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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


キューピット

●恋愛相談依頼

 うちは恋愛相談所じゃないんだが・・・・・・。
 目の前に座る少女の依頼内容を聞いてまず草間武彦が思ったのは、その一言だった。
 高校二年生、十六歳。背中の中ほどまでのストレートの黒髪をした彼女の名前は杉本沙希。
 服装は紺のブレザーにえんじ色のリボンと、同じく紺のスカート。制服を着ているところを見ると学校帰りなのだろうか?
 沙希は可愛らしいラッピングのされたクリーム色の紙袋を抱えて、真摯な瞳で武彦を見つめた。
「お願いします。どうしてもこれを先輩に渡したいんです」
 答えを渋る武彦に、沙希はなおも真剣に頭を下げた。
 彼女の依頼はプレゼントを片想いの先輩に渡したい。
 お相手は同じ学校の高校三年、名前は斉木義哉。
「同じ学校なんだろう? 呼出す方法はいくらでもあるじゃないか」
「わかんないんですっ!」
 宥めるような武彦の言葉に、沙希は突如金切り声をあげた。
 少女の瞳から、ポツリと涙が零れる。
「わからないんです・・・・。お願いします、先輩を呼出すの、手伝ってもらえませんか・・・?」
 気まずくなって、武彦はついと視線を逸らして頭を掻いた。
 まあ、相手の名前も年齢も学校もわかっているのだ。斉木義哉を杉本沙希の指定する場所に呼出すというそれ自体は依頼としてはごく簡単なものだ。
「わかった。斉木義哉を、君の指定する場所に連れていけば良いんだな?」
 パッと顔をあげた沙希が、咲き誇るような笑顔を浮かべた。
「はいっ、よろしくお願いします!」
 慌てて立ち上がった彼女は深々とお辞儀をして――ふいと、扉の外に目を向けた。
「杉本さん?」
 沙希は、振り返らない。
 まるで聞こえてないようだ。
「・・・・・・呼んでる」
「え?」
 ふらふらと覚束ない足取りで、沙希は扉を開けてその向こうへと歩いて行く。
「おい、ちょっと待てっ!」
 慌てて追いかける武彦。
 だが。
「いない・・・・・・?」
 扉の外、直線の廊下。
 ・・・・・・そこには、誰も、いなかった。
 残されたのは沙希が依頼料として提示したお金と、そして。
 武彦自身が書いた、依頼内容に関する情報のメモだけだった。


●消えた少女

「亜真知さん」
 呼ばれた声に振り返ると、そこにいたのは現在の目的地――草間興信所の住人、草間零だった。
「こんにちわ、零さん」
 榊船亜真知は穏やかな笑みを浮かべて答え、少し後ろを歩いていた零が追いつくまで立ち止まる。
「今日は兄さんのところに?」
 買い物袋を下げた零は、亜真知の向かっていた先からそう判断したらしい。
「ええ」
 亜真知にとってあの興信所は暇を持て余した時の遊び場の一つだ。もちろん依頼を不真面目にやったりはしないが、あそこに入ってくる依頼も、そしてあそこに集う人々も。いつでも亜真知を退屈させない、楽しい場所なのだ。
「いつもいつもありがとうございます」
 調査員として動いていることにだろう、礼を述べた零にそんな大層なことはしていないと言葉を返し、二人は他愛もない会話をしながら興信所に向かって行った。

 扉を開けた先には先客が二人。
「あら、こんにちわ」
 真名神慶悟と海原みなも。どちらも見知った顔だ。
「いらっしゃい、今お茶をいれますね」
 ぱたぱたと台所へ向かう零を見送り、亜真知はソファーの空いている場所へと腰掛けた。
「ちょうど良いところに来てくれた」
「なにか依頼が入ったのですか?」
 武彦の言葉に疑問を返した亜真知だったが、その疑問に答えたのは武彦ではなかった。
「はい。女の子の告白のお手伝いです!」
 みなもが妙に気合の入った声で宣言する。
「ただ、その少女はすでに死んでいる可能性がある」
 続く慶悟の言葉に亜真知は少しだけ表情を曇らせた。
「告白ができなかったのが心残りで成仏できないでいるのかしら・・・・・・」
 武彦がひとつ溜息をついて、詳しい依頼内容を教えてくれた。
「・・・・・・・」
 亜真知の返答は沈黙。
 別に依頼内容にではない。
「・・・わかってるよ、でも仕方がないだろう。あんまり突然消えたから、聞く暇がなかったんだ」
 そう。
 いくつもの情報を聞き逃している武彦に、だ。
「彼女、一体誰に呼ばれたんでしょう・・・」
 思案顔で考え込んだ時だった。
 ガチャリと興信所の扉が開き、シュライン・エマが入ってきたのは。


