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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


会話



■ オープニング

「…どういう依頼ですか、これは?」
「だから、言ってるじゃないですか。変な霊が出るんですよ。もう、私には手におえません。だいたい、あんな馬鹿げた霊は見たことがありません。チクショウ、まったく…」
 草間に向かって愚痴をこぼすのはとある神社の神主を務めている管野冬治(かんのとうじ)。神に仕える彼が霊を相手に困っているというのは草間にとって理解し難いものがあった。あと、神主のくせに変なノリなのも草間は気になった。
「…プロだろあんたは? どうしてうちに依頼するんだ?」
「いや、ここには選りすぐりの人間がいると聞きましてね」
 愛想笑いをしながら小太りな神主は額の汗をハンカチで拭う。草間は馬鹿にされたような気がしてきた。いや、神主が天然なのだろうか。まあ、何でもいいが。
「だから、どうしてうちに…」
 再び問う。
「ああいった霊は専門外なんですよ」
「だから、何だというんだ!? プロのくせに専門外だと?」
 草間がキレた。気が触れたのだろう。
「…どうしたんですか? もしかしてカルシウム不足とか?」
 神主はやはり天然だと草間は確信した。彼は事情を納得しているのかもしれないが、草間には意味不明な依頼だ。どういう了見でここへ依頼にきたのかがまったく見えてこない。
「…霊の特徴を教えてくれ」
 冷静になった草間はそう尋ねた。
「ああ、そういえば言ってませんでしたね。スイマセン、スイマセン。えっとですね、お笑い芸人の霊なんですよ。無理やり除霊をしようとすると、えらく憤慨しましてね。どうしたら成仏するんだと聞くと、俺を笑わせてみろとか言うんですよ。私はボケやツッコミなんてどうやって良いのか分からないし…」
 もう充分ボケているではないかと草間は心の中で神主に毒づいた。
「で?」
 だいぶ応答が面倒になってきた草間は「結局、どうすれば良いのだ」という意味の問いを顎で示した。
「おたくの方でお笑い芸人の霊を笑わせて成仏させてやって欲しいんですよ。そういうの得意な人いませんか?」
 草間は呆れ返り「分かった」と一言呟き承諾した。



■ 神主との会話

 広い空間。畳の上に敷かれた座布団に正座をする五人の姿があった。別に落語をしようというわけもはなく、座布団を取り上げられるわけでもない。五人の目の前に座っている男性は決して司会者などではない。司会者とは遠くかけ離れた神に仕える男。名を管野冬治。管野神社で神主を勤める彼はもう数時間ぐらい喋りっぱなしだった。
「ねえ、そろそろ本題に入ろうよー」
 いい加減痺れてきた足を崩し、海原・みあお(うなばら・みあお)が呟いた。
「お互い大変ですねえ。最近の若者は信仰心を失いつつありますから」
 同業者ということもあり話が合うのだろう。神社の禰宜をやっている空木崎・辰一(うつぎざき・しんいち)が神主と世間話をしていた。
「…暇」
 表情を変えずに窓の外に視線を投げたのはササキビ・クミノ(ささきび・くみの)だ。神主の止まらない口に呆れはしないが慣れもしないなと、彼女は思った。
「同感ね」
 すぐ隣に座っていたシュライン・エマ(しゅらいん・えま)がクミノに同意した。
「まず、依頼主から始末すべきね」
「怖いことをサラリと言うわね」
 クミノの犯罪的発言にエマが苦笑する。
「うう、二人ともあの三人を止めようよ」
 みあおが言う三人とは冬治、辰一、そして…。
「私としては、そこはもっとアグレッシブに行く必要があると思うのよ。ねえ、神主さんはどう思う?」
「そうですねえ…、神に仕える身としては」
 葛生・摩耶(くずう・まや)は神主に身の上相談をしていた。それを真面目に聞く、神主と辰一。
「やっぱり…」
「でも、それは…」
「だって…」
 なにやら雲行きが怪しい(会話の行方とかが特に)。理由は不確かだが、おそらく三人の相性と立場(ボケかツッコミか、という立ち位置)がうまく化学反応を起こしたのであろう。
 三十分が経過したところで話はやっと本題へ入った。
「えっと、ネットで調べてみたんだけど、たぶん幽霊の男の名前は佐藤明(さとうあきら)って言うんだと思う。お笑い芸人“SAGA & SIGA”のメンバーだったみたい」
 みあおが前もって調べてきたことを全員に伝える。
「“SAGA & SHIGA”というのはお互いの出身地をローマ字にしたものらしいけど、かなりマイナーよね。ちなみに、テレビには一度だけ出たことがあるみたいよ。深夜番組のようだけど…。これもマイナーね。芸風は不明よ」
 エマが補足した。
「ネーミングセンス皆無ね」
 クミノが冷たく言い放つ。
「ところで、神主さん。その幽霊が出るのは何時ごろなんですか?」
「そういえば、聞いてなかったわよね」
 辰一と摩耶が神主に尋ねた瞬間、誰かの叫び声が聞こえてきた。『かかってこいよー!!』とか『放置プレーかよ!!』とか言っている。意味不明で挑発的で耳障りな怒声であった。
「どうやら、ご立腹のようですね。すいません、夕方の四時ぐらいになると現れるんですよ。忘れてました、スイマセン」
「…もう四時半だよ」
 みあおが神主に冷笑を浴びせた。



