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<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


ダウジング
●オープニング【0】
 放課後――私立神聖都学園高等部のとある教室にて。教室にはまだ何人かの生徒の姿があった。
「……あ、ここなんだね」
「へー、ここなんだー☆」
「ダウジングってすごーいっ!」
 3人の女生徒たちが教室の後ろの方の席に固まり、きゃいきゃいとはしゃいでいた。
 1人の女生徒の手には水晶だろうか、透明な石のついたペンダントが握られている。そして机の上には、学園の校舎案内図が広げられていた。
「じゃ、今夜10時頃に正面玄関前に集合だよ」
「うんっ☆」
「わくわくするねーっ!」
 3人の女生徒はそう言うと校舎案内図を仕舞い、鞄を手に教室を出ていった。
 しかし、そんな3人の後姿を見ている女生徒が居た。原田文子、3人の同級生である。
「…………」
 文子は無言のまま、何やら思い詰めたような表情を浮かべていた。
「文子ちゃん」
 その時、文子の肩をぽんっと叩く小柄な女生徒が居た。
「あ……ヒミコちゃん」
 影沼ヒミコ――文子の同級生で友だち、怪奇探検クラブに所属している女生徒だった。
「どうしたんですか、思い詰めた顔して」
「えっ。……そう見えた?」
 文子が尋ねると、ヒミコはこくっと頷いた。
「ちょっと気になったからなのかしら……」
 文子は、今し方見聞きしていたことをヒミコに話してみた。するとヒミコはこんな提案をしてきた。
「気になるのなら、一緒に調べてみましょうか? 3人の後をつけてみて」
 もっともな意見ではある。気になるなら調べればいい、単純明快だ。
「2人だけで心許ないなら、私のネットのお友だちにお願いして、手伝ってもらえそうな人を紹介してもらいましょう。ね?」
 にっこり微笑むヒミコ。文子は思案した後、ヒミコの提案を受け入れることに決めた。
 そして――夜10時少し前、正門前に文子とヒミコ、それと一緒に調べてくれる仲間たちの姿があった。
 さて……3人は何をしようとしているのだろう。

●まずはご挨拶【1】
「初めまして、こんばんはっ!」
 元気な女の子の声が、辺りに響き渡った。銀髪ショートカットの小学校低学年くらいな女の子が、ヒミコと文子に対して挨拶をしている所であった。
「はい、こんばんは。ちゃんと挨拶出来るなんて、偉いですね。でも、もうちょっと声を小さくしてくれると嬉しいかも」
 苦笑いを浮かべるヒミコ。正門前から正面玄関前までは少々距離があるとはいえ、大きな声を出すと件の3人に気付かれる恐れもある訳で。
「あ、ごめんね。みあお張り切り過ぎちゃったかな? えっと……文子とヒミコだっけ、よろしくね」
 文子とヒミコの顔を交互に見て、改めて挨拶をする女の子――海原みあお。子供らしい天真爛漫な口振りというか何というか。
「ヒミコちゃん☆」
 と、そこに黒猫を抱えたツインテールの可愛らしい少女がやってきて、ヒミコの服の裾をくいくいと引っ張った。振り返るヒミコ。
「茉莉奈ちゃん! 来てくれたんですか?」
「うんっ、マールと一緒に来たよ! せっかく、ヒミコちゃんが呼んでくれたんだもん☆」
 マールという名の黒猫を抱えた少女――楠木茉莉奈はヒミコの言葉に嬉しそうに頷いた。そしてあれこれと、他愛のない話を交わす2人。
「そうだ、ヒミコちゃん。そこにここの制服を着た娘が居たけど?」
 ふと思い出したように茉莉奈が言った。
「え?」
 すると物陰から1人の少女がすす……っと姿を現した。神聖都学園の制服に身を包んだ戸隠ソネ子だ。
「……コンバンハ……」
 ソネ子がぼそっと挨拶の言葉を口にした。
「あの……一緒に調べてくれる人ですか?」
 やや戸惑いつつ確認をするヒミコ。ソネ子はこくんと頷いた。
「でも、その制服……うちのでしょう? 文子ちゃん、彼女知ってますか?」
「ごめんなさい。分からないわ」
 ヒミコに話を振られ、文子が頭を振った。それを受け、再度ソネ子に確認をするヒミコ。
