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迷子の迷子のお人形さん
●人形の噂
「動く人形?」
ここ数日で急激に増えている書き込みを目にして、雫は首を傾げた。
良くある話と言えばよくある話なのだが、ちょっと違うのは見かけるのが全て外だと言うこと。
怪談なんかで見かけるのは家の人形が夜中に歩きまわっているとか、日本人形の表情が変わるだとか、そんな話だ。
だけれど、今話題になっている人形は、どうやら昼間でも見かけるらしい。
だが一応は人に見つからないよう気をつけているようで、人の視線に気付くと逃げてしまうそうだ。小さい人形は人間には入れない隙間にも簡単に入って行けるから、それで結局見失ってしまうというわけだ。
「面白そう。探しに行ってみようっと♪」
出現ポイントがそう遠くない場所だというのも運が良い。
「あれ・・・・・・・?」
ふと、とあることに気付いて、雫は再度書きこみを確認した。
「これって・・・」
以前『アンティークドール博物館へいらっしゃいませんか?』という誘いの書きこみがあった、その博物館の近く。そこには十人もの動く人形がいて、彼女らはただの暇つぶしに人間を招待したのだ。
「まさかとは思うけど・・・」
まあ、今話題の動く人形が博物館の人形だとしても、そうではなかったとしても。
行ってみればわかることだ。
●人形博物館
雰囲気たっぷりの白い洋館、その周囲には蔦が覆うレンガの壁。
昼の陽に照らされて、その洋館は穏やかで暖かな雰囲気に包まれていた。
以前に来た時と変わらぬ姿を持つ人形博物館。シュライン・エマは受付で入場料を払い、その中へと入っていった。
この博物館にあるのは大半がイギリス生まれの人形で、展示室は全部で十部屋。一部屋に一つずつ目玉の人形があり、その目玉の人形全てが、意思を持ち動く人形だという。
実はシュラインは、以前退屈凌ぎだという彼女らの招待により、動く人形の一人、ローズマリーという少女に会ったことがある。人見知りが激しく恥ずかしがりやだが、それなりの礼儀は弁えている、可愛らしい人形だ。
ぐるりと、一通りの部屋を順路の通りに巡って見る。
「あら・・・?」
以前は目玉として置かれていた人形のことごとくが――つまり、動く人形たち全員が――展示室に置かれていない。
早速シュラインは、手近な職員を呼びとめて、その理由を尋ねてみることにした。
「え、ああ。人形たちを綺麗にしてやろうってことで、業者のとこに行ってるんですよ」
「あら、そうなの・・・いつ頃戻ってくるんですか?」
途端に、職員の答えがしどろもどろになる。
「え? ええと・・・ちょっと俺は下っ端の従業員なんでそこまでは・・・」
「そうなんですか・・・残念だわ」
確実に、何かを隠している。
そんな確信を得て、だが突っ込んで聞いても答えてくれそうにない様子だったので、シュラインはあっさりと引き下がった。
「人形たちが行方不明になったってことかしら」
動く人形の噂と、従業員の態度からするとそんな感じだ。
確かマリーは人形たちは夜にしか動かないと言っていたのだが・・・一体、彼女たちに何があったのだろう?
●昼の人形たち
いったい何故、こんなことになっているのだろう?
