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<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


音楽室の怪:夜に聞こえる歌

------<オープニング>--------------------------------------

やぁ俺織田義昭…。一応高校生。

神聖都学園…超巨大私立学校だ。
有りとあらゆる分野(超心理学、相対性理論から漫画の書き方まで)を学べるという…。

瀬名雫ちゃんはこの巨大な学校に転校した。理由は簡単だよ。
「怪奇事件が多発する場所!なんてステキ」だからだ。
しかしさ、何で俺も高等部に編入されたんだろ?何かの陰謀?
まぁ私服OK前の制服OKらしいから良いけど…。

今回の悩む人は皆に慕われている美人教師、響・カスミ先生が怯えている。
優秀な音楽教諭で、この巨大な学校にある音楽室の管理を任されているってさ。
しかし、噂で良くないことを耳にしたらしい…。
現在、確認・使用されているのは14も在る音楽室(そのうち7つはオーケストラが出来るほどの巨大ホール)
その一つ、第14音楽室で何かおぞましい声がするという。
大きさは中ぐらい。ミニコンサートやロックライブなど出来るようにもなっている。
夜な夜な、何かの歌が聞こえるのだ。オペラのような…もしくは下手なロックヴォーカルか?

カスミ先生は大の怪奇現象恐怖症。しかし大事な音楽室が怪奇現象の舞台なんて困るわけだ。
と言うわけで怖がりながら、未だ同好会状態の怪奇倶楽部、瀬名雫が調査に乗り出すそうだよ。

君は助っ人として呼ばれたってわけだ。俺も茜もね(ため息
茜は乗り気じゃないけど…俺はなぁ。
カスミ先生困ってるし、雫ちゃんに頼まれちゃ…断りも出来ないしなぁ。

と言うわけで宜しく。


〜即興詩〜
既に冬近し
巨大な神聖都に聞こえる謎の歌
素人でも分かる酷い音
不協和音ともいうべきか
謎を秘めたる深夜の独奏
悪意あれば当然の
はた迷惑この上なくは
相手に仕置きをあたえたまわん


【1日目・昼:食堂にて】
神聖都学園の大食堂の隅で、義昭が硝月倉菜と奉丈遮那に事の説明をしていた。
「というわけなんだ…硝月さん、遮那君」
とため息混じりに、自分の弁当からタコさんウィンナーを口に持って行く義昭。誰が作ってくれているのかは言わないでおこう。
「そうなんですか、カスミ先生が調べに入ってないですよね」
遮那は因幡恵美が作った弁当で厚焼き玉子を美味しそうに食べて答える。いつからそんな仲なのかはあやかし荘の面々が知っている…。
「織田君も参加なわけね」
倉菜も手作り弁当を持って参加。
「紅一文字の時から引っ張り回されているから…もう…」
項垂れる義昭。いい加減、只でさえ日常で悪霊や敵対悪魔と相手しているのに、勘弁して欲しいというのが本音なのだろう…しかし妙な正義感があるので断れず、だそうだ。ここら辺は師匠と長谷茜の関係に似ているのだろうか?
「噂ということだからね。それでカスミ先生は第14音楽室には行きたくない事は確実だ。雫ちゃんが我が儘言ってまで此処に転校してきたってことは、この事は外にも漏れているかもね…」
と義昭が詳しいこと、推測を言う。
「でも、自ら行くとか?」
倉菜と遮那はカスミの行動に疑問を持つ。
「雫ちゃんに『引っ張られて』ってことだね。未だ同好会レベルの怪奇探検クラブ。保護者同伴というのが上からのお達しらしいよ」
「苦労してるね…先生」
3人とも苦笑する。
「茜と雫ちゃん…そして亜真知ちゃんが、学校部外者助っ人を頼むため、更なる手続きをしていると思う」
「うわ!本格的!ゴーストネットOFF並に活動する気なんだ…」
遮那は驚きを隠せなかった。
「メンバーが集まるのは明日の夜だよ。組織からの許可取りって面倒だからね…」

