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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


東京黄昏蜃気楼

■オープニング■

 …以下、『マチカ』さんの書き込み。
「件のこの“バット”すげえよ! 打率滅茶苦茶上がったもん。ラッキー!」

 …以下、『りょー』さんの書き込み。
「件のこの“炊飯器”、電気がなくても御飯が炊けるんですよ。って言うかですね、御米を入れてなくても一度蓋を閉じて開けるとですね、ちょうど良い分量の新しそうな御米が入っていてしかも水加減も丁度良い。後はスイッチ入れるだけ。凄いですね。さすがに」

 …以下、『MIKA』さんの書き込み。
「件のこの“水筒”、あたしの大好きな紅茶が際限なく出てくるのー。しかもいつでも煎れたてって感じなのー。すごーい。嬉しいっ」

 …以下、『パピヨン』さんの書き込み。
「件のこの“口紅”、塗るたびに思った通りの色になるの。しかも似合う色にね。服とか体調――顔色によって色調も微妙に変化してくれる心遣いまであるの。これ一本だけあれば万全よ。ホントに運が良かったわ☆」

 …以下、『道化師』さんの書き込み。
「件のこの“枕”で寝るとすげー調子が良いんすよね。いやあ最近寝ても疲れが取れなくてああ年かなーと思ってたんすけど、この枕のおかげで快眠ですよ。起きた時爽やかだし。仕事も調子が良いし。かー。『迷ひ家』様々だね」

■■■

 …などなどなど。
 最近のゴーストネットの掲示板には何やらこの手の書き込みが増えている。
 しかも、場所は東京二十三区内限定の様子である。
 更に、『件の』、と付いてはいるが、その『物』自体には脈絡がない。
 何て事ない日常用品である。
 が。
 その効能が変である。
 便利過ぎるのだ。
 それも、有り得ないレベルで。
「『境目』を潜ってしまうと異世界に飛ぶ、かぁ…これだけ『証拠』がお持ち帰りされてるって事は本当なのかなあ」
 うーん。と悩みつつ、雫。
 最近よく聞く話。
 そこかしこにある『境目』を潜り『向こう側』に行ってしまうと、今まで歩いてきたのと同じ街並みが続いている事はいるが――何故か道行く人が誰も自分に気付かない。話し掛けても聞こえていない。
 ついでに幾ら歩いても目的の場所には着かない。
 ぐるぐるぐるぐる迷わされるような。
 何故か同じような道が延々続く。
 そして。
 歩き疲れた頃。
 気紛れに『その場所』は現れる。
 どうぞ入って休憩してやって下さいとばかりに扉が開かれた状態で。
 その中は、つい今し方まで人が居たような。
 けれど誰も居ないその『家』に招かれた場合。
 そこにあるものを、どれでも良いから何かひとつだけ持ち帰って構わないらしい、と言われている。

 ――言わば『遠野物語』にある『迷ひ家』、の出張版のような、そんな噂だ。

 …の割には、“炊飯器”とか“野球のバット”とか“口紅”とか、やけに現代染みた代物まであると言うハイカラな仕様である。
 面白そう…なのだが、肝心の雫自身はその『境目』に出会った事はない。
 すべては偶然…と言われている。
 ならば自分は運が悪い。
「うー。悔しいなあ。直に見たいなあ」
 ネットカフェのコンピューターの前で、じたばたと雫は暴れた。


■境目■

 そんな書き込みがゴーストネット他各所で話題になっている頃。
 青い瞳に銀縁眼鏡の、何処か中性的なお姉さん――綾和泉汐耶はいつもと変わらず書店巡りの真っ最中だった。
 この書店巡りは休日になるといつもの事なのだが、先程行き付けの古書店を出てから…彼女はどうにも誰ともすれ違わない。
 少々首を傾げた。
 …踏み込んじゃったかしらね。
 ふと思う。
 …書き込みにあったあれかしら?
 汐耶もゴーストネットの常連ではあり、件の書き込みもばっちり確認している。
 承知の上は承知の上だ。
 別に動じる事も無い。
 感覚を研ぎ澄ます。――危険は無いか。
 …無いなら構わないか。
 うん。とひとり納得すると、汐耶は今まで通り歩き続けた。

