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魔法使い
●求む、魔法使い
「ほら、指が取れました」 「ふざけんな。手品じゃねえか」 「手品と言うにもぎこちないよ?」 「う、ううう‥‥」
「‥‥仕事は、どうしたのカシラ?」
「魔法使い?」 「ああ。前に書いてただろ」
訝しげな碇麗香にそっぽを向いて帽子の少年。
闖入者は三人。男の子二人に女の子一人。いずれも小学生ぐらいだろうか。
「‥‥そんなのあったのかしら?」 「あっただろうが!」
勢い込む帽子の少年。
「お願いします。僕たち、その魔法使いに会いたいんです」
小柄な方の少年が頭を下げた。
「そう言われても‥‥」 「ケチケチすんなよ、おばさん!」
編集部に沈黙が降りた。
「命知らずもいたもんだね」
電話を切る五色に犬所長がのんびりと。
「‥‥ま、若さゆえの過ちってことで学ぶやろ。それより」
煙草をもみ消す。
「今、誰が居てるかやなあ」 「あ〜。確かに」
●舞踏会
その日、編集部には‥‥色々いた‥‥らしい。
「落ち着いてください、編集長!」
「はあ?」
どことなく必死さの漂う若い編集員の言葉に碇麗香は、眉を寄せた。
「いや、その‥‥呼称が‥‥」
「だから、それがどうしたっていうのよ?」
ため息をつく。
「大体、子ども相手に目くじら立てても仕方ないでしょうが」
「ガキで悪かったな!」
帽子の少年が吠えるも無視。
「そう‥‥ですよね。実際、おばさんって呼ばれてもおかしくない年齢ですし」
「減給決定。それはともかく」
乾いた笑いの編集員に、きっぱりと言い切った麗香が少年たちに向き直る。
「ここには魔法使いなんて‥‥」 「話は聞かせてもろたで!」
ふと聞こえた関西系イントネーション。誰もが辺りを見回す。そして。
「ここや、ここ」
それは天井付近にいた。狩衣姿の人形。
「詳しい事情はさておき。わいと小娘でええんやったら、話ぐらい聞いたるで〜」
しばらくそこで胸を張っていた人形だったが、ふいにすとんと落ちてくると少女―白宮橘―の腕の中におさまる。
「ふっふっふっ、言葉もないようやな」
「‥‥なんだ。腹話術かよ」
静けさの中で帽子の少年が舌打ちする。
「で、でも浮いてたよ?」
「馬鹿、人形だぞ? 機械か何かのトリックに決まってる!」
「機械って‥‥どんな?」
「う‥‥ともかく機械は機械だ! 俺たちは魔法使いに会いに来たんだ! 腹話術なんか呼んでねえ!」
「なんか? なんか、やと!」
逆鱗に触れたらしい。ばたばたと抗議の意を示す人形―榊―。
「もっぺん言うてみい! どたまカチ割るぞ!」
「‥‥外でやってくれないかしら」
にらみ合う一人と一体、そして取り巻く部下たちを眺め、ため息をつく麗香。と。
「お困りのようですね」
傍らを見ると女の子と手を繋ぎ、艶やかに微笑む榊船亜真知がいた。
「見たままよ」
「なるほど。ですが、ここはこのままやらせとくのも手かもしれませんよ?」
笑みを浮かべたまま。それと対照的な表情で麗香が投げやりに呟く。
「ここは会社なの。一応、仕事があるの」
「そうでしたね」
「‥‥そうよ」
「つまり、黙らせればいいんだね?」
こちらもまた不穏な空気になりかけたところで。一匹の犬が、とんと机の上に乗った。
「わ〜い、所長♪」
すぐさま亜真知がその犬を抱きかかえた。
「‥‥来るなって言わなかったかしら?」
「井上だけでしょ? ボクらに関しては聞いてない。伝達ミスだね」
「そのようね‥‥って」
麗香と亜真知が顔を見合わせた。
「「ボクら?」」
その直後、廊下の方から、このフロアの誰もが耳を塞ぐほどの大きな悲鳴が響き渡った。
●お菓子
「あ〜、驚いた驚いた」
新しい煙草をくわえた五色がへらりと笑う。
「すいません。すいません。すいません」
ひたすら謝るラクス・コスミオン。つい先ほどまで編集部その他でも頭を下げて回っていたので少し疲れ気味。
「いやいや。中々の声量でございましたよ、ええ」
「‥‥すいません」
一同は、少年たちを含め、喫煙スペースへと移動していた。言葉を変えると、編集部を追い出された、とも言う。
「で、何やったの?」
手製の和菓子を配りながら亜真知が尋ねた。
「なんもしてへん。ただ」 「襲おうとしたんか?」 「うむ、生命の神秘を‥‥あ〜、そこ。ただのボケなんで逃げないように」
ただでさえ逃げ腰のラクスが、さらに距離を取ろうとしたのを呼び止める。
「はいはい。変質者の言い訳はいいから」
「誰が変質者か。俺は何見てんのかなあって、隣に行って編集部を覗き込んだだけや」
「‥‥変質者、認定」
五色を見、ラクスを見。くすりと橘が小さく笑った。
「あ‥‥あうう‥‥」 「せやから逃げるな、と言うに」
とりあえず、とばかりに橘にチョップ。片手で頭を抱える橘の抗議の目は無視の方向。
「まあ、五色が変質者なのは決定事項として。何してたの?」
「あ、あの‥‥ちょっと探し物のことで‥‥」
犬所長の問いにおずおずとラクス。ぱたぱたと振られる五色の手は無視の方向。
「でも、人間の方‥‥特に、その‥‥男性の方が苦手で‥‥」
「様子をうかがってた?」
涙目のラクスがこくんと頷いた。
「ふ〜ん‥‥って、さっきから何?」
ふいっと犬所長が向いたのは、五色や橘ではなく何かを言い合っている少年たちの方。
「お姉ちゃん、その犬が喋るのって」 「犬所長? うん、機械の力だって」
