って行けるから、それで結局見失ってしまうというわけだ。
「面白そう。探しに行ってみようっと♪」
 出現ポイントがそう遠くない場所だというのも運が良い。
「あれ・・・・・・・?」
 ふと、とあることに気付いて、雫は再度書きこみを確認した。
「これって・・・」
 以前『アンティークドール博物館へいらっしゃいませんか?』という誘いの書きこみがあった、その博物館の近く。そこには十人もの動く人形がいて、彼女らはただの暇つぶしに人間を招待したのだ。
「まさかとは思うけど・・・」
 まあ、今話題の動く人形が博物館の人形だとしても、そうではなかったとしても。
 行ってみればわかることだ。


●通り道は一直線!

「お人形?」
 ゴーストネットの書きこみを見た時、ヴィエ・フィエンは少し前に出会った人形博物館の動く人形たちを思い出した。
 どうやら場所も近くらしい。
 ポーチの中いっぱいに、家で作ってもらったクッキーを詰め込んで。
 ヴィエは、早速人形に逢いに家を出た。
「こないだのお人形のにおい。わかる?」
 影の中から呼出した黒犬にクッキーをあげて聞いてみると、黒犬は人形博物館の方角へと歩き出した。
 一直線に。
 人の庭先だろうが、塀に遮られた道でもお構いなし。
 まず最初の障害は高い塀。
 だがヴィエは妖精。それらしく空を飛ぶ事だってできるのだ。
 軽く塀を飛び越えたヴィエは、そのまま黒犬を追って、今度は人様の庭先、そして家の中へと入っていく。
 見つかったら怒られるので、姿を消して。
 ついでなので、通りがかりにちょっとお菓子を失敬した。
 そうして延々歩くこと数十分。
 そろそろ歩くのが面倒くさくなってきたころ。
 黒犬は、人形博物館の門の前でカチリと右に折れた。
「あっち?」
 ヴィエの問いに、黒犬はこくりと頷く仕草を見せてさらにその先へと歩いていく。
 そして・・・・・・彼女と、目が合った。
 以前人形博物館に遊びに来た時に出会った、幼児の人形。舌ったらずな喋り方と、ほにゃんと可愛らしい笑顔が印象的な、エリスだ。
「ヴィエーっ」
 お互い相手に気付いた瞬間、二人はぎゅーっと抱き合って――というか、エリスが一方的に抱きしめられていた。
「きゅ〜〜〜っ」
 喜びの再会のはず・・・・・・なのだが、手足をばたつかせるエリスは、おかしな奇声をあげていた。


●再会の子供たち

「ヴィエ、ヴィエっ。ちょっとくるしいよぉ〜」
 そう言うエリスの声は嬉しそうだった。
 でも、あんまりぎゅーとしすぎたら苦しいのもわかるから、渋々ながらも、ヴィエはエリスをぎゅーっとするのをやめて、そっと抱きかかえる。
「どうしたの?」
 致命的に主語が足りない。
 それでも大人ならば状況から質問の意味を推測することができるかもしれない。
 だが。
 相手はヴィエよりもさらに幼いお子様なのだ。
「どうしたの?」
 質問の意味を掴めなかったエリスはこくんと首を傾げた、
 その時だった。
 ヴィエの視界――曲がり角のトコロにこちらを窺うような人影を見つけた。
「あーーーっ!」
 エリスが、大声をあげて影を指差す。途端、人影はさっと身を翻した。
「おいかけて、おいかけるのっ〜っ!」
 一瞬きょとんとしたヴィエであったが、真剣なエリスの声におされてとりあえずとばかりに駆け出す。
 だが両手が使えないと走りにくい。
 肩にエリスを乗せて、それからヴィエはぱちんっと手を叩いた。
 人影がくしゃんっと声を立てて、少しだけ走るスピードが落ちた。
 ぱちんっ。
 また一つ人影がクシャミをする。
 だがそれでも、子供の足と大人の足の差は大きい。
 ぱちんっ!
 もう一回。っと、人影から小さな影が一つ零れた。
 人影は一瞬振り返ったが、だが追いかけてくるヴィエを目にして、結局走り去っていってしまった。
「ふえ・・・・・」
 残されたのは、その場に座りこんで泣いている少女の人形。
「恐かったぁ〜〜〜」
「マリー、マリー。だいじょぉぶ?」
 ヴィエの肩の上から、エリスがひょこりと顔を出す。
 マリーと呼ばれた人形はこくこくと何度も頷くが、だが涙は止まらなかった。
「・・・・・・・・・・・・・・」
 いつものむーっとした表情のまま。
 ヴィエは、ポーチの中のクッキーを一つ、差し出した。
 きょとんとした表情のマリーはしばらくクッキーとヴィエとを見比べて、それから、にこりと照れくさそうに笑った。
「帰りたいな・・・」
 一口一口ゆっくりとクッキーを食べながら、マリーが呟く。
「うん。きょうはいっかいおうちにかえろー」
 エリスが元気にガッツポーズ。
 そして、
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ほえん?」
 エリスは、不思議そうにきょろきょろと辺りを見まわした。
 改めて周囲に目を向けたマリーも困ったような顔をしている。
「・・・まよった」
 たいして困ったようには聞こえない口調で、ヴィエはぽつりと口にした。


