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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


妖精の居る廃屋
●オープニング【0】
「知ってる? この話」
 瀬名雫が不意にその話を振ってきたのは、街中でたまたま顔を合わせて、近くにあったコーヒーショップへ入った時のことだった。
「妖精の居る廃屋があるんだって。2階建ての、今は誰も住んでいない家屋らしいけど」
 目を輝かせて言う雫。そんな話、いったいどこから聞いてきたのやら。
「少し前にね、ネットでお友だちになった娘から、メールで教えてもらったんだよ☆」
 こちらの考えを察したのか、雫は情報元を口にした。だがその次の言葉があれだった。
「本当はその娘が調べたかったみたいなんだけど……」
 ちらっとこちらを見る雫。……嫌な予感がするのは気のせいでしょうか。
「……場所は聞いてあるから、一緒に調べに行かない? 実は今夜行く予定だったんだぁ」
 雫はにっこりと微笑んで言った。
 ま、これも運命……って奴ですか?

●夢の跡【1】
 西東京地域・某所――夜8時。
 満月の下、碁盤の目のごとく道路で仕切られた広い土地があった。この様子からして住宅用だと思われるが、ほぼ全ての土地は伸びるに任せた草だらけの状態だった。
 しかし、例外的にただ1軒ぽつんと家が建っていた。話通りに2階建て、そこそこ大きく立派な外観だった。だが人が住んでいる様子がないのは、離れた場所からも分かる。
「あそこだよ」
 雫がその家を指差し、皆に教えた。手にはプリントアウトされた地図を持っていた。どうやらあれが件の廃屋のようだ。
「妖精なんて日本にも居るのね」
 緑の瞳でしげしげと廃屋を眺めながら感心したようにつぶやいたのは、ノイエ・シュバルザークという色気ある妙齢の美女であった。衣服の上からも、その豊満なスタイルはよく分かる。
「何か懐かしい響きだわ……」
「居るんだねー。イギリスとか、北欧なんかが本場だと思ってたけど」
 雫が笑顔で言った。ケルト神話や北欧神話などの影響か、確かにそういうイメージはある。
 いや、ごく一般の人間であれば、ファンタジーRPGの影響が強いかもしれないが。閑話休題。
「奇妙だな」
 辺りを見回し、ぼそっとそうつぶやいたのは真名神慶悟だ。小脇には何やら包みを抱えていた。
「何故こんな何もない所に、わざわざ家を建てたのか……理解に苦しむ。来る途中にも住宅街はあったが、そこからは商店街も近かったしな」
 慶悟が言うように、この周囲には本当に何もなかった。そう、コンビニすらも。いいように考えれば、ここに住宅街を作ることで色々と発展させようとしたのだろうが……。
「それはね」
 えっへんと胸を張り、説明をしようとする雫。だが先に、理由を話し始めた者が居た。ビデオカメラを携えたシュライン・エマである。
「計画が頓挫したんですって。近くの不動産屋さんで聞いたんだけど」
 テストを兼ね向こうに見える廃屋を撮影しながら、シュラインが言った。雫が抗議の声を上げる。
「あっ、せっかくあたしが言おうと思ったのにぃ!」
「計画って何でしょうか?」
 にっこりと微笑み、榊船亜真知が話の先を促した。手には大きなバスケットを持っていた。
「ある会社が新たに住宅街作るつもりだったらしいの。それでそこの会長さんだかが、デモンストレーション代わりに最初に家を建てたって話。……たぶんあれなんでしょ」
 まあ、家が1軒しかない以上そうなるか。
「でもねっ、バブルが弾けてぜーんぶパーになっちゃったんだって! 会社も潰れて、会長さんは夜逃げしたって聞いてるよ!」
 シュラインにその先を語られる前に、雫が一気に説明を終えた。
「……そういうこと。その不動産屋さんも同じこと言ってたわ。今この土地がどこの管理下にあるのかまでは、手が回らなくて分からなかったけど」
 シュラインが苦笑した。
「バブルの夢の跡ですよ」
 と、静かに言ったのはセレスティ・カーニンガム。その手にはステッキを握っていた。
「西東京の方で盛大に弾けた所があるとは聞いていましたが……そうですか、ここですか」
 感慨深気なセレスティの言葉。よもや実際にその場所に足を運ぶことになるとは、思ってもみなかったのだろう。
「ではおおよそ10年前後ですね」
 亜真知が誰ともなく確認をする。バブル経済の崩壊が1990年代初めだから、その通りざっと10年か。
「とにかく、近くまで行ってみよ」
 雫が皆を促し、廃屋の前まで移動した。