 …歩き続ける。
 ひたすら歩き続ける。

 さすがに延々となると飽きてくるわ…。
 って。
「あれ?」
 汐耶は首を傾げる。
 たまたま同じ方向に歩いている――ように見える――人物が、こちらを見た気がしたのだ。
 そう思い、汐耶もそちらを見、立ち止まる。
 と、相手の方も立ち止まった。
「「あの…?」」
 ほぼ同時に声を掛けてしまい、更に互いの声が届いた事実にお互い面食らった様子。
「聞こえてる…わよね?」
「確か…他の方には遭遇しないと噂では聞いていたのですが…貴女には私の声が聞こえていますよね…?」
 相手――大学生程度と思しき女性の方でも訝しげに問う。
「これも一応ゴーストネットの投稿範囲かしら?」
「どうでしょう?」
 汐耶の声に、彼女も小首を傾げていた。
 そして、互いに大学生の巽千霞(たつみ・ちか)、司書の綾和泉汐耶、と自己紹介をしつつ、暫く並んで歩き。
 数分後。
「巽さんだったわよね…ってあれ?」

 ――呼んだ時には相手の姿はそこには無かった。

「何だったのかしら…?」
 幻…じゃなかったとは思うんだけど。
 少し汐耶は考える。
「ま、最近の東京は色々な現象が起きるものよね…」
 結局、今の相手に関してはさて置き、汐耶は改めて足を運び始めた。

 で、またひたすら歩く。

 そう言えば『迷ひ家』って行きたいと思ってたら行けないのよね…。そうすると不運が来たりするって…。
 …って『これ』は本家とは何か違うって事もあるのかしら?
 東京二十三区内なんて、思いっきり人の多い街中だし…。本家は山の中だものねえ…。
 でも東京なんて、回りの誰も…見ていないようなものだし、個人個人にすれば他人なんて居ないも同然か。
 ある意味では…条件が近いのかもしれない。
「………………と、そんな事を考えている場合じゃなく…さすがにそろそろ…本気で足が疲れてきたわ…」
 はぁ、と溜息を吐きつつ汐耶は立ち止まる。

 と。

「あら?」
 前方、少し行ったところに当たる道の端。
 家の扉が開いている。
 少し考えてから汐耶はその扉に近付いた。
 そしてひとまず、外観を見上げる。
「ここが『迷ひ家』、かしら…」
 瓦の屋根に木造住宅。
「外から見る限りは普通に3LDK…ってところかしらね」
 まぁ、常識で計らない方が良さそうだと思うので…これは暫定で。


■休日は書店巡りが恒例な司書さんの場合■

 中に入って。
 家の中を見渡す。
 と、ちょっとした違和感。
 外観と中が一致しないみたいね?
 部屋数が多いみたい。
 思ったより広いし。
 廊下、階段、トイレ、応接間――客間、和室、洗面所、浴室、台所。
 部屋は――大きいところで十二畳…ってところかしら。
 生活動線もきちんと考えてあるみたいねえ。
 興味深げにふらふらと見回り、手帳を取り出してメモを取りつつ、汐耶は二階に上がる。
 書斎、洋室、寝室――和室?
 何やらまたも違和感。
 思い、汐耶はきょろきょろと辺りを見渡す。
 と。
 何やら案内をしているような淑やかな女性がすすす、と歩いている。
 その後ろを追うように、和装の青年が歩いてきた。
 …普通の日本人風の風貌の中の、唐突な金色の瞳が…何となく誰かを思い出す。
「あら、人が…って」
 すすすすす。
 …すれ違い様、無視された。
 と、言うより。
 ………………気配が何も無いわね?
 疑問に思う。
 幻かしら?
 それとも…さっきの…巽さんと同じようなものかしら?
 これも『境目』の『こちら側』の効能なのかしらね。
 でもそれ以上は…比較的普通の家よね?
 特に危険も無さそうだし。
 客観的に見ると不安だらけで良いような気もするんだけど…?
 思いつつ、最後に汐耶は再び一階の台所に向かう。
 もしあったなら…珈琲用のカップと皿のワンセットを御土産に貰って行きましょう。
 …と、そう思ったので。


