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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


迷子の迷子のお人形さん

●人形の噂

「動く人形?」
 ここ数日で急激に増えている書き込みを目にして、雫は首を傾げた。
 良くある話と言えばよくある話なのだが、ちょっと違うのは見かけるのが全て外だと言うこと。
 怪談なんかで見かけるのは家の人形が夜中に歩きまわっているとか、日本人形の表情が変わるだとか、そんな話だ。
 だけれど、今話題になっている人形は、どうやら昼間でも見かけるらしい。
 だが一応は人に見つからないよう気をつけているようで、人の視線に気付くと逃げてしまうそうだ。小さい人形は人間には入れない隙間にも簡単に入って行けるから、それで結局見失ってしまうというわけだ。
「面白そう。探しに行ってみようっと♪」
 出現ポイントがそう遠くない場所だというのも運が良い。
「あれ・・・・・・・?」
 ふと、とあることに気付いて、雫は再度書きこみを確認した。
「これって・・・」
 以前『アンティークドール博物館へいらっしゃいませんか?』という誘いの書きこみがあった、その博物館の近く。そこには十人もの動く人形がいて、彼女らはただの暇つぶしに人間を招待したのだ。
「まさかとは思うけど・・・」
 まあ、今話題の動く人形が博物館の人形だとしても、そうではなかったとしても。
 行ってみればわかることだ。


●人形博物館に行こう!

 ゴーストネットの掲示板に立っていたレスのうちの一つに、日下部更夜は目を引かれた。
 最近噂の動く人形が出没する地域の近くにはアンティークドールの博物館があり、実はそこには十体もの動く人形がいるのだという。
「なかなか、面白そうだな」
 迷子にしても散歩にしても、何故人形たちがそんなに集団で意思を持つようになったのか。
 そんな因果に、更夜は興味を持った。
 とりあえず博物館について調べてみたところ、営業時間は朝の十時から夕方六時まで。
 かつて個人所有の資産だったものをそのまま使ったらしいこの博物館のオーナーこの博物館をただの趣味として公開しており、ホームページ以外での宣伝は一切していないと言う。
 まあ、維持費としてそれなりの入場料はとっているらしいが。
 同じくそんな人形たちに興味を持ったのか、更夜に憑いている六尾の狐――翠霞(すいか)が話し掛けてきた。腕輪の中に封じられていた彼女だが、今では更夜と主従関係を持つ。
『更夜様、人形とは簡単に動き出すものなのですか?』
 姿は見せぬままに念話で話し掛けてきた翠霞に、更夜は少しだけ考えるような仕草を見せた。
『そうだな・・・・普通は動かないものだ。確かに動く者もいるが、十体も一所にあるのは不可思議だな』
 同じく念話で返した更夜は、そこまで言ったところで、ニヤリと小さく笑う。
『だからこそ興味がある』
『では、探しに行って見るのですか?』
 更夜はコクリと頷いて、
『迷子とやらの探索は無為に力を使うなよ。単純な理由かもしれないが、迷子なりの複雑な事情があるのかもしれん。害が無いなら諭して連れて来ればいい。何かしたい事があるようなら叶えてやろう』
 やる気満々の様子を見せた翠霞に言う。彼女の力を借りる気ではいるが、無理やりに連れ戻そうとは思わない。
 その場に立ち上がった更夜は手早く準備をして、噂の人形が現われるという地へ向かった。


