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<PCシチュエーションノベル(グループ3)>


驚愕! FZ-01&ドリルガール、夢の競演!


 超高層ビルが立ち並ぶオフィス街……昼休みを過ぎても靴音が静まることはない。道路ではたまにクラクションが鳴り響き、いつもの忙しい街を演出してくれる。街路樹が美しい色取りを見せる道路の雑踏は決して途切れることなく続く。彼らは近くの地下鉄の駅やそれぞれの会社へと吸い込まれるように消えていく。ここが彼らの戦場であり、それが彼らの日常だった。

 そんなサラリーマンたちが奏でる乾いた音を遮るように口笛を吹きながら歩く細身の男がいた。銀色の髪をなびかせ、突き刺さるような視線を赤い瞳から出す青年はこけた頬を緩ませながら自分のリズムを取って歩く。ジーパンにジージャンという彼の服装はこの街には似合わない。さまざまな点から、彼は特異な存在に見える。周囲の歩くスピードなど、彼にとって何の障害でもない。一定の速度で歩くサラリーマンにぶつかろうとも、気味の悪い薄笑いを浮かべるだけだ。そんな青年がひとたび時計を見ると、口笛を「ぴゅ〜」と鳴らす。彼は用事があるのか、その行為を境に早足で歩き出した……



 「いっけな〜〜〜い、待ち合わせの場所わかんなくなっちゃった……」


 オフィス街のど真ん中で少女が叫ぶ……彼女もまたこの風景にはそぐわない姿をしていた。神聖都学園の制服を着た彼女の名は銀野らせんという。中間試験が終わった記念に友人と一緒に有名店のパフェを食べようと街へ繰り出した。連日のテスト勉強で寝不足だったらせんはついつい電車の中でウトウトしてしまい、朦朧とする意識の中で車掌のアナウンスを聞いた。彼女は何も確認せずに閉まりかけのドアにダッシュし、その勢いでそのまま改札まで出てしまった。だが、そこが目的地の一駅前であることが後になってわかった。今さら一駅のために切符を買うのももったいないと思い、次の駅まで走ろうと決心したらせん。その結果、見事に道に迷ってしまったのだ。らせんは舌を出して、自分の頭をげんこつで軽く叩く。先に到着している友人に道を聞いても周辺の情報はわからないと言われた。そう、彼女は仕方なしに迷っているのだ。

 彼女の風貌は文化系だが、運動神経は決して悪くなく体力もそこそこある。口からは荒い息が出されるものの、身体はいたって元気だった。しかし、その元気さが彼女をますます方向音痴にしていくのだった……


 「交番も近くにないし〜。やっぱり道行くサラリーマンのお父さんに聞くのが一番なのかぁ……でも家庭と自分と会社を守ってる企業戦士の足を止めるのって、正義を守る戦士の一員としては恥ずべき行為のような気もするし〜。う〜〜〜ん……」


 よくわからない論理を独自に展開し、雑踏の中で腕組みをするらせん……周囲のサラリーマンは助け舟を出すどころか、見ない振りをしてさっさとその場を立ち去ってしまう。彼女を取り巻く状況は最悪の方向へと突き進んでいた。



 「OK。ターゲットはもうすぐ車に乗って会社を後にするんだな……わかったぜ、こっちの準備は万端だ。」


 あの銀髪の青年は携帯電話で何者かと話していた。その会話の内容から非合法的な行為を実行に移すことを知るにはあまりにも簡単だった。男は花壇の隅に立ち、ある高層ビルから出てくるであろう正面玄関を注視していた。右手に持った電話をポケットに突っ込んだ後、再びその手をあげた……その手のひらには一枚の羽根があった。茶色い鳥の羽根にも見えるそれは恐ろしく鋭いもので、人を殺すには十分な凶器だった!


