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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


キューピット

●降霊術の噂

 一昔前、こっくりさんが流行ったことがあった。
 それが危険だと言われ始めた後は、エンジェル様、分身さんなどの名前とやり方は違えど実質は同じものが流行った。
 そして最近また、そういった、いわゆるお手軽降霊術というものが流行っているらしい。
 このところ月刊アトラスの読者投稿ページへのハガキには、そんな降霊術に関するものが数多く寄せられていた。
 霊に憑りつかれた挙句に精神病院行きになってしまったなんてものから、降霊術をやって以来金縛りに遭うようになったなどなど。
 その大半はよくある話。ほとんどは知り合いの知り合いがとかいう、信憑性には薄いものだ。
 だがいくつか、麗香の勘にひっかかるハガキがそこに紛れ込んでいた。
 それらの体験をしたのは全て三年B組出席番号六番の人間。しかも、当人は降霊術をやった覚えはない――降霊術に無関係の人間も多かった。
 共通して言えることは、事件が起こる直前に、その学校でキューピットさんと呼ばれる降霊術が行われたこと。
 事件の概要はいたって簡単。
 まず、ロッカーに見覚えのない手紙が入っている。
 その対応は人によって様々だ。だが共通して言えることは、その後に見覚えのない女子生徒と遭遇するのだ。
 手紙の出し主だという少女は、後で調べてみてもその学校のどこにもいないらしい。
 確かに学校の制服を着ているのに、少女の特徴を告げても誰もそんな子は知らないと言うらしいのだ。

「面白そうね、その少女について調べてみましょう」
 目を通し終えたハガキを机の上に置いた麗香は、すぐさま三下に調査員を集めるよう指示したのだった。


●アトラス編集部から

 かかってきた電話を手に取った瞬間、聞こえてきたのは世にも情けない三下の叫びだった。
「すいません〜〜っ、怪奇事件調査に協力しれくれませんか〜〜〜?」
 佐和トオルは、あまりに唐突な言葉に驚きつつもその口調に苦笑した。
「一体なにがあったんですか?」
 問い掛けると、三下は焦ったような早口で事情を説明をした。
 最近編集部に来ていた降霊術の噂が書かれたハガキと、それに関する奇怪な事件。
「キューピットさん?」
 三年B組がどうとか言う話は初耳だが、降霊術に関しては店の客から聞いたことがあった。
 恋の質問に答えてくれる天使――つまりキューピットを呼び出すというものらしいが、こういったもので呼び出されるのはたいがいが低級霊だ。
 だが今回呼び出されているのは少女の霊らしい。
「わかりました。とりあえず行ってみましょうか、その学校に」
 告げた瞬間、三下は頭を地面に擦りつける勢いで――いや、見えないのだが口調でなんとなく――礼の言葉を繰り返した。


