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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


メイド服がいっぱいリターン

綾和泉汐耶は仕事帰りに夕立にも似た大雨の中を走っていた。
「近頃気象庁、怠けすぎじゃない?」
と、呟きながらも急いでかけていく。
―たしか、近くに興信所が。
汐耶は、急いで草間興信所で雨宿りをすると決めた。

立て付けの悪くなっているドアを開ける汐耶。
「いらっしゃいませ。あ、汐耶さん、雨宿りですか?」
「そうよ、いきなりだもん」
「大変だったですね、汐耶さん」
零の可愛い声に出迎えられ、タオルを受け取る汐耶。
しかしながら、拭いて一息つこうとすれば…異様な風景が…
メイド服が所狭しと、吊されているのだ。まるで前の事件の再現。
「これっていったい何?」
「田中さんのメイド服です」
と、はっきり答える零。
「はぁ?」
「祐介さんも大雨にあって、大事なメイド服コレクションが濡れてしまったんだそうです。私も手伝っていました」
と、呑気に訳を話す零。
たしか、いつも普通より大きめのトランクを持っている田中祐介。しかしこの量はいかなる一般的な方法を持ってしても…トランクには入らないのは分かる。彼のトランクは四次元ポケットか?と汐耶は呆れながらタオルで濡れた髪を拭きながら思った。
しかし、タオルで拭いてもずぶ濡れになった服は乾かない。
「汐耶さん、これでは風邪を引いてしまいます」
「でも着替えがないわよ?」
「あります。ほら」
と応接間のテーブルに濡れていないメイド服が置いてあった。ロングスカートのワンピースにエプロンドレスというシンプルなものだ。
「いえ、結構よ…其れは」
「だめです!風邪は万病の元と言います!汐耶さんが倒れたらどうするんですか!」
うるうると瞳を潤ませる零。
本気で心配しているのだ。これはありがた迷惑と言うところだろうか?この、零の顔で反対できる者は居ないだろう。
引きつった顔になる汐耶。
やはり、零には逆らえない。

結局、濡れていないメイド服を着る事になってしまった。

「似合ってますよ♪」
と、零が汐耶のメイド服姿を褒めるのだが…。
―嬉しくない。
と言うのが本音だ。
周りは、メイド服趣味男のコレクション。零もこの前の事件(?)で手に入れたメイド服。
前の事件の再来と同じだ。
汐耶はため息をつき、ソファに座って自分の服が乾くのを待つ事にした。
「ところで田中君は?」
「仮眠室じゃないでしょうか?」
「あそこってそんなに広かった?」
「秘密の部屋でもあるんじゃないですか?」
「…まぁ、良いけど…」
仮眠室は、此処の主が大がかりな仕事で徹夜する事で使う仮の住まい…否、自宅に帰るのが面倒なので其処が住処となっている。たまに、常連の何人かが眠りに来ているという奇妙な場所である。

「やっと全部干せた…、ありがとうございます、零さん」
と、田中祐介が仮眠室から出てくる。
「良かったです。あ、テーブルにあった濡れていないモノをお借りしています」
「はい…ってあ!あれはだめです!って、あ、汐耶さん!着ちゃったんですか?」
「着たというか…着せられたというか…」
いきなり、驚く祐介の言葉に…汐耶は何か恐ろしい想像をした…。
「それは…一度着たら脱ぐことが叶わない『呪われたメイド服』なんです…」
祐介の口から真実が語られる。
「えー!」
「あらまぁ」
対極的な反応する汐耶と零。
「大正時代でしょうか…西洋文化を取り入れていく日本。その中で、美しいメイドさんが居まして、ある事件でお亡くなりになったという曰く付きのモノなのです。」
「霊感感じなかったわよ!」
「呪いの服や道具は身につけるか使うときに発動するものと師から聞きました。俺がコレクショ…いいえ封印しようと依頼人から預かってきた服なんです…」
「コレクションって言いかけたわね?」
「いえ、それは空耳でしょう」
汐耶の突っ込みに遠くを見る祐介。
「ま、真偽はともあれ、未だ身につけて間もないから脱ぐわね、発動した感じもないし」
「では、お手伝いします」
と、零と汐耶が仮眠室に向かって着替えることにした。

5分…10分…。
「脱げないわ!」
外の雷と共に汐耶は叫んだ。
「私一生このままなの?」
と、慌てる汐耶。その慌てようぶりは尋常ではなかった。
「しかし、呪いというのなら解く鍵があるかと」
と、零が宥める。
「え、まぁそうだけど…田中君?分かる」
「いえ…一寸其れは分かりません。調べてみないことには…」
と、答える、祐介。
「一寸、どうすればいいのよ〜」
また、錯乱する汐耶。
周りが濡れたメイド服、自分もメイド服、零もメイド服というメイド服事務所と化した異空間で彼女の理性は吹き飛んでしまったのだろうか?
彼女は意地でも脱ごうと決意した。
破こうにも、頑丈でまるでなめし革。ファスナーなども壊れたように1ミリも動きはしない。エプロン紐も同じだ。
はさみで切ろうとしたら、はさみの刃がこぼれる。
「あまり乱暴にしないでください〜依頼物なのですから〜」
と、祐介が汐耶に言う。
その言葉に、汐耶は我に返った。
「田中…君?」
「はい?」
「この私が着ているメイド服はあなたのよね?」
「はい、そうです」
少しずつ、怒気の篭もる汐耶の声。
「何故、そのことを零ちゃんに言わなかったのかしら?」
「沢山ありすぎて、又急いでまして…」
「ふぅん…そう…」
ますます関屋の声が怖くなる。
祐介も何かが来ると冷や汗をかく。
「危険なモノを平然と置いているんじゃないわよ!」
と、汐耶の怒り鉄拳が祐介の顎を捕らえた。
祐介はその場で倒れて、ぴくりともしない。
―メイド服の美人に殴られてあの世に行くのは本望でしょ?
と、祐介は一瞬聞き覚えのある声を聞いたような気がした。

後々、何とか呪いのメイド服から逃れられた汐耶だが、トラウマになるのは言うまでもなかった。


End?