■ネットカフェに立ち寄って■

 で。
 珈琲のカップと皿の一式を持ち帰ってみた汐耶はネットカフェに顔を出していた。
 暇さえあればいつも居るゴーストネットの管理人・瀬名雫の姿を探す。
 が、見当たらない。
「…うーん」
 悩む姿を認めたか、奥から店用のエプロンを掛けた二十歳前後の女性が顔を出した。
「綾和泉さん?」
「香坂(こうさか)さん」
「…えーと、ひょっとして雫ちゃんですか?」
「ええ。当たり」
「さっき…みあおちゃんたちと出て行きましたけど。『境目』やら『迷ひ家』と言っていたのが聞こえましたんで、探しに行ってみたんじゃないですか?」
「あら、入れ違い?」
 汐耶は苦笑する。
 と、香坂――香坂瑪瑙(めのう)は目を瞬かせた。
「…綾和泉さん行って来たんですか?」
「ええ。書店巡りの最中に散々歩かされちゃって」
「どうでした?」
「普通の家だったわ。でもこの東京都心で確り一戸建てだから珍しい事にもなるかしら? 一応間取りとか一通りメモ取ってはみたんだけどね」
 言って汐耶は手帳を鞄から引っ張り出す。
「…コレの効能も含めて雫ちゃんに見せてあげようかな、と思ってこっちに来てみたんだけど…無駄足だったかな?」
「待ってたらその内帰って来ると思いますよ?」
「…じゃあ、その間にコレ、色々試させてもらおうかしら」
 言って汐耶は、悪戯っぽくカップと皿を瑪瑙に持ち上げて見せた。

 …で。

 ぼこぼこぼこぼこぼこ

 忙しげに色々動いている瑪瑙を余所に、ネットカフェの厨房を借り沸かしていた…派手に煮え立っているお湯を、貰って来たカップに入れたインスタントの珈琲にいきなり注いでみる。
 蒸らし時間ゼロ。
 しかもインスタントのそのラベルを見るに、少々賞味期限の切れている代物。…曰く、店長が買うだけ買って使うのを忘れていたらしい物との事。

 で。

 試しに飲んでみた。
 …はっきり言って不味くて当然の代物である。
 更に、下手すれば腹を壊しかねない代物でもある。

 が。
 …不味く無い。変な味もしない。
 ひとくち啜り、はー。と感嘆の溜息を吐きつつ、汐耶。
「豆から淹れたものと同じくらいの味と香りに感じるのは私の舌と鼻の錯覚かしら…?」
 と、そこに。
 車椅子でネットカフェに入って来た銀髪の男性がひとり。
 セレスティ。
 …無防備な事にひとりである。
 ひとりで入って来た彼は、車椅子を転がし、すーっとカウンターまで来て、汐耶に声を掛けた。
「不躾で申し訳ありませんが…少々宜しいですか?」
「…あ、お客さんですか? すみません私は店員ではなくて中を借りているだけなので…香坂さ…」
「いえ、それは服装でわかります。そうではなくて…なさっている事が実験風に思えたもので…ひょっとして、件の『迷ひ家』から持ち帰ったカップなのかと思いましてね。ここは確か…噂の元のHPを管理する雫が良く来ているネットカフェでしょう?」
「…ってあの、貴方は?」
「ああ、申し遅れました。私はセレスティ・カーニンガムと申します」
「セレスティ…あ、兄から聞いた事があります。兄がお世話になった事がありますね」
「兄? …ああ、貴女は綾和泉の妹さんですか」
「はい。綾和泉汐耶と申します」
 汐耶はぺこり。
 と、そこに。
「お客さん、何やら綺麗な細工の懐中時計持ってますね?」
 声を掛けてきたのは店のエプロンを掛けた小太りの男性。…実はここの店長。
「お店の方ですか? ああ、これも件の…」
 …『迷ひ家』から頂いて来たものです。
「ほぉ。綾和泉さんのコーヒーカップとお揃い、と」
「…やはり」
 言って、セレスティは汐耶を――更にはその手許のコーヒーカップを見る。
「お客さんも何か検証してみたいってクチで?」
「ええまぁ。壊れる事の無い、正確な時刻を刻む時計――があったら、と思いましてね」
 出来れば――構造とか現象の謎を解明してみたいと思いましてね。
 わかる限り。
「だったら精密ドライバーとか道具は貸しますよ。いや、僕が今ここで分解してみましょうか?」
「出来ますか?」
「こう見えても細かい手仕事は得意ですから…と言うかですね。僕も興味あるんですよ」
 ぜひやらせて下さい。
 きらきらと光る店長の瞳。
 それを見てセレスティは微笑んだ。
「でしたら…頼んでみましょうかね。お願い出来ますか?」
「喜んで」
 そう言い、店長はセレスティから懐中時計を受け取る。
 一方で汐耶は――。
「じゃあ今度は…」
 カウンターの内側で少し考えながら、先程の珈琲の中に、今度は無造作に砂糖を大量にざらざらざら。
 と、その時。
 いまいち統一性の無い気がする五人組がネットカフェに現れた。
 年若い――特にひとりは幼いと言ってもいい年格好の――お嬢さん三人、ざんばら髪に僧形の大男がひとり、金髪のお軽そうな青年がひとり。
「…あ、セレスと汐耶だ!」
 そんな五人組の中から、まずネットカフェの中に声を掛けたのは幼い少女。
 海原(うなばら)みあおだ。
「みあおちゃん」
「ああ、みあおでは無いですか」
「何してるのこんなところで――ってあー、ひょっとして!」
「『迷ひ家』ですか?」
「その通り。…その様子じゃ、雫ちゃんたちも無事行って来れたのね」
「うん☆」
 元気なみあおの科白が、その答え。