―俺的に不思議なのは何で苦手な角もこの学校に転勤していることだ(義昭の心の声)。

義昭の言葉は本当だった。
音楽準備室で今でもカスミと雫、茜と榊船亜真知の許可申請をしているところだった。
「わかりました…。許可取って来ますから…」
結局、カスミは2人に負けて、許可を取りにトボトボ職員室に向かうのであった。
「やったぁ〜」
雫と茜は喜んでお互いの手を叩いた。
何だかんだ言って、この2人は仲がよいのだった。
それを、振り袖姿でにっこり笑っている亜真知であった。
「さて、被害はないか調べた方が良いと思いますわ」
と2人に告げる亜真知だった。


【1日目・夕方:長谷神社天空剣道場】
完全にたまり場と化すネットカフェではなく…何故か長谷神社。
それは、天空剣道場師範であるエルハンドが、本業に集中するために(それと、IO2からの事件もみ消し依頼…つまり、一般人の記憶操作である)、全て義昭に道場の運営を任せたから他ならない。ため息をつく理由とし義昭は多忙極めているのだ。
とは言っても、
「それでも趣味の時間は、絶対確保するんだよね」
と、雫と茜からの突っ込みがくる。
「うるせー」
「コントは止めて、依頼教えて〜みあおも頑張って楽しむ!…いや、調べる!」
と、ここのところ、おなじみになりつつある海原みあおが完全装備(懐中電灯、高感度業務用デジカメ、お菓子とジュース)でわくわくしている。そして、葛城樹という予備校生が不安そうに、氷川笑也という能楽師が無表情でお茶を飲んでいた。
樹はカスミ教諭が母の知り合いであるという事でカスミから頼まれここに来たので問題はないが。笑也は、おそらく雫のサイトを見て志願したのだろうか?しかし茜の調べで身元が退魔師直系としっかりしているので、よしとした。
「噂で、歌はオペラとロックって聞きましたけど…全く違うモノですよ?よほど音痴なのですね…」
と、樹は言う。
笑也はコクリと頷くだけ。
「噂だから…実際どんなものか分からないってことと思うよ。尾ひれ付いちゃうし…しかし、何故13音楽室じゃなくて14音楽室なんだろうね?」
と、みあおが言った。
「だってあの神聖都学園だもん…凄いんだと思う!」
彼女は握り拳を作っていた。
「張り切りすぎだよ…今日ではなく明日だよ調べるの…みあおちゃん」
「えー!?其れはやくいってよー」
雫の答えに対し、不平の大声を上げるみあお。
純真の霊木が彼女の声に反応したのか、ざわめく。
いつも居る人間は霊木の霊波動に対し気にもとめないが、樹も笑也はその霊気に驚いた。
「この時期になると、彼女(霊木)が活発になるから静かに」
「はぁい」
暫く、ざわめきがおさまるのを待ってから話は進む。
「サイトでの調査と違って…学校での調査は結構手間暇かかるみたいなんです…」
「其れが当然ですね」
「学校の部外者の方からの方は顔合わせという感じで集まってもらったんです」
義昭が事情を再度説明し、後に雫が現在分かることを教えた。
噂だけなので実際雫達は分からないのだ。

「では、明日の夜に神聖都学園正門前で落ち合うことで宜しくお願いします」
と、義昭が言う。
しかし別れ際に…
「あしまったー学校に忘れ物…」
と、織田義昭は神聖都に戻ろうとする。
「何を忘れたの?」
茜が訊いた。
「あ、今度の稽古スケジュールの書類だよ」
「ばかねーいつも寝ているからよ」
「〈走れば〉大丈夫さ、んじゃ」
と、あっという間に闇に消える若き剣客。通常の人間の3倍でなく50倍での走りだ。
「抜け駆けはずるいよ!」
「ちがーう!」
みあおが叫ぶがそれに義昭は闇から叫び返した。
知覚力も50倍のようだ。