「どこのクラスですか?」
「テンコウセイ……」
 またソネ子はぼそっと答えた。
「転校生? ……じゃあ私たちが知らないのも、当たり前ですよね」
「そうね」
 ヒミコと文子は顔を見合わせて、くすっと微笑んだ。
 そんな少女たちのやり取りを、2メートルほど離れて見ている者たちが居た。シュライン・エマと、宮小路皇騎である。
「……引率の先生になった気分だわ」
 シュラインがそうぽつりと感想を漏らした。無論そんな感想が出るには理由がある。ここには7人居る訳だが、成人しているのはシュラインと皇騎の2人のみ。
 平たく言えば、何かあった場合には責任を取らなきゃいけなくなるのはこの2人ということである。シュラインのつぶやきは、これを踏まえてのものであった。
「まさしく文字通りです」
 皇騎が笑みを浮かべて言った。シュラインが不思議そうな顔をした。
「文字通りって?」
「近々高等部へ、特別非常勤講師として着任予定なんですよ。なので、今回のお話はいいタイミングでした」
「ああ……下見も出来るからかしら」
「ええ」
 皇騎はシュラインの言葉に答えると、校舎の方へ目を向けた。正面玄関前に件の3人だろうか、らしき姿が動いている。向こうも時間通りに集合したらしい。

●追跡開始【2】
「すみません。ご迷惑おかけして」
 皇騎たちのそばで、文子の声が聞こえた。いつの間にか、近くへ来ていたようだ。相変わらず、思い詰めた表情をしていた。
「いいんですよ、好きで来ているんですから」
 皇騎が優しい声を文子にかけた。
「そういうこと。迷惑だと思ってたら、そもそも来ていないでしょうし。……とりあえず、あの2人はそう思ってないでしょ」
 シュラインはヒミコの方へ目を向けた。みあおと茉莉奈が、交互にヒミコに話しかけている所だった。
「2人ともやっぱりなにか芸持ちなの? みあお霊感みたいなもの持っているんだよ」
 凄いでしょうとでも言いたげなみあお。しかしヒミコは答えに困っているようだった。
「文子ちゃんは知らないですけど、私は……あるようなないような……でしょうか」
 曖昧な答えを返すヒミコ。
「へ〜、ヒミコちゃんそうなんだ☆」
 茉莉奈が興味津々といった表情で、ヒミコの腕にぎゅっと抱きついてきた。
「あ、あはは……はは。そんなことより、茉莉奈ちゃん何か調べてくるって言ってませんでした?」
 話題を変えようとするヒミコ。茉莉奈は腕から離れることなく答える。
「うん、愛読してるおまじない雑誌やインターネットで……何だっけ……水晶か何かのペンダント? それについてちょっと調べてみたの」
「何か分かりましたか?」
「全然」
 茉莉奈がしれっと答えた。だが話はそれで終わりじゃなかった。
「でもね、最近インチキなおまじない道具売ってる人たちが居るんだって。ペンダントじゃあないけれど、気になったのはそのくらいかなあ?」
「へえ……」
 ヒミコは茉莉奈の話を興味深く聞いていた。その間にシュライン・皇騎・文子の3人も、ヒミコたちのそばへ来ていた。
「シりたいコト……だうじんぐ……何をサガすの?」
 ソネ子が皆に疑問をぶつけた。そういえば、件の3人は何を探していたのだろう。
「何かナくしたの? 何をミつけたいの?」
 重ねて尋ねるソネ子。ヒミコと文子が顔を見合わせる。
「文子心当たりない?」
 みあおが尋ねたが、文子は首を横に振った。
「ごめんなさい。何を探しているかは聞こえなくて」
「うーん……たぶん、お宝とか水脈かだと思うけど」
 そもそもダウジングとは、何かを探す際に行うものである。水道工事などでも実際に利用されていたりする。なので、みあおの推測も当たらずとも遠からずかもしれない。
「文子ちゃんの話を聞く限り、彼女たち楽しそうだったんだよね。深刻なことをしようとしているとは思えないけど……」
 茉莉奈はそう言い、思案顔になる。シュラインがふと口を開いた。
「そういえば、場所の特定が曖昧な怪談なんてあるのかしら。よく学園七不思議なんて言うけれど……」
「ありますよ。七不思議なんてものじゃなく、いっぱい」
 ヒミコがさらりと答えた。文子もそれに頷く。それを聞き、みあおが目を輝かせる。