 「遺伝子工学を平和利用するだと……あの博士の研究成果はともかく、考えはつまらん。彼の知識はテクニカルインターフェイスでこそ花開く。とにかく死んでもらうか……このザ・ファルコンが未来への道を作り出してやる。」


 彼の決意が瞳ににじむ……白昼の惨劇を今まさに生み出そうとしている彼の目は血の色に染まっていく。彼は小さく舌をなめずる。

 しかし該当のビルから彼の立ち位置まではさまざまな障害が立ち塞がる。道路を挟んで向こうに出てくるターゲットを直線で狙うなら、その刹那に生まれるであろう隙間を縫うしかない。普通の人間が実行するのはとうてい無理な話だ。だが、ファルコンにとっては造作もないことだった。そう、彼は改造人間だった。彼はテクニカルインターフェイス社の非合法工作員として社会の影に潜む怪人なのだ……


 そのファルコンの視線の先に、ついにターゲットが現れる。幾重にも連なった自動ドアを作動させ、悠然と歩く男たちの中に博士はいた……彼の脇は同じ研究者たちで固められていたが、目の前はがら空きだ。ファルコンは「素人め」と鼻で笑い、静かに彼を狙う瞬間を伺う……あの羽根はダーツのように右手に持っていた。そして博士が最後の扉を開いた時、ファルコンは小さく叫ぶ!


 「これからは改造人間の時代だぁ……っ、俺の技をあの世で誉めるがいいっ……!」

 「あのぉ、ちょっとお尋ねしたいんですけど……パフェ屋さん、どこか知りませんかぁ?」


 突如、自分に話しかけてくる女性の存在に気づいたファルコンは手に持った羽根を撃ち出そうと大きく右腕を振りかぶったポーズのまま固まってしまった……! 博士たちはそんなことも知らずに側道で待機していた車に乗りこんでいく……ファルコンはただそれを黙って見守るしかなかった。彼の要人殺害の瞬間を目撃したのは、なんとらせんだった。サラリーマンに声をかけれなかった彼女はようやく話しやすそうで目的地の雰囲気にピッタリな青年に道案内を頼もうと声をかけたのだ。

 一方のザ・ファルコンは右腕を静かに下ろし、らせんに憤怒の形相を向けた!


 「お前のせいで仕事が増えちまったじゃねぇかぁ! このマヌケがぁ!!」

 「マヌケとは何よっ……って、確かにマヌケかもしれないけどぉ……」

 「まずはお前から始末して……ウゴォワアァァァ……後から任務の続きをやることにするぜぇえへへへ……グルワァアァガアアアァ!!」


 自分の身体を反らせながら腕を徐々に上げていくファルコン。全身に込められた力は少しずつその正体を見せ始める……全身を隼の姿に変え、最後には大きな翼を背中から生やし、ファルコンはその異形の姿をあらわにした! 彼が変身する際に上げた絶叫を耳にした一般人はみな、同じような悲鳴を上げながら逃げ場を求めて縦横無尽に走り出す!

 しかし、らせんは臆しない。変身したファルコンをじっと見据えながら、肩幅に足を開き右腕を横に伸ばす! すると、神々しい光とともにドリルが出現する!


 「あっ、あたしにもね! 意地ってもんがあるのよ!」

 『なっ、なんだお前……ただの女じゃないな!?』


 そう叫ぶと同時にドリルが具現化を終え、眼鏡もスカウター状に変形する。彼女は女子高生とは思えないほどの身体能力を発揮してファルコンにドリル突きを見舞う! 不意を突かれたファルコンは驚いてそのまま数メートル上空に舞う……避けられたと同時に彼女は近くの車のボンネットに立ち、勇ましくポーズを決める!


 「銀の螺旋に勇気を込めて、回れ正義のスパイラルっ! ドリルガールらせん、満を持して只今見参!」

 『ドリルガールだとぉ、ふざけやがってぇ! 死ねぇ、死ね!!』


 ファルコンは空中でさらに舞い上がったかと思うと、そのまま加速してらせんの立つ車に急降下した! らせんはそのまま横に大きくジャンプし、それを悠々と避ける……だが、ファルコンは一撃を避けられることを計算に入れていた。ボンネットすれすれで方向転換をし、着地地点と思われる場所に低空飛行で突っ込む! 全身凶器のファルコンは両手を伸ばしてドリルガールの足を刈ろうとした!!