●存在しない少女

 今回の依頼に参加することになったのは四人。シュライン・エマ、海原みなも、真名神慶悟、榊船亜真知は全員一致で杉本沙希が着ていた制服の学校に向かうことにした。
 校門のところで一旦バラけた一行は、それぞれ調査のために散って行く。
 亜真知はとりあえず図書室に向かうことにした。学校及び関係各所の資料を探すためだ。現在在校生に関するデータ収集は他の人に任せ、自分は卒業アルバムを調べるつもりだった。
 興信所に残っていた気配と、そしてアトラスでシュラインが聞いてきた降霊術に関する事件の概要。
 そこから推測するに少女は十中八九幽霊。とすると、彼女の年齢は死亡時の年齢であり、現在十六歳の少女を探しても見つからない可能性も高いと判断したのだ。
 聞いた事件の概要は、そう複雑なものではない。
 まず、ロッカーに見覚えのない手紙が入っている。
 その対応は人によって様々だ。だが共通しているのは、その後に見覚えのない女子生徒と遭遇することだ。
 手紙の出し主だという少女は、後で調べてみてもその学校のどこにもいないらしい。
 確かに学校の制服を着ているのに、少女の特徴を告げても誰もそんな子は知らないと言うらしいのだ。
 そしてそれらの体験をしたのは全て三年B組出席番号六番の人間。しかも、当人は降霊術をやった覚えはない――降霊術に無関係の人間も多かった。
 だが全ての事件に共通して、事件が起こる直前に、その学校でキューピットさんと呼ばれる降霊術が行われていたと言うのだ。
 ざっと調べてみたところ、この学校の卒業アルバムにはそれらしき少女の姿はなかった。
「あら、貴方も来ていたの?」
 ふいに後ろから声をかけられて、降り返ってみればそこにいたのは知った顔――天薙撫子だった。
「まあ、撫子様も来ていたんですね」
 同じ事件を調べているらしいと知った二人は、さっそくお互いに持つ情報を話し合った。


●校門にて、全員集合

 各自が一通りの調べものを済ませて校門に戻った結果。集まった人間は四人ではなく八人だった。
 校内で出会ってお互いの情報を確認した者もいるが、草間興信所とアトラスがまったく同時期に同じ場所に調査に来ていると思わず、驚いた様子を見せた者もいた。
 全員の情報を統合した結果。
 キューピットさんなる降霊術で呼び出されているのは杉本沙希という十六歳の少女。その少女は数ヶ月前に事故で亡くなっており、片想いの先輩・斉木義哉に渡せなかったプレゼントが心残りで成仏できないでいるらしい。
 降霊術をした人間ではなく、三年B組出席番号六番の人間が杉元沙希の幽霊に出会うのは、おそらく斉木義哉のクラスと出席番号がそれであったためだろう。
 違う学校だから、当然その番号には斉木義哉はいない。ゆえに、杉本沙希は何時までたっても斉木義哉にプレゼントを渡すことができず、そして成仏できないのだ。
「問題はその学校なのよね・・・・」
 興信所で杉元沙希から受けた依頼は、二日後に指定の場所に斉木義哉を呼び出して欲しいというもの。
「調べてみたんだが、斉木義哉は今海外に留学しているらしい」
 シュラインと慶悟の言葉に、一行――特に興信所側の人間が溜息をついた。
「だったらさ、みあおたちでキューピットさんやってみようよ! で、会ったらすぐに事情を説明するの」
 もともと幽霊と会うことにおおいに興味を惹かれていたみあおが元気に提案する。
「事情を話して納得してくれればいいんだけどね」
 トオルが苦笑を浮かべる。
 杉本沙希が、どうしても会えなければ納得いかないと言い出す可能性もあるのだ。
「うーん・・・その斉木さんに事情をお話して会っていただくというのはやはり難しいでしょうか」
 できればきちんと告白を成功させたいみなもにとって、それは大問題だ。
「難しいですね・・・。斉木少年のところに行って、事情を話して、首尾よく協力をお願いできても二日では戻ってくるのは・・・」
 考えこむようにして、汀が答えた。
「顔がわかっているのでしたら、杉本様には申し訳ないですが偽物をたてることも考えるべきでしょうか」
 亜真知の呟きに、一行は再度考え込んだ。
「そうですね・・・それで杉本様が納得して成仏できるのなら・・・」
 出来る限り同じ状況を作って杉本沙希の目的を叶え、心残りを晴らして成仏させてあげたいと願う撫子は、少々納得いかない部分を感じながらも頷いた。
「なら、まず沙希さんを呼び出してみて、偽物のことは話だけで納得してもらえなかった時に考えましょう」
 シュラインの提案に、反対意見はなかった。


