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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


木霊

 過去の出来事、しっかりすっきりまるっきり、忘却の穴に放り込もうとしてたから、海原みなもはすっかり慌てた訳である。
 即ちその言葉に。「果樹園に泥棒が居るみたいなの」
 事の仔細は数日前、語るはおぞましい怪奇な一件。友達の果樹園で、海原みなもは《樹になった》のである。比喩でもなんでもない。泥棒と思った人影を、追ってたどり着いた奥で、友達もろとも変化したのだ。爪先からは根が生え指先には葉が揺れて、唯一保ったのは頭髪、それ以外は全身樹木だった。その時鏡が目の前に置かれていた訳では無いが、写真で確認したから断言できる。経過の感触は思い出したくないが忘れようもない。それは此処ではない世界から来た異人の方によるものと、お姉さまは言ったのだけど。
 とにかく二度言わせてもらうが思い出したくない出来事なのだ、が、「夜に変な音がするのよッ!ねぇみなもちゃんお願いよー、ただでさえ今年は日照不足なのに、商品盗まれちゃったら毎日のおかずがサンマだってばー」
 いやお魚シェフから言わせてもらえば工夫すれば刺身や丼に鍋とかで毎日飽きず、じゃなくて、彼女は姉のはからい《意識の流れすら司る》により嫌な記憶をきっちり忘れているのである。だがどういう事態になるかは笑顔をひくつかせるみなも、こうなっては、
「……うちのお姉様」「様?」「あ、違う違う、……うちのお姉さんも連れてきていい?」
 断れるはずも無い彼女は、仕方なく、姉に頼る事にした。


◇◆◇


 海原みそのは誤解を恐れずに言えば変人の類である。他人とは違う時間に生きていて、行動も何処かずれている、言うなれば戦場の花売りだけど売ってる場所が銃弾飛び交う激戦区みたいな。それでいてけして死ぬ事は無い。まぁ変《人》の唯の《人》というのにすでに類しないのだから、当たり前と言えばそうなのだけど、人魚ではあるがきちんとした常識を持ってるみなもと違って、やはりみそのはずれているのである。だから、
「みなものお姉さん、なんか変わってるね」
「え、そ、そうかな?」
「なんかミニスカポリスみたいな格好してるし、……何も無い所でころんでパンチラしてるし」
 みなもは心で叫んだ。お姉様のばかぁと。こんな所にまでコスプレをして来なくてもいいじゃないかと。
 しかし彼女の姉、海原みそのは、心の声さえ読めるのだけど、本当か敢えてかその叫びを無視して暫し土の感触に浸り、「力が、溢れてますね」良く作られた土壌の良さの流れをゆったりと感じて。当然みなもは心の叫びリピートである。
「みなものお姉さん」「そ、そんな事より早く行こ」
 二の句を告げませまいと必死でみなも、友達の手を引いて注意をそらし、友達の口より目的の場所を聞き、友達の足と共に駆け出したのである。
 そうしてみそのを通り過ぎた為、気づかなかった訳である。
「この波動――」
 全てを知った彼女の一言、


◇◆◇

 忘れ物。

◇◆◇


 何も見ず、何も聞かず、何も語る事なければ、
 人は幸せになれないでしょう、幸せには。だけど、
 何も見ず、何も聞かず、何も語る事なければ、
 不幸から、遠く居られる。
 だけど、
「この辺り」と人は語る、みなもはその場所を見る、音を聞く、音を聞く、空気の音と月光の音、変わったは響かない。
 だから、みなもは語る。「ここらへんなの?」人はそれを聞き、また語る。そして二人して音を聞く―――
 がさり、
 、 ごそり。
 ――何かが蠢く音。心臓と身体が跳ね上がる、緊張と恐れを押さえ込み二人は振り返る、その方向へ、
 瞬間、
 音を聞く。
 風を切るような音、同時、

 天地が逆転する。

 土の空、草の空、足跡の空、木の根の空、
 まさに常識が覆って、みなもは惑い初めて、何故?
 真相は地上。
 生い茂った葉が、大地としてあって、そこから蔦が伸びて自分の足に絡み、嗚呼、
 吊られているのだと悟った時、音を聞いた。悲鳴だ、振り返る、振り返れば、
 
 友達が大樹に飲み込まれようと。
 同化、泣き叫ぶ彼女をゆっくりと木は侵食侵食侵食侵食、
 悲鳴を凌駕してみなもは叫ぶ、助けなければ、水を操り蔦から樹を枯れさせて、
 だけどその前に、みなもは捕まっていた。
 叫びが悲鳴に変わる。まるで友達の悲鳴が収まった代わりで、そう、
 樹に飲み込まれる未来が、隣にあった。
 叫び声をあげた彼女の顔、(手が)減り込む、(足が)離れない、厚い木の感触、冷たい暑さ、感覚、奔る、友達に、みなもに、彼女に、みなもに、嗚呼、
 見て、聞いて、最後に語るのだ、己の悲劇を。人はそれで幸せになって、そして不幸になって、だからみなもは語るだろう、悲鳴を、
「いやぁ、」悲しい歌、「いやあぁっ!」涙の歌、
 そしてそれは、
 、
 終わりの。


◇◆◇

 ―――という物事の連鎖が普通は相応しいのだけど、
「何を記念写真を撮っておられるのですかお姉様ぁっ!」
「いいじゃない♪」
 全く場違いな展開を姉妹二人で繰り出した。

◇◆◇


 心の底からため息を吐くみなも。断続されて切られるシャッター。この携帯カメラのご時世に、フォトグラフィにこだわるのは流石である。
 しかし友達の危機がかかっているので、「あの、お姉様、ちゃんと助けてくださいね?」飲み込まれるのは仕方ないと諦めて、みなもは一言だけそう言った。その間もあらゆる角度から被写体を撮り続けるミニスカポリス。現場写真じゃないんだけど。
 そして撮影に満足した後、つまりみなもが見事に樹木に食われていく瞬間を激写した後、みそのはカメラを荷物入れにおさめ、そしてその荷物入れから黒い衣服を取り出し、どういう術か一瞬で着替えをする。
 黒く長い髪に沿うように、黒い服。みその、「もしかして、お礼のつもりだったのでしょうか」
 にこりと笑って、妹達を食った樹に近づけながら、
「確かに楽しめました」
 樹の根元に手を突きつけた後、静寂にゆっくりと、何か言葉を満たしていく。
 当然樹が餌に手を出さぬ訳が無く、蔦がッ、
 彼女を吊るしてゆっくりと飲み込もうと、
 する行為すら、

 枯れたのである。
 天井へと突き抜けていく力の波動――

 荘厳も、枯れ果てて、大地の養分となり循環する事も無い程の消失。
 事を終えるとみそのは立ち上がり、樹が生えていた場所に友達と共に横たわる妹に近づいて、
 新たにコスプレをさせて激写しようとした所でみなもに起きられてギャーギャーとなったのは余談である。しかもそれを友達に見られて禁断の愛!?と叫ばれたのも。(当然、お姉様に記憶を消していただきました。……はぁ