 『お見通しなんだよぉ、お前の行動なんかなぁ! ひゃははははぁ……はっ、い、いな』


 勝利を確信したファルコンが言葉を詰まらせる……彼が目指したその先にはドリルガールがいない。彼は一秒にも満たない時間で次に起こるであろう事実を予測した。しかし、その言葉は彼女がしっかりと代弁してくれた。背中越しに無念と覚悟の表情でそれを聞くファルコン……下唇を血が出るくらいの強さで噛み締めた。


 「残念でした〜、まさかドリルガールが飛べるなんて思ってなかったでしょ? とわあぁぁっ!!」

 『ぐっげええぇぇぇーーーっ!!』


 背中をえぐられたファルコンは悲鳴を上げながらも遥か上空までマッハで上がっていく。その戦いを見守る一般市民はその行動ひとつひとつを確認するたびに大きくざわめく。荒くなった息を整えながら、ファルコンは不敵な笑みを付して宙に浮かんでいるらせんに言い放つ。


 『はぁはぁ……どうした、かかって……来ないのか……?』

 「あんたこそ逃げてばかりじゃ勝てないわよっ!?」

 『そうかい……だったら遠慮なくやらせてもらうぜぇぇぇ!! とうわぁぁああっ!!』


 ファルコンが攻撃を宣言し終えるまでに動き出す。それを両の目でしっかり見ていたらせんだったが、その動作を確認することができない……一瞬見えた残像を頼りに目で怪人を追うらせん。しかし、その道程の途中で聞き覚えのある声が意外な場所から響き渡る!


 『どうした……ちょっと本気を出しただけだがな……』

 「まさ……もう下に」

 『遅いぜぇ、ドリルガールぅっ!! はっはっはっはぁぁあっ!!』


 らせんが地面を見下ろした時にはもう遅い。ロケットのように強烈なファルコンが体当たりを仕掛け、らせんは大空高くに舞い上げられてしまう! 高層ビルの屋上を付近まで吹き飛ばされたあたりでらせんが体勢を立て直そうとぐっと身を引き締め、上昇を必死で食い止める。そしてとっさに眼下を見た彼女はファルコンの次の手を知った!


 「あれは……あの時の羽根! 羽根の弾幕だわっ……!」

 『早くしねぇと蜂の巣になっちまうぞぉぉ!』

 「危ないっ……とぉわ」

 『遅いって言ってるだろぉぉっ! 手伝ってやるから、今度は自分から当たりに行きなぁぁっ!!』


 またもらせんの動きを読んで先手を打つファルコン! 今度はそれが成功し、太陽の光で妖しく煌く羽根の嵐にらせんを叩きこむ!!


 「きっ、きゃああぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」

 『お前には地べたがお似合いだぁ〜〜〜〜っ、はーーーーーっはっはっはっ! この俺に空中で渡り合おうなど100年早いっ!!』


 地面に叩きつけたボールのようにらせんは羽根攻撃でわずかに浮いたかと思うと、そのまま地面へとまっ逆さまに落ちていく……さすがの彼女も強気のままではいられなかった。


 「くっ、な、なんとか……なんとかあいつの早さを殺さないとっ……!」


 力なく腕を落としている彼女の姿はビルの中からも見られていた……そんな彼らの声と表情は悲鳴と落胆の色を深くしていく。地面で懸命に彼女の応援をする者たちも、その姿が大きく映り始めると両手で目を覆い始めた……



 その時だ。高速疾走白バイとして名高いトップチェイサーを操る葉月政人が現場に駆けつけた! 「女子高生が空中戦している」という悲鳴にも似た声の通報を受け、彼が特殊強化服『FZ-01』を装着して出動したのだ!

 葉月はバイク上から空から墜落し続けるドリルガールを一瞬気遣うが、彼女がよろめきながら空中で止まったのを見て迷わず視線を怪人に向けた。その際、目の前のモニターに不思議な情報が映し出された。それは以前戦ったことのある怪人と同類であるとの断定的な内容だった。トップチェイサーを停め、大空高くにいるファルコンに向かって叫ぶ!


 「貴様、テクニカルインターフェイスの改造人間だな……民間人を傷つけるなっ! 僕が相手だ!!」

 『ほぉ、てめぇは……これはまたやりがいのある相手が出てきたぜ。だがよぉ、空も飛べねぇんじゃ話にならねぇよ!!』


 怒りを全身で表現するためか、ドリルガールの時と同じく目標めがけて急降下を始めるファルコン。彼はFZ-01が飛べないことを知っていた。らせんに失敗した手をここで食らわせようと、さらに降下の勢いを限界ギリギリまで上げるファルコン。そして万が一の保険に、あの手裏剣のような羽根を無数にFZ-01に向けて撃ち出したのだ!!


