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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


逃げる女、追う男


オープニング

「この女性を探してほしい」
草間興信所に現れた老人は顎鬚を撫でながら草間武彦に古い写真を渡す。
その写真には草間が見ても綺麗だと思うくらいの女性が写っていた。
「その写真は30年前のものになるが……」
30年前の写真があっても全く手がかりがないのと同じだ。
「心配はいらんよ。彼女がその姿から変わる事はないのだから」
その言葉に諦めかけていた草間が顔を上げた。
「変わらない、というのは?」
「その通りの意味だ。彼女は老化というものをしない」
老化しない人間などいるのだろうか?
―いや、人間でなければ納得がいく。
「30年前、何もいわずに姿を消してしまった彼女ともう一度話がしたいのだ。わしは老い先長くないからの」
顎鬚を撫で、少し欠けた葉を見せながら笑う。
「彼女はこの町にいる。何度も見かけた。だが、追いかければ逃げてしまうのだ」
「……うぅん……」
草間はどうしたものか、と悩む。だが、老人の顔を見ると断りきれなかった。
「分かりました、この依頼を受けましょう」
「ありがとう、彼女と何もいわずに別れてしまったのが心残りでね。これで安心して死ねるわ」
そういい残すと老人は杖をコツコツと鳴らしながら興信所を後にした。
草間はというとまた厄介なものを引き受けてしまったかなと少しばかり後悔するのだった。



視点⇒ベル・アッシュ

「老いない女?」
 草間からの仕事依頼で興味をひいたのはその言葉だった。もしかあしたら魔術に長けているものかもしれないという期待から、その仕事を引き受けることになった。
『君の他に二人が同行する事になっている。その二人とは興信所近くの喫茶店で落ち合ってくれ』
「分かったわ」
 ベルはそう答えると電話を切る。そして、大きな溜め息をついた。
「あたしに頼む時は代価として魂が必要だって言っておいたのに…。今回は老人か…。代価としては安すぎるわね。そんなセコイ仕事してると身内に笑われそうだから、今回はボランティアでいいか」
 そう呟きながらベルは外へ出る準備を始める。
「興信所近くの喫茶店って言ってたわよね」
 あとの二人の仲間はシュライン・エマという女性と日下部・更夜という男性だとさっきの電話で草間が言っていた。
「ま、行ってみるしかないわね」
 そう言いながらベルは待ち合わせの喫茶店まで足を運んだ。