■ 幽霊との会話

「まったく、人をどんだけ待たせれば気が済むんだ、お前らは。帰ろうかと思ったぞ」
 全員が「どこに?」と心の中で思ったが、男が何故、木の裏に隠れているのかということの方がもっと気になった。
「…どうして、隠れてるの?」
 みあおが言うと、お笑い芸人“SAGA & SHIGA”のSAGAこと佐藤明(つまり彼が佐賀県出身) は木の陰から目を光らせた。
「木に隠れることで人の気を引こうとか考えてないからな。ただ、ちょっと…。そう、ちょっぴり恥ずかしがり屋なだけだ!!」
 そう言って、激しく唾を飛ばしながら飛び出してきた男の素顔がやけに普通すぎて一同はどういうリアクションをすればよいのやら困った。
「さっさと成仏してくれない?」
 クミノが迷惑そうに言った。
「なんだと? 成仏しろだと? ならば、俺を笑わせてみろ!!」
「予定通りの展開ですね…」
 辰一がそう言いながら、男に気づかれないように周囲に結界を張った。男はかなり周りが見えない性質なのか訳の分からないことを言っている。
「ところで、あなたはボケなの? それともツッコミなわけ?」
 摩耶が明に気負いせずに尋ねる。
「…俺はツッコミや」
「どうして関西弁になるの?」
 急に関西弁にシフトした明に対してエマが鋭いツッコミを入れた。どうやら、テンションが落ち込むとそうなるらしい。
「えっと、相方さんは確か事故で亡くなられているんだったよね。で、自分はこの神社の井戸に転落して死亡」
 みあおが手帳を開いて淡々とした口調で言った。
「うわ、悲惨ですね」
 顔を顰めながら辰一が同情する。明はしゅんとしていた。
「そういえば、相方は事故死らしいけど具体的には餅を喉に引っかけて窒息死したらしいわよ」
「あはははっ!!」
 エマの説明で思わず摩耶は笑い出してしまった。他の者たちも苦笑する。餅を喉に引っかけて死亡するなんて、まるで老人並である。また、みあおの調査によると葬儀の時に突然吹き出してしまった罰当たりな人間もいたらしい。
「でも、笑わせろ、だなんて芸人なのにどういう了見ですか?」
 辰一が問うと明は突然、真面目な顔つきになった。
「俺はなこの神社に新しい相方が見つかるようにと頼みに来たんだ」
「…それって神頼み?」
「…他力本願」
「…現実逃避じゃないの」
 みあお、クミノ、エマの順でツッコミの三連コンボを決める。さすがに効いたのか明は膝を地面についていた。
「あいたた…急にお腹が…」
 そして、居心地が悪くなったのか明は意味もなく仮病を使った。幽霊のくせに。
「よっぽど売れない芸人だったのね」
 エマが言うと明が顔を上げた。
「ああ、そうさ!! 俺は三流芸人さ!! でもな、テレビに出たことぐらいあるんだぞ!!」
 今度は開き直った。コロコロ変わる態度を見て、誰もが「こいつ芸人以前の問題だ」と思った。
「ふーん。芸人ってたいしたことないのね。私の方がマシなんじゃないの?」
「あ、僕もこの人になら勝てそうな気がしますね」
 摩耶と辰一が自信満々に言う。
「ここはひとつ…」
 辰一は式神・甚五郎を使役し場の空気を無視した傘芸を披露した。傘の上を様々なものが回転する。皆が「おー」と歓声を上げた。ついでに明も感心していた。
「な、なかなかやるな。だが…、それはお笑いとしては的が微妙にズレてる!!」
「あ、やっぱりダメですか?」
 明のツッコミにめげた様子も見せない辰一であった。
「もう、辰一さんにはいつも苦労かけるわねぇ」
 摩耶が言いながら辰一にアイアンクローをした(苦労を強調)。
 一瞬、間があってから明が膝をついた。同行者の幾人かが笑いをこらえている。
 ツッコミと見せかけて、実はボケをかました摩耶の高度なテクニック(だと思われる)は明に致命傷を与えた。
「ぐほっ」
 必殺のボケを受けた明は地面に這いつくばった。
