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帽子の扉を開けて
１・１１月１１日（火）
「・・なんだろ？これ。」
瀬名雫が見つけたのはいつものＨＰ巡回ルートで見つけた掲示板への書き込みだった。
『No Title 投稿者：ayame Mail：hatmail.com 投稿日：11月 17日(月)17時05分00秒
私の代わりに彼へ、私の最期の手紙を届けて。
tobiraを開けて。私の手紙を彼へ・・・』
メール部分には有名なＷＥＢメールのサーバー名だけ。
ただの荒らしかもしれない・・・。と思ったのだが。
巡回ルートを回っていくうちに雫は同じ書き込みをいくつも見た。
そして、その書き込まれた時間はすべて同一の時間。
いくらコピペといっても同一の時間でいくつもの掲示板に書き込みが行えるわけがない。
それにその同一時刻は、まだ今の時間よりもずっと未来だ。
雫は興味がわいた。
このayameという人物、一体誰へ手紙を渡そうというのか？
そして、その手紙は一体どこにあるのだろうか？
２・１１月１２日（水） ＰＭ６：１２
雫から依頼された例の書き込みを見つつ、丈峯楓香（たけみねふうか）は考え込んだ。
同じく雫に依頼され画面を睨むは柚品弧月（ゆしなこげつ）・海原（うなばら）みなも・氷女杜六花（ひめもりりっか）である。
「これじゃ全くわかりませんね。どこの誰だか・・」みなもが言う。
うんと頷き「そうだね。これ以降の書き込みはないみたいだし」と柚品が溜息をついた。
「でも、このままにしとくの可哀想だよ・・」楓香は溜息をつく。
「・・この書き込みって同時に出来るものなの？」
１０歳くらいの六花に言われ、柚品は驚いたが少し考えて「出来ると思うよ」と答えた。
「掲示板に無差別に広告を入れる『出会い系』とかね。ああいった書き込みはソフトを使ってるらしいから」
「そうなんですか・・じゃあますます糸口がわからないですね」みなもはまた溜息をついた。
楓香は一瞬『死んじゃった人が投稿したのかも』と言いかけたが、あまりにも非現実的だったので言葉を飲み込んだ。
「レスつけても無駄でしょうか？」とみなもは柚品を見た。
「糸口がない以上、どんな布石も惜しまないことが大切だと俺は思うよ」柚品がニコリと笑った。
「じゃああたしはちょっとメール出してみるよ」楓香ががたんと立ち上がり空いているパソコンへと向かう。
「六花もやるー！」六花は楓香の後を追っかけた。
「六花もやるの？じゃあ、あたしの真似してメール打ってくれる？」
「わかった！」
「メールアドレスは・・『tobira@hatmail.com』と『ayame@hatmail.com』。内容は掲示板読んだのでお手伝いしますって感じで」
「はーい」
パソコンに向き直り、メールを作成する。
学校でもやってることだし、すぐに完成して送信した。
打ち込み終えると隣の六花はようやくメールアドレスを打ち終えたところだった。
「ごめんね、遅くて・・」
六花が楓香の視線に気が付きそういうと、ハッと我に返った楓香は「別にそういう意味で見てたわけじゃ！」と頭をブンブンと振って否定した。
最後までメールを打ち終えるまで楓香は六花を見守り、最後に「よくできたね」と言い頭を撫でた。
六花は照れているようで、楓香はそんな六花を可愛いと思った。
３・１１月１３日（木） ＰＭ５：１１
学校が終わると、楓香はゴーストネットに直行した。
昨日のメールが気になって学校どころではなかったのだ。
店に入り、一息入れると後ろから声をかけられた。
「ねぇ、昨日のメールの返事きてる？」六花だった。
「まだ今来たとこなんだ。一緒に見よ？」
楓香は傍にあった椅子を自分の方に引き寄せて六花に座るように促した。
六花が座ると楓香はメールを開き、チェックする。
新着メールが２件。一方は件名を見ただけで宛先不明で戻ってきたものだとわかった。
「自動返信だね」楓香が指を指したのは「ayame@hatmail.com」からのメールだった。
「開けてみよ！」六花がそういったとき、入り口の開く音がした。