■■■

 暫し後。
「…美味しいわね?」
 取り敢えず先程の砂糖をざばざば入れた物を口にしつつ、汐耶がぽつり。
 どうやら、何をしても自分の好みの味になるよう。
 淹れて暫く放置してみたが、熱さもあまり変化無い様子。温くは無いが熱過ぎもせず、飲み頃。
「でもそれも…実用を考えると何だかつまらないかも」
 絶対に不味い珈琲、と確信出来る時以外は使わない方が無難かな…。
 うーん。と悩みつつ、汐耶はコーヒーカップを見つめる。
 一方、店長はセレスティから預った“懐中時計”を分解し終えていた。
「構造自体は特に変わった事のないゼンマイ式に見えるがね…ただ部品のひとつひとつが妙に精緻ではあるかな」
 …やりがいあるねえ…。
 しみじみ言いつつ、店長はセレスティの前で分解したその時計を、慎重に組み立て直している。
「ゼンマイ…と言う事は、本来、巻く必要がある筈ですね」
「そうは思いますが…『迷ひ家』製ってこたァ永久機関て事もあるのかも知れませんがねえ」
 構造的には真っ当過ぎるくらい真っ当でしたが…。
 ま、ゼンマイが切れるか切れないかは…それこそ時間が経たなきゃわからん事ですか。
 と、店長が“懐中時計”を組み立て直している頃。
 今ネットカフェに来訪した面子の――特に丈峯天嶽(たけみね・てんがく)は何やら後悔しているような顔になってはぁ、と溜息を吐いていた。
「ねーねー丈峯、だーいじょーぶー?」
 きょろんと小首を傾げ見上げるみあお。
「そう言えば丈峯様は…何を頂いて来たんです?」
 ふと気が付いたように、今来た中のお嬢さんのひとり、巫女装束の美少女――榊舟亜真知(さかきぶね・あまち)。
 と、再び重苦しい溜息が天嶽の口から吐かれた。
「…俺、怖ェから持ってくるの止めた。やっぱ金の湧く“財布”よりマジメに金髪青年を雇ってくれる寛大な親分を探すのが先決だよな…」
「…何も持って来なくても構わなかったんですか」
「一応、あの場所の倣いだとは言ってたけどよ…別に強制じゃねえみてェだぜ。そもそも実際、俺何も持たずに出て来れてるし。いや、人の欲を試してるとか何とか言ってたなあそこの主…親切そうな顔して…つか顔は無かったな、親切そうな声と科白な割に…何だかおっかねえ奴だった…さりげなく脅されたぞ俺…」
「まぁ丈峯様も主様にお会いに?」
「お、あんたも会ったのか?」
「ええ。招いて下さって有難う御座いますとお礼を」
「…で、それ貰って来た訳か…って何ソレ?」
「“茶釜”ですわ。御存知ありませんの?」
「すまん。わかんねえ」
「今時の若い方は御存知無いのでしょうか…」
 悩むように小首を傾げ、亜真知。
 その仕草を天嶽は訝しげに見つめた。
「…って俺少なくともあんたより年上だとは思うンだけど」
「ああ、そうでした。失言ですわ」
 にこにこ。
「…“茶釜”かェア。榊舟の嬢ちゃん、随分風流なモン貰って来たなァ」
 茶釜ちゅうたら…ブンブク茶釜ッてェ茶釜に化けた芸達者な狸も居った気がするのォ。
「そう仰る狸屋(まみや)様は…“包丁”ですか」
「あァ。何ならよォ切れる“包丁”が欲しいところやと思ォてな。ま、人間の欲を表した話やからの、鵜呑みはイカン気もしたンであまり期待はせンで、造りがよさげなのォひとつだけ有難く頂いて来たわィ」
 ちゅうかな、儂ァあそこで頂いた茶の一杯がいッとう美味かったァナ…。
 しみじみと言っていたのはざんばら髪に僧形の大男――狸屋大仙(だいぜん)。
「狸屋のおじさん『迷ひ家』に着いた頃にはぐったりしてたもんねー」
「…こン身体で歩くンは…どうも億劫でなァ…って海原の嬢ちゃんは“洋服”かい。何ぞ妙な形の服やナ…ッてそりャ嬢ちゃんの身体にゃ合わんサィズじゃ無いかェ?」
 確かに小柄なみあおの身体を考えると…少々、大きめである。
「みあおより大きくていいの! お姉さんへの御土産に貰って来たんだから☆」
「ほォ。嬢ちゃんは姉さん思いなンやなァ」
「で、御土産話はお姉様にするんだ! みあおの御土産はね、皆といっぱい撮った記念写真☆」
「あたしは“カメラ”貰ってきたの! 霊感無くてもばっちり心霊写真が撮れる“カメラ”!」
 ぐぐっ、と握り拳を固め雫は力説。…これで霊感の無いあたしでもばっちり怪奇現象が捉えられる! と。
 そんなこんなで和気藹々。
 が。