●心当たり【2D】
「幽霊ではなく妖精と言っているということは、それらしい外見ということか」
 移動中、慶悟が何気なくつぶやいた。慶悟・シュライン・ノイエが先頭に立ち、少し離れて亜真知、さらに離れてセレスティと雫という並びである。
「それらしくない外見の妖精も居るけれど」
 ノイエがくすっと微笑んだ。まあ一口に妖精といっても、ピンからキリまである訳で。
「分かりやすいのはそうかも」
「妖精ねえ……」
 シュラインが小さな溜息を吐いた。脳裏に一瞬、虚無の境界の一員であるニーベル・スタンダルムの肩に居た妖精の姿がよぎる。
(まさかね)
 そして手にしたビデオカメラに目をやる。
「……映るかしら」
 暗闇でも大丈夫なビデオカメラであるが、さすがに『妖精対応!』かどうかは分からない。その前に、肉眼で見えるかどうかもまだ不確かなのだが。
「それにしてもその妖精、異国から持ち込まれたものか?」
「その方が現実的かもしれないわね」
 慶悟の言葉に、うんうんと頷くノイエ。ひょっとしたら異国ではなく、異世界かもしれないが。
「人に見られているということは表に出る必要があったからだろうが……まあ、妖精というのは気ままな存在だとも聞くからな。退屈で、というのも理由になるか……」
「そうそう、気ままなのは本当に気ままなの」
 慶悟の言葉に、ノイエは深く何度も頷いた。

●廃屋の外【3】
 廃屋の門前。遠目ではちと分からなかったが、10年以上放置されているのはさすがに伊達でなかった。
 全体的に薄汚れており、窓の一部が割れてたり、屋根の一部が壊れていたりしていた。当然、電気水道ガス全て止まってる。おまけに、玄関の扉に貼られていた半分破れている古びた貼り紙がまた泣かせる。
「『金返せ、このドロ』……続くのは当然『ボー』だよね」
 何だかなあといった表情の雫。ちなみに残っていたのがそれだけで、扉にはもっと貼られていた痕跡が残っていた。シュラインのビデオカメラは、それをも撮っていた。
「質の悪い所から資金調達していたんでしょう。思うに……」
 セレスティが頬の上から下へ指先をすっと滑らせた。言わずとも、仕草だけで分かる。
「自殺とか、その類の話は?」
 慶悟がシュラインに尋ねた。こんな貼り紙を見たら、危惧したくもなるだろう。
「あ、それは大丈夫。ここだけじゃなく周辺含めても、血生臭い事件はこの10年来は起きてないそうよ。ただ……」
「ただ?」
「その不動産屋さん曰く、『夜中に忍び込んでる不良が居るみたいだ』って。一応近所の人にも聞いてみたけど、そういう話もあるみたい。現場を見た人は居なかったけど」
「……変ねぇ……」
 ノイエが門から出てきて、皆の所へ戻ってきた。廃屋から特に何も感じなかったので、中の様子を窺いがてら廃屋をぐるり1周していたのだ。
「どうしたの?」
「四方の地面に何か描いた跡が残ってたの。どれも消されていたけど……どの意味合いかしらねぇ?」
 何やら指折り数えつつ、雫に説明するノイエ。そこで、さっそく皆で確認に行くことになった。
 確かに廃屋の四方に、ノイエが言うような跡がある。どれも足でざっと消した感じだ。
「あ、ここにもあった。……ほんとだね、何でだろう?」
 4ケ所回り、最後の場所で雫が言った。さて、これはいったい何なのか。
「結界の跡か。封印……いや、人払いか」
「うん、その類かしら。一番可能性高そうなのは」
 慶悟のつぶやきにノイエが頷く。だが雫がそれに異を唱える。
「本当に人払いの結界の跡なのかなあ。だって、夜中に不良が忍び込んだって話があるんだよね? だったら矛盾しない?」
「わざとそんな話を流したんじゃないでしょうか?」
 ふと亜真知が口を挟んだ。雫がきょとんとする。
「それ、どういうこと?」
「不良の方が居ると分かっている場所に、夜中わざわざ確かめに行く方が、そうそう居られるとは思えませんし。どうでしょうか?」
「あ。そうだよね……なるべくなら、危ない場所って避けたい人がほとんどだろうし」
「とすると、二重に人払いの策を講じたということになりますか」
 セレスティが結界の跡をステッキで軽く突いた。それから、思案顔で廃屋を見上げる。
「人を近付けたくない何かがある、もしくは何かをしていた……かと。そこに妖精が関係しているんでしょう」
「でも、今は大丈夫じゃない?」
 さらっとノイエが言った。
「え、どうしてそう言えるの?」
「もう使わないからこそ、結界を消したんでしょ?」
 ノイエはくすりと妖しく微笑み、雫に答えた。言われてみれば、必要であるから結界は構築される訳で。わざわざ消してあるのは、不要であるという明確な意思表示と考えることも出来る。
「とにかく、ひとまず入ってみるしかないのよねえ……。ここであれこれ言っていても仕方ないし」
 廃屋の外観を撮影しながら、シュラインがつぶやいた。