●帰り道はどこでしょう?

 人形博物館から出たことのない人形二人は、当然道などわからない。
 ひたすらに追いかけていたヴィエもどう走ってきたんだかまったく覚えていない。
 さて、どうしよう?
「わたし、帰れないの?」
 エリスよりももう少し大きい――見た目の年齢だけで言えばこの中では一番年上のマリーが、瞳を潤ませた。
「だーいじょーぶだよう。なんとかなーるなーる♪」
 呑気な幼児、エリスは可愛らしい舌足らずな声で笑う。
「むー・・・・・」
 ちょっと考えて、黒犬ならもしかしたら道を探せるかもしれないと思いついた。
 早速呼び出そうとしたその直前。
「あ・・・・」
 マリーとエリスが、小さな声をあげた。
 振り向くと、そこには二人。大人の男の人がこっちを見ている。
 ヴィエに抱きかかえられているエリスはともかく、しっかりと地面に立っているマリーは普通の人形ではないことが一目瞭然だった。
 だがヴィエはそれがまずいことだなんて全然思いもつかなくて。とりあえず、大人の人に道を聞くのが良いかなあ、などと思ってみた。
 だがヴィエが声をかける前に、マリーがこそこそとヴィエの影に隠れつつもしっかりとした声で、問うた。
「あの・・・えーと。貴方・・・キャルの招待客だった方ですか?」
 金髪の男が、頷いた。
「ああ。真名神慶悟という。あんたたちの噂を聞いて探しに来た」
 その言葉に、黒髪の男がチラと慶悟に目をやった。
「同じ目的で動いてたわけですね」
 慶悟の視線が返ってきて、黒髪の男は改めて口を開いた。
「俺は日下部更夜と言います」
 ヴィエはマリーとエリスを抱えてとことこと男二人の前まで歩み出た。おうちの方角を聞こうかと思っていたのだが、それより先にエリスが口を開いた。
「ねえねえ、たすけてほしいの。おともだちがさらわれたのっ!」
 エリスの真剣な眼差しに、慶悟と更夜も真剣な表情を返した。
「こういう言い方ってあんまり好きじゃないんですけど・・・。わたしたちの中で特に金銭的価値のある二人が攫われてしまって。博物館の人たちも探してくれてるんですけど、でも・・・・」
「おともだちだもん」
 外に出て周囲を騒がせた事に多少の罪悪感があるのだろう、言い淀んだマリーの言葉を付け足すように。エリスがにっこり笑った。
 慶悟と更夜はほぼ同じタイミングでこくりと頷いた。
「何かしら事情あっての事だとは思っていたが・・・そんなことになっていたのか」
「わかった、手を貸そう」
「ヴィエも手伝うよ」
 新たな目的を持った一行は、とりあえず手掛かりを求めて博物館の方に戻ることにした。


●誘拐犯をやっつけろ!