●人形の館

 古めかしい白い洋館は、アンティークドールたちの住まう場所としてはいかにもぴったりな雰囲気だった。
『翠霞は妖を使って周囲を探してみてくれないか?』
『はい、更夜様』
 ふわりと淑女の雰囲気で答えた翠霞はさっそく周囲の探索に妖たちを呼び出した。
 その間に、更夜は近場の職員に聞いてみた。
 展示室に使っている部屋は全部で十。一部屋にそれぞれ一つずつ、目玉となる人形を置いているが、今は人形の修繕のために目玉である十の人形は全てここにはないらしい。
 だが。
 ゴーストネット掲示板の噂を信じるならば、彼女らは何らかの理由で姿を消したのだ。
 おそらく騒ぎを望まない博物館の経営者は客には真実を明かさず、人形たちを探しているのだろう。
 人形が動くことを知っていて探しているのか、それとも知らずに探しているのかまではわからないが。
 ぐるりと館内をまわってみたがこれといった手掛かりが得られず、外に出ようとした時――
 駆けてきた男と衝突しそうになって、思わず足を止めた。
「すまない、急いでいたものでな」
「いや、結局はぶつからなかったわけだし。そう気にすることはないですよ」
 ちょうどその時だった。翠霞の妖たちが戻ってきたのは。
 ふいに、男の表情が険しくなる。
 どうやら、妖たちの気配に気付いたらしい。
『更夜様。二人見つけましたわ。同じところにいます』
 淑やかに聞こえくる念話の言葉。
 どうやらそれはこの先にいるらしい。
 更夜はとりあえず男のことは放っておくことにした。多少気配に気付こうとも実物がいなくなればどうしようもないだろう。
「では、俺はこれで」
 歩き出す。
 だが。
 直後には男も歩き出した。少しだけ振り返って様子を見てみるに、更夜が気になるというよりは目的方向が同じなだけらしい。
 どこか気まずそうな表情で、だがしっかりとした足取りで歩いている。
『更夜様、あちらの方ですわ』
 曲がり角を指差して、翠霞が言う。
 果たして、その道の先にいたのは――


●人形二人とお子様一人

 道の先にいたのは、銀髪の五歳前後の少女。
 それと、その少女に抱きかかえられている幼児の人形が一体と、しっかりと自分の足で地面に立っている少女の人形が一体。
「あ・・・・」
 二人の人形が、こちらを見つけて表情を変えた。
 人形の様子に気がついた幼い少女が、こちらに振り向く。
 どこか不機嫌そうにも見える、無表情。
 じっと動かないのは動く人形を見られたことにたいする焦りか、それとも何か別のことでも考えているのか。
 少女の表情がふいと変わる。むーっとした感じの無表情には変わらないのだが、何かを思いついたらしく瞳が小さくきらめいた。
 少女が口を開き掛けた時――地面に立っていた人形がこそこそと少女の影に隠れつつも、しっかりとした声で告げた。
「あの・・・えーと。貴方・・・キャルの招待客だった方ですか?」
 少女の人形は、更夜に少し遅れて隣に追いついてきた金髪の男に問い掛けた。
 招待客というのがなんのことだかよくわからないが、直接ではないものの知り合いであるらしい。
「ああ。真名神慶悟という。あんたたちの噂を聞いて探しに来た」
 頷かれた答えに、更夜はチラと男に目をやった。
「同じ目的で動いてたわけですね」
 男の視線が返ってきて、更夜は改めて口を開いた。
「俺は日下部更夜と言います」
 少女は二人の人形を抱えてとことこと男二人の前まで歩み出た。言いかけた言葉を、今度は幼児の人形が遮った。
「ねえねえ、たすけてほしいの。おともだちがさらわれたのっ!」
 エリスの真剣な眼差しに、慶悟と更夜も真剣な表情を返した。
「こういう言い方ってあんまり好きじゃないんですけど・・・。わたしたちの中で特に金銭的価値のある二人が攫われてしまって。博物館の人たちも探してくれてるんですけど、でも・・・・」
「おともだちだもん」
 外に出て周囲を騒がせた事に多少の罪悪感があるのだろう、言い淀んだマリーの言葉を付け足すように。エリスがにっこり笑った。
 慶悟と更夜はほぼ同じタイミングでこくりと頷いた。
「何かしら事情あっての事だとは思っていたが・・・そんなことになっていたのか」
「わかった、手を貸そう」
「ヴィエも手伝うよ」
 一行は、手掛かりを探すために、とりあえず一旦博物館の方に戻る事にしたのであった。


●誘拐犯をやっつけろ!