【2日目・昼:神聖都学園】
編入して間もないわけである、亜真知に義昭、茜、雫は、倉菜と遮那とともに案内をして貰っていた。
巨大学校なので飽きないのだが…皆が気にしていたのは、義昭の姿だった。
いつもの白い詰め襟でなく、エルハンドとおそろいのような黒服だったのだ。
「走りすぎたら破けた」
と言うが、所々にアザや生傷があるのだ。茜は心配そうに義昭を見ているので尚更である。
「あー抜け駆けで…14音楽室に…」
遮那達が不満の(特に雫なのだが)目つきで義昭を見る。
「違うったら…」
「ではどういう事?」
義昭は茜の不安そうな顔をみてため息をつき…ある方向を指さした。
「うわ…なにあれ…」
皆は驚いた。
高等部区域であまり使われていない校舎が、モノの見事に半壊しているのだ。今では立ち入り禁止状態になっている。
その手前は、義昭と茜がいる校舎だ。
「14音楽室とは関係ない化け物と鉢合わせてね…あのしまつさ…」
「その化け物って?」
「忌屍者、ゾンビさ…。しかし自らゾンビ化したやつ…『紅一文字』と同じ輩だ…もう此処には居ないはずだから、気にしない方が良い。まず…14音楽室について調べた方が良い」
神格で全ての残留霊気、自分の神格さえも痕跡を消したので問題ないと付け加え、彼は先に進む。
「相手は手強かったのかしら…」
と倉菜がぼそぼそと皆に訊く。
「いえ、多分敢えて逃がしたのだと…おもいますわ。エルハンド様の愛弟子なのですから」
茜の変わりに亜真知が答えた。


「待ってたわよ〜此処に一人で居るの、こ、怖かったのよ〜。って、遅いわよ!」
と、一緒に付いてくればいいのに、先に14音楽室に向かっていた響カスミが半泣きで皆を迎えた。
「先生?どうして?怖くて近寄れないとか言ってたじゃないですか?」
と誰とも言わず突っこんでしまう。
「私だって教師です!怖くても…次の授業のための準備ってあります!」
第14音楽室は、軽音楽のライブか簡単な舞台、コンサートなら出来るようにデザインされている。
どうも、ロックバンド講義用にセッティングされており、ドラムやアンプ、教壇には音楽調整器機が置かれている。
壁にはベースやギターをはじめ、シンセサイザやヨーロッパの民族楽器がきちんと置かれている。
セットはジャンルがジャンルだけに少し薄暗かった。
カスミはその薄暗ささえも怖く…遮那の背中で怯えてしまっている。
「先生…やっぱり」
「何言ってるの!怖くも何ともないです!」
と、叫んでしまったので…
教室内で声が反響する。しかもマイクも入ってたようなのでハウリングが酷い。
「きゃー!いやー!」
とカスミはそのまま遮那に抱きついてしまって混乱している。
遮那は丁度彼女の胸に顔を埋めるようになってしまいわたわたしていた。彼の腕はカスミの腰辺りで宙をさまよっている。
「先生落ち着いてください!」
必死に止める倉菜と雫たち。ハウリングはまだまだ続く。
亜真知だけは誰かに頼まれていたのか…こっそりデジカメで撮影していたりする。
「前のクラス、電源落として無かったんだな…」
と、義昭が舞台の電源を調べてそのスイッチを見つけ事はおさまった。
とりあえず、死者は出なかったので良しとする(いいのかよ)。
「どー?天国と地獄見た感じ?」
と朦朧状態の遮那に訊く義昭。何となく悪戯っ子特有のニュアンスが含まれる。
「君は何を…期待しているのですか?」
言い返すも、とんだ事になったために複雑な心境の遮那。
―恵美さんにバレたら…(遮那君17歳の心の声)

亜真知と遮那がこっそり霊視してみるももの…残留霊気がない。
「おられませんわね」
「痕跡を残さずですか…?」
「非探知術でも施しているとか?」
楽器を調べてみる倉菜は何か気になったものを見つける。
「とても古いギター…」
エレキギターでも古いモノがある。1985年製かそれ以前のものだ。
神聖都は巨大学校であるがそれほど歴史があるわけではない。あらゆる学校が徐々に集まって出来たようなものだ。その分、色々混ざり合った風紀になっている。そもそも、学園が出来た理由も「謎」とし「7不思議」扱いとされている。ぶっちゃければ、完全現実主義ならば、いい加減な学校といえるだろう。全てプラズマだとか否定しているあの有名教授がやってきてTV番組になっても良いくらいだ。
「準備室になんかあるよ?」
雫が皆を手招きした。
先ほどのギターと同じ時期に作られたような軽音楽器の数々と…それから100年は経っていそうな棺桶…を真似て作られた楽器ケース…が其処にあった。
「気味が悪いね、これ」
と言いながら、雫は笑っている。
「そうね…ホント趣味が悪いわ…」
準備室に入らずカスミが怯えている。
「噂から考えれば無理矢理オペラをアレンジしてロックにしているのかな?これの持ち主は?」
遮那は棺桶をみて言う。
本当の棺桶にしかみえないしケースにしては大きすぎる。夜中に忍び寄ってオペラアレンジロックの練習をしていると想像するのは少しムリがある。だいたいケースを大きくしても意味がないではないか、と突っ込みが入るわけで…。
開けてみると、かなり豪勢な…否、楽器を供養して欲しいと言わんばかりの装飾だった。また一部の棺桶は亜真知の理力を使っても全く開かない。
「本当に楽器の棺桶…じゃなかった。ケースなのかなぁ…?」
「何かいわれがある楽器なのでしょうねぇ」
「あなた達!のんびり言ってないで、その棺桶をどうにかしなさいよ!」
相変わらず怯えているカスミ。
「でも先生、この数と量では…。別のクラブ備品かもしれないじゃないですか」
と、遮那がカスミに返す。
其れと同時に予鈴のチャイムが鳴った。
「これは、皆で考えることになったね」
雫が今日の夜が楽しみでわくわくし言った。
今のところこの棺桶と噂の歌との関連性は濃いと判断すべきだろう。