●キューピットさん

 杉本沙希を呼び出すには普通にキューピットさんをやればいいだろうということで実行したところ、現れた杉本沙希は――興信所に来た時の制服ではなかった。
「えーと、あれ?」
 きょろきょろと周囲を見まわして、
「やだ、遅れちゃうっ!」
 何故だかこちらには気付かずに駆け出そうとした沙希を、みあおの声が止めた。
「こんにちわ、はじめまして♪」
 そこで初めて周囲にいた人間に気付いたらしい。沙希は不思議そうな顔をした。
「私は草間興信所のシュライン・エマよ。貴方に話さなきゃいけないことができたの」
「話さなきゃいけないこと・・・? でも後にしてくださいっ、先輩のとこに行かなきゃ!」
「その先輩に会う為に、興信所に依頼に行ったんだろう?」
 ゆっくりと告げたトオルの言葉に、沙希が不安そうな顔をした。
「ねえ、何を言っているの? 貴方たちは、誰?」
 興信所に依頼に来たことを覚えていないらしい発言に、亜真知はかすかに表情を曇らせた。
「・・・呼び出されるたびに記憶が消えているみたいですね」
 沙希の時間はいつも、先輩に会いに行こうとする瞬間から始まるのだ。
「斉木さんは、ここにはいません」
 汀が告げた途端、
「なんで? 私、嫌われちゃったの・・・!?」
「違いますっ!」
 ヒステリックに叫ぶ沙希に、その声量に負けない声でみなもが叫んだ。
 一行は顔を見合わせた。
 心残りを持ったまま死に、遊び半分の降霊術に振り回される哀れな少女。
「いや、まだ来ていないだけだ」
 ・・・沙希の状態を見るに、納得してもらえるまでには少々時間がかかりそうだった。その前にどこか別の場所でキューピットさんが行われれば、沙希はまた抜け出せない輪の中に迷いこんでしまう。
「覚えてらっしゃらないようですけれど、杉本様は、興信所の方に斉木さんと連絡をとって欲しいと依頼していたんです」
 撫子が穏やかに告げた。
 沙希の表情に安堵の色が灯る。
 斉木の行方を調べる時に、姿を確認しておいたのが幸いした。慶悟は式神を呼び出し【替形法】で、斉木少年の姿を取らせる。
 斉木少年の姿を見つけて、沙希は嬉しそうに微笑んだ。
「これ・・・先輩に・・・」
 斉木の姿をした式神がそれを受け取ると、沙希はぱっと明るい笑顔を浮かべ、
 ・・・・姿を、消した。

 こうして――期せずして重なった興信所の依頼とアトラスの調査は、少し哀しい空気の中で終わったのだった。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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整理番号|PC名|性別|年齢|職業

1781|佐和トオル|男|28|ホスト
1415|海原みあお|女|13|小学生
0328|天薙撫子 |女|18|大学生(巫女)
1998|漁火汀  |男|285|画家、風使い、武芸者

0086|シュライン・エマ|女|26|翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
1252|海原みなも   |女|13|中学生
0389|真名神慶悟   |男|20|陰陽師
1593|榊船亜真知   |女|999|超高位次元知的生命体・・・神さま!?

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■         ライター通信          ■
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 こんにちわ、日向 葵です。
 依頼参加してくださった皆様、どうもありがとうございました。
 うう、前後編にするべきだったかとちょっと後悔しております今日この頃。
 調査に文字数が割かれ、その後の描写が・・・(涙)
 しかも今回ちょっと〆切ギリギリなので、個別のライター通信はありません、ごめんなさいっ(汗)

 次回までにもっと精進しつつ、頑張りたいと思います。
 今後また会う機会がありましたら、どうぞよろしくお願いします。