「わぁ……さすが噂に名高い神聖都学園だね!」
 どういう噂か、確認しなくとも分かるのは気のせいだろうか。
「宝物があるとか、そういう系統の怪談はあるの?」
「ええっと、理事長の隠し財産とか、生徒会長の呪われた万年筆とか……」
 指折り数え挙げてゆくヒミコ。ただ、いくつかあって絞り切れないらしい。
「……中に入りましたよ」
 件の3人の動きを見ていた皇騎が、皆に知らせた。さっそく追いかける一同。正面玄関前へ移動する最中、茉莉奈が真面目な表情でつぶやいた。
「深刻なことをしようとしているとは思えないけど……でも、だからこそうっかりと危険なことしちゃうかもしれないよね」

●夜の校舎【3】
 夜の校舎は無気味である。日中は生徒たちで賑わっているのに、夜中は無人でしんと静まり返っているから余計にそう思えるのだろう。
 一同は件の3人に気付かれぬよう、一定の距離を保ちつつ追いかけていた。
「懐中電灯はなしだよね」
 みおあは小声でそう言って、持参した懐中電灯を鞄の中に仕舞い、入れ替わりにデジタルカメラを取り出した。懐中電灯の光で、向こうに気付かれないようにするためだ。ちなみに鞄の中には、お菓子やジュースがしっかりと。
 しかし懐中電灯なしでも、追うのはそれほど難しくはなかった。まず件の3人が懐中電灯を使っていたこと、そして普通に喋っていたからである。光と声を追えば、どちらへ向かってゆくかは分かる。
「緊張感ないわねえ……」
 苦笑いを浮かべるシュライン。3人の会話を耳にしていたが、それが本当に今時の女子高生な会話だったので、半ば呆れていたのだ。無論、今回のことに関係ありそうな会話などない。
「ま、それはいいとして、あの先は階段があるのよね」
「そうですけど……どうして知っているんです?」
 シュラインの言葉に、文子が不思議そうな顔をした。
「事前に学園見取図は頭に入れてきたから。一番上の階にあるのは図書室だったかしら」
「学習資料室です。物置みたいなものですけど」
「……他の校舎と間違えたかな」
 完全に頭に入っているとは言い難いらしい。
「彼女たちが目指すのは学習資料室?」
「そこにお宝か何か隠されているのかな?」
 茉莉奈とみあおが相次いで言った。そう考えるのが妥当といえば、妥当か。
「……おヘヤのカギは……?」
 ソネ子がヒミコに尋ねた。するとヒミコがあれっといった表情を見せた。
「言われてみれば、鍵がかかってるんだから……行っても入れないはずですよね」
「鍵があるのはどこです」
 皇騎が文子に尋ねた。
「職員室です。でも職員室はここの真反対の方角ですけど」
 件の3人が、校舎に入ってから職員室の方へ向かった様子は一切ない。とすれば、予め鍵を用意していたことになるが……。
「ちょっと、後ろから誰か来たわ」
 階段付近へ差しかかった時、シュラインが皆に知らせた。上へ向かった件の3人、そして自分たちのものとは違う足音が後ろから聞こえてきたのだ。
 急いで物陰に隠れる一同。そして、後方から女性の声が聞こえてきた。
「誰か居るの?」
「あれ? この声……」
 ヒミコがそっと物陰から覗き込み、すぐに顔を引っ込めた。
「カスミ先生です!」
「誰それ?」
 ヒミコが出した名前を聞き、きょとんとなるみあお。そこで文子が簡単に説明をした。響カスミ――神聖都学園の音楽教師である。けれども、何故この時間にこんな場所に居るのか。

●遭遇者1名【4】
「だっ……誰か居るんなら、素直に出てきなさい」
 カスミは一同の居る方に向かって再度言うと、ゆっくりと近付いてきた。このままでは、間違いなく発見されてしまう。
 と――何を思ったか、皇騎が物陰から出てカスミの前に姿を見せた。一瞬びくっとなるカスミ。
「だ、誰ですか?」
「おどかしてすみません。怪しい者じゃありませんから」
 皇騎は笑顔で穏やかにカスミへ話しかけた。そして自らの身分を明かし、物陰に居るヒミコと文子とソネ子たちを手招きした。出てくる3人。
「そういう訳で、無理を言って彼女たちに案内をしてもらっていたんですよ。どうしても時間の都合がつかなくて、こんな夜遅くになってしまいましたが」