「みーなーもー！」六花と楓香が大きな声でみなもを呼んだ。
「もう来てたんですか？」
みなもがにこやかに六花たちに近付いて来た。
「うん。なんか気になっちゃってさー」楓香は照れたように笑った。
「六花は暇だったの」六花は無邪気にいちご牛乳を飲んだ。
「それで、なにか進展ありました？」みなもが楓香の隣のパソコンを座ると楓香はうーんと悩んだ。
「とりあえず、昨日２通送ったんだよね。で、今見たら１通は宛先不明で戻ってきちゃってたんだ」
そこで楓香は言葉を切り「だけどね」とにっこり笑った。
「もう１通は自動返信みたいだけどちゃんとメール帰ってきたんだよ！それを今から見るとこだったの！」
楓香がブイッと大きくピースサインを作った。
「すごいです！」
みなもがそういうと、後ろから声がした。
「もしかして丁度いいとこに来たのかな？俺もそのメール読んでいい？」
柚品が後ろに立っていたのだ。
「あ。そうだった。じゃあ開けるね！」
楓香が受信箱の中に入っていたメールを開いた。
『ayameへメールありがとう
９月からayameは入院していますのでお返事することが出来ません
ＨＰ・ＭａｄＨａｔｔｅｒ はそのままにしておきますので復活したらよろしくね』
「・・９月から入院？」みなもは困惑した。
「ってことは、あのカキコしたayameとは別人ってこと？」
楓香が訳がわからないといったように眉間にしわを寄せて考え込んだ。
「いや、代理人ということもありうるし・・」柚品がそういったが自分の言った事に大した自信を持っているようではなかった。
「・・ねぇ。このＨＰ行って見たら何かわかるんじゃないの？」
六花のその言葉に３人が声を合わせた。
「それだ！」
４・１１月１３日（木） ＰＭ６：２０
意外とあっさりとＨＰは発見できた。
都内在住の少女で、とある病院に入院中とのことだった。
４人は少女を訪ねる事にし、今まさにその少女の病室の前にいた。
みなもが先頭に立ち、扉を叩いた。
だが、返事はない。みなもは扉を開けた。
白い空のベッドが病室の主の不在を告げた。
「・・いないみたいだね」楓香がみなもの後ろからひょこっと顔を出した。
「検査にでも行っているんでしょうか？」柚品が部屋の外から声をかけた。
少女の個室に無断で入るのをためらっているらしい。
「あ！手紙！！」
六花が楓香とみなもの間をするりと抜けベッドのサイドテーブルに駆け寄った。
「・・扉を開けて手紙を・・」みなもが呟くと意を決したかのように柚品が部屋に入ってきた。
「六花ちゃん、その手紙貸してもらえるかな？」
「はい。でも、どうするの？」六花が柚品に手紙を渡すと、柚品が手紙に手を当て目を閉じた。
よく分からないが、なにか柚品は能力を持っている人間なのだろう。
少しして、柚品が深刻そうに言った。
「今日中にこの手紙を届けた方がよさそうです」
「ど・・どうして？」楓香が息を呑んだ。
みなもも六花も柚品の言葉の続きを待った。
「彼女は明日、手術を受けます。が、手術は失敗に終わり１１月 １７日(月)１７時０５分００秒・・つまりあの書き込みのあった時間に息を引き取るようです」
５・１１月１３日（木） ＰＭ８：１３
みなもがayameと同じ学校ということが判明し、ayameの彼氏である少年を近くの公園に呼び出しに行った。
その間に柚品に先ほどの力のことを聞くと柚品はサイコメトリーだよと教えてくれた。
物に触ると過去・未来が見えるという力を使って少女が喧嘩別れした少年に手紙を書いたこと、それを出さないまま手術に向かい息を引き取る光景を見たことを教えてくれた。
楓香は自分が感じていた死んでいる人間の投稿ではないか・・というのが当たらずとも遠からずだったのを知った。
少ししてみなもが戻ってきた。あとは手紙を渡すだけである。
少し待つと少年が現れた。
「あんたたち？僕を呼び出したの」少年はムスッとしていた。
「そうです。ayameさんに手紙を渡して欲しいと・・」柚品がそこまで言って手紙を差し出すと少年はそれを払い落とした。
「な、なにすんのよ！」楓香が叫んだ。
「あいつがどんなこと書いたのか知らないけど、僕には関係ないから」そう言うと少年は踵を返した。