●存在しない少女

 今回の調査に参加することになった四人――佐和トオル、海原みあお、天薙撫子、漁火汀は一番最近に事件が起こったと言う学校にやってきていた。
 一行は各自調査のため一旦校門でバラけて、校内へと入って行った。
「その見知らぬ女の子がキューピットさんなのかな? で、三年B組出席番号六番の彼かなんかと昔恋仲だったとか?」
 地味なスーツと伊達眼鏡。若い教員風の格好をしたトオルは、誰に言うでもなくそんなことを呟いた。
 まずはその少女を探してみるのが妥当なところだろう。
 だが問題は、その少女が幽霊であるらしいということだ。
「手掛かりなしはちょっとツライかな・・・」
 とりあえず関係者である、幽霊の少女に会った当人の元へ向かうことにした。
 トオルにはエンパシーの他に相手の過去を追体験するという能力がある。負担が大きいからあまりやりたくない手ではあるが、少女の名前も姿もわからないのでは探しにくいことこのうえない。
 やってきたのは三年B組。前もって出席番号六番の少年については調べておいたので、すぐに名前で探すことができた。
 少年の名は加地良一。トオルの話を聞いた加地少年は、すぐに心当たりを思い出したらしい。ああ、あれね、と呟いて話を聞かせてくれた。
「杉本沙希って子からラブレターがきたんだよ。でも僕はもう付き合ってる子がいたから、断るつもりで・・・でも自分じゃ言いにくくてさ。友達が代わりに断ってくれるって言ってくれたから、そいつに手紙を渡したんだ。そしたらそいつ、すぐ翌日にラブレターの持ち主らしい女の子に『なんで貴方が持ってるの?』って言われて・・で、そのあとその子を探したんだ。でもその子は学校のどこにもいなかったってわけ」
「その杉本さんに会った子は?」
「えっと・・・まだ図書室にいるんじゃないかな、多分」
 名前を聞いて礼を告げ、すぐさま図書室に向かったトオルは、すぐに目的の少年――城嶋という名前だそうだ――を見つけることができた。
「さっきも同じようなこと聞かれたんだよなあ」
 溜息をついた少年は、だが律儀に話してくれた。話の内容は、先ほど聞いたものと大差なかったが。
 少年の纏う空気は深く濃い青。その体験は、少年にとってそれなりに恐い内容だったらしい。
 トオルはその色を手掛かりに、少年の過去へと意識を向かわせる。
 ――その出会いは、ラブレターを預かったすぐ翌日にやって来た。
 ある放課後、城嶋は、廊下の端に立っている少女と目が合った。
 背中の中ほどまでのストレートの黒髪をした、可愛らしい顔立ちの少女。
 服装は紺のブレザーにえんじ色のリボンと、同じく紺のスカート――二年生の制服だ。
「なんで貴方がそれを持っているの?」
「あ、えーっと・・・加地のやつ、さ。もう付き合ってる子がいるんだ。だから・・・」
「加地?」
 少女が不思議そうに首を傾げる。
「え、だってキミ、加地のロッカーに入れてたじゃないか」
「違う・・・・」
「え?」
 バチンっ!!
 激しいラップ音が響く。
 そして・・・少女は、跡形もなく、姿を消した。

「ちょっと、先生?」
 声をかけられて、トオルははっと顔を上げた。
「ああ、いや・・・教えてくれてどうもありがとう」
 どうやら少女が過去の人間であることは間違いないらしい。少女は自分の記憶に従って、三年B組出席番号六番のロッカーに手紙を入れているのだ。
 だがそこのロッカーを使っているのは別の人間で・・・・・・。
「とりあえず、一旦戻ろうかな」
 他の面子の集めた情報も気になるところだ。


●校門にて、全員集合

 各自が一通りの調べものを済ませて校門に戻った結果。集まった人間は四人ではなく八人だった。
 校内で出会ってお互いの情報を確認した者もいるが、草間興信所とアトラスがまったく同時期に同じ場所に調査に来ていると思わず、驚いた様子を見せた者もいた。
 全員の情報を統合した結果。
 キューピットさんなる降霊術で呼び出されているのは杉本沙希という十六歳の少女。その少女は数ヶ月前に事故で亡くなっており、片想いの先輩・斉木義哉に渡せなかったプレゼントが心残りで成仏できないでいるらしい。
 降霊術をした人間ではなく、三年B組出席番号六番の人間が杉元沙希の幽霊に出会うのは、おそらく斉木義哉のクラスと出席番号がそれであったためだろう。
 違う学校だから、当然その番号には斉木義哉はいない。ゆえに、杉本沙希は何時までたっても斉木義哉にプレゼントを渡すことができず、そして成仏できないのだ。
「問題はその学校なのよね・・・・」
 興信所で杉元沙希から受けた依頼は、二日後に指定の場所に斉木義哉を呼び出して欲しいというもの。
「調べてみたんだが、斉木義哉は今海外に留学しているらしい」
 シュラインと慶悟の言葉に、一行――特に興信所側の人間が溜息をついた。
「だったらさ、みあおたちでキューピットさんやってみようよ! で、会ったらすぐに事情を説明するの」
 もともと幽霊と会うことにおおいに興味を惹かれていたみあおが元気に提案する。
「事情を話して納得してくれればいいんだけどね」
 トオルが苦笑を浮かべる。
 杉本沙希が、どうしても会えなければ納得いかないと言い出す可能性もあるのだ。
「うーん・・・その斉木さんに事情をお話して会っていただくというのはやはり難しいでしょうか」
 できればきちんと告白を成功させたいみなもにとって、それは大問題だ。
「難しいですね・・・。斉木少年のところに行って、事情を話して、首尾よく協力をお願いできても二日では戻ってくるのは・・・」
 考えこむようにして、汀が答えた。
「顔がわかっているのでしたら、杉本様には申し訳ないですが偽物をたてることも考えるべきでしょうか」
 亜真知の呟きに、一行は再度考え込んだ。
「そうですね・・・それで杉本様が納得して成仏できるのなら・・・」
 出来る限り同じ状況を作って杉本沙希の目的を叶え、心残りを晴らして成仏させてあげたいと願う撫子は、少々納得いかない部分を感じながらも頷いた。
「なら、まず沙希さんを呼び出してみて、偽物のことは話だけで納得してもらえなかった時に考えましょう」
 シュラインの提案に、反対意見はなかった。