袂を引かれた亜真知が小柄な少年に答える。
「‥‥そっか」
「あの‥‥どうかしたのですか?」
「いやな、『魔法使いに会わせろ』言うとるんや。そのくせ、話を聞いたる言うても」
「だから、腹話術なんかに用はないって言ってるだろうが!」
「やんのんか、コラアッ!」
びくっ。その怒声にラクスが逃げかけ、亜真知と犬所長が捕まえる。
「あのね、いきなり魔法使いって言っても色々あるじゃない?」
「そ、そだよ‥‥う、うわっ!」
踏ん張りきれなかった犬所長がテーブルから落ちた。
「ともかく、魔法は魔法だ! 種も仕掛けもない俺たちには出来ないこと!」
「あ〜、ねりきりを一瞬で消します」
と、ふいにサイズと手を叩くタイミングを計る五色は無視な方向。
「とりあえず理由だけでも教えてくれないかな? お姉ちゃんたちが力になれるかもしれないし、ね?」
なんとかラクスを場に戻した亜真知が、小柄な少年の顔を覗き込んだ。
「‥‥それは‥‥」
ちらり。視線が動いた。
「‥‥やっぱり」
その視線の動きを見逃す亜真知ではない。同じようにそちらを見て納得する。
少女がいる。これまで一言も話さず、周囲の喧騒にたじろがず、静かにそこに佇んでいる女の子。
「何か、分かったんですか?」
未だ続く榊と帽子の少年との言い争いに、泣きそうな顔でラクス。
「うん。多分ね」
●林檎
「彼女、もうじき死ぬんです」
ぽつり。視線を落としたまま、小柄な少年が呟く。
「病気、ですか?」
「はい。僕と彼女は同じ病院に‥‥」
と、少年がぱっと顔を上げた。
「入院してて抜けてきた、と」
亜真知が犬所長とラクスを見て一つ頷いた。ラクスと犬所長も頷き返す。
「大丈夫。それについては聞かなかったことにするから」
「すいません」
「ということは、魔法使いに」
「世界を滅ぼして欲しいんです」
「「「はあ?」」」
声がハモった。
「待てよ。あれは嘘じゃなかったのか!」
「だって‥‥こんな世界いらないじゃないか!」
しばらくして。
言い争いをする少年たちを他所に、一同は額を突き合わせていた。
「で、どないすんねん?」
まだ戦い足りないとばかりに榊がジャブを繰り返す。
「どうもこうも‥‥ねえ?」
「え、えっと」
亜真知に話を振られたラクスがわたわたと。
「ちなみにさ、病気を治す方ならできる?」
「病気との縁を斬るってのでええんやったら、わいには出来るで。もっとも縁がなくなる訳やから、それ以降が大変やけどな」
「霊薬のレシピなら‥‥読んだことがあります」
犬所長の問いかけに榊とラクスがそれぞれ答える。
「世界崩壊の方は?」
「聞くまでもないやろ。似たようなもんや」
「せやな。どんな力にしたとこで、一つ違うたら、どえらいことを引き起こしかねんさかい」
煙を噴く五色の後を榊が続ける。
「もっともそれは何にしたって一緒なんかもしれんけど」
「じゃあ‥‥どうすんの?」
「どうもしないで下さい」
聞き覚えのない声。ついさっきまで、和菓子を眺めていた少女だった。
「どうもしないで下さい」
「でも、治るんだよ?」
「いいんです。人は人で出来ることだけ出来れば」
僅かに目を伏せる。
編集部の人間が、病院関係者らを連れてそこに走ってきたのは。
さらにしばらくしてからだった。
●糸車
「行っちゃったね」 「行っちゃいましたね」
窓際で並ぶ亜真知とラクスの眼下をサイレンを鳴らさない救急車が去っていく。
「人間社会のことはよく分からないのですが‥‥良かったのでしょうか?」
「本人が良いなら良いんだよ、きっと」
亜真知に抱えられた犬所長が呟いた。
「ま、他人事やしな」
「ひどい話かもしれないけれど、ね」
振り返ると、橘と麗香がいる。
「にしても、辛気臭い。となると、ここは一つ」
にっと榊が笑った。
「わいの芸を見て‥‥おい、コラ! 何処行くんや! オイッ!」
夕日と靴音と小さなざわめきと。
その日も、編集部では、やはりなんだかんだとあったそうだ。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【 整理番号 / PC名 / 年齢 / 性別 / 職業 】
1593 榊船・亜真知(さかきぶね・あまち) 999 女 超高位次元知的生命体・・・神さま!?
1963 ラクス・コスミオン(らくす・こすみおん) 240 女 スフィンクス
2081 白宮・橘(しらみや・たちばな) 14 女 大道芸人
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■ ライター通信 ■
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どうも、平林です。このたびは参加いただき、ありがとうございました。
まずは反省と謝罪を。一つ目は納入期限ぎりぎりとオーバー(?)ということ。二つ目は2移行の際に開けたこと。三つ目は個別がないこと。
本当にすいません。心より反省しております。
ああ、もう一つ。『もっと考えてOP作れ』と呆れられても仕方がない話の流れも、ですが。
では、ここいらで。いずれいずこかの空の下、再びお会いできれば幸いです。
(コタツ潜りの日に/平林 康助)
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