●廃屋探索【4】
 実際に廃屋へ入る前に慶悟が式神を放ち、先行させて中の様子をざっと調べさせた。
「無人のようだ」
 それから自らも中に入り、玄関先を霊視してみた。
「……大丈夫だな」
 特異な気も感じられなかったので、慶悟は外で待機していた皆を手招きした。
「もっと埃っぽいかと思ったけど、何かそうでもないね。蜘蛛の巣もあんまりないし」
 雫が素直な感想を口にした。埃は積もっているのだが、明らかにそれは10年分ではない。だいたい1ヶ月分、多く見積もっても3ヶ月程度だ。
「結構人が出入りしてたのね」
 廊下を撮影していたシュラインが言った。見ると、10人前後の足跡が積もった埃の上にくっきりと残っている。どう見ても人間の靴跡だ。
「じゃ、妖精探してみる?」
 雫が皆に言った。そりゃそうだ、そのために来たのだから。ここで帰ったら、何のために来たのか分からなくなってしまう。
「あの、2人以上で行動しませんか? 夜ですし、あまりバラバラになるのはどうかと思うんです」
 雫が玄関から先へ上がり込もうとした時、亜真知がそう提案した。危険はなさそうな雰囲気だが、何が起こるかは分からない。もっともな提案だった。
 結局特にペアは決めず、2人以上で行動するよう心掛けることとなり、一同は廃屋の探索を開始した。2階は慶悟の式神が調べるということだったので、まず1階を手分けして調べてみることとなった。
 約10分後、一同は1つの部屋に集まっていた。
「1階では何も見付からなかったですね」
 部屋の中を見回し、セレスティが言った。1階をくまなく調べたのだが、本当に何も見付からなかったのだ。
「2階にも何もないようだ。……地下もないようだし」
 ぼりぼりと頭を掻く慶悟。地下への入口があるかと思って調べてみたのだが、どの部屋も空振りだったのだ。
「うーん、幽霊の正体見たりかな〜」
 がっかりした様子の雫。妖精とは単なる噂に過ぎなかったのか。
「占ってみる?」
 そう言って、ノイエが懐から水晶玉を取り出した。その時、シュラインが口を開いた。
「その前に、少し気になることがあるんだけど」
「何か見付けたの?」
「足跡」
 雫の問いかけに、短く答えるシュライン。
「え、当たり前でしょ? 誰か入ってたのは間違いないんだし」
「そういう意味じゃなくて、変なのよ。足跡の量が」
「量ですか? それは多いとか、少ないとか」
 セレスティが口を挟んだが、シュラインが首を横に振った。
「不自然なくらい……均等じゃない? どの部屋にも、同じ量の足跡があるのよ」