だがここにいない以上、いつまでもこの場で悩んでいても事態が進展するわけもない。
その時。
「どこに行っちゃったんだろうな・・・ミュリエル」
ふとした呟きが、シュラインの耳に飛びこんできた。
ただたんに連れとはぐれただけともとれるような呟き。だが、人のほとんどいないこの屋敷内ではぐれるなんてことはそうそうないし、なによりその名前。
ローズマリーと同じヨーロッパ圏の名前。
「ごめんなさい、ちょっといいかしら」
声をかけるとその青年はシュラインの方へと振り返った。
「なんでしょう?」
「ミュリエルって、もしかしてここのお人形さんの名前かしら?」
その言葉に青年は思うところがあったらしい。少しの間考えてから、頷いた。
「ええ。もしかして、招待状を受けた方ですか?」
ああ、やっぱり。
シュラインはにっこりと笑みを浮かべた。
「ええ、そうなの。今回の人形騒動を聞いて、もしかして彼女たちが何かしてるんじゃないかって思ってね」
「俺は御影涼といいます」
「私はシュライン・エマよ」
自己紹介が終わった一瞬の間ののち。
「それにしても、なんだって彼女たちは急に昼間に動き出したんだろう」
涼の疑問に、シュラインも同じ思いで同意を返した。
「ええ・・・。夜にしか動かないって言っていたんだけど・・・」
そこがどうもわからない。
特に、ローズマリーに関しては。酷く人見知りをする彼女が、一人で外を出歩けるとは思えなかった。
「俺もそう聞きました。人を驚かせたりする気もないようでしたし」
「そうねえ・・・とりあえずは彼女たちの足取りを追いましょう」
シュラインの提案に涼も頷き返し、二人は人形博物館をあとにした。
●人形たちの足取り
二人はさっそく辺りへの聞き込みから始めることにした。
あちこちで人形の姿が見られているのだ、地道に聞けば大まかな行動パターンは掴めるだろう。
噂の人形の目撃情報と場所と時間。それらを細かく聞いてまわったところ、どうやら彼女らは博物館からだんだん離れるほうに動いているらしい。
しかも、聞くところによると動いている人形は一体だけではない。
明らかに特徴の違う人形を見たという証言がいくつもあり、どうやらあそこの人形のうち八体がめいめい動きまわっているらしい。
これにはシュラインも涼も少しばかり考えた。
一体、彼女らに何があったというのだろう?
「一斉に動かなきゃいけないようなことがあったんでしょうか・・・」
結局渡し損ねたプレゼントを手に、涼が考え込む。
「そうね・・・まさか全員が同時に退屈凌ぎに散歩に出たりはしないでしょうし」
真夜中にしか動かないと言っていた彼女らだ。動けない、ではなく。動かない、と。
その彼女らが一斉に昼間に動いたのには、きっとそれなりの理由があるはず。
「とりあえず、近くから探してみましょう」
一番近場で動いているらしい人形の元を目指し、二人は聞き込んだ情報をもとに歩き始めた。
歩き始めてしばらく経った頃。
「シュラインさん。・・・多分、あっちだと思います」
涼が突然そんなことを言い出した。唐突な言葉に多少驚きの表情を浮かべたシュラインだったが、すぐさま頷いて涼の示した方角に向かう。
またさらに歩くことしばらく。
シュラインは、聞き覚えのある声に立ち止まった。
以前人形たちの招待を受けた時、直接会ってはいないが扉越しに聞いた覚えのある声だ。
「あっちね」
「はい」
声を頼りに向かった先には、確かに三体の人形がいた。
樹の上で葉の陰に隠れている三人は、どうやらこちらにはまったく気付いていないらしい。
「だからさあ、やっぱりおじさんたちに任せておけばよかったんじゃない?」
「わかってるけどでもジッとしてらんないじゃない。だってそうでしょ? 同じ博物館の仲間でお友達だもの。誘拐されたのを放っておけないでしょ。警察の人とかも色々頑張ってくれてるみたいだけど、もう一週間よ。待つのも限界、こっちから動かなきゃ!」
「うん、うん。キャルも、ミュリエルに賛成っ!」
一人の見事なノンブレス早口発言に、涼が微笑を浮かべた。
「ミュリエル?」
声をかけると、ぴたりと話し声がやみ、そして。
「あーっ、お兄さんお久しぶり元気だった? また逢えて嬉しいっ♪」
なおも続きそうな台詞を制したのはもう一人の人形だった。
「はじめまして。私はジェシカって言います。こっちはキャロライン」
「ああ、はじめまして。俺は御影涼だ」
「私はシュライン・エマよ。それで・・・誘拐って?」
その問いに、二人は微妙に深刻さに欠ける賑やかな会話で語った。
二人の人形が攫われ、博物館の人たちも探しているのだが見つからないまま一週間。とうとう人形たちは自ら仲間を捜しに出てきたらしい。
「なら、俺も協力するよ」
涼の言葉に、シュラインもこくりと頷いて同意した。
その時、バサリとシュラインの目の前に赤い小鳥が降り立った。
「あの時の小鳥さん♪」
見覚えのある式神――真名神慶悟のそれに一番に反応したのはキャロラインだった。
小鳥は五人を導くように飛び――博物館の前で、二人の人形を連れた一行と合流した。
●誘拐犯をやっつけろ!