「ああ……近々どなたか着任されるという話は聞いていたけれど、あなたなのね」
 カスミは皇騎の説明に、一応納得したようだった。
「ええ、そうです。これからお世話になります」
 ぺこっと頭を下げる皇騎。カスミが深く息を吐いた。
「もう……誤解するような行動はやめてね。人影が見えたから、つい追いかけたけど」
「すみません。あと、彼女たちは責めないであげてください」
「……ゴメンなサイ……」
 皇騎に話を合わせるように、ソネ子が頭を下げた。
「分かったわ。あなたたち、案内が終わったら早く帰りなさい」
「はい、あとこの校舎だけですから。でも先生はどうしてここに?」
 ごく自然にヒミコが尋ねた。
「私は音楽室に忘れ物を取りに来て、帰る所だったの」
 なるほど、だからここに居る訳か。と、文子が何かに気付いたようにカスミに尋ねた。
「職員室から鍵を持ってきて、ですか?」
「そうよ。全部の教室の鍵があるから」
「……全部ありましたか?」
「え? そう言われても、覚えてないわ。でも、私が鍵を取りに行った時、誰か職員室から出てきた気もするから……他の先生が、私みたく忘れ物を取りに行ったのかも。どうしてそんなことを気にするの?」
「いえ、何でもありません」
「じゃあ、本当に早く帰りなさいね」
 カスミはそう言い残し、来た廊下を戻っていった。やがて姿が見えなくなると、一同の間に安堵の空気が流れた。
「もう居ない?」
 物陰からぴょこっとみあおが顔を出した。
「うん、足音聞こえなくなったから、もう大丈夫でしょう」
 カスミが居なくなった廊下を見つめ、シュラインが言った。
「あ〜、すっごくドキドキしちゃった。ね、マール?」
「……フミュ……」
 腕の中のマールに話しかける茉莉奈。ところが、マールは茉莉奈の腕の中で何故かぐったりとしていた。
「あれ、どうしたのマール? ねえ、マールったら。……疲れちゃった?」
 不思議そうな表情で、マールの頭を撫でてあげる茉莉奈。
 茉莉奈は気付いていなかった。さっき隠れている最中、無意識のうちに腕に力がこもってしまったことに。で、腕と胸とに挟まれて……きゅう、と。もっとも、1分もしないうちにマールは元気を取り戻したが。
「ヒミコ、急ご。もうあの3人、学習資料室に入ったかも。さっきのお話聞いたでしょ」
 みあおが皆を急かせる。確かに、今のやり取りでちょっとしたタイムロスとなってしまった。またカスミの話からして、件の3人が鍵を持っている可能性は高い。
 一同は静かに階段を昇ってゆく。そして、1つ上の階へ昇った所で、ソネ子がぼそっと皆に告げた。
「……別ホウコウからオいかける……」
 言うが早いか、ソネ子は他の者たちを残し、廊下の闇の中へ消えていった。

●失言【5A】
「文子さん」
 階段を昇りながら、皇騎が振り返ることなく文子の名を呼んだ。
「はい」
「今追いかけている3人のこと、何かご存知ですか。例えば、親しくしていたとか」
 皇騎が探りを入れる。文子はすぐに質問に答えた。
「いえ、普通に同級生で……ヒミコちゃんも、私も特に親しくしていることはありませんけれど。ただ、いつもよく取り留めのない噂話をしていたことしか」
「噂話って、怪談話もなの?」
 みあおが突っ込むと、文子がこくっと頷いた。
「そうすると、やっぱり宝物か何かの噂話を聞いて、ダウジングで探してみようとした……でいいのかな? ヒミコちゃん、どう?」
 茉莉奈が今までの情報をまとめて、ヒミコに同意を求める。状況からすると、その可能性は非常に高い。
「普通の同級生、と。それなのに、3人のことが気になる訳ですね。……何が気になるんです」
 足を止め、振り返る皇騎。一瞬の沈黙。
「気になるというか……嫌な予感がして。あの、心の奥がざわざわって……ラジオのノイズみたく……どうしてか分からないんですけど……」
 文子は思い詰めた表情で説明をした。
「まさかとは思うんだけど」
 聞こうか聞くまいか少し躊躇していた様子のシュラインが、結局疑問を尋ねるべく口を開いた。
「あなた、学習資料室に何があるか知っているんじゃない?」
「いえ、知りません」