●足跡の謎、部屋の謎【5】
 シュラインの言葉を受け、さっそく足跡に注意して調べ直す一同。自分たちの足跡も加わったために少し分かりにくくなっていたが、ほぼどの部屋にも同じ量の足跡があった。
「2階も同じだ」
 式神に2階を調べさせていた慶悟が言った。
「しかし……何のためにそんなことを」
「んー、どの部屋を使ったか分かりにくくするため? だけど、やっぱり何のためって疑問は残るわよね」
 腕を組み思案するシュライン。すると、亜真知が思い出したように言った。
「あの、わたくしも気になったことがあるんですけれど」
「他にもあるの?」
「こちらです」
 亜真知は雫を促して、移動を始めた。他の皆もその後に続く。
 亜真知は隣り合った2つの部屋を皆に見せた。隣り合った部屋とはいえ、各々の部屋の扉は離れているのだが。しかし何がある訳でもなく、ごく普通の部屋だった。
「この部屋がどうかしたの?」
 首を傾げる雫。その時、ノイエがあることに気付いた。
「あら?」
 再び2つの部屋を覗くノイエ。そして皆の方へ振り返ってこう言った。
「どっちも何だか狭くないかしら」
「あっ」
 セレスティがはっとした。
「……もしや隠し部屋があるのでは」
 そこで一同は2つの部屋の大きさを調べてみた。結果、扉の距離に比べて部屋の大きさが小さいということが判明した。
 さらに部屋の壁を調べ、一同はからくり仕掛けだった隠し部屋への入口を見付けて中へ入ったのだった。

●そこに居たのは【6】
 隠し部屋に懐中電灯の明かりが広がった。コンクリート打ちっぱなしのこの部屋にあるのは、人が居た痕跡である足跡と奥の壁に埋め込まれた大きな金庫だけであった。
「隠したかったのって、この部屋に出入りしてたことなのかなあ」
 きょろきょろと部屋を見回し、雫が言った。
「というよりは、この部屋の存在そのものなんでしょう。万一誰か来ても、ばれないよう」
 セレスティが雫に言った。恐らくは両方の意味合いがあったのだろうと思われる。
「ん?」
 ぴくっと眉をひそめるシュライン。
「ねえ、何か聞こえなかった?」
 シュラインが皆に尋ねた。しかし、他の者には何も聞こえてはいなかった。その瞬間――。
「……助けて〜……」
 か細い声が聞こえてきた。それも奥の金庫の中から。慶悟は式神をすぐさま呼び寄せると、金庫を開けるように命じた。鍵さえかかっていなければ、普通に開くはずである。
 結果から言うと、金庫は鍵がかかっていなかったようでいとも簡単に開いた。
 そして、中からふらふらと飛び出してきた生物が居た。それは背中に蝶のような羽根のある、体長50センチほどの緑のツインテールで小麦色の肌を持つ可愛らしい生物だった。
「あっ!」
 その生物を見た瞬間、雫とシュラインが同時に声を発していた。
「ふう〜、やっと出られたよ〜」
 ふらふらと部屋の中を飛び回るその生物。外見はまさしく妖精であった。
「あれ?」
 ようやく皆の存在に気付いたのか、その生物は皆の顔をきょろきょろと見回した。
「ねえねえ、アズを助けてくれたのって皆なの〜?」
 アズと名乗ったその生物は、無邪気に微笑み話しかけてきた。それに答えたのはノイエだった。
「そうだけど……あなた、あたしのこと見えてる?」
「うん、見えるよ〜。お姉ちゃんが助けてくれたの〜? ありがと〜」
 パタパタと羽ばたき、アズがノイエの方へ近付いてゆく。
「悪意はないみたい」
 ノイエがそう言うと、部屋の中の緊張した雰囲気が少し和らいだような気がした。
「もう、びっくりしちゃった〜。金庫の中を覗き込んでたら、勝手に仕舞っちゃったんだもの〜。中からだと全然開かないんだよ〜」
 なるほど、何かの弾みで金庫の中へ閉じ込められたという訳か。第一、中から開けられる金庫があるという話はとんと聞かないし。もちろん、その必要がないからだが。
「ねえ、ちょっと」
 シュラインがアズに話しかけた。
「何〜?」
「……見覚えない?」
 シュラインは、自らと雫を交互に指差した。
「う〜ん……どうだっけ〜?」
 笑って首を傾げるアズ。その時、アズのお腹が鳴った。亜真知がくすっと微笑む。
「お腹が空いているんですね。よかったら、一緒に食べませんか?」
 亜真知はバスケットを開いてアズに見せた。中には亜真知お手製のクッキーや、紅茶の入ったポットが入っていた。妖精へのお土産である。
「うんっ、アズ食べる〜☆ あ、アズはアズ・ウェンリっていうんだよ〜☆」
 アズは満面の笑みを浮かべた。