 人形たちに博物館に残るよう説得をしたのち、五人――ヴィエ・フィエン、真名神慶悟、日下部更夜、御影涼、シュライン・エマ――はある小さなアパートにやってきた。
 慶悟と更夜とヴィエの黒犬で探索した結果、あっさりとここを見つけることができたのだ。
 バタンと、一つの扉が開いた。
 途端、
「マリーとエリスをいじめた人」
 一行の中で唯一犯人を直接見ていたヴィエがびしりと男を指差した。
 五人は男の進路を塞いで立つ。男は、不機嫌そうに眉を顰めた。
「そこにいられると通れないんだけど」
「人形を返してもらおうか」
 慶悟の言葉に、男の顔色がさっと変わった。
「なんのことだ?」
 だが男はあくまでもトボける気らしい。
「大人しく頼んでいるうちに返した方がいいよ」
 きっと睨みつける涼に、男が数歩下がった。
「エリスとマリー、いじめた」
 睨みつけるヴィエに気付いて、男は肩を竦めた。
「人形を返しなさい」
 きっぱりと言うシュラインに、だが男はニヤニヤと下卑た笑みを浮かべる。
「証拠もナシに人を犯人扱いはよくないよ、お兄さんたち」
「さっき、人形を二つ。持ち去ろうとしていたでしょう」
 更夜の言葉に、男はやはり余裕を崩さなかった。
「ガキの言うことを信じるのか? 見間違いかもしれないじゃないか」
 だが。
 男の余裕はそこまでだった。
 実は慶悟は、話の間にこっそりと式神をアパートに忍び込ませて扉を開けていたのだ。
「わたくしたちだけでなく、他の者にも手を出していたのですか」
「まったく、救いようのない男ですわね」
 聞こえた声に、男はバッと後ろを振り返った。
 扉の前に、人形が二つ。エメラルドの瞳を持った少女と、サファイアの瞳を持った少女。瞳に宝石を持つ少女がそこにいた。
「動く人形だとは知らずに盗んだわけね」
 男の様子から、シュラインはそう判断した。
「人前では動かないと決めていましたから、大人しくしていましたけれど」
「大事な仲間にまで手を出そうとしていたならば、話は別です」
 どこか高貴な雰囲気を纏う人形たち二人は、どうやら特殊な能力を持っているらしい。
 あっさりと男を撃退すると、にこりと一行に笑い掛けた。
「大変ご迷惑をおかけいたしました」
「よろしければ、迷惑ついでに家まで送って頂けないかしら?」
 快く頷いた一行。
 人形たちの歓迎は喜ばしいものだったが、盗難届けの出ていた人形だ。警察の事情聴取なんてものに付き合わされ、その日は皆、疲れた顔で帰路についたのだった。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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整理番号|PC名|性別|年齢|職業

0389|真名神慶悟   |男| 20|陰陽師
1846|ヴィエ・フィエン|女|700|子供風
0086|シュライン・エマ|女| 26|翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
1831|御影涼     |男| 19|大学生兼探偵助手
2191|日下部更夜   |男| 24|骨董&古本屋

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、日向 葵です。
 このたびは迷子探し(?)にご協力ありがとうございました。
 迷子などと言いつつ、実は誘拐事件だったわけですが(笑)

>ヴィエさん
 今回も可愛らしいプレイングをありがとうございました。
 くしゃみ能力が使えて楽しかったです♪

>シュラインさん
 迷子の人形さんをいろいろと心配してくださり、ありがとうございました。
 でもごめんなさい、実は誘拐事件でした(^^;

>慶悟さん
 ある意味今回の大正解は慶悟さんでした。外に出たから悪い人に出会ったのではなく、盗まれたのですが(笑)
 式神のプレイングは毎度楽しませて頂いておりますv

>涼さん
 プレゼント、どうもありがとうございました。
 文中で渡す暇がなかったのが残念ですが、ミュリエルは大喜びだったと思います。賑やかで綺麗なもの大好きですから(笑)

>更夜さん
 文中では人形探しが主であったため、お喋りがあまりできませんでした(汗)
 今回基本能力は使えませんでしたが、翠霞さんとの会話は書いててとても楽しかったです。


 それでは、今回はこの辺で失礼いたします。
 また機会がありましたら、その時はよろしくお願いいたします。
 どうもありがとうございました♪