「ふぅん…ま、タダより高価い物は無いってね。取り敢えず皆、気を付けた方が良いとは思うよ?」
 セレスティから預った時計を慎重に扱いつつ、ネットカフェの店長はぽつりとそうのたまった。

 そんな中。
 店長のすぐ側にあるコンピューターの画面には、ちょうどゴーストネットの掲示板。
 そこには新たな書き込みがちょこちょこ増えていた。


■エピローグ■

 ………………で、最近のゴーストネットの書き込みの一部。


 ねえねえねえ、こないだ“バット”貰ってきたマチカさん交通事故にあったらしいよ。それも結構ひどかったんだって。
 で、一命は取り止めたらしいんだけど、肩壊して結局野球できない身体になっちゃったらしいよ。


 嘘それって怖い。確かマチカさんって野球で結構良いトコまで行ったって言ってたよね…?


 でも、あんまり期待しないでいるなら大丈夫だってよ? りょーさんの貰って来たって言うこないだの“炊飯器”なんかは効力消えちゃって普通の炊飯器になっちゃったらしいけど、それ以上は本人特に何も無いってさ。


 普通に使えるの?


 うん。普通に使う分には特に不都合は無いらしいよ? 当然ながら電気も要るしご飯もちゃんとといで入れなきゃだけどね。普通の炊飯器として実際今でも愛用しているらしい(笑)
 ちなみに僕もその“炊飯器”で炊いたご飯貰って食べました。炊き立ては普通に美味しかったです(笑)


 MIKAさんの場合“水筒”落として割っちゃったって泣いてた(笑)


 あ、それ私も聞いた。でもまぁタダで貰ったものだし仕方無いか、ってすぐにあっけらかんと立ち直ってたよ? MIKAさんらしいと思わない?(^^)


 そう言えばパピヨンさん…最近オフでも見掛けないんだよね。カキコも無いし。どうしたんだろ?


 確かパピヨンさんて“口紅”貰ってきたって言ってたよね。
 …唇が荒れちゃった…とか顔が崩れちゃった…とかあったりして。


 いや、それマチカさんの件とか考えるとひょっとして洒落にならないから(汗)
 無事だと良いけどねえ…。ってなんかだんだん心配になってきたぞ?