【2日目・夜:神聖都学園校門前】
学園の生徒でない者と合流する。
皆思い思いの装備であるが、流石に冬近しといった具合でコートやカイロを持って震えている。みあおと亜真知が用意していた、温かいお茶が役に立っていた。
カスミはそれでも震えている訳で…。理由は分かっている
「氷川さんおそいな」
と、義昭が時計を見て辺りを見渡す。
「そうですね」
樹が其れに同意していた。
まだ、件の歌はしないのでいいのだが。

何者かがしずしずと近づく足音がする。
「だれかな?」
と、みあおが懐中電灯を向けたと同時に…
着物姿の般若が其処にいた。
「きゃ――!」
と、お約束のように悲鳴を上げる者1名…誰かは言わずとも。
「カスミ先生!」
丁度倉菜と樹が近くにいたので彼女を支える。もちろん般若面の謎の人物には警戒している。
「…私…氷川笑也」
「氷川さん?」
一度顔をあわせている者は驚きの声をあげた。彼が能面を少し上げると其処にはまた能面…失礼、氷川笑也の無表情の顔が現れた。
「ヒョッとして…この格好で此処まで?」
とそれとなく聞いたみあお…頷く笑也。
亜真知と義昭を除いて、彼から14歩は離れてしまう(何故14歩とかは聞くべからず)。
神である亜真知と、神と人の狭間で生きている義昭の『超越者』はやはり感覚が異なるわけで…。
「先生は…どうする?」
「保健室に寝かせるのも…ある意味怖いよね…」
倉菜がいう。
保健室も怪奇スポットになることがある。そんなところにカスミだけ置いていくのは流石忍びない。
「私がみているよ。よしちゃんと皆は14音楽室に」
「分かった、ありがとう」
と、茜の言葉に残る探索隊は頷いた。


【2日目・夜:第14音楽室】
8人で現地に向かう。
そして…
「なに?この変な声?」
ハウリングと乱暴に何かを叩く音。音楽技術がプロ級の者なら、幼いときに絶対音感を身につける。これは不協和音でしかないので、気分悪いことこの上なしだ。次に黒板で爪を立ててひっかくような音…。
これには皆も力が抜ける。あのどうしようもない不快感が背中を駆けめぐる。
「昨日より酷い…昨日は遠くから聞こえていても、単に音程ずれていただけ。…最も、あの後、戦いで気にする暇もなかったよ…」
義昭が説明した。因みに既にゾンビとの戦いは皆はしっている。
「急ぎたいけど…これは堪えます…」
樹、倉菜、無表情の笑也でさえこの不協和音に、人の通常の3倍は力が抜けていっているようだ。遮那や義昭が彼らを支える。
「アニメで有名な、太っていて音痴のガキ大将並のコンサート?」
みあおが耳をふさいで言う。さほど大きな音ではないが、あの不快感だけ訊くだけで厭だ。
「困りましたね…あのカラオケ器機さえも壊すと言われる、カラオケBOXでブラックリストに載っている有名なさるお方とどちらが凄いでしょうね」
亜真知も耳を塞いでのんびりと答えた。