 人形たちに博物館に残るよう説得をしたのち、五人――ヴィエ・フィエン、真名神慶悟、日下部更夜、御影涼、シュライン・エマ――はある小さなアパートにやってきた。
 慶悟と更夜とヴィエの黒犬で探索した結果、あっさりとここを見つけることができたのだ。
 バタンと、一つの扉が開いた。
 途端、
「マリーとエリスをいじめた人」
 一行の中で唯一犯人を直接見ていたヴィエがびしりと男を指差した。
 五人は男の進路を塞いで立つ。男は、不機嫌そうに眉を顰めた。
「そこにいられると通れないんだけど」
「人形を返してもらおうか」
 慶悟の言葉に、男の顔色がさっと変わった。
「なんのことだ?」
 だが男はあくまでもトボける気らしい。
「大人しく頼んでいるうちに返した方がいいよ」
 きっと睨みつける涼に、男が数歩下がった。
「エリスとマリー、いじめた」
 睨みつけるヴィエに気付いて、男は肩を竦めた。
「人形を返しなさい」
 きっぱりと言うシュラインに、だが男はニヤニヤと下卑た笑みを浮かべる。
「証拠もナシに人を犯人扱いはよくないよ、お兄さんたち」
「さっき、人形を二つ。持ち去ろうとしていたでしょう」
 更夜の言葉に、男はやはり余裕を崩さなかった。
「ガキの言うことを信じるのか? 見間違いかもしれないじゃないか」
 だが。
 男の余裕はそこまでだった。
 実は慶悟は、話の間にこっそりと式神をアパートに忍び込ませて扉を開けていたのだ。
「わたくしたちだけでなく、他の者にも手を出していたのですか」
「まったく、救いようのない男ですわね」
 聞こえた声に、男はバッと後ろを振り返った。
 扉の前に、人形が二つ。エメラルドの瞳を持った少女と、サファイアの瞳を持った少女。瞳に宝石を持つ少女がそこにいた。
「動く人形だとは知らずに盗んだわけね」
 男の様子から、シュラインはそう判断した。
「人前では動かないと決めていましたから、大人しくしていましたけれど」
「大事な仲間にまで手を出そうとしていたならば、話は別です」
 どこか高貴な雰囲気を纏う人形たち二人は、どうやら特殊な能力を持っているらしい。
 あっさりと男を撃退すると、にこりと一行に笑い掛けた。
「大変ご迷惑をおかけいたしました」
「よろしければ、迷惑ついでに家まで送って頂けないかしら?」
 快く頷いた一行。
 人形たちの歓迎は喜ばしいものだったが、盗難届けの出ていた人形だ。警察の事情聴取なんてものに付き合わされ、その日は皆、疲れた顔で帰路についたのだった。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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整理番号|PC名|性別|年齢|職業

0389|真名神慶悟   |男| 20|陰陽師
1846|ヴィエ・フィエン|女|700|子供風
0086|シュライン・エマ|女| 26|翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
1831|御影涼     |男| 19|大学生兼探偵助手
2191|日下部更夜   |男| 24|骨董&古本屋

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、日向 葵です。
 このたびは迷子探し(?)にご協力ありがとうございました。
 迷子などと言いつつ、実は誘拐事件だったわけですが(笑)

>ヴィエさん
 今回も可愛らしいプレイングをありがとうございました。
 くしゃみ能力が使えて楽しかったです♪

>シュラインさん
 迷子の人形さんをいろいろと心配してくださり、ありがとうございました。
 でもごめんなさい、実は誘拐事件でした(^^;

>慶悟さん
 ある意味今回の大正解は慶悟さんでした。外に出たから悪い人に出会ったのではなく、盗まれたのですが(笑)
 式神のプレイングは毎度楽しませて頂いておりますv

>涼さん
 プレゼント、どうもありがとうございました。
 文中で渡す暇がなかったのが残念ですが、ミュリエルは大喜びだったと思います。賑やかで綺麗なもの大好きですから(笑)

>更夜さん
 文中では人形探しが主であったため、お喋りがあまりできませんでした(汗)
 今回基本能力は使えませんでしたが、翠霞さんとの会話は書いててとても楽しかったです。


 それでは、今回はこの辺で失礼いたします。
 また機会がありましたら、その時はよろしくお願いいたします。
 どうもありがとうございました♪