「ちょっと待てい！」ひっぱたいてやろうか！と思ったとき、後ろからど迫力の声が聞こえた。
楓香が振り返るとそこには、眉根を寄せ憤慨する六花の姿があった。
「おまえは自尊心のために死に瀕するあの娘の心を踏みにじるつもりか！」
子供の姿ではあるが、あまりの迫力に柚品も楓香も少年も言葉が出てこなかった。
みなもは少し考えて手紙を拾うと少年に再度差し出した。
「読む読まないはあなたの勝手です。でも、この手紙はayameさんがあなたに向けて本心を書かれたものだと思います」
少年は一瞬うつむいて、みなもからひったくるように手紙を奪って走り去った。
柚品がみなもの肩をポンと叩いた。
「俺たちに出来ることは全部やったよ」
そう、後はあの少年が動くだけだ・・。
６・１１月 １７日(月) ＰＭ４時５２分
学校帰り、六花がフラフラしているのを見つけた。
「どしたの？」と声をかけると「学校、もう終わり？」と逆に聞かれた。
「うん。終わったよ」楓香はニコリと笑い「入らないの？」と促すと、六花は「あ」と呟いた。
どうやらゴーストネットの前にいたことを知らなかったらしい。
中に入ると、ボーっとした人物を１人見つけた。
「あれ？大学はお休み？」六花と楓香は柚品の椅子の傍に立った。
「うん・・まあね」苦笑いをして柚品は先ほどから表示されているページに目を向けた。
「ayameのＨＰ・・」六花が呟いた。
「今日でしたね」楓香の声が聞こえた。
「・・・」柚品は目を閉じた。
時間は無常に過ぎていく・・。
「時間・・過ぎたね」六花が言った。
柚品は目を開け、何を思ったかayameの掲示板を開いた。
が、そこで思わぬ書き込みを目にすることとなった。
『ayameからの伝言 投稿者：ayameの代理人 Mail： 投稿日：11月 17日(月)17時05分00秒
ayameは無事に手術に成功しました。今年中には退院できる見込みです
喧嘩してた人と仲直り出来たのが頑張ろうという気になったと言ってました
もう少ししたらまた一緒にお話できると思いますので待っていてやってください』
「なにこれ？ayameは生きてるってこと？」楓香が聞いた。
「多分この書き込み、あの少年のものだね。いいとこあるじゃん」六花が小さく笑った。
柚品が少し間を置いて笑い出した。
楓香はなんか惚気られた気分になった。
早くみなも、来ないかな。あの子もなんか今日一日落ち込んでそうだし。
楓香は画面を見てはニコニコと笑った。
あたしも早く彼氏つくろっ！
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■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
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【整理番号 ／ ＰＣ名 ／ 性別 ／ 年齢 ／ 職業】
【1252 ／ 海原みなも ／ 女 ／ 13 ／ 中学生】
【1582 ／ 柚品弧月 ／ 男 ／ 22 ／ 大学生】
【2166 ／ 氷女杜六花 ／ 女 ／ 370 ／ 越後のご隠居兼店主代理】
【2152 ／ 丈峯楓香 ／ 女 ／ 15 ／ 高校生】
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■ ライター通信 ■
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丈峯楓香様
またお会いできて光栄です。
少々ひねた謎解きを作ったせいで、最初に作ったシナリオを大幅に改定しましたのでタイトルと中身が一致しないという事態が起きました。
私の力量不足です。申し訳ないです。
楓香様は破天荒そうで実は人情味溢れてるようなプレイングが好きです。
前向きな性格っていいですね。
それではまたお会いできる日を夢見て。とーいでした。
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