じつは亜真知はこっそり14音楽室に式神ユニットを設置しているのだ。当然、これだとダイレクトにこの不協和音ライブを聴いているのだから、のんびりと喋る事は出来ないほど精神的に参っている。しかし其処は亜真知サマだった。「演技」が巧い。
そこで何が起こっているか…既にしっているのだから。

徐々に、近づいていくと同時にこの不協和音は大きくなる。何とか対音楽結界を張って先に進むが…人間の感覚で苦手な音責めは皆の精神力を削っていった。
14音楽室の扉を誰かが先に開けた。

「∀⊇⊥∫⇔≪∵♭ヱ∞⇒⊥∀∃∴⇔∂!」

酷い…ヴォーカルらしき声が皆を精神的に襲う。
と、乱暴に叩くドラム音、そしてあの最悪な音はギターからだ。
更には、腐臭が…。
「これは酷い…」
其処には、スケルトンやゾンビ、ゴーストが必死に楽器を奏でて(?)いる…。
ヴォーカルは一応革ジャンに如何にも「ヘヴィメタル」系な格好をしている生気のない男。
忌屍者のロックバンド。
しかし、悪意はないようである。演奏に熱心だ。
「昨日も忌屍者で今日も忌屍者か!」
義昭は力が抜けて大声にならない大声で叫ぶ。
「もうやめて〜!」
みあおがもう我慢出来なくなって同じようにいう。
倉菜も樹も叫んでいた。笑也の方はよたよたと何かを踊り始める。

「む?皆の者。演奏を止めるのだ」
ヴォーカルが、楽器演奏の忌屍者達を制した。
不協和音から解放され…ホッとする一同。しかしゾンビの腐臭だけは何ともしがたい。
「生者にはボギーの臭いはキツいようだな…」
「…」
ヴォーカルはゾンビにアイコンタクトを送ると、ゾンビは一礼してからその場を去っていく。
腐臭が消えた。
「余の偉大なるライブは未だ先であるが、如何為された?」
「ライブ?こっちが聞きたいぐらいよ!」
と、倉菜が精神力ボロボロで叫ぶ。其れには怒気が篭もっていた。
「これがライブの練習ですか?…これは…酷すぎます…」
樹も…冷静になりたいのだが、あの地獄ライブを聴いてから理性が飛びそうである。
「「おんがくじゃなーい」」
みあおも雫も不平をいう。
笑也はなにも言わずに何かを踊り続けている。退魔術の何かを発動させるためだろうか?
「何!主らはこのすばらしいヘヴィメタルを貶すつもりか!」
「こんなのヘヴィメタといえるか!はた迷惑この上ない!」
ヴォーカルの男の叫びと義昭の声が音楽室に響く。
「こ、この…愚か者ぉ!」
男が義昭に襲いかかるが…クロスカウンター。そのまま男も義昭は倒れ込んだ。
義昭の神格覚醒している右。男から浄化される煙が出ていた。男はやはり人外の者らしい。
義昭の方は、男の拳を喰らったところから生気が抜かれている。神格障壁さえ溶けているようだ。
「あらら、両者WKOですわ…」
抜け駆けしなきゃ良かったと、ぎりぎりの精神力で耐えていた亜真知は笑っていた。