●場違いなお茶会【7】
 一同は隠し部屋を出て広い部屋へ移動し、クッキーや紅茶を味わうこととなった。ここに慶悟が持参していた洋菓子も加わり、それなりに充実したお茶会となっていた。
「美味しいですか?」
 亜真知がクッキーの感想をアズに尋ねた。
「うんっ☆ クッキーも、紅茶も、このお菓子も美味しいよ〜☆」
 にこにこと微笑みながら、亜真知と慶悟に言うアズ。お菓子はアズの心をぐっとつかんだようだ。
 助けてもらったからか、お菓子の効能か、アズはとても友好的であった。例えばここで何をしていたかと問えば、
「アズね〜、皆と一緒にここでよく話し合いしてたんだけど、もう使わないってことになったから、壊される前にもう1度来てみたんだ〜。もうちょっとしたら、迎えに来てくれるんだよ〜」
 などと、聞いていないことまで話してくれた。しかし『皆』のことや、『話し合い』の内容などについて突っ込むと、
「それは内緒なんだ〜♪」
 そう言って誤魔化すアズであった。
「あなたはどこから来たの? 日本に元々居たのかしら」
 ノイエが問うと、アズはしばらく考えてから答えた。
「アズどこから来たのかな〜? もう分かんないや〜。でもアズ色々行ったよ〜。ヨーロッパでしょ〜、インドでしょ〜、エジプトでしょ〜。あ、モスクワって寒いよね〜?」
 ノイエに同意を求めるアズ。ともあれ、アズは世界を点々とはしているらしい。
 その他、アズは色々と喋ってくれた。いつも一緒に居る男性に突然覚えのない借金が出来て、大変なことになっているという話。迎えに来るのは『エヴァ』という名前の娘であるという話などなど。
 会話は終始和やかに進んでいった。特にノイエとの間では、話が弾んでいるようだった。
「マルガーって村だったかな〜。そこの領主が、アズをしつこく追いかけてきたんだよ〜」
「ああ、あの村ねぇ。しつこいでしょ?」
「しつこいよ〜!」
 まあ、これを話が弾むというのかはさておき。
 やがて窓の外に見える月を見て、アズが皆に言った。
「あ、アズそろそろ行かなくっちゃ〜。お菓子ごちそうさま〜、バイバ〜イ☆」
 アズは両手に持てるだけのクッキーを抱え、部屋の外へ飛んでいった。まさに妖精、気ままなものである。
「妖精の話は本当でしたね」
 アズの消えた方を見て、セレスティがくすっと笑った。何だかんだとあったが、話自体は事実だった訳で。ともあれ今回の目的は達したと言えるだろう。
「……2人ともあの妖精に見覚えがあるのか?」
 アズが居なくなってから、慶悟が雫とシュラインに疑問をぶつけた。アズが出てきた瞬間の2人の反応が、気にかかっていたのだ。
 顔を見合わせる雫とシュライン。そして、シュラインが口を開く。
「虚無の境界……ニーベル・スタンダルムと一緒に居た妖精の娘よ」
 雫が大きく頷いた――。

【妖精の居る廃屋 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
     / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員 】
【 0389 / 真名神・慶悟(まながみ・けいご)
                   / 男 / 20 / 陰陽師 】
【 1593 / 榊船・亜真知(さかきぶね・あまち)
  / 女 / 中学生? / 超高位次元知的生命体・・・神さま!? 】
【 1848 / ノイエ・シュバルザーク(のいえ・しゅばるざーく)
       / 女 / 妙齢? / 魔女・兼・メンタルセラピスト 】
【 1883 / セレスティ・カーニンガム(せれすてぃ・かーにんがむ)
        / 男 / 青年? / 財閥総帥・占い師・水霊使い 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全11場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・大変お待たせいたしました、廃屋での妖精探索のお話をお届けいたします。まあこういう結末だった訳ですが……さて、いかがだったでしょうか? 高原としては『誰もいない街』からの空白を埋める意味合いのお話だったのですが。虚無の境界に関わるお話は今後も出てくることになると思います。
・ちなみにこの廃屋、皆さんが調べてから間もなく取り壊されました。
・シュライン・エマさん、65度目のご参加ありがとうございます。予想的中でしょうかね。まさしくその通りでした。足跡に注意したのはよかったと思いますよ。あと一応ビデオカメラには、アズの姿が残っています。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。きちんと目を通させていただき、今後の参考といたしますので。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。