 カランとドアに備え付けられたウィンドベルを鳴らし、店の中に入る。中は人が沢山いて眩暈を感じた。
「そういえば、あたし…向こうの顔を知らないんだけど…」
 どうしたものか、と考えていると一人の女性がこっちにやってきた。
「ベル・アッシュさん、よね?私はシュライン・エマ。今日仕事を一緒にさせてもらう者よ。とりあえず席につきましょ?あそこに座ってるのが日下部くん」
 エマは指をさすとベルが顔をずらして更夜を見る。ベルとエマは席に着き、ベルはコーヒーを頼んだ。
「とりあえず、揃った所で今後の作戦をたてないか?」
 更夜は二人が席に着いたのを確認してから話し始める。
「そうね。あ、あんたはこれを読んでおいてね。さっき私と日下部君で依頼人の所に行ってきたから。大まかにまとめてあるわ」
 そう言ってエマはベルに手帳を渡した。ベルはそれをぱらぱらと読みながら「ふーん」と呟いた。
「写真ある?あたしが使魔に探させてみるから」
「それには俺も賛成だな。俺も翠霞に探させてみよう」
「そうね。じゃ出ましょうか。ここじゃ人目が多いから出せないでしょうし」
 ベルは頼んだコーヒーを一口だけ飲み、外に出る。それから三人が向かったのは河原沿いの広い場所。ベルは魔法陣から使魔を転移させる。
「写真を貸して」
 エマから写真を受け取り使魔達に見せる。
「いい?この女を見つけたらあたしに知らせなさい。勝手な真似は許さないわよ」
 隣では更夜が翠霞と呼ばれる若い女性を呼び出していた。
「いいか、翠霞、見つけても無理に捕らえるなよ。逃げるとあれば相手方の事情も確認する必要がある。ただ敵意を向けてくる場合は拘束しろ」
「分かりました」
 翠霞と呼ばれた女性は穏やかに微笑みながら姿を消した。同時にベルの使魔もその場所から姿を消していた。
「二人ともお疲れ様。さぁ、私達も探しましょ」
 動こうとした瞬間三人の体が金縛りにあったかのように動かなくなった。
「…なっ…」
『お願い、私を探さないで。私はあの人に会う事は許されないの』
 その声は泣き声のようにも聞こえた。こちらから姿は見えないが向こうから見える範の場所にいるのだろう。声の主はそれだけ言うと気配を消した。その気配が消えると同時に体も動くようになっていた。
「…今のは警告かしら…」
「…多分、ね。でも目的の人物にはじきに会えそうよ。使魔に後を追うように指示したから」
 更夜も「俺も」と小さく呟いた。
「…!もう見つけた。ここから少し歩いたところにある海で気配は止まってる」
「…翠霞ももう見つけてる。今は待機しておくように言ったが…」
「じゃ、行きましょうか。タクシーで行ったほうが早いわよね」
 そう言ってエマは近くにいたタクシーを拾う。運転手がどこまで?と聞いてくると更夜が近場の海まで、と答えた。
「…でも、なんで『許されない』のかしらね」
 タクシーで移動している時にベルがポツリと呟いた。その質問に関してはエマも更夜も考えていた。『会いたくない』というのなら分かるが『会う事が許されない』とはどういうことなのだろう。
「…考えていても仕方ない。本人に聞けばすむことだ」
 更夜の言うとおりである。それから目的地に着くまでの数十分間、気まずい沈黙が流れた。
「お客さん、つきましたよ」
 運転手が言うと、エマと更夜はタクシーから降りた。ベルも降りようとしたが、運転手に止められ代金を払わされた。
「……な、なんであたしが払わなきゃならないのよ…」
 ぶつくさ言っているとエマが「あそこ、見て」と言ってきた。指差す方に目を向けると一人の女性が立っている。後姿しか分からないが遠く離れていてもはっきりわかるほどの長く白い髪だということはわかる。
「…あれがレンホアって人?」
「間違いないだろうな」
 三人はこうしていても仕方ないとその女性に近寄っていく。
「あ」
 女性まであと数歩、というところでベルが声を出した。
「何?」
 エマが聞くと「あの人、人の生気を食らう魔だわ」と答えた。その言葉を聞いて先程レンホアが言った「許されない」の意味が分かった。
「私の事は放っておいて!」
 レンホアは先ほどと同じように泣きそうな声で叫んだ。
「人の命は儚くて…って言うでしょ?老い先短い人間を前にして逃げるのは薄情ってもんじゃないの?」
 ベルがそう言い放つと、レンホアはキッとこちらを睨んできた。
「あなたに何が分かるの!好きだと思うから、少しでも長く生きていてほしいと思うのよ!」
 その言葉に返事を返したのは更夜だった。
「俺はあのじいさんの未来を見たよ。決して変わる事のない未来を。視た風景にはあのじいさんと…あんたがいた。人間というものは遅かれ早かれ死ぬもんだ。あんたが傍にいようが、いるまいが死ぬ時は死ぬんだよ」
 その言葉にレンホアはその瞳から一筋の涙を零した。
「あなた、いままでも傍にいたんでしょう?影響のない範囲からずっとあの老人を見ていたんでしょう。他の女と結婚していくところも。それほどの勇気があるのならあの人のところにいればよかったんじゃない」
 エマが言い終わる頃には完全にレンホアは泣き崩れていた。
「…余計な事かもしえないが、あのじいさんは長くねぇからな。だからあんた自身がどうするか考えるといい。そのために俺はわざわざ未来を教えてやったんだ。逆らうも流れに身を任せるもあんたの勝手だ」
 そういい終わると更夜は踵を返して帰り始めた。ベルもその後に続く。
「ちょ…」
 エマは残ろうとしたが「あとは本人の気持ちの問題だよ」というベルの言葉に説得され、その場を離れた。


 それから三日の時間が過ぎた。
「…あの人たちどうなってるかしらー」
 エマが呟くとベルと更夜は「さぁ…」と答えた。
「あ、エマ君、この間の依頼人から手紙がきているぞ」
 草間が持ってきた手紙をエマが受け取り、読み始める。中は女性独特の丸みを帯びた文字が並んでいた。

 −草間興信所の皆様
 あれから、私はあの人の元へといきました。
 皆様の言葉に勇気付けられたのだと思います。
 この手紙が届く頃にはあの人と共に外国の方へ行っていると思います。
 今までの分の思いで作りをしようと、あの人が言い出したことです。
 それでは、簡単ながら失礼します。
                 −レンホア
「…ふぅん。日下部君はこのことが分かっていたのかしら?」
「まぁな」
「なんにしても一件落着でしょ?」
エマが窓を開けると空はとても綺麗な青空だった。三十年ぶりの再会を果たした彼らを祝福するかのように………


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

2119/ベル・アッシュ/女/999歳/タダの行商人(自称)
0086/シュライン・エマ/女/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
2191/日下部・更夜/男/24歳/骨董&古本屋 『伽藍堂』店主
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■         ライター通信          ■
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ベル・アッシュ様、シュライン・エマ様>お久しぶりです。
日下部・更夜様>初めまして。
瀬皇緋澄です。
今回は【逃げる女、追う男】に発注をかけてくださいましてありがとうございます。
本文の方はいかがだったでしょうか?

>ベル・アッシュ様
いつもお世話になっております。
ベル・アッシュ様は書いていてとても楽しいです(^−^
今回の『逃げる女、追う男』はいかがだったでしょうか?
本当ならば感動物のラブロマンス(!?)になる予定だったのですが
なぜか話を進めていくうちにこうなりました(笑
少しでも面白いと思っていただけたら幸いです。
それでは、またお会いできる事を祈りつつ失礼します。
                  −瀬皇緋澄