【2日目・夜:第14音楽室2】
「此処は昔、余の館だったのだよ。お主らは吸血種と思うだろうが、余は魔神である。DevilでもDemonでもないがの。Fiendだ」
と、何とか神格浄化作用を止めて貰って男は言った。絆創膏が痛々しい。義昭はそのまま放置されている。気絶、睡眠時に彼に触ることは危険だからだ。怪我の方は勝手に治っている事もある。
「しかし、長年、楽器と共に眠っていたためか取り壊されたようでな…」
ため息をつく魔神。
「長年というと…普通なら楽器は昔の管弦楽器などに?」
倉菜が訊く。
「余が持っている楽器達は時代に合わせて変化する。丁度余が目覚めたときに聴いた曲にな。昔はオペラや機会音楽(クラッシックに良くあるジャンルらしい)だったのだが、起きたときがヘヴィメタルというわけなのだ。今は余の眠る棺桶にコレクションがあるぞ?」
「それでですか、全く違うジャンルを無理矢理合わない楽器で歌おうと」
遮那は呆れて言う。
「お茶とお菓子の用意が出来ましたわ」
と亜真知とみあおが机に用意する。
「ということは20年間…頑張ってアレンジしようと?」
「そう言うことになるかのう…」
まるで素人集団のバンドだ。しかも破壊的な…。
しかし、エレキギターであの不快音を出すのは才能かもしれない。
歌詞を見せて貰ったら。かなりの才能を見せているところが悲しいところだ。
倉菜は怒りたいのだが、義昭の状況をみたから…太刀打ち出来ないと思い、自分の言いたいことは避けた。
踊りが終わった笑也は、のんびりお茶をすすっている。彼のオーラは何か神がかっていた。
「此処は既にあなたの土地ではなくなっています…しかもゾンビも従えているとなると、此処を管理する人が困っていますので」
と樹が魔神に説明する。
「ふむ…では余は此処にいたら迷惑と言うことか…?それなら、この時代に従い又眠りにつこう」
すんなりと言うことを聞く魔神。
しかし、何か悲しげだった。
「イヤ眠らなくても…いいかもしれない…歌詞は最高なんだし…作詞家として楽しめばいいかも?」
とみあおがいう。
「いいのか?」
其れでほとんどの者のは黙ったままだ。悪意はなくても地獄の歌唱や楽器演奏は聴きたくない者が多いのは事実だ。気持ちを察した魔神はゆっくり立ち上がり、自分の棺桶と仲間を呼び寄せた(ボギーは既に棺桶の中で臭いはしない)。
「いや、ここでは迷惑というなら。余は又どこかで芸術活動をしよう…サラバだ」
といって、彼らは瞬く間に消えてしまった。

「…何処に行くのだろう」

皆はそう呟く。笑也は心の中で。
兎に角再会するのはゴメン被りたい音楽魔神であるのは確かだった。


【後日談】
カスミは全く記憶が無く、第14音楽室についての調査を聞くことすらしなかった。
昨日の昼の探索や噂さえも忘れてしまったらしい。
なので、
「先生、第14音楽室の噂の事ですけど」
と雫と亜真知、倉菜が訊くのだが…
「なに?確か夜に使うとか言ってたけど…?何に使ったの?」
と、あっけらかんとして聞いてくる始末。
そして噂と聞いて、
「怪奇現象?そんなモノ無いに決まってるじゃない…よね?ね?」
否定するも、怖がるカスミ先生でありまして、3人は苦笑するのだった。

放課後、長谷神社で皆が集まる。
みあおは、今回の出来事をしっかりデジカメに収めており、皆を呼んでデータか写真を渡していくというのだ。特に良いできばえのは皆に配りたいらしい。
遮那はあの一枚が取られていたことに複雑な心境をしていた。恵美にしられる恐怖120%だと他の面々は思っているだろう。
クロスカウンターもさることながら、カスミと遮那のこのスキャンダラスな写真(事故と言い張ればいいのだが)はどうするか…。
「面白いから取っておく方が良い。貴重な一枚だ」
と言う意見が僅差で多かったようだ。


ヘヴィメタ魔神の方は何故か純真の霊木に引き寄せられたらしく…
「当分、よしちゃんとあの魔神の追いかけっこは続くかもね…良い友達が出来たみたい」
と、茜はのんびり茶を楽しみながら、必死に逃げている魔神と追いかけている義昭を縁側で眺めているのだった。

―そんな訳あるか!(義昭の魂の叫び)

End?

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0506 奉丈・遮那 17 男 高校生・占い師】
【1415 海原・みあお 13 女 小学生】
【1593 榊船・亜真知 999 女 超高位次元知的生命体・・・神さま!?】
【1985 葛城・樹 18 男 音大予備校生】
【2194 硝月・倉菜 17 女 女子高生兼楽器職人】
【2268 氷川・笑也 17 男 学生・能楽師】

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■         ライター通信          ■
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滝照直樹です
『音楽室の怪:夜に聞こえる歌』に参加していただきありがとうございます。今回は如何でしたでしょうか?
真相は…はた迷惑この上ないメタル魔神様でありまして、突っ込みどころ満載です。ただ、彼の感覚が人外のこと、悪意はなくても魔神故、結局の所害を為す悲しいヤツです。
歌詞は良いのですけどね…多分。

奉丈様お久しぶりです。海原様、亜真知サマいつも参加ありがとうございます。
葛城様、硝月様、氷川様初参加ありがとうございます。

又機会が有れば、お会いしましょう。

滝照直樹拝