人形たちに博物館に残るよう説得をしたのち、五人――ヴィエ・フィエン、真名神慶悟、日下部更夜、御影涼、シュライン・エマ――はある小さなアパートにやってきた。
慶悟と更夜とヴィエの黒犬で探索した結果、あっさりとここを見つけることができたのだ。
バタンと、一つの扉が開いた。
途端、
「マリーとエリスをいじめた人」
一行の中で唯一犯人を直接見ていたヴィエがびしりと男を指差した。
五人は男の進路を塞いで立つ。男は、不機嫌そうに眉を顰めた。
「そこにいられると通れないんだけど」
「人形を返してもらおうか」
慶悟の言葉に、男の顔色がさっと変わった。
「なんのことだ?」
だが男はあくまでもトボける気らしい。
「大人しく頼んでいるうちに返した方がいいよ」
きっと睨みつける涼に、男が数歩下がった。
「エリスとマリー、いじめた」
睨みつけるヴィエに気付いて、男は肩を竦めた。
「人形を返しなさい」
きっぱりと言うシュラインに、だが男はニヤニヤと下卑た笑みを浮かべる。
「証拠もナシに人を犯人扱いはよくないよ、お兄さんたち」
「さっき、人形を二つ。持ち去ろうとしていたでしょう」
更夜の言葉に、男はやはり余裕を崩さなかった。
「ガキの言うことを信じるのか? 見間違いかもしれないじゃないか」
だが。
男の余裕はそこまでだった。
実は慶悟は、話の間にこっそりと式神をアパートに忍び込ませて扉を開けていたのだ。
「わたくしたちだけでなく、他の者にも手を出していたのですか」
「まったく、救いようのない男ですわね」
聞こえた声に、男はバッと後ろを振り返った。
扉の前に、人形が二つ。エメラルドの瞳を持った少女と、サファイアの瞳を持った少女。瞳に宝石を持つ少女がそこにいた。
「動く人形だとは知らずに盗んだわけね」
男の様子から、シュラインはそう判断した。
「人前では動かないと決めていましたから、大人しくしていましたけれど」
「大事な仲間にまで手を出そうとしていたならば、話は別です」
どこか高貴な雰囲気を纏う人形たち二人は、どうやら特殊な能力を持っているらしい。
あっさりと男を撃退すると、にこりと一行に笑い掛けた。
「大変ご迷惑をおかけいたしました」
「よろしければ、迷惑ついでに家まで送って頂けないかしら?」
快く頷いた一行。
人形たちの歓迎は喜ばしいものだったが、盗難届けの出ていた人形だ。警察の事情聴取なんてものに付き合わされ、その日は皆、疲れた顔で帰路についたのだった。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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整理番号|PC名|性別|年齢|職業
0389|真名神慶悟 |男| 20|陰陽師
1846|ヴィエ・フィエン|女|700|子供風
0086|シュライン・エマ|女| 26|翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
1831|御影涼 |男| 19|大学生兼探偵助手
2191|日下部更夜 |男| 24|骨董&古本屋
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■ ライター通信 ■
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こんにちは、日向 葵です。
このたびは迷子探し(?)にご協力ありがとうございました。
迷子などと言いつつ、実は誘拐事件だったわけですが(笑)
>ヴィエさん
今回も可愛らしいプレイングをありがとうございました。
くしゃみ能力が使えて楽しかったです♪
>シュラインさん
迷子の人形さんをいろいろと心配してくださり、ありがとうございました。
でもごめんなさい、実は誘拐事件でした(^^;
>慶悟さん
ある意味今回の大正解は慶悟さんでした。外に出たから悪い人に出会ったのではなく、盗まれたのですが(笑)
式神のプレイングは毎度楽しませて頂いておりますv
>涼さん
プレゼント、どうもありがとうございました。
文中で渡す暇がなかったのが残念ですが、ミュリエルは大喜びだったと思います。賑やかで綺麗なもの大好きですから(笑)
>更夜さん
文中では人形探しが主であったため、お喋りがあまりできませんでした(汗)
今回基本能力は使えませんでしたが、翠霞さんとの会話は書いててとても楽しかったです。
それでは、今回はこの辺で失礼いたします。
また機会がありましたら、その時はよろしくお願いいたします。
どうもありがとうございました♪
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