「あ、笑ってる。本当は笑わせる立場なのに…」
 みあおが明の顔を覗き込み確認した。
「おまえら、見事だ。もう、俺から教えることは何もない。立派な芸人になって…」
 途中でツッコミ組の二人が明を制止した。
「…何も教わっていないし、これからも教わる気はない」
「…むしろ、芸人になんてならない」
 追い討ちをかけるようにクミノとエマが冷たい言葉をかける。
「ありがとう。これで安心して成仏できる」
 最後まで訳の分からないことを言う明は本当に満足気な表情を浮かべていた。
 笑みを浮かべ、天に昇る明。と、万事解決すればよかったのだが、残念ながらいつまでたってもそんな気配はない。
 そして、明が戸惑ったようにこう言った。
「…あの、一つお尋ねしますが成仏ってどうやればいいのでしょうか?」
 幽霊は丁寧語で五人に向かって教えを請う。
「鬱陶しい…」
 クミノが対怨霊弾頭をどこからか取り出す。
「そ、そんなものをどこに隠し持っていたんだ!? 物理的に無理だぞ!!」
「細かいことを気にしてはいけないわ…」
「ひ、ひぃ!! お助け!!」
 明が逃げ出そうとするが辰一が密かに張っておいた結界により明は逃走不可能。そして、彼は夜空の星となった。素霊子レベルまで破壊されてしまった明は不憫としか言いようがないが、この方が彼のためかもしれない。
「除霊、お疲れ様です。いやー、助かりましたよ」
 神主がやってきた。どうやら、近くで見ていたらしい。
「あ、写真お願いできませんか?」
 みあおがカメラを神主に手渡す。
「どうして写真を?」
 結界の後始末をして戻ってきた辰一がみあおに聞いた。
「成仏記念だよ。成就記念かもしれないけどね」
「あはは、うまいオチね」
 摩耶がそう言って境内の鳥居の前に移動する。他の者たちも面倒くさがりながら並ぶ。そして、何の記念なのか微妙ではあったが写真撮影をして調査は無事終了した。
 後日談だが、星となったお笑い芸人はしつこい性格で、とにかく成仏したくなかったらしい。もしかしたら、相方がいなくなりツッコミである自分を笑わせてくれる新しい相方を見つけたかったのかもしれない。それが、この世への執着になり神社に居座った、と。
 結局、三流芸人で、ツッコミの癖にボケが多くて、性格がそもそも変で、自己中心的な幽霊だったというのが全員の感想だった。神主が面白がってこんな依頼を持ってきたのではないのかと疑ってしまうぐらいおかしな調査であった。おそらく、草間自信が一番実感していることであろう。



<終>



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1415/海原・みあお/女/13/小学生】
【2029/空木崎・辰一/男/28/神職兼門屋心理相談所事務員】
【1166/ササキビ・クミノ/女/13/殺し屋じゃない、殺し屋では断じてない。】
【0086/シュライン・エマ/女/26/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【1979/葛生・摩耶/女/20/泡姫】

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■         ライター通信          ■
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どうも、担当ライターの周防ツカサと申します。
今回の『会話』は人によっては笑いのツボというものが違うため楽しんでいただけたのかどうか不安ではありますが、精一杯書かせていただきました。
とにかく会話に特化したお話。神主さんとの会話もその一つです。楽しんでいただければ幸いです。
それでは、またお会いしましょう。失礼致します。