 文子がまっすぐにシュラインの目を見て答えた。
「え? んー……だって、ずっと何か思い詰めた顔をしてて……」
「……これが普段の顔なんです」
「あ」
 シュラインが、しまったといった表情を浮かべた。

●まものにであった【6】
「きゃああああああああああああああっ!!」
 絹を裂くような悲鳴が、最上階から聞こえてきた。しかも、3人分。階段を昇っていた一同は、はっとして急いで駆け上がる。
「いやっ、放してっ、放してぇっ!!」
「やああああああああああああっ!!」
「やだっ、これ何なのよぉぉぉっ!!」
 最上階に到着し、学習資料室へ向かう一同。悲鳴は明らかにそこから聞こえていた。
「他に誰か……いや、何か居るようですね」
 言い直し、唇を噛む皇騎。心配していたもしものことが、起こってしまったのは明白だった。
 学習資料室の鍵は当然開いていた。急いで扉を開け、中へ飛び込む一同。
「何これ!?」
 飛び込んだ瞬間、シュラインが驚きの声を上げた。そこに居たのは――牛と馬を混ぜ合わせたような頭で腕が6本もある、黒光りするたくましい肉体を持つ生物であった。
「……グルルルルルルルル……」
 犬か狼のような唸り声を上げる生物。話が通じるとは、とうてい思えない。
「悪魔……?」
 唖然として、つぶやくヒミコ。まさにそう呼んで差し支えない外見ではある。
「あーっ、ヒミコちゃん! 助けてえーっ!!」
「急にこいつが現れて……いやーっ、引っ張らないで!!」
「ぐす……あたしたちを捕まえたの!! お願い、何とかしてーっ!!」
 その生物は、6本の腕を巧みに操って件の3人の身体をがしっと押さえ込んでいた。うち1人の首には、話にあったペンダントらしき物がかかっていた。
「何とか……そうだ、目を閉じて!!」
 いい考えでも浮かんだのか、みあおが3人に向かって叫んだ。言われた通り、目を閉じる3人。すかさずみあおは、手にしていたデジタルカメラのシャッターを押した。
「グアッ!?」
 フラッシュが生物に向かって炊かれ、一瞬まぶしそうな様子を見せた。3人を押さえていた腕の力が、少し緩んだ気がした。
 そんな時、生物の背後から勢いよく肉体へ絡み付く物があった。見た感じ、髪の毛のようだが――。
「逃ゲテ……!」
 物陰から、いつの間にやら入り込んでいたソネ子が姿を現した。ソネ子が髪を伸ばして、生物の肉体を絡め取ったのだ。
 この衝撃で、3人を押さえていた生物の腕の力が一気に緩み、腕の間から3人の身体が抜けた。
「早くこっちへ!」
 シュラインが3人に呼びかけた。一斉に扉の方へ向けて走り出す3人。
「とにかく対処をしなければ!」
 皇騎がそう言って行動を起こそうとした時、マールが一声鳴いた。
「ニャア!」
 何事か知らせるようなマールの鳴き声。ピンときた茉莉奈は、マールが見ている方角――ペンダントを指差した。
「それ! ヒミコちゃんそれ! そのペンダントから、悪い感じがするの!! 早く外さないと!!」
 茉莉奈の言葉に、女生徒は慌ててペンダントを外した。だが、目の前の生物が消える気配はまるでない。
「貸してください!」
 皇騎は女生徒の手からペンダントをひったくると、床に叩き付けて思いきり踏みつぶした。水晶らしき石が粉々に砕け散った。
「グガッ!? グ……ガ……グアアアアアアアアアアア!!!」
 石が砕け散るのと呼応するかのように、生物が断末魔の叫びを上げた。そして砂のごとく肉体がさらさらと崩れさり、やがて生物が居た痕跡は跡形もなく消え去った。
 学習資料室に静寂が訪れる。聞こえるのは、女生徒3人のすすり泣く声だけだった。

●残る疑問【7】
「これ何だろう?」
 みあおは生物が居た辺りに落ちていた、模様が描かれた大きな紙を拾い上げて皆に見せた。
「魔法陣みたいだよね。誰か分かる?」
 確かに、描かれた模様は魔法陣だった。問題はこれが何の魔法陣なのかだ。
「これ……黒魔術の魔法陣じゃないかな? よく分からないけれど」
 少し自信なさそうに茉莉奈が言った。けれども、ヒミコが同意するように頷く。
「茉莉奈ちゃんもそう思う?」