 ところで道化師さんの場合は今でもあの“枕”で快眠してるらしいけど。


 …それって思い込みもあるんじゃ。プラシーボ効果とか? それとも頂いてきた“枕”の形がたまたま道化師さんの頭の形に合っていたとかで…実は初めっから何も特殊な効果じゃ無かったとか…。


 それ凄く説得力あるような(笑)


 ………………そんな感じで、色々と『その後』の噂が流れ始めていた。
 そして、何故こんな事がはじまったのか人々の間に知られることは無く、以後、時々…思い出したよう人々の口の端に上る事になる。
 そう、どうやらこの件は…消えずに定着している模様。
 何故こんな現象が起きるのか、この謎は未解決のまま。

 ――結局、人々の『欲』を試しながら…かの『迷ひ家』は今もそこにある。

【了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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 ■整理番号■PC名(よみがな)■
 性別/年齢/職業

 ■1415■海原・みあお(うなばら・みあお)■
 女/13歳/小学生

 ■0442■美貴神・マリヱ(みきがみ・まりゑ)■
 女/23歳/モデル

 ■2004■狸屋・大仙(まみや・だいぜん)■
 男/500歳/蕎麦屋

 ■1883■セレスティ・カーニンガム(せれすてぃ・かーにんがむ)■
 男/725歳/財閥総帥・占い師・水霊使い

 ■2086■巽・千霞(たつみ・ちか)■
 女/21歳/大学生

 ■0086■シュライン・エマ(しゅらいん・えま)■
 女/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

 ■1593■榊舟・亜真知(さかきぶね・あまち)■
 女/999歳/超高位次元知的生命体・・・神さま!?

 ■1449■綾和泉・汐耶(あやいずみ・せきや)■
 女/23歳/都立図書館司書

 ■2042■丈峯・天嶽(たけみね・てんがく)■
 男/18歳/フリーター

 ■2191■日下部・更夜(くさかべ・こうや)■
 男/24歳/骨董&古本屋 『伽藍堂』店主

 ※表記は発注の順番になってます

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 ※公式外のNPC紹介

 ■店長
 男/年齢不詳・本名不明・ネットカフェの店長

 ■香坂・瑪瑙(こうさか・めのう)
 女/20歳/大学生でネットカフェのバイト長

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■         ライター通信          ■
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 さてさて。
 深海残月です。
 常連の皆様、いつも発注下さいまして有難う御座います。
 また、初めて御参加下さった皆様にも、感謝の意を。
 …如何だったでしょう。御期待に添えているでしょうか(汗)

 大変お待たせ致しました。
 初日に発注下さった方は納品期限ギリギリと言ういつもの如き遅さです(苦)
 ひょっとすると微遅刻とも(汗)
 …日数上乗せした意味あるんでしょうか自分…そりゃ今回ちょっと個人的にかなり深い谷があったので(俗に言うスランプとは違う意味でなんですが)そのせいで今回と前回の依頼+シチュノベ数本には特に響いてしまったと言うのもあるんですが…そんな言い訳なんぞしてもどうしようもなく…往生際が悪くてすんません(滅)

 取り直しまして今回は、大雑把に「通りすがりに迷ひ家に触れる」パターンと「迷ひ家の主を捜そう、やら『向こう側』がある原因、代償は無いのか等々探索」パターンの二件に分かれております。細かくはもう少し色々な部分が個別になっておりますが。今回、珍しく(汗)個別の率が高いです。
 また、別行動になった皆様も、すれ違っている事がありますので…登場人物欄には今回同時御参加の十名様皆の名前を記載致しました。
 そして中盤、文章が混ざっている率が高くなったのでタイトルにPC名を表記して分けてもいません。

 また、今回は…こちらの事情につき個別のライター通信は無しにさせて下さい…。
 苦情御意見御感想はテラコンの方からでもどうぞお気軽に(礼)
 特に初めて参加なさって下さった方、口調やら性格等の違和感がある場合等どんどんどうぞ。
 …現在、こちらの都合で数件溜めてしまってもおりますが(汗)お手紙頂いたらいずれきちんと返信は致しますので…。

 今回はこうなりました。
 楽しんで頂ければ、御満足頂ければ幸いなのですが…。
 気に入って頂けましたなら、今後とも宜しくお願い致します。
 では。

 深海残月 拝