 『てめぇの負けだぁああぁぁぁっっ!!』


 勝ち誇るファルコンの声に動揺せず、葉月は冷静にガトリングライフルを敵とともに飛んでくる羽根を落とすために撃ちまくる! 無数の弾丸は羽根をひとつ残らず砕き、さらにファルコンを狙うが、その勢いは彼が翼で作り出した突風の前に無力化されてしまった……しかし葉月はガトリング部分にアンカーユニットを刺しこむと最高速に達したファルコンめがけてそれを飛ばす!


 「さっきのセリフ……そっくりそのまま君に返そう!」

 『し、しまっ、今からでは減速……』


 錨がファルコンの足を捉えた瞬間、アンカーケーブルが彼の身体の自由を奪った! ファルコンは不自然な軌道で地面へと誘われる。豪快にアスファルトの地面にめり込む音とその強靭な身体が砕ける音が同時に響き渡った!


 『ピギャアァァエェアァァァッッ!!』


 そして最後にファルコンが受けた感触を音にならない叫びで表現した……葉月はそれを見届けた後、アンカーユニットを外しドリルユニットを装着する。その姿を遠目で見ていたらせんも今がチャンスとばかりに力を振り絞って魔法のドリルを急速回転させる!!


 「あのロボットみたいな人には悪いけど、最後のトドメはあたしがもらうわっ! こんなにされちゃったんだから、これくらいやらないと気が済まないっ!」


 ふたりに狙われたファルコンは逃げようにも身体が言うことを聞かない。さらにアンカーケーブルが脚に絡みついてどうしようもない状況に陥っていた。それを見逃さずに葉月が叫ぶ!


 「とどめだっ! うおぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 「あっ、あたしも! ラ〜〜〜スト、ドリィルスピ〜〜〜ン、アタ〜〜〜〜〜〜〜〜ック!!」


 葉月のドリルも回転を始め、ふたつのドリルがファルコンを狙う! 青い閃光を放ちながら回転するFZ-01のドリルと金色の光の粒を散らしながら空中から突撃するらせんのドリル……それらを見つめながら、ファルコンは断末魔の雄叫びを上げる!!


 『うごおおおぉぉぉぉがぁぁぁあああぁっっ!!』


 ドリルがファルコンを貫くと、大爆発を起こして消え去ってしまう……FZ-01の強力な装備と魔法のドリルのフルパワーが生み出した恐るべきエネルギーが敵の身体を木っ端微塵にしてしまったのだ……!

 爆炎が残る道路の真ん中で葉月がほっと一息吐く……が、次の瞬間、自分とともに攻撃した女子高生の存在を思い出し、彼女に声をかける。らせんは敵とは思えないFZ-01を見て警戒は解いていた。


 「ああ、ご協力感謝するよ。僕は警視庁対超常現象機動チームの捜査官をやってる……」

 「け、警視庁って……ま、まさか警察ぅ……?」


 らせんは正直にうろたえた。目の前のロボットみたいな男はなんと警察官だったのだ。このままでは騒ぎを起こした罪で逮捕されてしまうと勝手に思いこんでしまった彼女はふわっと浮かび上がってその場から逃げ出す準備を始めた。正体がばれないように声色を変えて話し始めるらせん。


 「け、警察の方がいらしたなら、あたくしドリルガールにすることは何もございませんのことよ。おほほほほ。それじゃ、後はお任せしました〜。また会いましょ〜!」

 「ちょ、ちょっと待ちたまえ……」

 「おほほほほほ、おほほほほほほほ、ほほほのほ〜〜〜。とにかく早く逃げなくっちゃ……ってああっ、確かパフェ食べに来たんだっけ、あたしぃ〜。制服がボロボロだよぉ……どうしよう、このままの格好で街中歩けないよぉ……」


 「ドリルガール……あれはいったい……???」


 正義のヒロインらしく振る舞ったつもりの彼女だったが、葉月とその周りを取り囲む一般民たちに大きな謎と疑問を残す結果となってしまった。大きなクレーターができたその場所に立つ人間はみな、不思議なヒロイン『ドリルガール』の飛び去っていく姿をただじっと見守っているのだった……ただ、じっと静かに。





 「いつまで見てるのよ、みんなぁ! いつまで経っても変身が解けないじゃな〜〜〜い!」