●キューピットさん

 杉本沙希を呼び出すには普通にキューピットさんをやればいいだろうということで実行したところ、現れた杉本沙希は――興信所に来た時の制服ではなかった。
「えーと、あれ?」
 きょろきょろと周囲を見まわして、
「やだ、遅れちゃうっ!」
 何故だかこちらには気付かずに駆け出そうとした沙希を、みあおの声が止めた。
「こんにちわ、はじめまして♪」
 そこで初めて周囲にいた人間に気付いたらしい。沙希は不思議そうな顔をした。
「私は草間興信所のシュライン・エマよ。貴方に話さなきゃいけないことができたの」
「話さなきゃいけないこと・・・? でも後にしてくださいっ、先輩のとこに行かなきゃ!」
「その先輩に会う為に、興信所に依頼に行ったんだろう?」
 ゆっくりと告げたトオルの言葉に、沙希が不安そうな顔をした。
「ねえ、何を言っているの? 貴方たちは、誰?」
 興信所に依頼に来たことを覚えていないらしい発言に、亜真知はかすかに表情を曇らせた。
「・・・呼び出されるたびに記憶が消えているみたいですね」
 沙希の時間はいつも、先輩に会いに行こうとする瞬間から始まるのだ。
「斉木さんは、ここにはいません」
 汀が告げた途端、
「なんで? 私、嫌われちゃったの・・・!?」
「違いますっ!」
 ヒステリックに叫ぶ沙希に、その声量に負けない声でみなもが叫んだ。
 一行は顔を見合わせた。
 心残りを持ったまま死に、遊び半分の降霊術に振り回される哀れな少女。
「いや、まだ来ていないだけだ」
 ・・・沙希の状態を見るに、納得してもらえるまでには少々時間がかかりそうだった。その前にどこか別の場所でキューピットさんが行われれば、沙希はまた抜け出せない輪の中に迷いこんでしまう。
「覚えてらっしゃらないようですけれど、杉本様は、興信所の方に斉木さんと連絡をとって欲しいと依頼していたんです」
 撫子が穏やかに告げた。
 沙希の表情に安堵の色が灯る。
 斉木の行方を調べる時に、姿を確認しておいたのが幸いした。慶悟は式神を呼び出し【替形法】で、斉木少年の姿を取らせる。
 斉木少年の姿を見つけて、沙希は嬉しそうに微笑んだ。
「これ・・・先輩に・・・」
 斉木の姿をした式神がそれを受け取ると、沙希はぱっと明るい笑顔を浮かべ、
 ・・・・姿を、消した。

 こうして――期せずして重なった興信所の依頼とアトラスの調査は、少し哀しい空気の中で終わったのだった。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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整理番号|PC名|性別|年齢|職業

1781|佐和トオル|男|28|ホスト
1415|海原みあお|女|13|小学生
0328|天薙撫子 |女|18|大学生(巫女)
1998|漁火汀  |男|285|画家、風使い、武芸者

0086|シュライン・エマ|女|26|翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
1252|海原みなも   |女|13|中学生
0389|真名神慶悟   |男|20|陰陽師
1593|榊船亜真知   |女|999|超高位次元知的生命体・・・神さま!?

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■         ライター通信          ■
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 こんにちわ、日向 葵です。
 依頼参加してくださった皆様、どうもありがとうございました。
 うう、前後編にするべきだったかとちょっと後悔しております今日この頃。
 調査に文字数が割かれ、その後の描写が・・・(涙)
 しかも今回ちょっと〆切ギリギリなので、個別のライター通信はありません、ごめんなさいっ(汗)

 次回までにもっと精進しつつ、頑張りたいと思います。
 今後また会う機会がありましたら、どうぞよろしくお願いします。