「え、じゃあヒミコちゃんも? だけど、どうしてこんな物がこんな所にあるのかなあ」
 茉莉奈が首を傾げた。いくら何でも、普通の学校で黒魔術の授業があるはずもなく。
「……私見テタ……ソノ女の子……コノ紙を踏んデ……サッキノ……出タ……危険ナ相手……」
 ペンダントをつけていた女生徒と魔法陣を交互に見て、自らが目撃した光景を説明するソネ子。それを受け、皇騎がある推測を立てた。
「つまり、ペンダントとこの魔法陣の両方が揃って、さっきの生物……恐らく悪魔の類が現れたんでしょうね」
「悪魔なの? みあお、悪魔撮っちゃったんだ。ちゃんと写ってるかな……」
 そう言うと、みあおはデジタルカメラを操作して先程の写真を確認した。ちゃんと撮れていて全く問題はなかった。
「巧妙なやり方ですね……」
 推測を述べて、皇騎は件の3人に目を向けた。シュラインと文子が泣く3人をなだめている所であった。
「よかったわね、無事で。だけど彼女が心配してなかったら、どうなっていたか」
 シュラインが締める所は締めつつも、優しく3人に声をかけた。
「ぐす、文子ちゃん、ありがとう……くすん……」
「お礼なんてそんな」
 礼を言われ、戸惑いを見せる文子。
「……ちょっとだけ聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」
 そう切り出し、文子は2つのことを3人に聞いた。1つはペンダントのこと、もう1つは学習資料室の鍵のことである。
 3人によると、ペンダントは偶然見付けた露店で買ったということ。そして鍵は来た時には開いていたということであった。
「どういうこと?」
 ヒミコが怪訝な表情を見せた。さて、どうして鍵が開いていたのか――。

【ダウジング 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
     / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員 】
【 0461 / 宮小路・皇騎(みやこうじ・こうき)
        / 男 / 20 / 大学生(財閥御曹司・陰陽師) 】
【 0645 / 戸隠・ソネ子(とがくし・そねこ)
           / 女 / 15 / 見た目は都内の女子高生 】
【 1415 / 海原・みあお(うなばら・みあお)
                   / 女 / 6? / 小学生 】
【 1421 / 楠木・茉莉奈(くすのき・まりな)
             / 女 / 16 / 高校生(魔女っ子) 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全8場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・大変お待たせいたしました、高原としては初になる『神聖都学園』のお話をここにお届けいたします。初ということで、神聖都学園における主要人物を何人か登場させていただきました。今後とも、ちょくちょく出てくることになるかと思います。
・今回のお話ですが、ちょっとした発想の転換をテーマにしていました。『そこに何かがあるから行く』ではなく、『そこで何かをするために行かせる』ということで。なので、原因はペンダントの方にあった訳です。……意外と見過ごされることなんですけれど。
・一応無事解決したと言えますが、謎は残ってます。どこでペンダントを買ったのかとか、誰が魔法陣を置いたのかとか。それらについては、また今後のお話でおいおいと……。
・シュライン・エマさん、64度目のご参加ありがとうございます。あの表情は素でした、はい。学園内の怪談に着目したのはよかったと思いますよ。3人が動いた理由がその1つでしたから。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。きちんと目を通させていただき、今後の参考といたしますので。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。